魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第六十話 遭遇

リーナと別れホテルに戻り食事と入浴を終え就寝するだけになった克也と亜夜子はホットレモネードを飲みながらゆっくりしていた。盗聴や盗撮は亜夜子によって設置されていないことが立証されたので多少砕けた話は出来るようになっていた。

 

「なんとか約束は守ってくれそうだな。同盟国とはいえ完全には使用してもらえないのが痛い。」

「それでも前向きに考えてもらえるだけありがたいと思うべきでしょう。」

 

亜夜子にたしなめられ悪循環に陥らないように思考進路を元に戻す。

 

「明日の夜には判断して欲しいけどさすがに一日では無理か。国の面子に関わることだから…。」

「克也さん?」

「亜夜子、少し黙れ。」

 

口は悪いが克也の硬質な声に亜夜子はCADをカバンから取り出し臨戦態勢を取る。

 

「一、二、三、四、五、五人か。しかも全員死んでいるように見えるってことは顧 傑の術にやられているのか?」 

「でもここは四葉が準備した部屋ですよ!?分かるはずがないじゃないですか!」

「狙われているのは事実だが議論している暇はない。窓から飛び降りたいのは山々だがここは十階だし魔法で降りることは出来るが捕まるだろうな。そうしたらあの話はなかったことになってしまう。体術で倒すしかないみたいだ。」

「距離はどのくらいですか?」

「もう下の階にいる。左右の階段とエレベーターからも来ているからエントランスから逃げるのは不可能だ。」

「リーナさんに連絡して魔法の使用許可をもらえばいいのでは?」

「許可をもらうには上からの許可がいるのはどこの国でも同じだ。得られたとしてもそれまでに襲われる。だが俺達が怪我をするのも本末転倒だなここは魔法を使って事情説明するしかないか。亜夜子、身を隠しておけ嫌なら眼を閉じてもいい少し荒っぽくなる。」

「わかりました。」

 

部屋の電気を消し亜夜子が『極散』で暗闇に溶け込むのを確認し{ブラッド・リターン}を取り出し壁に隠れながら入り口を見る。数秒後、ドアを開けるのではなく蹴りで強引に開け飛び込んできた。予想と違ったのでワンテンポ動くのが遅れたが自己加速魔法を瞬時に展開して侵入者に肉薄しそのままタックルをかまし狭い部屋から廊下に押し出す。

 

廊下に出た瞬間に飛び込んできた男から離れ部屋の入り口を対物障壁で覆い侵入を防ぐ。タックルをかました男以外にもぞろぞろとやってくるが全員驚いた様子もなく近寄ってくる。死んでいるというよりは仮死状態に近い。かなりの勢いでタックルをかましたのだがまったく効いておらず不自然な動きで立ち上がってきた。

 

「あれだけの威力でタックルしたのにほぼノーダメージか参ったな~これは。消すつもりでやらなきゃ少々ヤバいかも!」

 

独り言を呟き終わる前にタックルをかました男に体術で接近し顎を右掌底で打ち抜き左から跳びかかってきた男の後頭部に左肘をねじ込む。二人が倒れたところで残り三人は魔法を放ってきた。発動速度は真由美とほぼ同等だが恐るるに足らない。俺は自分が立っていた場所から壁に飛び移りそのまま壁を走る。

 

『壁走り(ウォール・ラン)』

 

加重系魔法の一つで自分にかかる重力を足下に移動させどんな場所でも歩いたり走ることが出来る。高難度の魔法なので使う人はまずいない。

 

俺が壁に飛び移った瞬間俺の立っていた床が溶ける。

 

{酸の術式だと!?存在するとは聞いていたが眼にするのは初めてだな。}

 

魔法を使った操り人形達に{全想の眼}を向けると想子が減っていた。保有想子量は個人差があるようだが最初からあった想子がなくなっているのを見るとあれが無くなれば動かなくなると思いあえて全員に見えるように仁王立ちする。

 

すると全員が一斉に魔法を放ってきたので『炎陣』で無効化する。警備員が来るまでまだ時間はあるので殲滅させて記憶を見ることにした。魔法の隙を突き『炎陣』を解除し『四赤陽陣』を発動し行動不可能になるまで想子を燃やし無力化する。

 

行動不可能になった操り人形達の記憶を視るべく近くの男の瞼を持ち上げ眼球を見つめる。まだかすかに命があるので記憶を視ることが出来る。

 

