題名がかぶっていたので編集しました4/14
第四十五話 困惑
六月最後の週、達也は生徒会での自分の仕事を終わらせ山岳部で身体を動かしていた。
「なあ達也、何で桜井さんはこの部活に入ったんだ?」
「いきなりだなレオ、身体を動かしたいからと言っていたな。そのことなら今日来る予定だった俺じゃなくていつもいる克也に聞けば良かったんじゃないのか?」
「まあそうだけど今日聞こうと思ったらバレーボール部の練習試合に連行されたらしくて聞けなかったんだ。それであの魔法力なら各クラブから勧誘されたんじゃないのか?」
レオの言うとおり今日は克也がバレーボール部に行っているため山岳部には来ていなかった。克也はこことバレー部を掛け持ちしており一週間に二回ずつ両方の部活に顔を出している。
余談だが克也が入部しているバレー部は魔法の使用が禁止されており身体能力のみで戦う昔ながらのスポーツだ。試合には必ず想子測定器が設置されている。厳しく検査され違反した場合は使用した魔法のグレードに応じて使用者またはチーム全員が罰を受ける。
閑話休題
「勧誘されまくってうんざりしたらしくて勧誘されなかったこの部にあえて入部したらしい。それと料理が好きらしいから料理部にも入部しているらしいぞ。」
「へえ~なかなか賢い選択したんだな。」
レオは達也の建前の説明に納得したらしく林間走に集中した。水波が部活動をしている本当の理由は護衛対象である克也と時間を合わせるためだ。水波にとって最優先なのは自分でも達也でも深雪でもなく克也なので仕方ない。水波も今日は料理部に顔を出しているためここにはいなかった。
今学期は珍しく(当たり前?)何事も起きなかったので克也達は普通の高校生として学校生活を謳歌していた。九校戦出場選手は既に決定しており選手に伝えるだけだったので仕事はかなり楽だった。
俺が選手として出場するのは決定事項だったが今回はエンジニアとしても参加させられることになるとは思わなかった。生徒会室は前年度と比べて温和な空気で包まれていた。今日七月二日月曜日予想外の通知が来るまでは…。
その日放課後、克也達が生徒会室に入ろうとドアを開けると重苦しい空気が流れ出し足を止めた。発生源を見てみるとうなだれる五十里先輩と中条先輩がいた。
「…何があったんですか?」
「…大会委員から九校戦の競技変更を知らせるものでした。」
「何が変わったんですか?」
「三種目です。スピード・シューティングとクラウド・ボール、バトル・ボードが外されて新たにロアー・アンド・ガンナー、シールド・ダウン、スティープルチェース・クロスカントリーが追加されました。」
「…かなり大幅な変更ですね。」
中条先輩の悲鳴の報告に納得と共に競技内容にうんざりした。
「しかも掛け持ちが出来るのはスティープルチェース・クロスカントリーだけなんです!それにアイス・ピラーズ・ブレイク、ロアー・アンド・ガンナー、シールド・ダウンがソロとペアに別れているんです!」
「…厄介ですね。戦術と選手選考からやり直しですが幸いまだ出場選手に伝えていなかったので本人達を失望させることにならなくてよかったです。」
「克也お兄様、ロアー・アンド・ガンナー、シールド・ダウンは名前を見ればなんとなく想像できますがスティープルチェース・クロスカントリーは一体どんな競技なのですか?」
「俺の知っているルールがそのまま適用されるとは思わないけど障害物競走をクロスカントリーで行う競技だ。陸軍の山岳・森林訓練に採用されている軍事訓練の一種だよ。障害物は自然にあるもの自体を使用したり魔法による攻撃や銃撃もある。九校戦だから魔法や弾丸が飛んでくることはないだろうから心配しなくてもいいよ。しかし軍事色が濃い気がする。スティープルチェース・クロスカントリーは軍以外ましてや高校生にやらせる競技じゃない。運営委員は一体何を考えているのかな?」
