魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第五十三話 任務完了

達也は翌日、帰宅すると強制的に寛がされていた。

 

「光宣君の原因は何だったんですか?あのときの達也お兄様の動揺は尋常ではありませんでした。」

「…ショッキングな話だから心を強く持って欲しい。光宣は『調整体』だ。…克也は知っていたんだな?」

「ああ、初めて治療したときに気付いていた。」

 

深雪が寛がさせていた達也に突然聞き達也は説明を始めた。達也は俺がそれほど動揺していないことに気付いたらしいが次の言葉には驚愕せずにいられなかった。

 

「光宣は藤林さんと異父姉弟だ。」

「…達也、それは本当か?それなら血が濃すぎるというのが病弱の原因になるのかな?」

「断定は出来ない。だが読み取った遺伝子情報はそうだった。」

 

深雪の驚きように俺は気付かずに驚いていた。

 

 

 

十月二十七日土曜日、論文コンペ前日を迎えたが克也達は出場者とは違う緊張感を持っていた。今日、周公瑾を捕獲しなければ今後の捕獲確率は格段に下がってしまうだろう。そのため達也は今日捕獲すると決めており克也は達也について行くことにした。

 

「文弥、亜夜子準備は良いか?」

 

克也と達也は黒羽家が仕事の際に常用しているホテルの一室で話していた。二人が頷くのを見て情報を聞き出す。

 

「何処にいる?」

「信じられないことですが国防陸軍宇治第二補給基地に匿われているようです。」

「どれだけ探しても見つからないわけだな。」

 

克也と達也の硬質な声に文弥はしっかりと応えたが亜夜子は腰を抜かして床にへたり込んでいた。克也のこの声は相手を敵と認識し消し去るのことを決めた際に出す。口調もそれに合わせてきつくなる。達也の場合は怒りが一定の水準に達したことを表している。

 

宇治にあるこの基地は地域色が濃いためか古式魔法師が多く配備されているため周公瑾がそこにいたとしても不思議はない。そのことを思い出していればもっと早くに見つけられていたが今考えても時間の無駄だ。

 

「達也先に行っててくれ亜夜子を治療してから行く。それに俺が行く場所と達也が向かう場所は違う一緒に行動していては効率が悪いから基地に突っ込んでいてくれ。」

「分かった後で会おう。」

 

達也はヘルメットを持って裏口に駐めてあるバイクに向かった。

 

 

 

亜夜子を抱き上げベットに寝かせる。

 

「亜夜子大丈夫か?すまないお前達がいるのにあんな声を出してしまって。」

「…いえ、克也さんは間違っていませんから気にしないで下さい。」

「ありがとう亜夜子。文弥、行ってくるから亜夜子を頼む。」

「分かりましたお気をつけて。その前に一つ聞いてもいいですか克也兄さん?」

「手短に頼むが何だ?」

「今回の作戦、克也兄さんは参加禁止されていたのではないですか?」

「確かにその通りだが叔母上は達也の判断に任せると言ったんだから達也が俺を参加させても叔母上の命令に逆らったことにはならない。隙間をついた苦しい言い訳だがどうでもいい。今は奴を捕獲することが最優先事項だ。」

 

文弥の見送りを遠慮し達也と同じように裏口に向かい携帯端末で将輝に連絡した。

 

『克也かどうした?』

「今京都に来ているんだろ?宇治二子塚公園南西の入り口で十七時まで達也が待ってるから向かってくれ。」

『十七時だと!?分かった向かうがお前はどうする?』

「俺は別行動だ。周公瑾が逃げるであろう方角で待ち伏せする。」

『気をつけろよ。』

「分かってる。」

 

電話の際は声を普段のものに戻したが感情は怒りで包まれていた。その気持ちを表に出さないように抑えつけながら平等院のすぐ側に架かる宇治橋の東側に向かった。

 

バイクに乗るために着ていたライダースーツを脱ぎパーカーと長ズボンをはき荷物をコインロッカーにバイクを駐輪場に置いてくる。奴がやって来るまで観光客の振りをして待つことにした。

 

 

 

十七時になり達也は将輝と合流し基地へ突入していたが砲弾の直撃を受けていた。

 

「おい、しょっぱなから実弾で撃ってきやがったぞ!」

「やれやれ何を考えているのやら。」

 

将輝の対物障壁で身を防いだ二人は危機感と嫌悪感を抱いていた。

 

「おいおい、今度は戦車まで出してきやがった。近くには民家があるってのに正気か!?」

「操られているんだろうな。」

「何故分かる?」

「普通、侵入者を見つければ拘束弾でも撃てば良いはずだが最初から実弾だった。効果が無いと気付き重機関銃に変更した。俺達を足止めか殺人で時間を稼ぐという考えなんだろう。それにあの不自然な表情と虚ろな眼をしているのを踏まえると操られていると考えるのが妥当だ。」

