魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第百五話 惜別

亜夜子を弔った後、克也は九島家と北山家に対して婚約破棄を申し出た。今の状態で婚約しても心は晴れないしむしろ病んでしまいそうだからだ。どちらも引き下がってくれたが渋々という感じだった。

 

気にしている暇はない。今やるべきことは七草家の処分をどうするかが先決である。だが四葉家は擁護する方針で一致した。何故なら今回の暴走は弘一単独なのだから真由美や香澄、泉美には責任が何一つないのだから。

 

 

 

戦争から一週間後、七草家を除く緊急師族会議が魔法協会関東支部で開かれ深雪と克也が会議室に到着し会議が始まった。

 

 

「今回の事件について申し上げます。七草家の処罰また十師族及び取りつぶしを行わないことを提案いたします。」

 

深雪が処罰の内容について発表すると各当主は驚きの表情を浮かべ何人かが叫ぶ。

 

「四葉殿本気ですか!?」

「克也殿、本当によろしいのですか!?貴方の妻が殺されたというのに何もしなくてもいいのですか!?」

 

二木家と八代家の両当主が質問を重ねる。

 

「無論です。真由美嬢は関係ありませんし今回の暴走は弘一個人ですので潰す理由はありません。長男と次男の智一殿と考次朗殿は既に拘束済みです。弘一の考えに賛成するばかりか推進しようとしましたので今は刑務所にいます。」

「なるほど四葉殿のお考えは分かりました。我が一条家は四葉家に賛同する。」

 

まずは一条家が四葉側についた。

 

「十文字家も賛同する。」

「九島家異議無し。」

「五輪家異議無し。」

 

これで四葉家を除き賛成側と反対側4:4こちらにはまだ手札があるがまだ出すときではない。

 

 

「何故取りつぶしになさらないのですか?今復讐せずしていつするのですか?」

「先程から申しているとおり弘一個人の暴走ですそれだけで七草家を魔法社会から破門する理由にはならないのですよ六塚殿。」

 

深雪の威圧に六塚家当主は黙り込んでしまう。四葉家は七草家の滅亡は望んでいないむしろ繁栄を望んでいる。真由美は信頼できる魔法師であり何より人の信頼もあり人を動かす力がある。それを無駄にするなど日本の利益ではなく不利益を被る。

 

「取りつぶすべき家は七宝家です。七宝家は弘一と共謀し自分の妻を拉致し監禁し拷問した。七宝家は一家総出で荷担していますから七草家ではなく七宝家を取りつぶしにしましょう。」

 

七宝拓巳は達也の『マテリアル・バースト』によって既にこの世から消え去っている。妻や配下の魔法師は自分達は関わっていないと言い張っているが辰巳の第一発見者が拓巳の妻であり捜査協力しなかった罪は重い。

 

「二木家は異議なし。」

「三矢家も異議なし。」

「六塚家も異議なし。」

「八代家も異議なし。」

 

こうして七宝家は師補十八家から除籍され名義も剥奪され解体された。七宝家の主だった人物や配下の魔法師、関係者は個別に取り調べが行われ危険な人物は拘置所に送られた。危険ではあるが直接の行動に出ないと分かった人物においては監視に留めるとし釈放されている。

 

 

 

四葉家の復讐が終わり亜夜子を亡くした悲しみからようやく立ち上がりかけていた矢先またしても行き先は闇に包まれた。

 

「起きても大丈夫なのか?」

 

ドアを開けて中に入ると立ち上がり窓枠から庭をヨチヨチと歩く娘を見ている達也に声をかけた。

 

「今は調子がいい今のうちに目に焼き付けておきたくてな。」

 

悲しい笑みを浮かべるのでそんな達也を見て俺は心が痛む。窓の外から深雪の楽しげな声が聞こえそれが余計に心に突き刺さる。

 

達也は母と水波と同じように魔法演算領域のオーバーヒートによって寿命は極端に短くなっている。今までの『再生』の使用が達也の精神を蝕み始めたのだ。今回の戦争で達也は百回以上行使したことによってそれを一層加速させてしまった。

 

「あんまり無理するなよ?余計に寿命を縮めるからな。」

 

達也は両手を広げ肩をすくめる。そう達也はもう寿命がないのだ。医師に下された命の灯火は僅か二ヶ月あまりに短すぎる時間の宣告に深雪と俺は体が震え出すのを止められなかった。

 

今は三月二十四日。樹里の誕生日が五月二十七日であり医師の診断を受けたのは二月十七日であるため祝える可能性は限りなく低い。

 

余命宣告を受けそれ以上に長く生きる事例もあればそれよりも前に亡くなる事例もあるのであくまでの目安にしかならない。

 

