魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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15章 報復編
第九十五話 覚醒


重い瞼をゆっくり持ち上げると長い間光を忘れていたことで僅かな灯りでも眩しく再び目を閉じてしまう。何度かまばたきを繰り返すと徐々に目が光に慣れ鮮明に映るようになった。

 

左側から寝息が聞こえたのでぎこちない動きで顔を向けるとそこには頭を俺が寝かされているベッドに置きもたれるようにして眠っているリーナがいた。

 

起き上がろうと体を動かすが途中でそれ以上動かせなくなり元の体勢に戻ってしまう。元に戻したときの振動でリーナが目を覚ました。

 

「カツヤ!」

 

骨が折れるような強さで抱き締めてくるリーナの背中を軽く叩くと自分の腕の細さに驚く。枯れ枝のようにみすぼらしく戦略級魔法師とは思えない弱々しさだ。

 

「どれだけ心配させたら気が済むのよ!」

「ごめん俺どのくらい眠ってた?」

「グス、二ヶ月よ馬鹿!無茶して!」

 

またしても泣きつかれるので苦笑するしかなかった。

 

「あんまり抱き締めると俺の骨が折れるぞ。」

 

どうにか茶化すと涙を浮かべながら笑ってくれた。だが俺の顔を見て驚きの表情を浮かべたので不思議に思った。

 

「俺の顔に何かついてるか?」

「カツヤ、あんたその姿…。」

 

意味が分からずきょろきょろと辺りを見回しているとリーナが枕元の台に置かれた鏡を俺に渡してくれた。覗き込むとリーナの驚きの理由が分かった。

 

〈蒼い眼〉

 

それが今の俺の瞳の色だ。リーナのように冬の蒼穹を思わせるような透き通った碧眼ではなく何もかもを見通す神の如く鋭いされど優しさのある蒼色。

 

〈金色の髪〉

 

そしてリーナより濃くされど不思議と光に照らされると透けて見えるような黄金の髪。明らかに今までの俺ではない。別人と言っても過言ではない変化だ。リーナは俺の別人ぶりに思考停止に陥っていたが俺はすぐに状況を受け入れていた。

 

おそらく〈精神世界〉と呼ばれるあの場所から現実世界に帰還する際に四葉零という名の別次元の自分が俺に触れたことと次元の歪みとおぼしきひずみに跳び込むのを後押ししてくれた三人が触れたことによる事象の変化なのだと。

 

魔法ではなく人間そのものを造り替えるそんな魔法という範疇を超えた能力だと思える。それを知らないリーナが驚くのは別段可笑しくなく正常な反応である。

 

「ようやく目覚めたってわけか。」

 

克也は二つの意味で呟いたのだがリーナは一つの意味でしか捉えられていなかった。そのことに二人は気付かず話は進む。

 

「これで報復が出来るわけだ。」

「威勢だけはいいけどその様子だと全然覇気が伝わって来ないんだけど。」

「…。」

 

確かに痩せ細りきった今の俺は迫力が皆無に等しいので口だけしか強い言葉は使えない。

 

「取り敢えずタツヤとミユキを連れてくるからそのままでいなさい。」

 

命令に近い言葉を残しリーナは集中治療室から出て行った。

 

 

 

リーナが出て行くのを見送り思案を始める。

 

{俺のこの状況は二人に説明しづらいな上手く誤魔化さないとどうにもならん。しかし何故俺の容姿が変わったんだ?零が俺を呼んだときの言葉に何か意味があるのか?}

 

〈言霊〉

 

そんな一語が頭に浮かんだ。それは古来日本で言葉に霊的な力が宿りその言葉通りに結果を表すと信じられてきた。それが古式魔法にあるとすれば〈ゼウス〉という言葉により俺の髪と眼が変わっても不思議ではない。

 

〈精神世界〉で精霊を介して聞こえた声の人物が俺に変化をもたらしたのであれば古式魔法には外見を変える魔法が存在するということになる。

 

