追記 UA15000超えありがとうございます!4/8
第三十話 留学生
西暦2095年も残るとこあと一ヶ月。といってもそれを言えるのはまだ先だ。なぜなら…。
「…訳分かんねえよ!」
「うるさい!」
「…レオもエリカも落ち着け。」
レオの問題が解けないことへの苦しみの叫びに集中していたエリカが切れたのだ。俺は二人を落ち着かせた。今俺達は雫の家で学生という名の者にとって忌まわしき避けて通れない定期試験のテスト勉強中だったのだ。
克也、達也、深雪、レオ、エリカ、幹比古、美月、ほのか、雫といういつものメンバーが勉強会に集まっていた。といってもここのメンバーは筆記試験においては優秀である。
レオも上位二十人には入っていないが赤点を気にすることはないので和気藹々(あいあい)とお茶会に発展していた。
時折レオとエリカがケンカし始めるが俺と美月で抑えていたがその雰囲気も雫の言葉で吹き飛んだ。
「アメリカに留学することになった。」
「雫、今なんて言ったの?」
「アメリカに留学することになった。」
雫はほのかの言葉に一語一句変えずに答えた。
「よく許可が下りたね。」
「私もびっくりしてる。」
俺の言葉は雫の学力のことを言っているのではない。ハイレベルな魔法師は国外に出ることを政府に制限されている。なので今回許可されたのが不思議なのだ。
「交換留学だからだって。」
「だからじゃない?」
「交換留学だからって理由で許可されるのもおかしくない?エリちゃん。」
「言われてみれば。」
美月の言葉に考え込むエリカ。
「ところで北山さん期間は?」
「年が明けてから三ヶ月。」
「短くて良かった~。」
幹比古の質問の答えに安堵したほのかはもっと長期間だったと思っていたようだ。
「じゃあ送別会をしないとな。」
達也の一言に全員が嬉しそうにうなずいた。
定期試験も無事終わり送別会を今日十二月二十四日に行うことになった。
定期試験の結果は予想通り。
筆記一位 達也 僅差で二位 克也 三位 深雪 四位 幹比古 五位 ほのか 六位 雫 十位 エリカ 十五位 美月
レオはランク外。
実技一位 深雪 僅差で二位 克也 三位 雫 四位 ほのか 二十位 幹比古
達也、エリカ、美月、レオはランク外。
総合順位は主席 克也 僅差で次席 深雪 三席 雫 僅差で四席 ほのか
達也、エリカ、レオ、幹比古はランク外。
という結果になったが全員が驚いたのは実技のトップ二十に幹比古が入ったことだ。九校戦以来魔法の使い方を思い出した幹比古は眼に見えて上達していったのだ。それがこの結果にも表れている。
この日は全員結果のことは忘れて良くパーティーを楽しんでいた。
「送別会の趣旨とは違うけどこの合図でいこうかメリー・クリスマス。」
「「「「「「「メリー・クリスマス!」」」」」」」
達也の合図で全員がジュースの入ったグラスを天に突き上げて合唱した。このときは全員が魔法師ではなくごく普通の少年少女だった。行われている『アイネ・ブリーゼ』は貸し切り状態にしてもらい楽しんだ。
「アメリカのどこに行くの?」
「バークレー。」
エリカの質問に都市の名前だけを答えた雫だった。普通ならありえない留学が許可されそれが友人であったなら聞きたくなるのも当然だろう。
「ボストンじゃないんだ。」
「東海岸は雰囲気がよろしくないようだからね。正しい判断じゃないかな。」
「魔女狩りの次は魔法師狩りか歴史は繰り返すと言うが自分が標的だと余計に気分が悪いぜ。」
レオの言葉は全員が思っていたことなので反論するメンバーはいなかった。
「代わりに来る子はどんな子?」
「同い年の女の子らしいよ。」
「それ以上は分からないか。」
雫の返事に達也はしみじみと呟いた。
帰り道コミューターの中で深雪が疑問を話し始めた。
「雫ほどの魔法素質があるのに留学が許可されるとは思いませんでした。」
「そうだねいくら同盟国とはいえ完全に信用できることなど出来ないはずだ。」
「俺達への接触を図るためなのかもしれないな。」
「達也どういうこと?」
俺は達也が何か知っているらしいので教えてもらうことにした。
「俺達は容疑者らしい。叔母上の忠告と合わせれば偶然と思って野放しには出来ないしね。」
達也はあえて『何を』と言わなかったが俺達は分かっていたので聞き返さなかった。
