魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第百話 処断

七草邸。家と言っても十師族の一角を担うまた優秀な魔法師を抱える名家となれば敷地面積は尋常ではない。サッカーコートありテニスコートあり巨大プールあり極楽施設か?と突っ込みたくなるような土地の使い方だ。

 

これが弘一の趣味なのかそれとも先代、先々代から受け継いだのかどちらでも構わないが自宅に金をかけるのであればもっと魔法社会に貢献しろと言いたくなる。

 

既に七草家は魔法社会にも一般社会にも広いパイプを持ち多大な影響力を持っておりそれなりに貢献しているから誰からも文句を言われなかったのだろう。

 

まあ、弘一は自らその歴史に幕を下ろしたわけだが…。

 

廊下を歩きながら飾られている花瓶や絵画などを見る限り画家には興味の無い克也でも誰の絵なのかは分かる。関係者が持ち去らなかったのは弘一の所有物だからだろうか。

 

ところどころから時限爆弾とおぼしきタイマー音が聞こえる。

 

「深雪『凍火』でここら一体の爆弾を凍らせてくれ。」

「かしこまりました。」

 

深雪は命じられると淀みなく携帯型CADを操作し『凍火』を七草邸全体に発動させた。これで火薬を使った火器は使用不可能になり魔法か近接戦闘でしか敵は戦えなくなる。

 

自分たちの安全と味方の援護を兼ねた『凍火』は汎用性が高い。それを買って克也は深雪を連れてきたし達也も克也と共に行くよう促したのだ。

 

自分にはもったいない妹だと思うがそれは今に始まった事ではない。

 

「さあ行こうか深雪。」

「はい克也お兄様。」

 

二人は横に並びながら家の奥へと向かった。

 

 

 

深雪が『凍火』を発動した頃達也たちは少し苦戦していた。やはり数では相手の方が一枚も二枚も上手だ。

 

『マテリアル・バースト』と『ヘヴィー・メタル・バースト』を使う達也とリーナだが得意魔法と言えど発動や反動は文弥の使う『ダイレクト・ペイン』に比べて大きい。

 

確かに得意魔法なだけあって二人はありえないほどの速度で強力な魔法を使用できるがそれだけ処理には負担がかかり隙ができる。

 

そこを集中的にジェネレーターもしくは強化人間たちは執拗に狙ってくるためその分防御にも徹っしなければならない。

 

傭兵部隊や黒羽家お抱えの魔法師がいても自分の戦闘に精一杯なためなかなか三人を守ることができない。

 

「リーナ、遠距離は狙うな自分の前方三十m程度に意識を向けろ。」

「仕方ないでしょ!?金属部品をつけてる奴らが遠くにいるんだから!」

 

リーナの魔法『ヘヴィー・メタル・バースト』は金属を中心にして爆発させる魔法だ。『ブリオネイク』はそれ自体で爆発を起こさせることができるが今は手元にないうえに効果範囲が狭すぎるので今回の戦争では不向きだ。

 

「もしかしたらこれはリーナさん対策なのかもしれませんね。」

 

文弥が七草邸に対して九時の方向を向きながら向かってくる敵へ的確に『ダイレクト・ペイン』を発動させる。その間にも達也は文弥の言葉の意味を考えながら『マテリアル・バースト』で敵を消し去っている。

 

達也の使っているCADは{サード・アイ}ではなく自作の『マテリアル・バースト』を発動させるためのCADだ。{サード・アイ}ほどの威力や距離は出せないがこの敷地面積であれば問題なく対応できる。

 

そもそも『マテリアル・バースト』を発動させるための{サード・アイ}は軍の所有物のため持ち出しはできないので今はこれに頼るしかない。まあ、リーナや文弥がいるのでそれほど遅れをとることはないのだが。

 

