魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第百四話 完了

冬の寒さを纏った風が何処までも広がる雪原を吹き渡る。人が住んでいない風化した家屋が点在している。ヘリから見えた土地はそんな悲しい風景で初めて見る北海道の地は哀愁が漂っているようだった。

 

過疎化が進み人口減少が著しい稚内市は若者が幼い幼児などを除き全体の15%程度しかいないため赤ん坊が生まれた世帯には多額の生活保護が与えられ本人や両親が拒否しない限り17歳まであらゆる割引などを受けることが出来る。

 

国は北海道の過疎化正確には県庁舎在地や主要都市以外からの人口流出を防ぐために必死になっている。寒冷化が進んだこともあり北海道の人口は最盛期の八割程度まで減少しているため土地面積があまり1人辺りの分配面積が広くなっていく一方である。

 

稚内市で最北端は宗谷岬北西にある弁天島だがそこは無人島であり非常に狭く手入れされているわけではないので上陸不可能である。別に必ずそこに行かなければならないわけではないので稚内市に急遽設置された臨時本部から狙えればいい。

 

克也が乗ったヘリはヘリポートに着陸したがすぐに魔法発動の準備を整えるよう言われ駆け足で本部の近くにそびえるビルの屋上に向かった。この部隊での命令権は柳に与えられているらしく克也と共にビルの屋上に来ていた。

 

「まさか柳少佐が俺に命令する日が来るとは思いませんでした。」

 

『レーヴァテイン』の最終確認をしながら部隊長ではなく司令長として命令を下す柳の緊張をほぐすように克也は問いかける。

 

「俺も思っていなかったさでもいい経験にはなると思っている。」

「俺は既に似たような経験をしてますけどね。」

「四葉家当主補佐の奴が何を言う。」

 

笑顔を見せる柳は少しだがほぐれているらしく口も滑らかだ。最終確認が終わり『レーヴァテイン』を日本海に向けて構え視界を広げる。既に新ソ連の艦隊は領海まで残り10km程にまで接近しており敵艦の試し撃ちも完了済みのようだ。

 

「発動しますか?」

「少し待てまだ上からの許可が下りていない。」

「領海内に入られては稚内が一面火の海になり兼ねません一刻も早い攻撃許可を望みます。」

 

上は何を渋っているのだろうか命令を無視して決行してもいいだろうか。稚内が壊滅しても四葉家には影響などないが魔法師に対する批判は膨らむだろうそれは四葉家も他人事で傍観などしていられない。

 

「どうやら国防軍情報防諜第三課からの反対が強いらしく強行採決は出来ないらしい。」

「それならば問題ありませんそこは七草家の息がかかった部署ですから強行採決しても構わないと四葉家がそう言っていると連絡して下さい。」

 

もしそれでも文句を言いに来るようであれば制裁を加えればいい。武力をちらつかせたくはないがそもそも弘一があのような行動をしなければこちらも穏便に済ませるつもりだった。だが今は話し合いなどはするつもりがない力で潰すそれが今の四葉の考えだ。

 

「許可が下りた発動してくれても構わない。」

「分かりました。」

 

俺は大型CADを構え視界を再び広げる。今はもう『全能の眼』は使えず『全想の眼』で敵を見据える。使えなくなったのは目的を達したからだろうか。使えなくてももともとの眼を使えば問題はない。そもそも『全能の眼』は『全想の眼』の強化版あるいは進化版であり使い勝手が良くなるだけなので別に気にしていない。

 

艦隊の中心には他の誰よりも想子濃度が高い魔法師が乗っているのが視えた。おそらくこれが『十三使徒(大亜連合が認めていないが正確には十二使徒)』新ソ連公認戦略級魔法師イーゴル・アンドレイビッチ・ベゾラゾフなのだろう。彼まで参戦させているとなると本気で戦争をするつもりだったようだ。

 

見つけた瞬間強力な魔法発動の兆候を感じ急遽『レーヴァテイン』の発動をやめ達也が新しく開発した新魔法『ゲートキーパー』を発動させる。そのおかげか魔法は発動せず我ながら安堵してしまう。

 

 

 

{今のは領域干渉?いいえ魔法が完成していたにもかかわらず効果を発揮しませんでした。今のは精神干渉魔法の一つでしょうか?}

 

戦艦の特別室にいたベゾラゾフはたった一度で克也が何をしたかの真髄に迫っていた。

 

 

 

{今回は何とか発動を間に合わせることが出来たが次はないだろうな。ならば何も考えず消し去ろう跡形もなくこの世界に存在したという意味そのものを。}

 