{古式魔法を侮っていたわけではないが抜け目がない。古式魔法から学ぶことはまだまだ尽きないだろうな。}

 

自分の身体的なことより魔法のことを気にする辺り以前の克也と何も変わらないようだ。

 

ふと思い視界を自分の内側に向けると自分の魔法演算領域に別の魔法演算領域が付随していることに気付いた。中身を見ようといくら眼を向けても中を覗くことが出来ない偶然覗けたとしてももやがかかったように詳細を見ることが出来ない。いつかは見ることが出来ると信じ詮索を止めた。

 

 

 

深雪の仕事部屋へ向かう間リーナは顔を真っ赤にさせ両手で顔を覆っていた。

 

{何でカツヤの声を聞くだけで嬉しくなるんだろう。もしかしてワタシカツヤのことが好きなの!?ないそれはないわ。だってカツヤはライバルそう、ライバルよそれ以外の対象にはならないわ。}

 

そう意識する辺り恋をしているのは間違いないのだが受け入れたくないのか受け入れられない理由があるのかどちらでも有り得そうだが一番の理由は恋に気付いていないことだろう。

 

「タツヤ、ミユキ!カツヤが目を覚ましたわ早く!」

 

深雪の仕事部屋をノックせずに入りリーナは高揚した声で二人に伝える。すると二人は慌てて立ち上がり血相を変えて仕事部屋を飛び出した。達也は樹里を腕に抱き振動が可能な限り伝わらないよう気を配りながら走って行く。

 

そのおかげか気にする様子もなく樹里はすやすやと眠っている。二人の後ろを追いかけながらリーナは少し羨ましそうに二人を見ていた。

 

 

 

「「克也(お兄様)!」」

 

突進してきそうな勢いで俺に駆け寄ってきた。

 

「おはようというか久しぶり?」

 

克也が茶化してくることに本当に戻ってきたのだと嬉しく思う反面達也は克也の変化に驚いていた。深雪はその変化には気付かない。気が付かないほどに克也が眼を覚ましたことが嬉しいのだ。

 

旦那である達也と最愛の娘である樹里より優先順位は低く血縁関係が「調整体」であり離れているとはいえ敬愛する兄であることには変わりがないので目を覚ました克也に真っ先に抱き着いても達也は文句を言わない。言えないというのもあるが達也自身も抱きしめたいのだから言えるはずもなかった。

 

「達也が抱いているのが二人の子供か?」

「ああ、樹里だ。」

 

達也が眠っている樹里を克也に差し出し受け取ろうとするが二か月間動かしていない筋肉では生後二か月の赤ん坊でも支えることは出来ない。抱っこできないことに克也は悲しそうな顔をしたが何故か嬉しそうに微笑んでいた。

 

「克也、何故笑っているんだ?」

「目標ができたからさ樹里を抱っこするっていう目標が。」

「それだけなのですか?」

 

深雪は名残惜しそうに克也の腕から離れ横に立ちながら少し不満そうに聞いた。その不満は愛娘の樹里に克也を奪われたからではなくリハビリする生きる理由がそれだけなのかという意味合いが込められた不満だった。

 

「それだけじゃないよ。敵を水波の敵を討つことが第一目標だ必ずこの報いを受けさせる。」

 

瘦せ細った腕に力を込める克也に達也と深雪そして二人の後ろに立つリーナは同じ気持ちであることを示すかのように何度も頷いた。

 

 

 

克也が目覚めたことを友人たちに知らせたが克也が回復するまで面会を禁止したことに残念がる友人たちだったが文句を言う無粋な者はいなかった。

 

克也は目覚めてからリハビリを献身的に開始した。ある日のリハビリの帰り自室に向かう途中に久々に双子と出会った。

 

「香澄に泉美か久しぶりだな。」

「克也兄様お久しぶりです。」

「久しぶり克也兄。」

 