歩いている場所はどこにでもある普通の市街地。一人で歩いていると気配を感じ振り向いた瞬間体に電気が走ったように感じると同時に意識は闇に墜ちた。振り向いた瞬間見えた姿は黒い肌に中華風の服を着た五十歳ほどの男だった。

 

克也が視れたのはそこまでだった。

 

「っ!」

 

突然接続を切られたかのように男の記憶からはじき出される。視ていた男の眼は視始めた頃より光を失っていた。どうやらこの男の命が終わったため俺は現実に強制帰還させられたらしい。

 

{まったく手掛かりがなかったわけじゃないがこれでは計画も立てられんな。}

 

戦闘が終了したのを感じたのか亜夜子が部屋から出てくる。俺の対物障壁は外からは侵入できず内側からは出れる設定を施していたため亜夜子はぶつかることもなく出てこれた。

 

「終わりましたか?」

「ああ、それほど危険な相手じゃなかった。この程度なら十人でも大丈夫だが…。亜夜子離れろ!」

「え?」

 

部屋の入り口に一番近いところに倒れていた男が突然爆発し亜夜子を守るように部屋へ押し込む。

 

「亜夜子、大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます。克也さん腕が!」

「…このくらい大丈夫だ。」

 

俺の右手は爆風により使い物にならなくなっていた。反射的に『炎陣』を発動したのだが体の右半分を庇いきれなかったのだ。

 

「ごめんなさい私のせいで…。」

「亜夜子のせいじゃない油断した俺が悪かったんだ。」

「取り敢えず傷を塞がないと。」

「大丈夫だもう『回復』を使ってる。っ!」

 

大丈夫だとは言ったものの細胞が急激に回復させられる痛みは神経をこすられるようで不快だ。怪我の痛みなら我慢できるが細胞を強制的に回復させる痛みはいつまでたっても慣れない。『回復』を使いながら『癒し』で痛みを抑えるがそれでも口から声が漏れるのは我慢できない。

 

数分後、完治した右手を無意識に握ったり開いたりを繰り返す様子は『回復』でも取り除けない痛みが残っているからだろうか。

 

「ふう、ようやく塞がったか。これでなんとか日常生活は送れるかな。」

「使えるようになったのはいいんですが治ったんですか?」

「達也の『再生』のようには無理だけど中学の時よりは進歩してるよ。あの時だったら怪我を隠す程度にしか治せなかった。」

 

克也の『回復』は今までなら見かけの上でしか塞がっておらず完治するにはそれ相応の時間がかかっていたがこの二年の間に達也の『再生』に近いところまで治せるようになっていた。

 

「ですが、そのCADは使い物にはなりませんね。」

「ああ、こうなっては修理は不可能だ。けど汎用型を持ってきといてよかったよ。」

 

爆風によってCAD全体がただれ原形を留めていないところまで破損していた。CADを完全消去するためにCADを加重系魔法で空中に浮かべ『燃焼』で原子にまで燃やす。跡形もなく消えたのを確認してリーナから渡されていた緊急携帯端末で司令室に連絡を入れる。

 

リーナが駆け付けるまで亜夜子は克也の右腕を労るように抱き締めていた。

 

 

 

リーナが部下と現れたのはそれから十五分後だった。ちなみに基地からここまでの距離は二十kmある。基地からの距離と隊をまとめて指令を伝えるまでの時間を考えると驚異的な早さだ。四葉の名前を恐れて死ぬ気で来たとしても不満はなかった。その日は基地の部屋を借り一夜を明かした。

 

別々の部屋を準備してもらったのだが亜夜子が強硬に反対したため一室で眠ることになったのは水波達には内緒だ。

 

 

 

克也が爆発を受けた頃達也は日本にいながらそれを感じ取っていた。達也が自宅で厳しい顔で急に立ち上がったのを見て深雪と水波は驚いて達也を見上げていた。

 

「達也お兄様どうされました?」

「克也の気配が一瞬歪んだ。」

「何かあったのですか!?」

 

克也の気配が揺れるなど尋常ではないことが起こったのは確実だ。克也の気配を揺らす敵を深雪は達也以外に知らなかったため動揺していた。

 

「気配が揺れたのは一瞬だから大丈夫だ。だが克也の気配を揺らす奴は何物だ?」

 

