魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第百三話 殲滅

耳障りな硝子を引っ掻くような音が耳を貫く。後ろでは亜夜子を抱き名前を呼び続ける文弥の声と文弥を諦めさせようとするリーナの声。

 

どれもが達也の耳に入る。何より精神を蝕むのは眼前から放たれる敵意ではなく「アンティナイト」特有の現象魔法師にとっては危険そのものである「キャスト・ジャミング」を発する元人間。

 

だが達也の魔法発動にはなんら影響はない。何故なら彼自身の固有魔法『分解』は「キャスト・ジャミング」の影響を無視して発動できるのだから。

 

「どうやって人間に『アンティナイト』を埋め込んだ?」

「君が知る必要は無いよ何故なら君は今ここで死ぬのだから。」

 

拓巳はおよそ五体の「キャスト・ジャミング」を放っている自身の「人形」を達也を攻撃対象として認識させた。すると五体が一斉に駆け出し達也に掴み掛かろうとする。

 

達也が最初に近付いてきた人形を『雲散霧消』で消し去ると拓巳は驚愕をあらわにした。

 

「貴様何故『キャスト・ジャミング』の中で魔法を使える!?」

「つまらん奴だなそれと二人称は『君』じゃなかったのか?被っていた化けの皮が剥がれているぞ。俺が『キャスト・ジャミング』を無視できることがそんなに不思議か?」

 

そもそも達也の固有魔法は魔法式を作り出すものさえ消してしまうので「キャスト・ジャミング」を無効化できる。克也の場合は「キャスト・ジャミング」のノイズが干渉しても揺るがないほど強固な壁を持っているため普段通りに使用できる。

 

「…君を消せないのであれば他の者を消せばいい。やれ!」

 

拓巳の突撃合図に残りの人形が全方向に一斉に散ってしまったため達也は三十六人しか消し去ることが出来なかった。

 

「リーナ!今すぐあいつらを追ってくれお前がいなければ全員が即死だ!」

「わかった!」

 

リーナはすぐに駆け出し人形を追い掛けた。だが文弥は泣き止まない。

 

「文弥、お前も仕事をしろ。お前は黒羽家次期当主なんだぞお前がここで腐っていたら誰が守るんだ!」

「姉さん…。」

「文弥!今はそれどころじゃないんだ!」

「克也兄さんは言いましたよね?生きて帰ると約束しろと。」

「っ!」

 

文弥の声と眼は憎悪にまみれており達也でも言葉に詰まってしまった。だが達也もここで引き下がるわけにはいかない。

 

「戦場では人が死ぬ。たとえそれが友人や家族であっても例外はない。ここで亜夜子と共に死ぬか生き延びて四葉家のため黒羽家のために命を捨てるか今すぐ決めろ。俺はここでお前が決めるまで待ちはしない生きるなら行動で示せ。」  

 

達也はそれだけ言うとリーナとは反対に駆け出した。文弥はしばらくの間迷った。双子の姉をここに残して戦いに戻っていいのか許されるのであれば姉と共々ここで死んでもいいのか。

 

だがそれを克也は許しはしないだろう。何があっても全員で戻ると四葉の名にかけて誓ったのだから。姉がいてもいなくとも自分の道を進むそれが克也から教わった生き方だ。

 

大切な人が死んでも前を向いて生きることを。自分の力の弱さを痛感させられても誰かのために生きることを。

 

文弥は亜夜子の亡骸をもう一度抱き締め地面に優しく下ろす。焼け焦げたリボンを形見に戦場へ戻る。その眼は先程とは違い生きることへの執着そして敵をただ屠るそれだけを考えるそんな眼だ。

 

文弥はナックルブラスター型のCADを強く握りしめリーナと達也の間の方向へ走り出した。亜夜子の「心」を胸に秘めて。

 

 

 

リーナと達也は苦戦を強いられていた。もともとリーナは単体あるいは少数の敵を相手にするのが得意であり達也はある程度の人数でも問題ないが激しく動き回る敵を相手にするのは苦手だ。

 

自己加速術式を長時間使い続ける相手と戦ったことのない二人は徐々に追い詰められていく。達也の場合は人形を相手にしながらも左手のCADで負傷した黒羽家配下の魔法師を『再生』で治癒しながらの戦いだ。

 

リーナ以上の過酷さの中で何十体もの人形を倒さなければならない。さらには『再生』を使ったときの副作用で痛みも同時に受けるのだ精神ダメージはリーナの比ではない。だがそれでも戦わなければならないのだ克也のため四葉のために。