 

互いに正体をばらさないようにフルフェイスヘルメットを被り名前を呼び合っていないため余計に愛想がない会話になっていた。

 

「このままじゃ周公瑾に…奴だ!」

「何?」

 

一条の視線を辿ると車を急発進させ逃げるのが見えた。しかし同時に周の想子に異物が混じっているのが視えた。

 

{これは…あなたの思い無駄にはしない!}

 

『克也、周がそっちに逃げた。俺達も向かうが少しの間時間を稼いでくれ。』

 

克也に『念話』で伝え殺戮しようと近づいてくる敵を一条と二人で殲滅しに正面から突っ込んだ。

 

 

 

『了解。』

 

達也からの連絡を受けて意識を西側から向かってくる敵に向ける。まだ見えてはいないが国内のものではない想子が近づいているのは感じていた。

 

数十分後、セダンに乗っている美貌の青年を見て彼が『周公瑾』だと確信し車の進行を妨げるように車道の真ん中に立つ。

 

「四葉克也!何故ここに!?」

 

周の叫び声は聞こえなかったが俺がここにいることに驚いているのは容易に想像できた。容赦なく殺すために右手に想子を集めボンネットに突っ込む。爆発する瞬間周が飛び出したためダメージを与えられなかった。

 

「よく避けたなあの一瞬で。」

「…『アンタッチャブル』のご子息に褒めてもらえるのは光栄ですが今の攻撃は通りがかった歩行者を巻き込む可能性があったのは自覚しているのですか?」

「気にしていない。巻き込んででもお前を殺せればチャラになるどころかプラスになるだろう?」

「…卑怯者ですね。」

「お前ほどではない。それに爆発させたところで死ななかったから気にする必要は無い。」

「どういうことか教えてもらいましょう、か!!」

 

その言葉と同時に黒いハンカチを広げ影獣を何体も吐き出し克也を攻撃するがことごとく克也の展開した『炎陣』によって燃やされ傷一つつけることは出来なかった。

 

「燃えた?いや、燃やし尽くされたので…。っ!」

 

言葉を最後まで発せなかったのは克也が圧縮想子弾を周の足を狙って撃ったのを避けたためだ。克也は笑みを浮かべたまま首を傾げた。当たったはずだと思ったが俊敏に動いた周に違和感を覚えての行為だ。その笑みは横浜事変の際鈴音が捕まったときに見せたあの天使の笑みだった。

 

周は冷や汗をこれでもかというほどかいていた。爆発する瞬間に車から飛び出したときには『鬼門遁甲』を発動させていたのだが正確に両足を狙ってきたことに驚いていた。

 

{私の『鬼門遁甲』が効かなかったのでしょうか?いえ、それはありえませんね。彼と交戦し勝っていたとしても私の力は彼とは天と地の差があります。ですが私が避けなければならないほどの正確な攻撃をしてきましたから何かの能力で私の技を見抜いているのでしょう。}

 

「俺が正確にお前の足を狙えたことに驚いているんだろうが生憎教えるつもりはない。死ね。」

 

その言葉通り圧縮空気弾と圧縮想子弾を同時に発射してきた。ぎりぎりのところで避けるがなにしろ数が多く数発体を掠めていく。着地するとバランスを崩したので足下を見ると圧縮空気弾か圧縮想子弾なのかは分からないが着弾した痕があり地面が数cmえぐれていた。

 

それを見て別の意味で冷や汗が吹き出る。それを喰らえば間違いなく死ぬと思い周りを見渡すと人影がなくなっていた。あれほど密集していたはずなのに全員が消えている。そこでようやく周は自分が術中にはまっていることに気付いた。

 

「私に何をしたのですか?」

「ようやく気付いたかお前自身にかけたわけじゃないこの辺りに来ないように人払いをしただけだ。正確には人を寄せ付けない結界を張っているだけだがな。それとお前がさっきまで見ていた人影は全て幻影であると教えといてやる冥土の土産というやつだ。」

「…あれが幻影だというのですか?人間と言われても疑えないほどですが。」

 

幹比古に頼んで二つの魔法を同時行使してもらっているためあまり時間をかけたくはないが動揺を誘うためには説明した方が良いと俺は思った。

 

「俺も事前に言われていなければ信じていただろうな。あの幻影は水の精霊と風の精霊に頼んで反射と屈折を利用したものだ。俺がお前を捕まえるために開発した魔法で名前はないんだが今回しか使わないだろうからつける必要が無い。」

「…古式魔法師の力を借りていたというわけですか。古式魔法師が古式魔法師の魔法に惑わされるとは皮肉な話ですね。ですが私はここでは死にません!!」

 

