魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第九十四話 世界

俺は何も見えない場所にいる。

 

いや、見えないと言えば語弊がある。何も見えないのではなく暗すぎるが故の勘違いだろうか視線を下げれば自分の体があるのが分かる。

 

自分の体が光を発しているように見えなくもないがおそらくはこの何も無い〈空間〉と呼べる場所より自分が明るいのだろう。

 

暑くも寒くもなくじめじめしておらず乾燥しているようにも感じない。重力のような自分を抑え込むようなものも感じない。不思議な〈空間〉で何故か不安ではなく安心できるそんな場所だった。

 

「ここはどこだ?」

 

不気味に自分の声が木霊するが答える声はない。この場所から脱出するための方法も見つからなければこの場所がどんな場所かも分からないのだ。

 

どんな場所なのか分からなければ脱出方法など立てることなど出来ない。

 

何も考えずがむしゃらに動いたとしても落胆するのは目に見えている。

 

『ここは貴方の世界、貴方自身が望むすべてを備えてくれる空間。』

 

突如涙が滲むような懐かしい声が聞こえた。十年以上聞くことのなかったこの声の音源を見ると今度こそ涙が溢れた。

 

「母、さん…。」

『たくましくなったわね克也。』

 

年甲斐もなく自分より細く華奢で昔と変わらない年齢不詳の容姿の母を抱き締めるとふわっと胸を締め付けられるような香りが鼻腔をくすぐる。

 

「何故母さんがここにいるの?」

『どうしてか思い出してみなさい貴方は覚えているはずよ私が貴方に何をしたのかを。』

 

母さんを抱擁から解放し思い出す。少しばかり考えたところで思い出した。

 

「もしかして『あの時』の口吻?」

『その通り、あれは私の魔法を貴方の中に残すための行動だったの。万が一のためにと思って準備していたんだけど本当に発動させてしまうことになるなんてね。』

「そんな魔法があっただなんて知らなかった。」

『この魔法を作るためにすべてを賭けていたんだから不発に終わっていたら私の苦労はなんだったのかしら。』

 

母さんは明るく笑っているが俺は申し訳なくなった。つまり母さんが倒れたのは俺のためにこの魔法を開発し過労によって亡くなったのだ。俺のためだけに…。

 

「でも何故そんなものを?」

『貴方は達也と違って深雪ではなく別の女性を愛すると独占欲に近い感情が溢れ失ったときにその感情を爆発させる危険性があったの。記憶にない?』

 

感情の爆発に近いことは一回だけあった。それは水波が人間主義者に襲われたときのことだ。怒りにより俺は感情に飲まれ達也や深雪まで巻き込もうとした。

 

「あれもその『独占欲』からきたものだと?」

『ええ、私もそれを貴方の中から見ていたわ。』

「そんなことが…。」

『貴方の精神部分に私の精神をコピーしたのだから見えてもなんら不思議はないわ。』

 

素晴らしい魔法だが同時に俺は母親に監視されていたことになる。あらゆる行動していた間にも。

 

「…俺の行動をすべて見ていたと?」

『覚醒しているときにはよく観察させてもらったわ。大半は眠りの中にいたのだけれど。』

「…そ、そうですか。」

 

すべてを見られていなかったことだけは救われた。水波とのあれも見られていたとなると公開処刑にも近い恥ずかしいものだ。

 

「ところでここはどこなのですか?」

『今の話の流れから分からない?聡明な克也なら分かると思ったんだけどまあいいわ教えてあげる。ここは現実と死後の世界との境界線にある世界。貴方の【精神世界】とも言える場所かしら。』

「俺の精神に書き込まれた母さんのコピーがあるから今こうして母さんと話すことが出来るというわけですか。」

『その通りよ、この魔法は遅延・条件発動型の複合術式で私しか使えないある意味固有魔法ね。』

 

深夜が亡くなってしまいその術式は継承されていないのでこの「世界」にいる克也以外知ることはないだろう。

 

「この魔法はいつまでも俺の中に残り続けるのですか?」

『この魔法は一度発動すると消える仕掛けになっているから克也との繋がりが切れる頃には私もそしてこの魔法も消えるわ。』

「理解しました。俺が現実世界に戻るためにはどうすればいいですか?」

『それはまた後で。それより克也は疑問に思うことはなかった?達也の眼が【理】に対して攻撃は出来るけど見えないことに克也には視えても攻撃できないことに。』

 

確かに何度も思ったことはあるが毎回答えは同じだった。「人には出来ることと出来ないことがありそれが自分達の眼なのだ」と。だが同時に不安でもあった。何故俺には視えて達也には攻撃出来るのかそして二人が魔法演算領域を重ねた時にだけ視えて攻撃できるのか。

 

『それは貴方達二人の【眼】がもともとは【一つの魔法】だったから。【全知の眼(ゼウス)】それがもともとの能力。そうよ克也、貴方達二人が名付けた名前は偶然にも元の一つの【眼】と同じ名前だったの。』

 

深夜は克也の驚きを正確に読み取りその疑問にも答えた。

 