「『レーヴァテイン』発動!」

「『レーヴァテイン』発動します。」

 

克也は今度こそ『レーヴァテイン』を発動させた。煉獄の炎を纏った剣はイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾラゾフが乗船している戦艦の上空から引力に従い貫く。ベゾラゾフも何もせず攻撃を受けたわけではない。瞬時に自分が完成させた『パーフェクト・キューブ』を展開したが『レーヴァテイン』の熱量と運動量によって無効化された。

 

『レーヴァテイン』が作り出した爆風は瞬時に艦隊の中心から広がり円形に半径7kmを航行していた戦艦を全て巻き込み消滅させた。

 

紅い巨大な剣が遙か遠くの沖合で落下し爆発したかと思えば何もなかったかのように静まりかえる夜の海原が打ち寄せる波。それを二度現場で眼にした柳は震え上がった。

 

克也の戦略級魔法『レーヴァテイン』が局所的な爆発でありながら絶大な威力を発揮するのは克也が指定した範囲内において上昇気流が高密度で発生するからである。一度の発動で小さく強力で数多の渦が発生し周囲のものを引き寄せ渦の上で炎が燃やし尽くす。

 

「燃滅完了です。」

「…仕事が早くて助かる。」

 

柳は微妙な顔で克也を労い本部に向かってビルの非常階段を下りる。その様子は作戦に成功し喜ぶ士官ではなく命を奪ってしまったことへ許しを請う一人の人間だった。

 

 

 

克也が稚内で『レーヴァテイン』を発動させたのとほぼ同時に達也が対馬要塞で『マテリアル・バースト』をリーナが足摺岬で『ヘヴィー・メタル・バースト』を発動させ敵からの反撃を受けることなく消滅させた。北で紅、南で黄、西で白の光が輝き漆黒の闇の中の日本を照らす。

 

 

 

この三つの戦略級魔法による新ソ連と大亜連合艦隊、レプグナンティア艦隊が消滅した事件を人々は安易な名前で呼んだ。

 

『天変地異』

 

と。

 

 

 

それは人の命を簡単に奪う物でありながら美しく夜空を照らす。しかし同時にそれは人の命を救うことを如実に示していた。だからこそ魔法は抑止力にもなり兵器にもなる。そのため魔法に対する反感はこれまでもこれからも存在し続ける。克也が達也が深雪がどれほど魔法の使用を制限しても世間の冷たい視線は注がれ続ける。それでも三人は日本の世界のこれから世を担う魔法師のために反魔法師運動と戦い続ける。

 

 

 

弘一との全面戦争終了後、克也達は真っ先に今回の戦争で失った命を弔った。

 

『黒羽亜夜子』

 

亜夜子の遺体に克也、達也、深雪、文弥、リーナが順に最後の挨拶をする。真夜は元当主としての立場があるのか涙を見せなかったが葉山は崩れ落ちていた。四葉の関係者そして年長者である葉山は亜夜子を含む克也、達也、深雪、文弥、夕歌、勝成は孫同然の存在であり達也を除きかわいがっていた。

 

達也をかわいがらなかったのは分家による再度「達也暗殺計画」を企てさせないための布石だった。

 

亜夜子以外にも四葉の傭兵部隊から十五名の死者が出たが顔を合わせたこともない相手であるし亜夜子を失った悲しみがある以上無念だとしか思えなかった。

 

貢は亜夜子を失った悲しみから病気を患い今は病床についている。もっとも悲しみにうちひしがれているのは文弥だろう。自分が亜夜子の交戦地に着いた瞬間に目の前で殺されたのだから。

 

リーナも涙を流し克也の胸にすがりつき涙を流している。お互いに気を許し分からないことは互いに教え合い時には魔法力の競争もした。そして恋のライバルであったのだ。リーナは戦争終了間近に自覚したが何故亜夜子が自分が四葉に保護された際に笑みの中に鋭い視線を含ませていたのか知らなかった。

 

だが今になって気付いた。あれは「自分の気持ちに気付け」と「自覚しろ」と言っていたのだと気付いた。お礼を言いたいそして謝りたい。でも亜夜子はここにはいない声を聞くことも話すことも出来ないのだ。そう思う度に涙が溢れてくる。止め処なく体中の水分が涙に変わるのではないかと思うほどに。

 

自分が泣いている間克也は私の頭を優しく撫でてくれた。その優しさが胸に刺さった。亜夜子にこんなことをしなかったのに自分にしてくる。

 

{期待してもいいのかな?}

 

私は克也の腕の中で泣きながら心の片隅でそんなことを考えていた。

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