魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第二十話 九校戦⑥

大会九日目は前日からの晴天に打って変わって今にも雨が降り出しそうな分厚い雲に覆われていた。

 

「ミラージ・バットにとっては試合日和なんだろうが。」

「波乱の前触れに見えるね。」

「まだ何か起こるのでしょうか…?」

 

達也、克也、深雪の順で話す。

 

「分からないな起こるという確証もないし起こらない確証もないからね。深雪は心配することはないよ。」

 

深雪の心配に達也が安心させるように諭す。そんな幸せそうな光景を俺は優しく見守っていた。

 

 

 

「小早川先輩かなり気合いが入っているようですが。」

「そりゃな自分の結果次第で優勝がぐっと近づくか三高が追い上げるかが関わってくるから手を抜けるわけがない。」

 

克也の質問に摩莉が答えた。まあこんなところで「手を抜きました。」と言える精神力を持つ人間はいないだろう。

 

ちなみに克也の右側に鈴音、摩莉、真由美の順左に美月、エリカ、レオ、幹比古俺の後ろにほのか、雫とそれ以外の一高メンバーという並びだ。

 

第一ピリオドは接戦だったがわずかに小早川先輩がリードしていた。

 

「美月、眼鏡外して大丈夫なの?」

「ちょっときついかな。でも眼鏡を外していたら渡辺先輩の事故を簡単に解決できたかもしれないから。」

 

エリカの心配に美月は覚悟を決めていたらしい。エリカもそれ以上声を掛けるようなことはしなかった。

 

第二ピリオドが始まり光球をたたこうとしたが僅かにとどかず着地する場所を探し移動魔法を組み立て降りようとした。が体はその向きではなく下に落ちていく。

 

「あ!」

 

突然美月が叫んだので全員美月を見た。

 

「美月どうした?」

「今小早川先輩のCADの近くで精霊がはぜたように見えました。」

「本当か?」

「はい間違いありません。」

 

美月に再度確認ししっかりした返事を確認してから音声ユニットを取り出し連絡する。

 

「もしもし達也か?美月が小早川先輩のCADの近くで精霊がはぜたのを見たらしい。」

「そうか、美月に貴重な情報をありがとうと伝えといてくれ。」

「了解。」

 

達也と電話を終え音声ユニットをかたづける。

 

「美月、達也が貴重な情報をありがとう役に立ったと言ってたよ。しかし小早川先輩はまずいな後遺症が残らなければ良いが。」

 

美月に伝えた後呟くと全員同感のようで厳しい表情をしていた。

 

 

 

一高テントに一高スタッフが大会委員に暴力を振るったという情報が流れ込んだ。深雪が驚いた顔をしているのと深雪の試合前だというのを考えると犯人は達也しかいないと俺は思った。

 

本人がテントに入ってきたので俺と深雪は駆け寄った。

 

「達也(お兄様)!」

「すまないな二人とも迷惑を掛けて。」

「いいえでも達也お兄様がお怒りになるのは克也お兄様か私だけですから。」

「そうだねでもな深雪それは当たり前のことなんだ。大切な妹や幼馴染に悪意を向けられたらいても立ってもいられないそれが普通なんだ。それに綺麗に飾っているのに泣いてしまったらもったいないよ。」

 

そう言われ深雪は顔を赤くしてうつむいた。

 

「あら達也君。我が校の生徒が突然暴れ出したと聞いて心配してきたけど余計な心配だったみたいね。とってもシスコンなお兄さんが大切な妹を守るためにしただけだったのね。」

 

真由美のいじりで重たかった空気が一変した。そして達也は戦略的撤退を選択しテントから逃げ出した。

 

 

 

第一ピリオドはリードされた深雪だが第二ピリオドから飛行術式を使用し大差で決勝に進んだ。

 

決勝では全員が飛行術式を使用し驚いたが途中棄権をする選手が続出し最後まで残ったのは深雪だった。

 

元々想子保有量が桁違いに違うのだから深雪が優勝しても何ら不思議はなく最終日を待たずして総合優勝を決めた一高だったが祝賀パーティーは明日以降に持ち越された。

 

「あれ深雪、克也さんと達也さんは?」

「さすがに疲れたって部屋でお休みになられているわ。」

 

ほのかの質問に二人をいたわるように深雪は答えた。

 

「ほのか仕方ないよ二人とも大活躍だったもん。」

「そうね、そうよね。ずっと頑張ってたもんね。」

 

雫の言葉にうなずきながら二人が寝ている部屋の辺りを見ながらほのかは呟いた。深雪の言った言葉は半分だけ正解であり確かに達也は部屋で眠っていたが克也はホテルの駐車場にいた。

 

 

 