「今は大人しくしていよう。」
達也の言葉に克也と深雪は頷いた。
新学期が今日から始まったが留学生が来るということもあってか校内はうわついていた。
「達也君聞いた?留学生すごい美少女なんだって。」
「…エリカどこからその情報を得たんだ?」
「色々。」
エリカの答えにため息をついた達也だったが顔の広いエリカはどこからか仕入れてきたのだろう。
「それに二高と三高、四高にも来たんだってあと研究所にも。」
本当にどこから得るのか気になった。
「こっちから関わらなければ何にも無いだろ?」
「あんた馬鹿?」
「なんだとこら。」
エリカにけなされ沸点まで怒りが上昇したが今回はレオの無知が災いした。
「A組に来てるんだから克也君や深雪達と関わるでしょう?二人は校内でトップクラスの魔法力持ってるんだから先生方も預けやすいし留学生もそっちに行くでしょう。」
エリカの言うとおりだ。深雪は生徒会役員でもあるので強制的に任せられるだろう。深雪と共に行動している克也、ほのか、雫も。
その関わりは思ったよりも早く昼食の席でのことだった。
「あの三人がそろうと絵になりますね。」
「恐ろしいね。」
美月の言葉に同調して感想を述べたエリカは昼食を取りに行って列に並んでいる三人を眺めていた。
黄金の髪に冬の空を思わせる蒼穹の蒼色の瞳の少女が克也の左に、漆黒の髪に黒水晶のような瞳の深雪が右にいるのでただでさえ周りから視線をもらっているのにさらに浴びることになっていた。
克也も深雪も見られるのは慣れているので気にしてはおらず留学生の方も慣れている様子だった。
「なあ達也あの子どっかで見たことがある気がするんだけど。」
「そういえばそうですね。」
「同感だな。」
「「え、そうなの?」」
レオと美月と達也の言葉に驚くエリカと幹比古。彼らが見かけたのは正月のことなのだがエリカ、幹比古はともかく達也以外は忘れているようだった。
「では紹介しますね今回留学されてきたアンジェリーナ・クドウ・シールズさんです。」
「リーナと呼んでくださいね。」
席についてリーナの紹介が始まり流暢な日本語で自己紹介をし華やかな笑顔を浮かべた。
「よろしく深雪の兄の達也だ。」
「レオと呼んでくれ。」
「エリカでいいわ。」
「美月と呼んでくださいね。」
「幹比古と呼んでください。」
それぞれが自己紹介する。
「タツヤ、レオ、エリカ、ミヅキ、ミキヒコね。」
全員の名前を復唱するがミキヒコが言いにくそうだった。
「言いにくいならミキでいいわよ。」
「ちょっエリカ!」
「そう?じゃあミキで。」
エリカによって幹比古のあだ名が決定し幹比古は落ち込んだ。
落ち込んだ幹比古を無視して食事を始めた。
「リーナって九島閣下のご血縁かい?確か閣下の弟さんが渡米されてそのまま家庭を築かれたと『母』に聞いたんだが。」
「よく知ってたわねカツヤかなり昔のことなのにその通りよワタシの母方の祖父が九島将軍の弟なの。」
克也の情報は正しかったらしい。
「カツヤの母もよく知ってたわね。」
「『母』は一時期九島閣下の指導を受けていたらしくてその時に聞いたらしいよ。」
「へえ~九島将軍の指導を受けられたなんて運が良いわね。」
「俺もそう思うよ。」
閣下は弟子をとらずましてや教育することもほぼ無かったので教えを受けられた深夜と真夜は幸運だったと言えよう。
「そういう理由もあってワタシのところに話が来たみたい。」
「じゃあリーナが自分から望んだわけじゃないんだ?」
「…うん。」
エリカの何気ない質問に一瞬言葉に詰まったことに気付いたのは克也、達也、深雪だけだった。
リーナは一高で鮮烈なデビューを果たした。深雪に負けない美貌とその魔法力によって。
「ミユキ準備はいい?」
「ええ、いつでもいいわカウントはリーナのタイミングで。」
向かい合う二人の距離は三mその真ん中で直系三十cmの金属球が細いポールに乗っている。実習の内容は同時にCADを操作して中間地点に置かれた金属球を先に支配するというものだ。
シンプル且つゲーム性が高いので見ている者は楽しいがシンプルが故に力量差が現れるため当事者は見ている者ほど気楽ではいられない。
「…にわかには信じられんなあの司波の妹にも勝るとも劣らない魔法力があるとは。」