水波は克也の無事を聞いてほっと息を吐いていた。

 

「帰ってきたら事情聴取しないとな。」

 

達也の呟きに二人はしっかりと頷いた。

 

 

 

翌日、バランス大佐に呼び出され昨日と同じ部屋に来ていた。

 

『昨日確保した男達は【ノーブル】のメンバーということですか?』 

『はい、取り調べた結果パーソナルデータが一致しました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。』

『怪我をしてないので気にしないで下さい。それにこのことは【母上】にはお伝えしませんしホテルの警戒が弱かったとは思っていません。むしろ高かったと考えています。』

 

怪我をしていたのだが謝罪ばかりされそうだったので嘘をついておいた。

 

『それで昨日のことはどうなりましたか?』

『政府も危機感を抱いているようで許可をいただくことが出来ました。我々も捜査に参加したいのですが日本に部隊を上陸させるのは難しいかと。』

『それは最初から分かっていましたのでお気になさらないようにお願いします。日本でというよりUSNA内で奴の動きを調べていただきたいのです。奴がどのような経路で来たのかそれとどこから国外に逃れるのかを見つけてもらえればそれでいいです。』

『分かりました早急に取りかからせましょう。本日はどうされるおつもりですか?』

『今日はもう帰る予定なので空港の近くで観光するつもりです。』

『分かりましたお気を付けて。』

 

部屋を退出し荷物を持って基地を出た。電話でタクシーを呼ぶとなんとハウリーさんが迎えに来てくれた。お陰で空港までの道のりは楽しかった。

 

 

 

空港の近くには観光施設が多く点在しているため時間をつぶすのにはもってこいだ。克也と亜夜子はいろいろな店を見て回りながら楽しんでいた。

 

昼食にはハンバーガーを二人で堪能し日本でも食べられるのだが本場の味を堪能したいと二人は真っ先に店に入り頼んでいた。

 

味は至極よく値段に納得できるもので少々量が多かったので亜夜子の残りを胃袋に収めたためかなりヤバかった。

 

動けるようになりしばらく歩いていると後を付けてくる気配がしたので店に入りやり過ごすことにした。恋人に似合うアクセサリーを探すようにしていると気配は膨れ上がり人数が増えたのを感じた。

 

周りからはお似合いのカップルのように見えていたようだがこれ以上ここにいれば迷惑がかかると思ったのだろう克也は亜夜子を連れて店を出ると囲まれた。

 

正確には二人の後ろは店の出入り口なので百八十度囲まれていたと表現するのが妥当だ。店の中にいた客達は状況が理解できず混乱していた。

 

『何のようだ?』

 

愛想無く聞くとリーダー格らしい体格の良い男が言葉を返してきた。

 

『お前ら二人が左手首に付けているそのブレスレット、CADだろう?』

『そうだがそれがどうした?』

『魔法など邪推だ!人間に与えられたものではない!よってお前達を処分する!』

 

どうやら『人間主義者』の集団らしく全員がリーダーの発言を復唱する。それを見て嘲笑が浮かぶが男は勘違いしたらしくにやつきながら聞いてきた。

 

『もしかして恐ろしすぎて笑顔で恐怖を吹き飛ばそうとしてんのか?可哀想にな~。』

 

そう言うと笑い始めた。さらに笑みを深くしながら静かに笑う。

 

『何が可笑しい?』 

『いや、お前らのアホさに笑いが止められなくてな。これは傑作だな【ナイト】?』

『はい、馬鹿馬鹿しすぎて笑いが抑えられません【リーフ】さん。』

 

自分達の正体を隠すため二人の間で決めたあだ名で呼びあう。すると顔を真っ赤にして今にも攻撃をしてきそうな男を見ても俺は戦闘態勢は取らない。

 

『何だと?魔法師の分際で!』

『排泄を我慢しているのか?近くにトイレあるから行ってこいよじゃないと漏らして辱めを受けるのはお前だぞ?』

 

あえて挑発して男に手を先に出させ魔法を使うように仕向ける。そうすれば正当防衛として罰せられることはない。

 

『このガキャー!!やれ!』

 

予想以上に逆ギレしてきたが俺達には攻撃せず店の中にいる客に向けて銃を発砲した。しかし弾丸は店の硝子を砕くことなく地面に頼りなく落ちた。

 