克也の予想通り大人の魅力を醸し出す女性に成長した二人を見ても動揺せず普段通りの対応をした。

 

「僕たちがここにいることに疑問を感じないの?」

「何かしらの理由があるからここにいるんだろ?だったら聞くのは野暮というものだ。」

 

松葉杖を廊下の壁に立てかけ自分ももたれかかりながら答える。別に普通のことを言っただけなのだが二人はいたく感心しているようだ。誰にとっても聞かれたくないことや話したくないことが一つや二つあるのだから聞き出すのは失礼千万だ。

 

その後軽い世間話をしてから克也は二人と別れ自室へと戻った。

 

 

 

リハビリ開始から二か月で克也は依然と同じように歩けるようになり体にも脂肪と筋肉が戻り樹里をようやく抱っこすることが出来た。克也が抱っこしても樹里は泣かずむしろ達也より落ち着くように穏やかに眠るので達也は少し不満そうだった。

 

魔法が依然と何ら遜色ないほどに回復したのは樹里が生まれて六か月、克也が目覚めてから二か月後のことであり深雪や達也、リーナは克也の魔法発動スピードと干渉力が強くなったのを目の当たりにはしていないがうすうす感じていた。それは強力な魔法師にしか感じられない微かな変化でありその変化に気付いた三人の洞察力があってこその離れ技である。

 

故に香澄や泉美が気付かないわけである。達也は克也の容姿の変化と魔法力の強化が密接に関わっていると持ち前の洞察力と『精霊の眼』で確信していた。

 

 

 

克也が目覚めリハビリに一区切りをつけたある日、真夜は自ら克也を誘い買い物に出かけた。俗に言う「デート」だ。五十路を越えても三十路にしか見えない下手をすれば二十代に間違われる容姿をしている真夜と克也が街をうろつけばパニックに陥るのは必然。

 

克也の腕にしがみつきおねだりする真夜を見れば恋人に甘える女性なのだが意味ありげにわざと視線を亜夜子やリーナ、泉美に向けるので台無しだった。三人は眉間に青筋を浮かべながらも優しい笑みを浮かべていたが真夜、深雪、達也、克也には嫉妬しているのが丸分かりだった。

 

約一名はまだ自分の気持ちに気付いていないので嫉妬していることに気付いていない。自分では五十路を過ぎても容姿が何一つ変わらない真夜に対するものであると思っているが克也を取られている状況への女性としての嫉妬が渦巻いていることに気付いていない。

 

三人が嫉妬をしているのは事実だが振り解こうとせず困った笑みを浮かべている克也にも不満を抱いていた。だが克也にも言い分はある。自分を溺愛してやまない真夜を心配させてしまったことへの謝罪をしたいからである。

 

だがここで自分に好意を向ける三人(克也は既にリーナが自分に好意を抱いているのをうすうす感づいている)の前でこのような行動をされるのは困るのである。克也の内心の葛藤を知ってか知らずしてか不明だが自分の感情を最優先に真夜は強制的に克也を連行し買い物に出かけた。

 

その様子を深雪は微笑ましそうに達也は樹里を抱っこしながら片手で自分の頭を抑え何ヶ月かぶりのある種の頭痛に苛まれていた。溺愛は生まれた頃からのことなので今さら文句を言ったところで時既に遅しなので言う必要がない。

 

達也は久しぶりに大きなため息をつき頭痛を同時に追い出し深雪を連れて仕事部屋に戻った。その後も亜夜子とリーナ、泉美は二人が出掛けた方面をずっと羨ましそうに睨んでいた。




ここでようやくタグ・転生という意味を使い作者が別に書いている『魔法科高校の劣等生〜影は夕闇に沈む〜』という作品と繋ぐことができました。こちらはまだ完結しておりませんがよろしければ読んで見てくださいでは次話の『縁談』にてお会いしましょう。
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