 

「ぐっ!」

 

ついに人形の攻撃が達也を捉えた。一撃喰らったことでさらなる魔法が達也を襲う。『再生』のおかげでダメージは「なかった」ことになるが疲労するのは否めない。

 

そして何十回目、何百回目の『再生』を使ったときに達也は違和感を感じた。

 

{今のはなんだ?精神が消えていくそんな感じだ。だがそれより重要なのはこいつらを消し去ること。}

 

達也は違和感を勘違いだと思い込み記憶から消した。そして『分解』で縦横無尽に動き回る敵を的確に消していく。

 

 

 

リーナはその頃壁際に追い詰められていた。体術もそれなりには鍛えているが敵の体格が良すぎるので華奢なリーナの攻撃では相手に隙を与えるだけだ。体術が使えなければ魔法もあるが「キャスト・ジャミング」を使われては思うような効果は得られない。

 

完全に手詰まりでありチェックメイトだ。

 

{一回くらいカツヤとデートしたかったな~。}

 

振りかぶる拳を見てリーナはそんなことを思った。振り下ろされる拳を見ず眼をつぶりその時が来るのを待った。だが次の瞬間体がふわっと浮き抱きかかえられたと思った頃には地面に着地していた。

 

「間に合った!」

 

上から心で呼んだ男の声がした。恐る恐る眼を開け見上げると安堵の表情をする克也の顔があった。

 

「カツヤ、どうしてここに…。」

「リーナ、少し待ってろすぐに終わらせる。」

 

克也はリーナの質問には答えず群がってくる人形三十体を一度に相手するように立つ。

 

「カツヤ、そいつらは!…。」

 

リーナが何かを伝える前に克也は既に突っ込んでいた。右拳でボディーブローを喰らわせ左の裏拳を放ち右後ろ回し蹴り、前方へ転がってからの右ストレート。

 

流れるような動きで一瞬の間に二十八体を屈伏させる。そして一体には右前蹴りで顎を天に向かって蹴り上げ残り一人を空中で前方回転の威力を使って右かかと落としを頭頂部へ振り落とす。

 

全員が屈伏した瞬間バック転を五回ほどして定位置へ戻り大型のCADを構える。リーナが両手で顔を庇うほどの活性化した想子が克也から溢れ一つの強力な魔法が放たれた。

 

煉獄の剣と化した魔法は上空十mから落下し地面に屈伏していた人形三十体のうちの一体を貫き存在の痕跡を残さず全てを焼き尽くした。

 

リーナは非常に強力な魔法であるはずがまったく爆風を感じず死体の痕跡を何一つ残さなかった魔法に驚いていた。活性化した想子よりこちらの方が穏やかに感じるほどに。

 

「リーナ、怪我はないか?」

「え?あ、うんありがとう。」

 

急に話しかけられ先程の怒りが含まれていた声音との差に驚いてしまう。

 

「今の魔法は『グレート・ボム』なの?」

「違うよ。俺の魔法は『レーヴァティン』『グレート・ボム』とは無関係。」

 

『グレート・ボム』とは達也の戦略級魔法『マテリアル・バースト』の別称であり他国がこの言葉を使う。リーナはまだ『グレート・ボム』の使用者が達也だとは知らないので克也の魔法を勘違いしてしまったのだ。

 

「てかなんであんたがここにいるのよ。目的は?」

「任務完了だ。あとはこいつらを消して亜夜子を連れて帰るそれだけだ。」

 

リーナは気付いてしまった。亜夜子がもう助からないことをここに来るまでに知ったと。そして約束を守れなかったことを悔いていると。

 

「ミユキは?」

「達也のところに向かわせた。だが文弥が心配だ俺は文弥の援護に行ってくるからリーナは達也達と合流してくれ。そこに向かうまでに敵はいないから安心しろ。」

「待って。」

 

リーナは走り出そうとした克也の左手を掴み自分に引き寄せた。自分より二十cmも高い克也の唇を自分の唇で塞ぐ。克也の驚いた顔を見て恥ずかしがりながらも華のような笑みを浮かべる。

 

「リーナ?」

「フミヤを連れて必ず帰ってきなさい。ワタシのファーストキスを無駄にしたら許さないからね。」

 

克也が硬直している間にリーナは長い髪を風にたなびかせて自己加速術式で達也と深雪の元へ向かった。

 

