魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

100 / 120
なかなか書く時間が取れませんでしたお許しください。




第九十三話 兆し

時刻は午後六時半、深雪は後輩二人に会うために謁見室に向かった。応接室と謁見室の使用の差は謁見室の方が重要人物を招く際に利用されることが多く深雪も友人たちをこちらに呼びたいのだが四葉家の風習であるためこういったものはすぐに帰ることは出来なかった。

 

謁見室のドアを抜けると後輩である香澄と泉美がこちらを振り返り挨拶をしてきた。

 

「お久しぶりです深雪先輩。」

「久しぶりね元気にしてたかしら?」

「大学も卒業しましたので今はそれほど忙しくありません。」

 

近況報告を聞いただけだが泉美の表情や声音はさえておらず深く落ち込んでいるように感じられた。

 

「用とは何か聞いてもいいかしら?」

「…私たち二人は七草家当主 七草弘一直々に親子関係の絶縁を言い渡されました。」

「何故?」

「父の考えに賛同できないと言っただけで言い渡されました。これがその証拠です。」

 

香澄が手提げかばんの中から丁寧に折りたたまれた高価だと思われる白い紙をテーブルの反対側つまり自分の前に差し出してきたので折りたたまれた紙を広げ書かれた文字を声に出して読む。

 

「『次女と三女である香澄並びに泉美との親子関係を断絶することを決定した。決定事項に伴い他家からのご意見にはお答えできかねます。十師族 七草家当主 七草弘一』かなり自分勝手ね貴女方の御父上は。」

 

深雪が吐き捨てるように言うと二人は驚いたように全身をびくつかせたが深雪は気付いていないようだった。

 

弘一の血縁者である娘から考えに納得できないと言われた程度で親子関係を解消する自分勝手な行動にイラついていた。

 

自分自身も親となり子供への愛情が膨れるのを感じているのもイラつきの原因でもあった。

 

生後一か月の愛娘を見ると癒されるのだ言うことを聞かない程度で愛想をつかすつもりなどさらさらない。

 

「香澄や泉美が言いたいのは保護してほしいということかしら?」

「その通りです。」

「何故四葉なのかしら?」

 

深雪の問いは拒絶を含んだものではなくただ単に七宝家など「七」の数字を持つ家に保護してもらえばいいのではと思ったのである。

 

「七草家の配下や七草家と関わりのある各家には既に周りましたがことごとく断られました。父が手を回したのだと思います。」

「用意周到ねそれで?」

「友人宅を訪れようと思いましたが長居するわけにもいかずしばらくの間都内のホテルで過ごしていました。しかし所持金が底をつきかけたのでホテルを出たのが先ほどのことです。」

 

二人がここに来た理由は最初のうちに予想はしていた。友人宅に行けないのは家庭の事情があるとはいえ長居は出来ない。

 

七草家配下の魔法師や関わりがある魔法師に先に手を回しておくのは敵の行動範囲を狭めるうえで戦術の初歩中の初歩だ。

 

絶縁したとはいえそこまでする必要があるのか過剰に反応しすぎではないかというのが偽らざる深雪の本音だ。

 

「いいでしょう四葉で保護します場合によっては四葉に姓を改めてもらうことになるかもしれないけどその時はお願いね。」

「「ありがとうございます!」」

「白川さん、二人の部屋の準備をお願いします。シルヴィーさんは他の使用人の方々と入浴の準備をお願いします。」

「「畏まりました。」」

 

白川夫人とシルヴィーが出て行ったのを確認後深雪は自ら勧んでお茶を煎れ香澄と泉美の前に差し出した。二人は深雪の楽にしなさいという気持ちをありがたく受け入れることにした。

 

「深雪先輩、母親となった気持ちはどのような感じなのですか?」

「自分より旦那よりなにより大切なものが増えたって感じかしら。」

「素晴らしいものなのですか?」

「ええ、自分が生きてきた人生の中でもね。」

 

二人は幸せそうに微笑む深雪を高校時代以上に美しいと思いながら見つめてしまった。

 

