魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第五十一話  待機

克也達が生駒から戻った次の日の夜、七草家当主 七草弘一は長女 真由美のボディーガードであり腹心である名倉三郎(なくらさぶろう)を呼び出していた。その目的は周公瑾との関係を四葉に知られてはならないと始末を命じこれを名倉は了承した。

 

 

 

克也と達也はある日、一時間目と二時間目の間の休み時間に幹比古に風紀委員会本部まで呼び出された。

 

「時間が無いから手短に言わせてもらうよ。昨日の帰りに柴田さんが狙われた。」

「美月が?そんな風には見えなかったが。」

 

克也は美月が狙われる可能性は低くむしろ幹比古が狙われると思っていた。

 

「柴田さんは気付いていない。けどおかしいよ二人ともなんであんなやつに狙われなきゃいけないんだ!?」

「犯人が分かったのか?」

「あいつは『裏』の魔法師だった。」

 

『裏』とは汚れ仕事を専門とする人物を表す隠語だ。

 

「教えてくれないか?何故論文コンペに関係ない柴田さんが狙われる?このままじゃ僕は柴田さんを守りようがない!」

「詳しくは言えない。」

「克也!」

「俺もだ幹比古。」

「達也まで…。それは四葉関係だからかい?」

「それも言えない。わかってくれ幹比古これは極秘の仕事なんだ。今言えるのは去年の横浜事変の工作員を手引きした人物を追っていて伝統派に匿われている可能性があるということだけだ。」

 

伝統派という言葉に幹比古は反応した。どうやら心当たりがあるらしい。

 

「二人とも夜話せないかな?柴田さんを送ったあと戻ってくるから。」

「「わかった。」」

 

幹比古と約束して教室に向かった。

 

 

 

夜七時半、幹比古は学校に戻ってきて朝の話をし始めた。

 

「まずは立場をはっきりさせておくよ。伝統派を名乗る奴らは良くも悪くも古式魔法師の一大派閥だ。吉田家は旧第九研に参加した伝統派とは考え方が違う。力を増せば良いと考えている奴らとは違い僕達は神への信仰心を第一にしているからそんな奴らと手を取り合えるわけがない。僕か吉田家が全面協力出来ると思うけど極秘のことを話すわけにはいかないから僕個人が協力するよ。今回の論文コンペの近くには伝統派の拠点があるから現地の状況確認のために警備チ-ムを派遣する予定だったけど僕もそこに加わろうと思う。」

「それはありがたいな達也、その間に達也が広く回れば不都合は生じない。で、幹比古はどうするんだ?」

「僕は囮だ。派手に探査用の式を打って連中の神経を目一杯逆なでしてやろうと思う。手を出してくれば正当防衛成立だ。」

「穏やかじゃないな幹比古。一科生になってから好戦的になったんじゃないか?」

 

冗談めかしてにやつきながら聞くと慌て始めたので真顔に戻し聞いた。

 

「冗談は横に置いといて戦力差は大丈夫か?」

「もしこっちの戦力を越えるような人数を出してくれば他の諸流派が黙っていないからね。」

「作戦勝ちを狙うのか。」

「ところで克也さっき『達也は』って言ったけどどういうこと?」

「ああ、それはな…。」

 

俺は事情を説明したが敵の捕獲は四葉家からの要請ではないとしっかりと伝えておいた。

 

 

 

今生徒会室には生徒会メンバーと風紀委員長である幹比古が集まり現地の下調べの話し合いをしていた。

 

「ここが会場である新国際会議場です。周囲の交通量はそれほど多くありませんからゲリラや工作員が潜むのは難しいと思われますが周りには自然が多くありますからそれなりの準備をすれば潜むことは可能です。近くに隠れるところがなければ遠くに拠点を作る可能性があると僕は思います。」

 

幹比古が地図を指さしながら説明を始める。そして打ち合わせ済みの合いの手を深雪が言う。

 

「つまり広範囲を調べておくべきだと吉田君は言いたいのですね?」

「ええ、去年の二の舞はごめんですから。」

 

去年何があったかを泉美や水波は知っていたので話がおかしいとは思わず正しい判断だったと思っていた。それに水波は伝統派に関わっていたので口を挟むようなことはしなかった。