「それを確認するためにこうやって見に来てるんだけどね。」
摩莉と真由美は自分達の自習を即座に終わらせ鑑賞していた。
「スリー」
「ツー」
「ワン」
「「GO!!」」
最後の合図は二人で同時に合わせて言った。二人がCADを操作すると金属球が左右に揺れ少しのための後地面に落ちたリーナの方向に。
「あーっ負けた~!」
「これで二つ勝ち越しよリーナ。」
盛大に悔しがるリーナの前でほっとした顔の深雪が言った。
「…ほぼ互角だな。」
「魔法発動速度は留学生が僅かに速かったけど干渉力で深雪さんが勝ったというところかしら。」
「侮れんな留学生の実力は。」
「ええ。」
二人はそう言い終えると教室に戻っていった。
「克也お兄様もどうですか?」
「構わないけどリーナ次第だな。」
「頼むわカツヤ、深雪に負けた悔しさを乗せて今回は勝たせてもらうわ。」
「負かせてやるよリーナ。」
深雪のお願いとリーナの宣戦布告に不敵に笑って準備を始める。
「スリー」
「ツー」
「ワン」
「「GO!!」」
CADを操作して金属球に作用させるすると深雪よりも早く金属球がリーナの方に落ちた。
「何でよ~!!」
「俺の勝ちだリーナこれで俺の四戦四勝だな。」
またしても盛大に悔しがっているリーナに伝える。
「さすが克也お兄様です!」
「ありがとう深雪。」
リーナやクラスメイトを無視して無邪気に話す二人にクラスメイトは鋭い視線を突き刺した。特に雫とほのかからのが痛かったが俺達は動じなかった。
その日の昼食中は先程の実習の話になっていた。
「さすがリーナね選ばれてくるんだからすごいのは予想してたけど深雪と互角とは思わなかった。」
「驚いているのはワタシもよ。」
エリカの尊敬のまなざしに肩をすくめながらリーナは答えた。
「これでもステイツのハイスクールでは負け知らずだったんだけどミユキには勝ち越せないしカツヤにはコテンパンにされるしさすが魔法技術大国・日本よね。」
「俺の場合は発動スピードで勝っているだけだから総合力でいえばリーナの方が上だよ。」
リーナの言葉に俺は事実を伝えた。
「でもリーナ学校の中で勝ち負けにこだわらなくても良いと思うわよ?」
「何事にも勝ち負けがあるから伸びるとは思わないの?」
「確かに競い合うことは必要だが必要以上にこだわりすぎるのも良くないぞリーナ。」
深雪とリーナの会話に達也が言葉を差し込み熱くなりかけているリーナを抑えた。
「ごめんねみんなワタシ熱くなりすぎてたみたい。」
「構わないさ競い合うことが必要なのは事実だからな。ところでどうでもいいんだがリーナ、アンジェリーナの愛称は『アンジー』じゃないのか?」
リーナは顔を引きつらせながら(克也、達也、深雪しか気付いていなかった)答えた。
「あながち間違いではないのよタツヤ。もう一人アンジェリーナという名前の子がいたから紛らわしかったの。だからワタシが『リーナ』って呼ばれるようになったというわけ。」
「そうか。」
達也は納得したかのように答え食事を再開した。安堵した空気を醸し出したリーナに気付いた者はいなかった。
夕食後、リビングでのんびりしていると深雪が達也に話しかけた。
「達也お兄様お昼の話はやはり…。」
「気付いていたのかい?俺は高確率でリーナが『アンジー・シリウス』だと思っている。でも『シリウス』の正体を隠そうとしていないように見えた。それは俺達に気付かせて話題をふっかけさせようとしているのかリーナが潜入捜査に向いていないのかわからない。」
達也は悩み始めていたがその話は横に置いて別の話題を出した。
「昼にはあんなことを言ったがリーナとは本気で競い合うんだ深雪。そうすればお前は今以上の高みに上ることが出来る。」
「はいこの言葉は失礼ですが言わせていただきます。リーナほど同性で競い合える人物はいませんでしたのでこのチャンスは逃せません。」
深雪の眼は闘志であふれていた。
「克也お前もだぞ。」
「分かってるよ達也。リーナから学ぶことは多いからな。」
克也も納得の出来る魔法力を持った知人が出来たことを喜んでいた。
来訪者編第一話お読みいただきありがとうございます。これからも頑張ります。
アンジェリーナ・クドウ・シールズ・・一高に留学してきた美少女。魔法力が高く深雪と互角なほどである。