香澄と泉美は真由美と別れ講堂の席に並んで座っていたが香澄が毒づいているので泉美は好戦的な双子の姉にため息をつきたくなった。
「克也兄と一緒にいたあの男は誰?お姉ちゃんに気安く触って!」
「香澄ちゃん知らないのですか?あの方がどなたなのか。」
「有名な人なの?」
「ある意味ではそうです。今年度から魔工科に転科されましたが去年は二科生でした。しかし二科生にも関わらず九校戦にエンジニアとして参加され新人戦女子スピード・シューティングとアイス・ピラーズ・ブレイクでは一位から三位を出場者で独占、新人戦ミラージ・バットでは優勝と準優勝、本戦のミラージ・バットで優勝。驚異的な戦果を上げられた方です。」
「うそ…。」
驚愕する香澄に泉美はさらに追い打ちをかけた。
「事実ですよ。それにクラウド・ボールではお姉様を担当、克也お兄様に限ってですがアイス・ピラーズ・ブレイクの準決勝までCADを調整されていました。お二方とも満足そうにしておりました。克也お兄様は除外しておきますがお姉様のあの心の許しようは尋常ではありませんね。」
最後は独り言だったが香澄がショックを受けている姿を見て嬉しそうにした泉美であった。
入学式は無事に終わり生徒会室には克也達と真由美姉妹がいた。五十里先輩や中条先輩、ほのかは職員と手分けして片付けにあたっているためこの場にはいない。
「克也兄久しぶり。」
「克也お兄様お久しぶりです。」
「ああ、久しぶりだな。最後に会ってから五年経ったか随分と成長したね二人とも。」
「克也お兄様のおかげで魔法も上達しました。もしよろしければ今度見てもらえませんか?」
「いいよ、時間があればね。」
二人と楽しく会話していると真由美が二人を連れて達也と深雪の前に行き挨拶をさせたのだが…。
「泉美ちゃん?」
「深雪先輩、九校戦の活躍は意見させていただきました。とても美しかったです。」
呆然と深雪を見上げ真由美に名前を呼ばれても気付かずに話し始めた。深雪は上級生らしく優しい笑顔を浮かべていたがそれが余計に事態を悪化させた。
「私のお姉様になってもらえませんか?」
「「お姉さま!?」」
「「はあ!?」」
泉美の言葉に真由美と深雪、克也と達也は同じ言葉で驚きを現にした。しかし克也は泉美が熱しやすいということを今思い出した。
「それは不可能と思われます。」
「水波?」
「泉美さんが深雪姉様と姉妹になるのは難しく克也兄様と達也兄様の妹になることは可能だと申しました。克也兄様か達也兄様が真由美さんとご結婚されれば泉美さんは義妹ということになります。この場合は深雪姉様と泉美さんは姉妹と呼べるのでしょうか?」
水波の言葉に固まる一同。
「み、水波…」
「お兄様方!?」
「反対!絶対反対!」
「深雪と香澄まで…。」
水波にそういうことを言って欲しいのではないと言いたかったのだが深雪と香澄に邪魔されてしまう。
「克也兄ならともかく司波先輩だったら僕は反対だからね!」
「香澄ちゃん今のは仮定のお話ですよ。」
とうやら双子はどちらかが熱すると片方は分別を取り戻すらしい。新しい発見に頷いていたがそれどころではなかった。何故俺は良くて達也はダメなのかと思ったが自分の知らない男が大切な姉に近づくのを防いでいるようだ。
「ぎゃ!痛いよお姉ちゃん!」
「苦しいですお姉様!今のは香澄ちゃんが悪いのではないのですか!?」
真由美に連行され生徒会室を出て行く双子を俺達は微妙な顔で見送っていた。
本日はいつものメンバーで喫茶店『アイネブリーゼ』にやってきていた。雫を含めたこのメンバーで立ち寄るのは五カ月ぶりなこともあり和気あいあいとしていたが雫の言葉で空気が固まった。
「主席君の勧誘はどうだった?」
「…ダメだった。」
ほのかの言葉を聞いて{しまった}という顔をした雫だったが後悔しても後の祭りだ。勧誘はあずさとほのかの二人に任されていたのでほのかが落ち込んでも仕方がない。
「断った理由は何だったんだ?」
「十師族に負けないほど強くなりたいからだって言ってました。」
「目標があるのは良いことだし生徒会入りが嫌だということではないんだったら残念がる必要はないよ。」
「そうだな、ほのかの力不足というわけではないから気にしなくても良いと思う。」
達也と俺の慰めの言葉によりほのかはいつもの元気を取り戻した。
「彼の代わりに誰を入れるかだけど順当に行けば次席の泉美だが…。」
俺の言葉に深雪は微妙な顔をしていたので勧誘するのはいかがなものかと思い始めたので言葉を途中で切った。深雪は入学式後の生徒会室での出来事がまだ足を引っ張っているらしく泉美に苦手意識を抱いていた。
「三席は誰だったの?」
「姉の香澄だったよ。泉美と香澄は双子で二人とも魔法力は申し分ない。七宝を含めたこの三人は四席以下と比べて圧倒的だ。泉美と香澄どちらを入れても問題ないんだがどちらを入れても少々面倒くさくてね。」
「どういうことだ?」
俺の歯切れの悪い言葉にレオが興味津々に聞いてきた。