「地図データだけでいい?」

「構成員も分かっているのであればもらえませんか?」

 

送られてきたデータを頭にたたき込み掲示した値段に上乗せして送信する。

 

「こんなに貰って良いの?」

「ええ、危険な仕事をさせてしまったことへの慰謝料です。足りませんか?」

「いえ、十分よ。」

 

そのやりとりが終わると俺は車から降りた。

 

「保険なのよね?」

「ええ保険です。」

 

そう言って歩き出し遥がいなくなったのを確認し別の車に乗り込む。

 

「あの女性(ひと)は?」

「公安のオペレーターです本人はカウンセラーが本職だと言っていますが。」

 

そう話しながらカーナビシステムにデータを有線接続で送り込む。

 

「でもなんで達也君ではなくあなたなのかしら。」

「達也には眠って貰ってます自分がどれだけ疲れているのか自覚していなかったようなので。」

 

そう話すと藤林響子(ふじばやしきょうこ)は苦笑しながら車を発車させ目的地に向かった。彼女は陸軍101旅団独立魔装大隊少尉だ。達也とは知り合いで俺も仲良くさせて貰っている。

 

歳が近いこともあるので話しやすい。正確には十歳近く離れているのだが…。

 

 

 

駐車場に行く十五分前俺は達也と達也の部屋で言い争っていた。

 

「深雪に危害を加えようとした俺の逆鱗に触れただから俺も行く!」

「そんな体で行ってどうするんだ?いい加減諦めてくれよ。」

 

達也を抑えるのが難しくなってきた俺はイライラしてきていた。遮音フィールドを張っているので音が外に漏れることはなく心配ないのだがピリピリした空気が流れるのはどうしようもなく気づかれないように願っていた。

 

「こんなもの『あれ』を使えば問題ないだから俺も行く!」

 

俺はその言葉にイラッときて堪忍袋の緒が切れた。

 

「いい加減にしろ達也!お前はどれだけ体を酷使すればわかるんだ!新人戦が始まってから担当選手のCADを誰よりも多く調整して挙句の果てにはモノリス・コードに出場して圧縮空気弾を二発まともに食らってるんだぞ!そんな姿を深雪に見せられるのか?」

 

俺の怒りに達也は言葉を失っていた。

 

俺は克也が怒鳴り始めたことに驚いていた。克也が声に出して怒るなど一度として見たことはなく怒る場面も見た回数は少なかった。

 

怒ったとしても声を荒げることなく無言でにらみつける程度だったのだ。これは普通ではないと思い克也の言うとおりにすることにした。

 

「わかったよ克也、今日は休む。」

 

そう言うと緊張の糸が切れたのか疲れがどっと押し寄せてきた。強制的に回復させようとするのを意識的に停止させ克也の手を借りてベッドにもぐりこむ。

 

「まったくわがままな弟だ。」

 

そう言いながら俺のおでこに手を置き『癒し』で眠らせてくれた。

 

『癒し』で達也の眠気を浮上させ眠らせるとすぐに規則正しい寝息を立て始めたので{よっぽど疲れていたのだろう}と思った。

 

自室で長ズボンにシャツの上からパーカーを羽織り{ブラッド・リターン}を右腰のフォルスターに差し込み駐車場に向かった。

 

 

 

そのころ藤林に時間外労働を命じた風間は予想外の客に驚いていた。

 

「席を外せ。」

「はっ」

 

飲み物を持ってきた部下に退室を命じて客人に向き合った。

 

「今日はいったいどういったご用件でしょうか閣下。藤林なら今仕事でおりませんが。」

「孫に会うために上官の許可などいらんだろう今回君に会い来たのは彼らのことだ。」

「彼らですか?」

「深夜の双子の息子克也と達也だよ。私が知っていてもおかしくはなかろう?一時期とはいえ深夜と真夜は私の教え子だったのだから。昨日の試合を見たが惜しいとは思わんか?」

 

閣下の言葉に首をひねる風間。

 

「惜しいですか?」

「あれだけの才能があるのに一介のボディーガードとして終わらせるのはもったいないと思わんか?」

「もしや閣下は四葉の弱体化を望んでおられるのですか?」

 

 

風間の質問にしわを増やし真剣な声音で続けた。

 

「彼らは一条の息子とともにこの日本を担う存在になる。彼ら二人が現十師族の中でも突出した力を持っている四葉を継げば必ずや十師族の一段上に君臨することになる。そうなれば四葉が日本を思い通りに動かすかもしれん。それでは困るのだ十師族は互いにけん制しあい暴走を止める歯車になっている。それが一つでも外れてしまえばこの国が亡びるかもしれないのだ。」

 