「克也、気付いたか?」
「達也も?」
「ああ、おそらく横浜事変の影響だろう。あの事件で魔法師が実戦不足だと気付いたから今回の九校戦で慣れさせたいんだろうな。」
達也の説明に四人が難色を示した。
「横浜事変が起こって間がないから押し通すことが出来たって訳か。」
「ちなみにスティープルチェース・クロスカントリーは二年生、三年生なら誰でも参加可能でゴールすればポイントをもらえるから一年生以外強制的に全員参加だろうね。」
五十里先輩の補足にため息をつく。各校も可能な限り選手を参加させてくるだろうから準備を急がなければならない。
「クロスカントリーは危険ですから準備が難しくなります。障害物の予測は不可能ですからまずは森林コースを問題なく走れるように訓練して当日の障害物は選手個人の判断に任せましょう。しかし今はクロスカントリーより他の種目を決めるのが優先事項です。」
俺の言葉に五十里先輩は頷き校内の名簿を取り出し選考を始めたので手伝うことにした。一方あずさはその日ずっと落ち込み作業を手伝わなかった。
その日の夜、夕飯を早めに終わらせ将輝と電話で競技変更について話し合っていた。
「将輝、競技変更を見たか?」
『ああ、ロアー・アンド・ガンナーとシールド・ダウンはまだ理解できるがスティープルチェース・クロスカントリーは異質だ。』
「将輝もそう思う?」
『俺は感じただけだがジョージがそう言っていた。』
「『カーディナル・ジョージ』か彼がそう言ったなら間違いないね。達也と同じ意見らしい。」
『あいつもか?』
「そうだよ。横浜事変の影響だろうって言ってた。」
『…横浜事変か。』
将輝が横浜事変という単語に対して腑に落ちない表情を一瞬していたが自分の見間違えだろうと思って忘れることにした。
「一ヶ月後を楽しみにしておくよ将輝。今回もアイス・ピラーズ・ブレイクに出場するから待ってろよ?」
『それはこっちの台詞だ。今度こそぎゃふんと言わせてやるから覚悟してろよ?』
互いに宣戦布告をし電話を切り俺はそのまま十文字家に電話をつなげた。
『四葉かどうした?』
予想外に電話に出たのは克人だった。
「夜分に申し訳ありません。克人さんの意見を伺いたいと思いましてご連絡させていただきました。」
『構わないんだがそこまでかしこまられてはぎくしゃくして話しづらい。普通に話してくれ。』
校内では十文字先輩、校外では克人さんと呼び変えてもそれほど気にしていないようだ。学校では一生徒、先輩と後輩の関係私生活では十師族として対等な関係であるという俺の心情を理解しているようで話を拗らせるようなことはしなかった。
「分かりましたでは早速お聞きします。今年の九校戦の競技種目を知っていますか?」
『ああ、先程七草からメールで見た。それで聞きたいことは何だ?』
「競技種目について何か感じませんでしたか?」
『…軍事色がやけに濃いと思った。特にスティープルチェース・クロスカントリーは危険すぎる高校生にさせるような競技ではない。』
「克人先輩もそうお考えなのですね?」
『も?どういうことだ四葉。』
克人が食いついてくれたので隠さず答えた。
「先程一条将輝と電話で競技について意見を交換し合っていました。その時に『カーディナル・ジョージ』が危険だと言っていたと教えていただきました達也も同じ意見です。」
『なるほどなその二人がそう言うなら間違いは無いだろう。で、この競技になった理由はなんと言っていた?』
「『カーディナル・ジョージ』と一条将輝からは何も言われていませんが俺と達也は横浜事変が影響しているのではと考えました。」
『横浜事変での被害は魔法師の実戦経験不足であると痛感し今回の九校戦に軍事メニューである三つを競技としたと考えるのが妥当か。』