まさかの不意打ちいや不意撃ちに克也も戸惑いを隠せない。よもやこんな戦場で接吻されるとは思ってもいなかった。取り敢えず自分の戸惑いを心の中に仕舞い込み文弥の元へ向かった。

 

 

 

文弥と合流し残りの二十体を『レーヴァティン』で殲滅し達也達の元へ行くとこちらも戦闘を終えていた。達也の『局所マテリアル・バースト』とリーナの『小規模ヘヴィ・メタル・バースト』によって敵は消え去っていた。

 

座り込んで涙を流す深雪に近付き隣に両膝をつく。見開いている亜夜子の瞼をそっと閉じ『回復』で焼けただれた皮膚と服を治すとまるで眠っているかのように安らかだ。

 

「達也、終わったか?」

「ああ、これで何もかも全てが。」

 

目的を果たしたというのに気分が晴れないのは何故か。亜夜子を失ってしまったことがあまりにも辛いからだろうか。落ち込んだ気分で空を見上げているとヘリが三機こちらに飛んできていた。

 

「あれは何?」

「…驚いたな軍のヘリだ。」

「何故三機もここに。」

 

数分後、今までの戦いが嘘のように静まりかえった七草邸の庭にヘリが降り立ち中から現れた人物に俺と達也は驚いた。

 

「大黒特尉、神代特尉、至急対馬要塞と稚内にお越し下さい新ソ連と大亜連合の艦隊がこちらに向かっています。」

 

真田少佐の言葉に再度驚く。想定していたとはいえ本当に来るなど思ってはいなかった。

 

「それとリーナ殿、貴女にも足摺岬へ来ていただきたい。」

「藤林中佐、それは一体どういうことですか?」

「『レプグナンティア』USNA支部の艦隊が来ています。ここに三人の戦略級魔法師がいますので今すぐに向かうことが出来ます。」

 

確かにリーナは黒羽家の車に{ブリオネイク}を乗せてある。{サード・アイ}は風間が持ってきているだろうからすぐに向かえば殲滅は可能だ。

 

だが奇妙なのはもう一人の日本政府公認戦略級魔法師が出てこないことだ。

 

「五輪家は今回出撃されないのですか?」

「体調を崩されたらしく不可能です。」

 

ならば自分達が行くしかあるまい。

 

「達也、リーナ、行くしかない日本を守るぞ。」

「当たり前だ。」

「決まってるでしょ。」

 

本当に頼りになる家族だ。

 

「リーナ、お前は少し疲れている少しこっちに来い。」

 

俺はリーナの額に右手を押し当て『癒し』を発動させる。疲労を抜き取り満足に魔法を発動できるようにした。

 

「達也、リーナ、生きて帰ってこい。そしてまた家で会おう。深雪、リーナと一緒に足摺岬へリーナの側にいてやってほしい。」

「亜夜子ちゃんはどうするのですか?」

「文弥に任せるいいか?」

「もちろんです。」

 

文弥がしっかりと頷いてくれたので亜夜子を預け三人が別々のヘリに乗り込む。達也は西の対馬要塞へリーナと深雪は南の足摺岬へそして克也は北の稚内へ向けて飛び立った。

 

 

 

ヘリの中には柳少佐が{ムーバル・スーツ}を着て座っていた。それも深刻な表情をして。

 

「お前もこれを着るんだ。」

「了解しました。」

 

達也が真田と共に製作した特殊スーツをその場で着替える。

 

「新ソ連の艦隊はどの程度なのですか?」

「ほぼ全艦と言っても過言ではないらしい。」

「…本気で戦争をするつもりなのですか?」

 

なんとも言えない大胆さにため息しか出ない。

 

「大亜連合と『レプグナンティア』も総力を以て我々を攻撃するようだ。」

「返り討ちにしてやりますよ。」

 

克也の物騒な言葉に悲しげな笑みを柳は浮かべた。着替え終わった克也の両腕には大型CAD{レーヴァティン}が握られている。非公式な命令だが従わないわけにはいかない。

 

二大国家+過激反魔法師団体が全兵力で向かってくるのだ。第四次世界大戦でも引き起こす気なのかと聞きたくなるがそもそも大亜連合とは休戦協定を結んだだけであって終戦はしていないのだ。

 

新ソ連は相互不干渉条約を締結していたはずだが一方的に破られたのだ。それなりに報いを与えなければならない。日本に四葉家に牙をむいたことを後悔させなければならない。

 

三人の戦略級魔法師はそれぞれの想いを胸に秘め目的地へと向かった。

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