 

「下調べは僕と達也と誰にするかですが。」

「私も行きます。生徒会長として応援に来る生徒のためにホテルの方と話しておきたいですから。」

「その考えは間違いじゃないと思う。生徒会長なら全体のことを把握しておく必要があるからな。」

 

事情を知らないほのかや雫は克也の言葉に納得感を感じていた。

 

「克也はどうする?」

「俺はプレゼンの状況を把握しているから残って指示を出すよ。泉美の腕を疑っているわけじゃないが行事のことを知っている上級生が多くいても不都合はないからね。」

「分かった。学校のことはお前に任せる。」

 

これも打ち合わせ済みだったので問題なかった。

 

「日程はどうする?」

「ぎりぎりだけどコンペの前日の土日はどうかな?もし拠点が置かれていて破壊に成功すれば一週間で修復は不可能だろうから。」

「ナイスアイデアだな。水波、三人分のホテル予約を頼む。」

「かしこまりました。」

 

達也の言葉を聞いて水波はタブレットを操作しホテル予約のためにネットを検索し始めた。一連の流れをおかしいと思った人物は一人もいなかった。

 

 

 

その日の帰りコミューターの中で七草先輩のボディーガードだった名倉三郎が事件に巻き込まれ命を落としたとニュース記事に書いてあった。そして死因は他殺による出血死。克也達は事件を早く解決しなければならないと思った。

 

そして達也は葉山に「北山家と九重寺」の手助けをしてもらうよう要請した。そのおかげで一高周辺では事件らしきことも無く事情を知らなければ平和だと思える日常だった。

 

 

 

達也と深雪、幹比古が下見という名目の伝統派討伐に向かった日はほのかと雫、美月の四人で昼食をとっていたのだが普通ならここにいるはずの二人がいないのでそっちに話が流れていった。

 

「エリカさんと西城君はまだ実習中なんですか?」

「今日は二人ともお休みだそうですよ。なんでも家の用事だとか。」

「エリカの場合はありえるがレオの場合はどうなんだろうな。」

「どうしてですか?」

「千葉家ならエリカのように実力のある娘の力を借りてでも解決したい事件があるんじゃないかって思ったんだ。」

「そんな事件あったの?」

「可能性の話だよ。案外風邪を引いてたりしてね。」

 

三人はエリカが風邪を引いて寝込んでいる姿を想像し声を出して笑った。

 

「ありえませんけど想像したら笑っちゃいました。」

「私も。」

「私もです。」

「俺もだよ。まあ、そんなことは無いと思うけどあったら見てみたいな。」

 

そんな本人に聞かれたら眼で殺されるような話をしたおかげでエリカとレオが欠席して京都に行っていることを知られずに済んだ昼休みだった。

 

 

 

放課後、克也は生徒会室で生徒会長代理としての仕事と達也の代わりとして事務処理をしていた。克也が今日代理として生徒会にいることが校内に発表されたのは三日前だが反対する生徒も職員もいなかった。

 

深雪にも勝ると劣らない卓越した魔法力、達也には及ばないがそれでも十分な魔法知識を持ちさらには人徳もあるのだから反対するわけがない。克也が生徒会長であるべきだと考える生徒がいるほどだ。

 

「克也お兄様、五十里先輩がお呼びでした。なんでもCADの調子が悪いとか。」

 

ある程度の事務処理を終えた頃泉美が音声ユニットから耳を離して緊急の連絡を克也に伝えてきた。

 

「どこで?」

「中庭だそうです。」

「分かった行ってくるから処理が終了した書類を職員室に届けてきて欲しい。ほのかは生徒会室の管理よろしく。」

「任せて下さい。」

「分かりました。」

 

事務処理していた書類を終了した分だけ泉美に渡し中庭に向かった。水波は料理クラブに顔を出しており克也は普通なら山岳部に行っているはずなのだが代理としての仕事を任されていたので休みの許可をもらっていた。

 

余談だが生徒会に与えられる書類は紙媒体のものとデータカードとして送られてくるものがある。データカードの仕事は達也が下見(討伐)の前に終了させていたためする必要はなかった。

 

 

 

中庭に向かうと論文コンペ出場者や護衛の先輩達が集まっていた。その辺りは空気が張り詰めており嫌な予感がした。

 