「ええ、それで間違いは無いと思います。まだ仮説の段階ですので周囲には漏らさないようにお願いします。」
『承知した四葉も頑張れ。』
「ありがとうございます。」
そして電話を切りリビングに向かった。
「克也、誰と電話していたんだ?」
「将輝と十文字先輩だよ。」
「一条と十文字先輩か、どうだったんだ?」
「十文字先輩はすぐ俺達の仮説に辿り着いてくれたよ。将輝は少々抜けているところがあるから時間がかかるだろうけどきっと分かってくれるはずだよ。」
俺と達也が話していると水波が戸惑いながら話しかけてきた。
「達也様メールが届いております。」
戸惑っているためか「兄様」ではなく「様」になっており本人も気付いていなかった。
「メール?誰から?」
「差出人が書いていないので分かりません。」
「無い?とりあえずこっちに回してくれ。」
「かしこまりました。」
戸惑っていた理由が分かり達也の声にも訝しさが含まれていた。メールは暗号化され四葉の暗号解読キーでは解除されず独立魔装大隊の暗号解読キーで見ることが出来た。
「達也、これは彼女からかな?」
「これだけの高度なネットワーク技術を持っているのはその女性(ひと)だろうが断定は出来ない。本人が送ったのか命令されて送ってきたのか判断が付かないからな。」
メールの内容を読むと驚愕した。
「一体何を考えてるんだ?本当に。」
「新兵器の開発にそれの利用か。九校戦競技種目の変更が国防軍の圧力であるのは予想済みだったが九島家が秘密裏に開発した新兵器をスティープルチェース・クロスカントリーで使用するつもりだったのは予想外だ。」
「お兄様方どうされますか?」
「まだこれが真実だと決まったわけじゃないからどうしようもないね。匿名なのが腑に落ちないしもっともらしい事柄に嘘を紛れ込ますのは戦術として初歩中の初歩だ。達也、先生に相談した方が良くないかな?」
「その方が良いと俺も思う。今から行って明日の朝話す時間をもらえるように頼んでくるから克也このメールを頼む。」
達也はバイクにまたがり九重寺に向かった。
「克也お兄様これはどうされますか?」
「コピーをとって本体を葉山さんに送るよ。水波、これを暗号強度は最大で葉山さんに送って欲しい。」
「かしこまりました。」
水波に頼んだあと俺は風呂に向かった。
翌日早朝、水波を家に残し九重寺に向かった。大事な話をしたいと昨日言ったにもかかわらず山門をくぐった瞬間門人に攻撃を受けた。克也達は想定済みだったので驚くこともなく入学式翌日の記録を大幅に更新し『悪戯』を仕掛けた八雲の元へ向かった。
「話は中でしようか。」
有無を言わせず部屋に向かう八雲の背を追いかけた。
深雪が電磁波と音波を遮断する障壁を張ったのを確認してから三人で頭を下げる。
「師匠、今回は面倒な案件を持ち込み申し訳ありません。」
「構わないよ僕も個人的に調べていたから。しかし九島家も危ないことを考えたものだね。今更言わなくても分かってるだろうけどスティープルチェース・クロスカントリーは危険だ。」
「…先生でもそうお考えですか?」
「そうだよ。その危険な競技で新兵器の性能実験をしようだなんて正気を失っていると思ってしまうね。」
八雲の辛らつな言葉に三人は息を飲んだ。
「師匠は九島家の計画を知っていたのですか?新兵器の正体とか。」
「P兵器と呼ばれているようだけど詳細は不明だ。」
先生でも分からないと言うのであれば諦めるしかないと俺は思ったが予想外の言葉に思考は中断された。
「奈良へ行く必要があるね。」
「旧第九研ですね。」
「僕にとっても因縁の場所だよ。」
八雲の眼は強い光を放ち俺は早朝とはいえ真夏にもかかわらず寒気がし背中を汗が伝っていくのを感じた。