「閣下のご懸念は理解できますがそのようなことは絶対に起こりません。克也と達也は権力を振り回すことはありませんしましてや次期当主と言われている妹の深雪は当主になりたいと思っていません。彼らが権力を振り回すようなことがあればそれは日本だけでなく世界の魔法社会の終焉を表しています。克也と達也は大切なものを失わない限り世界を破壊するようなことはしません。」

 

「…君の言いたいことはわかっただが私の意見は変わらない。四葉家がこれ以上力をつけないように気を付けなければならないということを知っていてほしい。」

 

閣下は自分の負けを認めたが気持ちは変わらないらしい。

 

 

 

克也は東に向かい真夜中頃目的地に着いた。「横浜ベイヒルズタワー」通称「ベイヒルズ」の上から香港資本によって建てられた横浜グランドホテルの一室にいる目標を狙い撃つ。

 

そこは『無頭竜』の東日本総支部の活動の指令室に使用されているがその使用者たちは逃げる準備をしていた。

 

それを『全想の眼』で確認する。

 

「少尉お願いします。」

 

協力者に依頼する。藤林のハッキングによって二人は「ベイヒルズタワー」の屋上に向かった。

 

 

 

男たちは突然くぐもった悲鳴によって逃走準備をしていた手を止めた。

 

「なんだ?」

 

外部からの攻撃を防ぐ役割を担っていたジェネレーターの苦痛の声だった。情報強化を破られた反動で痛みを覚えたらしい。

 

『無頭竜』は魔法を悪事に利用する犯罪集団であるため幹部に取りたてられるには魔法師であることが条件である。

 

よって今何が起こったのかをここにいる全員が認識した。これはただ事ではないと。

 

一人のジェネレーターの体に火が灯ったかと思うと人間の背丈を超える大きさに成長し苦痛を与えることなく燃滅した。すると電話が鳴った。

 

それは組織の一部でしか使われていない秘匿回線の呼び出し音だった。幹部たちは互いに目配せをし一人が受話器を取るとの若い少年の声が聞こえてきた。

 

「Hello,NO Head Dragon 東日本総支部の諸君。」

 

 

 

「よしっとこれでハッキング完了。無線通信はすべてこちらにつながるように書き換えたわよ。」

「さすがは『電子の魔女(エレクトロン・ソーサリス)』ですね。これは真似しようと思っても出来るものではありません。」

「ありがとう簡単に真似されたら私の立場がなくなるから困るわ。」

 

互いに他愛のないやり取りをする。

 

「有線は切断済みですよね?」

「ええ、そちらは真田(さなだ)大尉の措置済みよ。」

 

克也はうなずくと音声ユニットを左手に持った。藤林から支持されたコードを打ち込み残りワンプッシュで音声通信が可能な状態にしてホールドする。

 

愛用CADを右手に転落防止柵の前に立ち右手を斜めに向ける。CADの「銃口」が向く先ははるか遠くの横浜グランドホテル。

 

「…これがジェネレーターですか。」

「ええ、捕獲したけど本部の特徴と一致してたから間違いないわ。」

 

克也が『燃焼』を発動させコンクリートを燃滅させると外部からの魔法干渉を妨害する『閉鎖』も無効化され克也の眼の視界に部屋の様子が鮮明に映し出される。

 

そして苦しんでいるジェネレーターに『ヘル・フレイム』を発射し消し去る。

 

克也のCADは克也のために作られたと言われているがそれは建前でこの『ヘル・フレイム』の発動に最適化されたものだ。

 

これにより克也はほぼ無限に想子がなくならない限り何発でも使うことができる。藤林がジェネレーターを消した瞬間悲鳴を上げたが克也の意識は目標に向けられていた。

 

待機状態にしていた音声ユニットを立ち上げる。

 

「Hello、No Head Dragon東日本総支部の諸君。」

 

不自然に陽気な声で話しかけた。

 

電話を手に取った男は同僚たちを振り返った。この回線は幹部同士のみに使われるものだ。幹部クラスでなければ使用できないはずだがなぜそれを使っているのか不思議だった。

 

「富士では世話になったな。ついてはその返礼に来た。」

 

一人前の口調で話す少年に怒りを覚えるのではなく恐怖を覚えた。そのセリフとともに彼らを守っていた領域干渉が消え使っていた者の方を見ると炎に燃やされた後だった。

 

「その部屋から連絡を取ることができるのは俺だけだ。どうやってかはお前たちが知る必要はない。」

 

そう言いながら有線電話に飛びつこうとした男が炎に包まれ消えた。

 

「それでは本番だ。」

 

さらに逃げ出そうとした仲間が燃滅した。

 

 