周はこれまでの戦闘で最大数の影獣を作り出し克也に向かって吐き出しその隙を突いて下流に向かって逃走した。普通に魔法で攻撃すれば逃走を防ぐことは出来たがあえてしなかったのは達也の仕事であると同時に下流には二人が待機しているのを知っていたので攻撃しなかった。

 

『周がそっちに行ったから任せた。』

『こっちでも視て確認した幹比古にありがとうと伝えておいてくれあとはこっちに任せろ。』

『了解。』

 

『念話』で達也と会話しこちらを水の精霊で見ているであろう幹比古に約束していた想子波で周波数を作り送ると結界と魔法が解除された。携帯端末を取り出し連絡する。

 

「幹比古ご苦労様予定通り誘導できた感謝する達也からも礼が来てる。」

『どういたしましてそれにしても凄かったね克也見てて鳥肌が立ったよ。』

「それが俺の役目だからな。」

『ところで敵は大丈夫なの?』

「達也と将輝がいるから大丈夫だよ今から帰る。三十分後に着くと思うから気を張らなくていい。」

 

そう言い通話を切る。そのまま達也達がいるであろう下流を見てから戦闘の痕跡を残さないように『回復』で橋とへこんだ地面を修正し周が乗ってきたセダンは『燃焼』で燃去した。

 

魔法の使用は想子観測機で見つかるのだが藤林に頼んでここら一帯を一時的にハッキングしてもらいデータを書き換えてもらっていた。修理は五分ほどで終了したため橋を通り始めた観光客に不審な眼を向けられることもなく一観光客の振りをして荷物とバイクを取りに向かった。

 

 

 

「そこまでだ周公瑾。この前はよくも一条の跡取りであるこの俺を虚仮にしてくれたな。」

 

走り続けていた足の進行方向を変更し川に飛び込もうとするが目の前で爆発が起き水しぶきが飛び散る。

 

「一条家の『爆裂』を前にして水の中に飛び込むのは自殺行為と同様だ。」

 

背後からの声に眼を向けると一条将輝とは違う種類の本能的に危険だと感じる人間がいた。

 

「司波達也…。」

 

名前を呼んだ瞬間に周の両ふくらはぎが内側からはじけた。『爆裂』の改良型である局所的な『爆裂』。

 

「ここまでだな。」

「私はこんなことでは滅びない!死しても私は生き続ける!」

「一条下がれ!」

 

将輝が一歩近づくと周は不自然な動作で立ち上がり叫び始めた。将輝は一条に指示して大きく距離をとり将輝も反射的に距離をとると周の体がはじけ鮮血が飛び散るが赤い血が赤い炎となる。

 

「ハハハハハハハ。」

 

燃えさかる炎の中で哄笑が聞こえ火が消えるまで続いた。

 

「終わったのか?」

「ああ、終わった。これで論文コンペは何も起きずに終わるだろう。」

「そうだなそろそろ帰ろう。夜までには家に帰りたい。」

 

将輝の言葉に同感のようでバイクを駐車している場所に二人で向かった。

 

 

 

翌日、俺は論文コンペの応援を休み水波と共に四葉家本家に来ていた。もちろんアポなしでだがそんなことを気にしている暇はなかった。

 

今すぐにでも分家の当主達に怒りをぶつけないと家を燃やしてしまいそうだった。会合が開かれている一室に俺は苛立ちを隠さず向かっており使用人達をびびらせていたが気にせずに向かう。

 

 

 

「ということで達也には問題が無いと思いますがいかがですか?」

「…認めないわけにはいかんだろう。」

「この能力は確かにおしい。」

「今回は合格だ。今回は。」

「我々はもう少し落ち着くべきだと。」

「最終的な判断は速すぎる。」

「…。」

 

分家の当主が論文コンペ以上の重要な会議をしているとドアがノックされ一番近くに座っていた黒羽家当主「黒羽貢(くろばみつぐ)」が開けると一人の使用人が用件を述べた。

 

「先程、克也様がお見えになられました。」

「それで用件は?」

「分かりかねます。とりあえず入室の許可が欲しいと。」

「ご当主様どうされますか?」

「構いません連れてきて下さい。」

「かしこまりました。」

 

使用人が克也を迎えに部屋を出ると分家の当主達がざわめきだした。

 

「何故克也様がお越しになられるのだ?」

「今回の任務の詳細を伝えに来たのでしょうか?」

「それなら既に話したはず。っ!なんだこの異様な圧力は!」

 

壁を隔てでもなお尋常ではない圧力が自分達を襲っているのを感じた当主達は誰か放っているのか分かっていたのだが口にすることは出来なかった。葉山でさえ厳しい眼をし真夜を守るように立つ。その本人がドアを開けて入ってきたことでさらに圧力が増す。