「先頭開始から十五分でこの戦況はどうなのだろうか。」

「良くも悪くもないから五分五分でしょうね。いくら『アンタッチャブル』の傭兵部隊といっても元はそれほど魔法力のない魔法師の集まりだからケミカル強化されているあいつらに戦闘力が劣るのは否めないわ。」

 

リーナの言う通りこの三人がいなければあっという間に四葉家は撤退していただろう。それだけこの三人の存在が四葉家にとって大きいかがわかる。

 

だが逆に言えばこの三人がいなければ四葉家は十師族はもちろん師補十八家にも席を置くことはできない。

 

それを三人は理解している。だからこうして先陣を切って危険を顧みず敵を屠っているのだ。

 

「亜夜子は大丈夫か?」

「…大丈夫みたいです。姉さんが接触している奴らは実力的に九校戦でギリギリ戦える程度らしいので問題ないようです。」

 

文弥の返事が遅れたのは無線で亜夜子とやり取りをしていたタイムラグによるものだ。だが達也はなんとも言い知れぬ違和感を抱いていた。

 

「何故その程度の魔法師をここに引き入れた?弘一の部下になっても足手まといにしかならないはずだ。」

「少しでも戦力が欲しかったんじゃない?」

 

リーナの説明も理に適っていないわけではない。確かに弘一に味方する魔法師は限りなく少なかった。

 

いないことを望んだがやはりどの世界にも危険な思想が正しいと思い込む輩は少なからずいるようで少なくない数の魔法師が弘一の元に集まっていた。

 

「それならいいんだが…。」

 

達也も自分の勘違いであってほしいと心から願った。

 

 

 

克也は深雪を連れて慎重に進みながら弘一の書斎に向かっていた。廊下は幾重にも分岐し何度も合流しているが克也は道を間違えることなく歩いて行く。

 

一度視たのだ移動する気配がないのであるなら焦る必要もなく確実に仕留めることだけを考えればいい。

 

知ることもなかった廊下を歩きながら着実に近づく。しばらく歩くと杉でできた大きな二枚扉が現れた。その先には二人の人間がいるのを克也の眼は視ており深雪も魔法師の存在を長年の経験で感じていた。

 

「ようこそ我が書斎へ。」

 

扉を開けると弘一は立ち上がり両手を広げ満面の笑みで二人を迎えた。

 

「減らず口を!」

「落ち着け深雪、感情を露わにするだけ無駄だ。」

 

深雪が怒気をさらすが克也は落ち着いて深雪の肩に手を置く。深雪はその手の暖かさで我を取り戻したのか母親としてではなく十師族 四葉家当主としての立ち位置で書斎にいる三人を見据える。

 

「よくここまでのことを一人でやってこれたな。」

「私は手助けをしたまでです。何も私一人で成し遂げたわけではありません。」

「謙遜だけはするか。」

 

克也は自分一人で成し遂げたことを誇ると思っていたが反対に謙遜するとは思っていなかった。

 

謙遜したところで処断することに変わりはない。

 

{ブラッディー・ローズ}を弘一に向ける。

 

「ここで死ぬか獄中で死ぬか今すぐ決めろ。俺は我慢できるが深雪を抑えることは出来ない。」

「一番怒っているのは貴方だと思っていましたよ。」

「最初は怒ったさ。だが時間が経つ程怒りとは虚しい感情だと気付いた。怒りは人を変質させるそれは空想ではなく現実に有り得る。」

 

克也は自分の経験を元に話している。一高前で水波が「人間主義者」に襲われているのを目にしたとき抑えられない感情が噴き出し自分の記憶はそこで途切れた。

 

「怒りや悲しみなどの負の感情は人に与えてはならないものだと思った。そうは思わないか七宝?」

 

克也は弘一の後ろに内面を全く伺わせない笑みを浮かべながら立っている青年に声をかけた。

 

「そんなことはどうでもいいんですよ四葉先輩いえ、司波克也先輩。俺は自分の望みが叶えばそれでいいんです。」

 