「五十里先輩どうされたんですか?」 

「四葉君ごめんね急に呼び出して。実はCADの調子が悪くて見て欲しいんだ。」

「具体的には?」

「術式の発動が遅かったり発動しても干渉力が弱いとかかな。」

「それならソフトに異常があるかもしれませんね。見せてもらってもいいですか?」

「いいよ、そのつもりで呼んだからね。」

 

五十里先輩の許可を得てCADを調整機に繋ぎ内部を見る。克也の調整能力は達也には劣るが校内で二番目の腕であるため達也がいない場合克也にこういった仕事が回ってくる。

 

腕が良いため職員までが達也と克也にCAD調整を頼みにきて「契約を結ばないか」と誓約書まで持ってくる始末だ。もちろん二人は『ライセンスが取れるまでは誰とも契約を結ばない』と断っている。

 

ライセンスがなくても調整は可能なのだが調整を生業としている人達から白い目で見られることがあるので断っているのだ。

 

しばらくキーボードを叩きCADを見ていると予想通りソフトに問題があった。

 

「五十里先輩、やはり問題はソフトにありました。」

「何が原因だった?」

「アップデートした際のゴミが散らばっています。ここ五年のCADは残りにくくなっていますが完全に残らないということはないので今回もそれがたまっていたのでしょう。処理するので少しお待ちください。」

「頼むよ四葉君。」

 

キーボードを叩きながら五十里先輩に時間をもらいゴミを取り除いた。取り除くのにかかった時間は五分もかかっていない。克也の処理方法に魔工師志望の生徒は興味深げに見て自分も使えるようになろうと学んでいたが魔法師志望の生徒は呆気にとられて見ていた。

 

「これでほぼ取れました。全てではありませんが普段より使いやすくなったはずです。試してもらえますか?」

「わかった、使ってみるよ。」

 

五十里が魔法式を発動させるとなんの問題もなく機能した。

 

「さすがだね四葉君。以前より発動が速いし干渉力が強くなったよ。これで準備が進められるよ。」

「力になれてなよかったです。論文コンペの前にもう一度調整するようにお願いします。平河さん、ケント後は頼むよ。」

 

二人に任せて俺は生徒会室に帰った。

 

 

 

生徒会室に帰ると泉美に迎えられた。

 

「お帰りなさいませ克也お兄様。」

「ただいま泉美。」

「なにがあったんですか?」

「アップデートした際のゴミがソフトに残っててそれが作動の妨げになっていたみたいだ。どうやら学校にそういう細かいことも仕事に入れるよう要請しないとダメみたいだ。」

 

生徒会長専用の椅子に座り事務処理を再開しようとすると泉美に止められた。

 

「一度ご休憩されてはいかがですか?」

「その方がいいですよ克也さんずっと働き詰めですから。」

 

ほのかの言葉を聞き時計に視線を向けると午後五時を過ぎていた。どうやら二時間ほどぶっ通しで働いていたらしい。

 

「そうだね少し休もうかほのかも泉美も少し休憩だ。ピクシーお茶を頼む。」

『かしこまりました。』

 

二人を誘いピクシーに頼んでから長机の椅子に座る。数分後ピクシーが俺には紅茶をほのかにはホットミルクティー、泉美にはホットレモンティーを出してくれた。

 

ピクシーは普段達也の言うことを優先的に聞くが今は達也の命令によって数人の命令を吟味し自分で判断を出すようになっている。克也はコーヒーと紅茶をどちらも飲むが周期的に飲むものが変わる。入学試験まではコーヒーを飲み入学式からは紅茶を飲んでいる。

 

「達也さんと深雪と吉田君は今頃どうしているでしょうか。」

「しっかりと下見(討伐)しているかカフェで俺達みたいに飲み物を頼んで休憩しているかもね。」

「会議場の近くに美味しいカフェあるでしょうか。」

「それを踏まえての下見(討伐)をしてたらいいな。」

 

俺の冗談にほのかと泉美は声を上げて笑った。この時達也達は伝統派と交戦しており幹比古達も同じように交戦中だったのを克也は知らなかった。




古都内乱編もクライマックスですよ~。
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