「待て待ってくれ!」

「何を待てというんだ?」

「我々はこれ以上九校戦に手出しをするつもりはない。」

「九校戦は明日で終わりだ。」

「九校戦だけではない!我々はこの国から明朝出ていくもう二度と持ってきたりはしない!」

 

必死に言い訳をする男を俺は無表情に見つめていた。

 

「お前たちが戻ってこなくてもほかの人間が戻ってくるのだろう?」

「我々『無頭竜』は日本から手を引く!」

「お前にそんな約束をする権限があるのかダグラス=黄(ウォン)?」

 

名前を言い当てられて驚く顔を見ると笑いがこみあげてきたが抑える。

 

 

「私はボスの側近だボスも私の言うことは無視できない。」

「何故そんなことが言える?」

「私はボスの命を救ったことがある!恩を仇で返すことは組織内で禁じられている。それを作ったのは我々全員だ!そしてその掟の中にもボスもこれに準ずるという項目がある!だからお願いだ!」

「興味がない。」

「なっ!」

 

俺は一切感情を含ませずに答えた。

 

「お前らに掟があろうがなかろうが俺には関係のないことだ。お前にそれだけの影響力を持つというのならそれを証明しろ。」

「それは…。」

 

 

俺は静かに告げる。

 

「No Head Dragonー頭のない竜ー お前たちが名乗り始めたのではなく敵対組織からつけられたらしいな。ボスは決して部下の前には姿を現さず自分が直々に粛清する際には意識を奪ってから連れてくるという徹底ぶりらしい。ボスの名は何という?」

 

予想以上に自分たちのことを知られており組織最高機密の情報を言うか迷っていると一人また消えた。

 

「ジェームズ!?」

「ほう今のがジェームズ=朱(ちゅー)だったのか。手配組織の国際警察には悪いことをした。」

「待て…。」

「次はお前だダグラス=黄。」

 

 

仲間が二人になったことでようやく話し始めた。

 

「ボスの名はリチャード=孫(すん)だ。」

「…表の名は?」

「…孫公明(そんこうめい)。」

 

こちらが知っている情報と同じだったので希望を与えることにした。

 

「ご苦労だったお前はまぎれもなくボスの側近だ。」

「では信じてくれるのか!?」

 

その言葉に俺は行動で返事をした。

 

「グレゴリー!何故だ我々は誰も殺さなかったではないか!」

 

最後の仲間が消えたことで絶望の顔を浮かべていた。

 

 

「何故だ我々は誰も殺さなかったではないか!」

 

そんな声が音声ユニットから聞こえてきたが俺は存在そのものを消すことを決めた。

 

「そんなことは関係ない。」

「何!」

「確かにお前たちは誰も殺さなかった。しかしそれは結果論でしかない。もし事故で死者が出ていたらお前はこの状況でなんと答えた?何も言えないだろう?お前たちは俺の大切な友人を傷つけ最も大切なものに手を出そうとした。お前たちを殺すには十分な理由だ。」

「悪魔め!」

 

悪魔呼ばわりされるが微塵も怒りを感じなかった。

 

「お前たちの行動の方が悪魔じみていると思うが?不特定多数を狙うという卑劣なやり方のどこが悪魔ではないというんだ?それに比べたら俺のやっていることは子供の遊びでしかない。この先日本の魔法師の危険になるお前たちを消滅させて何が悪い?正当な行動以外になんと表す?じゃあなダグラス=黄。」

「待ってくれ!」

 

ダグラス=黄の言葉に俺はもう一度告げる。

 

「ああそうそうもう一人怒り狂ってたやつがいたんだがそいつからの伝言。『お前たちは俺の逆鱗に触れた』だそうだ。それではなダグラス=黄。」

 

そう言って『ヘル・フレイム』を行使する。消えたのを確認した後俺は音声ユニットを左耳からむしり取る。

 

 

 

私は『無頭竜』の構成員が消えていくのを見ていることしかできなかった。

 

{達也君に残された感情『家族愛』。克也君と深雪さんを愛する気持ちそれが達也君に残された感情であり片方を失えばこの世界は破壊される。そんな風に作られてしまった達也君を哀れに思うけど克也君や深雪さんはそんなこと気にしないでしょうね。この三人には普通ではありえないほどの絆で結ばれているんだもの。}

 

そこまで考えていると克也君から声をかけられた。

 

「藤林さん帰りましょう。ミッション・コンプリート(任務完了)です。」

 

そう言いながら優しい笑みを浮かべる克也君にさっきまでの声音や雰囲気の違いを見せられ十歳近く離れているにもかかわらずドキッとしたがそんな素振りを見せず「ベイヒルズタワー」を降り九校戦会場まで戻った。




次で九校戦終わりですよ~。
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