『何だと!?もう一度だ撃て!』

 

二度目の発砲も同じ結果になった。

 

『貴様魔法を勝手に使っていいと思っているのか!』

『いやいや、それは見当違いだぞ。俺は犠牲者を出さないように店にいる客を守っただけだ。悪いのはそっちだからな?』

『黙れ魔法の無断使用は死罪に値する!全員撃てぇ~!』

 

全員が発砲するがハイパワーライフル二十発を容易く受け止める俺の『想子鎧』を単なる小銃の弾十発で貫通できるわけがない。

 

『馬鹿な!弾丸が貫通しないなどありえない!』

『…現実を見ろよ実際に貫通してないんだから無理だって分かれよ。』

『黙れよお前!魔法を使うなと何度言えば分かるんだ!』

 

高い声でギャーギャーわめいて耳障りだったのでリーダー格の男に横に立っている同い年ぐらいの男を黙らせることにした。

 

『お前うるさいからちょっと黙ってろ。』

 

魔法師が自然に展開している領域干渉に消されるほどの弱さでかる~く圧縮した想子弾をわめいた男の眉間に撃ち込む。

 

『ギャ!』

 

想子弾が眉間に直撃し悲鳴を上げて後ろに倒れた。

 

『貴様、魔法を使って一般人を攻撃するとは!』

『先に攻撃してきたのはそっちだ【ノーブル】さんよ。』

 

自分が参加している団体の名前を言い当てられ驚愕をあらわにし奇声を発しながら飛び掛かってきた。攻撃を軽くいなし首筋に手刀をたたき込み気絶させる。倒れてくる男をあえて受け止め地面に横たわらせる。

 

『魔法を使わなくても君達を倒せるってことが分かったと思うけどそれでもまだやる?』

『リーダーをやりやがって謝るのは今のうちだぞ!』

『逆ギレですか?最初に喧嘩を売ってきたのはそっちなんですが…。』

『黙って聞いてりゃいい気になりやがってやっちまえ!』

『ナイト、少し離れてろ。』

『分かりました。』

 

暴漢が殴りかかってきたのと同時に亜夜子に離れるように命じる。十人の総掛かりだが先生の弟子より腕が劣るのでかわすのは簡単だったのであくびが漏れたりした。

 

『やるならもっと本気でやってくれよ面白みが全くないんだけど。』

『うるせえ!』

『何で掴めねんだよ!』

『ちょこまか動きやがって!』

『じゃあ捕まえてみてよ。』

『なめやがって!』

 

神経を逆なでるようにあえて挑発する。

 

殴る勢いを利用してこかせると全員がナイフを取り出し切り掛かってきた。数人のナイフを奪い気絶させていると魔法発動の兆候を感じた。

 

見るとナイフから電気を発していたが麻痺させるためなのか殺すためなのかは分からなかった。電気を放っている男を『全想の眼』で見ると昨日の襲撃者のように魔法を放った反動なのか想子が減っていた。

 

{こいつを倒さないと自爆されたら困るな。}

 

倒したところで遅延発動術式で爆発されるので消すことに決めた。向かってくる暴漢を全員気絶させながら魔法を撃つ隙を探していると軍服を着た男が男からナイフを奪い取りそのナイフで胸を貫いた。

 

その動きは俺でさえ霞んで見えたのだから一般人からすればいつの間にか男が倒れていたとしか思えなかっただろう。

 

『カノープス少佐、俺達をつけていたのはあなたでしたか。』

 

存在感がある人物が自分達を尾行しているのは気付いていたが彼だとは思っていなかった。

 

『バランス大佐から極秘任務を言い渡されていた。【二人を護衛せよ】と。』

『お心遣い感謝します。ですがそいつから離れた方がよろしいかと。』

『心臓を貫いたのだ問題ないだろう。どの生物も心臓があれば操ることは容易いそれが機能しなくなれば自爆をしないのは道理。それよりお二方には事情聴取をしたいのでご同行願います。お前達はそこの暴漢どもを拘置所に連行次第現場検証に当たれ。』

 

カノープスが部下に命じ男を担いで歩いて行くのを見て背中を追いかけた。結局、事情聴取で残りの時間は全て奪われてしまい帰国時間まで空港の近くのホテルから外出することは出来なかった。正当性は認められたのだが挑発したことに関しては少し反省するように言われた。

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