 

「克也どうしたの?」

「『母上』は黙っていて下さい。」

「克也様、今の発言は…。」

「黙れ。」

「グハ!」

 

真夜の問いかけに辛らつな言葉を発した克也に椎葉(しいば)家当主が立ち上がり叱責しようとすると克也が片腕を一振りし椎葉家当主を壁にたたきつけた。ただ腕を振っただけで大人を吹き飛ばした現実に他の当主達は怯えていた。

 

「今回の任務は何ですか?達也の忠誠心を試すためだったようですがいくらなんでもおかしくはありませんか?」

「…今回の任務は克也様のお考えの通り達也殿の忠誠心を試すためです。」

「それだけではないでしょう?真実を教えてください。」

「ですから忠誠心を…。」

「いい加減にしてください椎葉家当主のようになりますか?それともここで死にますか?」

「克也様!それはなんでもやり過ぎなのではございませんか!?」

「やり過ぎ?達也を四葉家から追放し達也の存在をなくそうとした。最後にはこの世から消すつもりだったのでしょう?達也がいなくなれば俺と深雪が世界を壊します。ここで死のうが世界を壊され死んでいくのとでは何も変わりません。」

 

新発田(しばた)家当主の言葉にさらに圧力を高めながら聞く。克也の心理状態は不安定であり魔法力が暴走しかけており想子が光宣以上に活性化し感情が具現化していた。

 

「…今我々を殺せば四葉家は滅亡します。それでもよろしいのですか?」

「構わない。俺と深雪から達也を奪うのであればそれなりの制裁を加える。」

「…我々はここで殺されるわけにはいかないのです。ですから抵抗させていただきます。」

「そうか、ならば致し方ない。」

 

真柴(ましば)家当主の言葉に克也は覚悟を決め、新魔法を発動させるために{ブラッド・リターン}ではない特化型CADをホルスターから抜き出し真柴家当主に向ける。発動させようとすると誰かが正面から抱きついてきたため魔法式が破綻する。

 

「水波?」

「おやめください克也兄様!」

「どくんだ水波!こいつらは達也を亡き者にしようとしたんだ絶対に許さない!」

「それでもダメです!そんなことをして達也兄様と深雪姉様がお喜びになるとお思いですか!?」

「二人に憎まれたって良い!達也と暮らせるならそれでいい!だからどくんだ水波!」

「お断りします!私は克也兄様にそんなことをして欲しくありません!たとえあなたに憎まれようと恨まれようと命をかけて止めます!これが私が誓った証です。」

 

水波は分家の当主と四葉家当主の真夜の前で俺にキスをしてきた。その行動に俺は肩を強ばらせたせいで荒々しく吹き荒れていた想子が収まった。

 

「水波?」

「たとえ私の命が今この瞬間消えようと私は克也兄様の側から絶対に離れません。」

「水波…。」

 

覚悟を決めた水波の顔を見て自分の行動の浅はかさを自覚し水波の小さく細い体を抱きしめた。

 

「…叔母上、達也は何があっても四葉から追い出させはしません。殺させはしません。これは俺と深雪、水波の想いです。これだけは何があろうと覆りはしません。失礼します。」

 

ドアを出る前に椎葉家当主に『癒し』を施し気絶から目を覚まさせる。水波の肩を抱き帰宅するために達也から借りた車を置いている駐車場に向かった。

 

 

 

克也が水波を連れて部屋を出て行ったあとしばらくして黒羽貢が口を開いた。

 

「…達也が四葉家の『罪の象徴』であるなら克也様は『償いの象徴』。達也の処理は破棄いたしましょうそれが四葉家の安定と繁栄に繋がります。」

「「「「「「異議無し。」」」」」

 

黒羽家当主の言葉に反対論を唱える残りの分家の当主は一人もいなかった。克也の魔法力に怯えたという側面もあったが四葉家の発展を望んだという理由が大きかっただろう。

 

達也を追放すれば克也も深雪も四葉から離れ三人を失えば四葉家の権威は失墜し十師族から格下げになるだろうと予想していた。だがそれでも達也を四葉にいさせてはならないと思い今回の任務を与えた。

 

それが知られれば克也の怒りを買うことも分かっていたがそれでも試したのだ。覚悟をしていたが甘かったことを認識させられ克也の言い分を受け入れるしかなかった。

 

分家の当主達が討論している間真夜は意味ありげな笑みを浮かべて明後日の方向を見ていた。




古都内乱編これにて終了です。最後はラブコメみたいになってしまいましたが水波の必死さをかわいらしく書きたかったんですお許しください。では四葉継承編でお会いしましょう。



黒場貢(くろばみつぐ)・・黒羽家当主。文弥と亜夜子の父であり真夜の従弟である。
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