琢磨は何かに取り付かれたように話す。いや取り付かれたのではなくのっとられたまたは洗脳されたように深雪には感じられた。

 

それでも克也は落ち着いた声音で尋ねる。

 

「望みか。お前の望み、野望は弘一と同じだというのか?」

「僕は魅せられました真の魔法師だけの世界なんて素晴らしいんでしょうか!」

「…狂っています。」

 

深雪の気持ちは理解できるが弘一と組んでいる時点で既にいかれているのだ。

 

「そういうことで消えてください克也先輩。」

 

琢磨は右腕を一閃した。すると克也の左腕が肘の下から切り落とされた。深雪は驚いて何も行動できず声を発せなかった。

 

「如何ですか?貴方を倒すためだけに僕が考えた近接戦闘魔法『ゼロ』は。」

 

克也は興味深そうに琢磨の右手に握られている刀と自分の傷口に何度も視線を向ける。

 

「面白い。振動魔法で刃を高速回転させ切り落とすか原理はチェーンソーから取ったのかな?」

「…痛みを感じないのですか?」

 

普通なら痛みでもだえ苦しんでいるはずが何事もなかったかのように話す克也を見て琢磨は驚くより恐怖していた。

 

痛みに慣れることは可能だ。だがそれには限度がある。

 

傷口から血を絶え間なく流しているというのに先程までと何も変わらず話す様子は悪夢を見ているようだ。

 

「感じるさ痛みを。痛みを和らげることが出来る俺の魔法でなだがこの痛みはあの時に比べればかすり傷のようなものだ。」

 

そうあの時の心の痛みに比べれば…。

 

「そんな魔法が?」

「俺の固有魔法だそれ以上は言えん。」

 

『癒し』で痛みを和らげていたが全員にバレないように使っていたので少し効果は薄かった。それでも気にならない程度には回復させることはできている。

 

{ブラッディー・ローズ}を握ったまま床に落ちた左腕を右手で拾い傷口をくっつけると『回復』を発動させる。

 

僅か数秒で左腕は元に戻った。

 

その様子を弘一と琢磨は眼を見開き深雪は得意気な顔をしていた。

 

「完治ではないがこの程度なら問題ないか。ところで深雪、何故お前が得意気な顔をしているんだ?」

「え?得意気な顔などしてなどおりませんよ?」

「そして何故に疑問系?」

 

二人の態度に琢磨の苛立ちは沸点に達し自己加速術式で克也に肉薄したが克也の突き出した右掌底で琢磨は吹き飛ばされた。

 

壁に激突した琢磨は崩れ落ちてきた研究資料に埋もれたが立ち上がった。だがダメージは大きく足下がおぼつかない。

 

「お前が一高の後輩だろうと水波を殺したことに間接的に関わっているから見逃さん。」

「…師補十八家 七宝家の長男を殺すというのですか?他に後継ぎはいませんよ?」

 

「生き延びたい」それが今琢磨の中に渦巻いている感情だ。魔法では体術では勝てないならば奇襲しかなかった。だが無理だった。次元が違うそう思わされた。

 

「ご当主には俺から伝えておこう。『関わってはいけない人物と接触し共謀し四葉家の逆鱗に触れた』とな。それと最初の一撃で俺の首を飛ばさなかったのがお前の唯一の失態だ。消えろ。」

 

克也はCADの引き金を引き『燃焼』を発動させ「七宝琢磨」という存在はこの世から消え去った。その様子を深雪は見たが消える瞬間眼を背けてしまった。

 

たとえ家族同然だった水波を殺した人間と関わりがあり間接的に手助けした憎む相手でも目の前で人が消え去るのを見るのは耐え難かった。

 

克也は無表情に琢磨のいた場所を睨みつけた後、{ブラッディー・ローズ}を弘一に向けて発した。

 

「次はお前だ七草弘一。」

 

それは死神による死の宣告のように書斎に響いた。

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