今達也の体は『再生』が自分の意思とは関係なく常に発動している状態であるため魔法演算領域には多大な負荷がかかっている状態である。それでも達也が平常でいられるのは達也の保有する想子量が桁違いであり身体の強靭さによるものである。

 

だがこの均衡がいつまで続くかはわからない。明日なのかそれともまだ先なのか。もしかしたら今この瞬間目の前で『再生』が途切れるかもしれない。

 

「取り敢えず飯を食え少しでも樹里と一緒にいたいなら。」

 

俺はテーブルに今日の昼食を置くと達也は済まなそうな表情をしながら椅子に座り食べ始める。達也の体は味の濃い料理や脂の多い料理が食べれなくなっており今は野菜や果物、おかゆといった胃に優しい料理しか口にできなくなっていた。

 

そのせいで今の達也の体重は明らかに俺より軽く腕は痩せこけている。それでも眼は光を失っておらず未だに強く輝いている。

 

おかゆを食べ終わった達也は眠気が訪れたのか眼をこすり布団に潜り込むと寝息をすぐ立て始めた。俺はおかゆの入っていた皿を持って部屋を出る。

 

 

 

 

皿を使用人に任せ裏庭へ向かうと深雪が樹里の歩行を手伝っていた。その様子をリーナが羨ましそうに裏庭の芝生の上に置かれた机の上の紅茶を飲みながら眺めていたのでリーナの座っている椅子の横に腰を下ろした。

 

「樹里は歩けるようになったのか?」

「あと少しってとこかしら補助があれば十mぐらいは歩けるみたい。ところでタツヤの容態は?」

「食べてはくれたが明らかに食べる量が減っている本人は自覚していないようだが。」

 

今日の量は先週の三分の二程度でしかない。このままいけば樹里の誕生日まで生き続けるなど到底できない。四葉家は可能な限り手を尽くす予定だが現代科学でも治せないものは治せない。

 

魔法は精神に著しい負荷を与えるため弱っている達也に対して魔法を使う気にはなれない。

 

一番辛いのは深雪であるが深雪は今とても幸せそうだ。だがそれは樹里を相手している今だけであり仕事に戻れば達也のことばかり考えてしまい手につかなくなる。そんな生活を一ヶ月続けている。

 

嬉しそうに樹里の手を引き歩行練習をする深雪を俺とリーナは優しく見守っていた。

 

 

 

それから半月、達也はついに起き上がることも腕を動かすこともできなくなった。口を動かすことはできるがその姿は今までの健康な達也と比べてあまりにも弱々しかった。

 

「克也いるのか?」

「眼を覚ましたか達也。気分はどうだ?」

「清々しいさ。克也、覚えてるか?俺たちが初めて顔を合わせた日のことを。」

 

達也の言葉に俺の脳裏に達也と初めて出会った時のことを思い出す。遥か遠く二十二年前の記憶だ細部までは思い出せない。相手の記憶を視る俺の『眼』は相手のものを視るのであって自分の記憶を読み返すことはできない。

 

自分の魔法演算領域を視ることができても。

 

「ああ、覚えてるよ確か叔母上のプライベートスペースだったな。」

「あの時の母さんと叔母上の嬉しそうな顔は忘れられない。それにお前を視界に入れた時何故か安心できた。」

「それは俺もだ二人で遊ぶときも何故か叔母上と遊ぶより楽しかった。」

 

お互いに微笑みながら眼を見て話し合う。

 

「人造魔法実験を受けて目が覚めた時にも思ったよ『こいつがいたら背中を預けられる目の前の敵にだけ集中できる』ってな。」

「双子だからって理由じゃダメか?」

 

冗談めかして言うと達也は笑った。それが俺が見た達也の最後の笑顔だった…。

 

 

 

三日後、達也は眠るように俺たちの前で息を引き取った。一切の苦しみを感じさせない安らかな眠るような息の引き取り方だった。樹里は深雪が嗚咽をこらえて泣いているのを不思議そうに見上げていた。

 

達也を父として知りえる日は二度と訪れない。写真や映像を見ても「これが父なのですか?」と言われるのが関の山だ。だが父親が存在したことそして達也が未来に託したことを知ってくれればそれでいい。

 

達也を代々四葉家直系の者のみが納骨される墓に遺骨を入れた日、俺は深雪に夜を共にするよう求められた。達也に申し訳ない気持ちがあったが何より深雪をこれ以上悲しませないために俺は了承した。

 

そして最初で最期に俺と深雪は体を重ねた。決して俺は達也から深雪を奪いたかったわけではなく深雪は達也を忘れたくないために重ねたのではない。ただ、お互いの悲しみを癒したかった。ただそれだけだった。

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