『貴方達二人はもともと一人の人間として産まれるはずだった。でも、どういうわけか双子として産まれ【全知の眼】は二つに分割され貴方達二人の【異能】として備わることになった。自分を責めてはダメよ克也、貴方のおかげで何人の魔法師が救われたのか知らないわけではないでしょう?』

 

俺の内心まで見透かせるのは俺の精神に母さんのコピーがまだ居座っているからだろうか。しかしそれは不快ではなく心地良く罪を洗い流してくれているようだった。それが影響したのか俺の体が淡くしかし確実に輝き始めていた。

 

「これは?」

『どうやら克也自身の罪が消えて精神の根源が治ろうとしているのよ。』

「治ろうとしている?」

『現実世界に戻ろうとしているということよ。』

 

つまり俺の体はまだ生きており復活しようとしているということらしい。生きることに絶望した俺が生きる理由があるのだろうか。

 

『現実世界に戻る価値が自分にあるのだろうかって顔をしているわね。自分の価値は自分で付けるものではないわ他人によってつけられるものよ。貴方にはまだすることがあるはずよ。』

 

俺のやるべき事、それは深雪、達也、そして水波が愛したあの世界を守ることそれが俺の成すべき事。

 

『腹は決まったみたいね敢えて今聞くわ、克也は何をしに戻るの?』

「俺が成すべき事を成しに。」

 

俺が答えると光はいっそう輝きを増し俺の視界を奪った。

 

『⚪⚪⚪』

 

意識が途切れる瞬間母が何かを言った気がしたが脳が理解するのを拒否したかのように認識できず消えた。

 

 

 

現実世界に戻ったかと思い目を開けると今度はすべてが真っ白な世界に佇んでいた。母のイタズラだったのかと克也は思ったがこんな手間をかける必要性があるとは思えないのでその考えを却下した。

 

『ようやく話さなければならないことを話せるときが来た。』

「君は?」

『俺は四葉零もう一人のお前だ。』

「四葉…零、もう一人の俺?」

 

目の前に現れたシルバーグレイの髪と浅紫色の瞳の俺と同年代らしき青年の言葉が理解できず困惑しているとしっかりと答えてくれた。

 

『この世界には自分とは違う自分が生きる世界が数多渦巻いている。それは【パラレルワールド】と呼ばれているが存在することを誰も知らない。』

「別次元の俺だと言いたいのか?」

『理解が早くて助かるよ克也。』

「君の存在が何なのかは理解したが何故俺の精神世界に入ってこられる?」

『何故か、俺も長いことここに眠っていたから忘れていたよ。』

 

浅紫色の瞳を真っ直ぐに俺に向けて驚くべき言葉を発した。

 

『お前は俺の生まれ変わりだ。』

「生まれ変わり?…なるほどそれでもう一人の俺だと言ったのか。」

『俺がここに現れることが出来たのはお前の心を閉ざしていた殻が割れたからだ。』

「殻だと?」

『その殻の名前は【絶望】。お前は水波を失ったことの悲しみと守れなかった自分の弱さへの怒りが精神に直接ダメージを与え深い眠りに落ちた。』

 

儚く微笑む零という名のもう一人の俺は半透明だった肉体の下半身が消え始めていた。

 

『克也、人が絶望するのは大切なものを失ったときじゃない自分自身を見失ったときだ。俺はそれに気付かず取り返しの付かない過ちを犯してしまった。』

 

俺は零の過ちを如実に予測した。

 

『俺は自分の世界、この世界とは違う別次元の世界を終わらせてしまった。これは俺の償いだ!克也、頼むこの世界を守ってくれ俺には出来なかった大切なものを失っても生きる喜びを与えてくれる世界を守ってくれ!』

「言われなくてもやってやるさ水波が愛した世界を壊させやしない。相手が人間だろうと魔法師であろうと国家であろうとだ。」

 

俺の決意の固さに気付いたのかぎこちない中にも嬉しそうな笑みを浮かべ微笑んだ。その体は残り胸から上だけとなり猶予は残り僅かだと否応なく教えられる。

 

『達也と深雪を頼む。俺は深雪を失い達也の許可を得て世界を終わらせた。この世界の達也は俺の世界の達也の生まれ変わりだからもうあんな思いはさせたくない。』

「必ず守ってみせるさ二人をこの世界を。」

 

零は消える間際俺の左頬に右手を添え一言だけ告げ消えていった。

 

『頼んだよ【ゼウス】。』

 

零が消えた空中に次元のひずみなのか蜃気楼のように揺らめくものが発生した。俺はそれが現実世界に戻る道だと直感した。

 

だが、決意したにもかかわらずそのひずみに飛び込むことが出来ない。また救えず世界を壊してしまうのではないかという恐怖に襲われるが背中を優しく押されることに気付いた。

 

一歩ずつ確実に近づきあと一歩のところまで来て俺は背後を振り返るが何もない。意を決して飛び込んだ瞬間耳に女性と男性の声合わせて四人分が聞こえた。

 

一人は深雪そっくりであり一人は感情が多く含まれている達也そっくりでありもう一人は先程の零の声でありもう一つは優しく包み込むような鍛え上げられた肉体から発せられる精霊を介して話される声だった。

 

『『『『世界を救え克也!!!!』』』』

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