「泉美を入れた場合深雪に精神的なダメージがあって香澄を入れると達也と一騒動を起こすかもしれないから。」
「詳しくは聞かねえがどっちにしろややこしいことになるわけだな?」
「その通り。」
「でも、順当に行けば次席の泉美さんなんじゃないかな?」
「そうですね、事情はともかく成績上位者から選ぶのであればそれが正しいと思います。」
「最後は本人達のやる気次第だろうね。」
幹比古と美月からの推薦もあり泉美を入会させることが濃厚になり雑談会は終わった。
家ではトイレに行った達也の後を追いかけた幹比古との会話の内容を話していた。
「ということはエリカはローゼンの血筋なのか?」
「そういうことだな。道理で俺が千葉家にエリカがいると知らなかったわけだ。」
「達也お兄様それはどういうことですか?」
「これは想像だがエリカは高校入学まで苗字を名乗らせてもらえなかったんじゃないかな。親父さんは寿和警部、修次さんとお姉さんは前妻との子供だから腹違いの子供であるエリカを社会に知られたくなかったのだと思う。それも相手がローゼン一族だからね。」
「だから今日までローゼンは日本に支社を置きながら関与しなかったんだね。」
「関わりたくなかったんだろうな。断絶状態にしたのは一族からそんな人間を出してしまったことへの戒めなのだと思う。」
エリカは苦労して生きてきたのだと今更ながら思った。それでも現実を受け入れ真っ直ぐに生きていこうとしている姿を見ると眩しく眼をそらしてしまいたくなるがそれは彼女との友人関係を崩すことにもなるので俺は彼女にはこのことを一切話す気にはならなかった。
四月十日、克也は昼休みに水波に頼み泉美と香澄を生徒会室に連れてきてもらい生徒会入りのことを話していた。何故達也でも深雪でもなかったかというとどちらかが壊れ話が進みそうになかったためだ。克也なら二人は心を許しているし熱にうなされたり敵意をむき出さずに話を聞いてくれるからである。
「つまり私達のどちらかを生徒会役員として取り立ててくれるということですか?」
「やる気があるなら二人一緒でもいい。」
「気持ちはありがたいですが遠慮させていただきます。」
「そうか、なら泉美入ってくれるか?」
「喜んで。」
泉美の生徒会入りが決定し放課後に仕事を教えることになった。
そしていつの間にか新入生勧誘週間に入り生徒会と部活連、風紀委員会にとって最も忙しい行事の一つに突入していた。ここ二日間は乱闘などが起きず平和だった。恐らくは克也のお陰だろう。あずさが「今年は平和ですね」と言った心境は理解できたが去年事件に巻き込まれた達也、深雪と毎年乱闘が起こることを知っている五十里は無視しあずさの「今年は何事もなく終わりますように」という願いは三日目にして儚く散った。
ロボ研でトラブルが発生し一触即発の場面で達也と深雪が現れたことで魔法の撃ち合いには発展せず平和に解決した。元凶になった少年は達也が入学式の前に誘導した生徒の一人であった。
四月十四日の夜、三人は珍しい客を迎えていた。
「久しぶりだな二人とも。」
「お久しぶりです克也兄さん、達也兄さん、深雪姉さん。」
文弥(ふみや)は嬉しそうに返事をした。文弥と亜夜子は三人にとって四葉と繋がりのある人間の中で唯一信頼できる身内であるのだから克也はともかく達也や深雪が普段より優しくなるのは仕方がない。
「そういえば四高に合格したらしいな。遅くなったがおめでとう。」
「ありがとうございます達也さん。本当は一高に進学したかったのですけれど私達が一カ所に集まるのはよくないと当主様に言われました。」
「叔母上の命令なら仕方ないさ。で、今日はどんな話を持ってきたんだ?」
「水波なら気にするな。水波は克也のボディーガードだ。」
「克也兄さんにですか?必要だとは思いませんが。」
話をする前に水波を見た文弥に達也は事情を説明した。
「わかりましたでは報告します。現在国外の反魔法師勢力によってマスコミ工作が仕掛けられています。」
「どこから?」
「USNAです。反魔法師キャンペーンはマスコミだけでなく野党の議員にも手が回っています。」
「さすがだなこの短期間でよくここまで調べた。」
「あ、ありがとうございます…。」
先程まで事務口調だった文弥が克也に褒められ顔を真っ赤にする様子は文弥が普通ではない趣味があるように見えるがそんなことはなく単に褒められて嬉しかっただけだ。
克也は文弥と亜夜子が帰った後自室のベッドで腕を頭の下で組みながら文弥と亜夜子の情報を思い出していた。
{吸血鬼騒動が終わったと思えば今度はマスコミ工作か。気を休める暇もないな。達也の『マテリアル・バースト』の影響で世界の基盤が揺らぎ始めているのは予測していたがここまでとは思ってなかった。やはり他国は日本の技術力と魔法力を無視できないらしい。日本には戦略級魔法師が二人もいるのだから探りを入れてきても可笑しくはないか。}
俺は腕を元に戻し睡魔に身をゆだねた。
克也は自分が戦略級魔法師にも勝るとも劣らない力を保持していらることにまだ気付いていなかった。