自分たちもいつかはこんな幸せな家庭を築けるのか築けないのか疑問に思うが親子関係を断絶された自分たちにそんなことをする権利があるわけがないと思っていた。

 

「克也兄はお元気ですか?」

「っ!」

 

香澄の何気ない質問に深雪は息を詰まらせた。普段なら克也がこの部屋に現れてもおかしくないと思い聞いただけだったのだが予想外の反応に聞いてはならないことを聞いてしまったと気付いた。

 

「…あなたたちなら受け入れられると思います着いてきなさい。」

 

深雪は立ち上がると何も言わずドアを開けて部屋を出て行き香澄と泉美はどいうことなのか理解できずその後姿を見つめ視界から消えたことで我に返りその後姿を追いかけた。

 

 

 

地下に向かう階段を降りる深雪の後ろに続いて行く二人はどこに行くのかと不安に駆られていた。何か良くないことが克也の視に怒っているのではないかもしかしたら最悪である「死」なのではと。

 

「ここよ。」

 

深雪は「集中治療室」と書かれた一室に入っていく。

 

「克也お兄様、二人が来ましたよ。」

 

深雪が優しく声をかけるが返事のないことに二人は不安になり深雪の後ろから覗くと愕然とした。

 

「…深雪先輩、克也兄様に何があったのですか?」

「精神に著しい欠陥が見られたの。水波ちゃんを失い守れなかった自分への怒りが克也お兄様の精神を直接攻撃して生命活動を一時的に止めてしまったのよ。」

「そんな!」

「…戻ってきますよね?」

「ええ、必ず帰ってくるわ。」

 

深雪が力強く頷いたのを見て二人は少しだけ安堵したが「いつ」帰ってくるかを言及しなかったことに違和感を覚えた。

 

「気がすむまでここにいていいから。終わったらさっきの部屋に来てね。」

 

深雪が「集中治療室」から出て行くとその後ろに香澄がついて行き残ったのは泉美だけだった。 泉美は近くの椅子を克也のベッドの横に移動させ座った。

 

呼吸器を付けられた克也の頰は痩せこけ首や腕にはつまめるような脂肪がついておらず明らかに今の自分より体重は軽いだろう。

 

自分より三十cm近く高い克也が自分より体重が軽いなどよほどのことがない限りありえない。

 

「克也兄様がこのような状態になったのと桜井さんが生きていないことが大きいのですね?」

 

目の覚めない眠りについている克也以外聞く者がいない部屋で泉美は涙を流しながらポツリと呟いた。四葉関係者以外水波の他界は知らされていないため深雪が話すまで知らなくても仕方のないことである。

 

克也の左手を握ると普段優しく包み込んでくれる温かみはなくただ今を生きることにすべてをかけているようなそんな体温しか感じなかった。

 

香澄は泉美と違い恋愛には疎く婚約も結婚もしようとは思っていない。克也のことを一人の男性として見てはいるが泉美のように「愛」という感情を抱いていない。

 

泉美は誰より克也のことを想っていると思い込んでいるが泉美と同等の想いを抱いているのはリーナや亜夜子も同じである。

 

リーナの場合は自覚症状がないので具体的な行動には出ていない。

 

克也が水波以上に自分を想ってくれるとは考えていない。正室ではなく側室でも愛人でも克也の傍にいれるのであればそれ以上には何も求めない。

 

その想いを込めて克也の左手の甲に口付けすると一瞬だけ克也の体が震えたように感じた。

 

{今震えた?もしかしたら私の気のせいかもしれませんけど。}

 

自分でもよくわからない状況に困惑しながら克也の手を離し名残惜しそうに眠る克也を見つめ謁見室に戻る道に足を進めた。

 

モニターに示された克也の体温を見れば克也が震えた事実を確認できただろう。克也の体温はあと一息で目覚めるほどまで上がっていた。

 

だがあと一歩を踏み出すための何かが足りなかった。

 

何かが…。




連載100話ありがとうございます。もう少しで終わってしまうのが悲しいですが頑張って参りますので応援お願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。