魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

65 / 120
第六十一話 惨事

帰国した翌日から学校だったが実習が午後からなので助かった。克也は一時限目から四限目までの間、座学の課題を最短記録で終わらせ残りの時間を睡眠時間に充てていた。

 

時差ボケでなかなか眠れなかったため今睡眠不足を補っているのだ。しかもその最短記録は達也が本気でやっても更新できないほどの速さだった。

 

「深雪、克也さん大丈夫?」

「大丈夫よ、昨日仕事から遅くに帰ってきたから寝不足なの。今は寝かせてあげましょう。」

「仕事?」

「お家関係よ。」

 

克也を見ながら心配そうに聞くほのかと雫の質問に答えながら克也を深雪は微笑ましそうに見ていた。

 

昨日帰ってきた克也に深雪達が質問攻めにし克也の睡眠時間を奪ったことは深雪も言えなかった。

 

「克也さんが疲れるだなんてよっぽどのことだったんだね。」

「私にも詳しく教えてくれなかったんだけど仕事中に『人間主義者』に襲撃されたみたいなのそれも二回。一度はホテルでもう一回は市街地で。」

「よくニュースにならなかったね。」

「国はそんなこと放送されたくないでしょうし正当防衛だって証明されたみたいだから。」

「正当防衛?」

「向こうから手を出してきたらしくて魔法を使わずに騒ぎを静めたみたい。それと『人間主義者』が一般人を狙ったときに魔法で守って怪我をさせなかったことを狙われた人や目撃者が評価したらしくて大事にはならなかったみたい。」

 

深雪の説明に二人は納得し優しく克也を見ながら呟いた。

 

「大活躍だったんだね。克也さんは批判を受けても一般人を守ることを止めなかったのはすごいよ。」

「ほのかの意見に賛成。克也さんは本当に優しい男性(ひと)だっていうことは世間に自分の事情を公表されても変わらないんだね。」

 

そう言ってくれる友人達に深雪は嬉しそうな笑顔を浮かべながら聞いていた。

 

 

 

今日は二月四日、四葉も黒羽もUSNAも顧傑の情報を何もつかめておらず捜索に進展は見られなかった。唯一分かっているのは顧傑が死人を操り『ノーブル』のメンバーを道具として使い捨てにしていることだけだった。

 

克也達は自分が作った組織の人間を使う理由が分からなかった。操り人形にされた彼らに同情は出来ないが命を粗末にされることには苛立ちを覚えていた。たとえ批判してくる奴らでも同じ人間であり命を持つ生命体なのだから。

 

克也と深雪が教室に入るとざわめきが起き二人は首をかしげていた。

 

「克也さん!深雪!何で学校に来てるの!?」

 

ほのかが悲鳴に似た声で聞いてくるので少し心が痛んだ。

 

「…おはようと言いたいところだけど『何で』とは随分だねほのか。」

「克也お兄様、私達は仲間はずれにされたようです。」

「そのようだな深雪、俺も悲しいよ。」

「克也お兄様…。」

「深雪…。」

 

その言葉を聞いてほのかが眼を白黒させ雫はどうフォローしようか迷っているようだ。二人とも婚約者がいることを知っているのだが美男美女が向かい合って互いの名前を呼び合っているのを見れば思考停止に陥っても仕方が無い。だが幸い二人の困惑は短時間で終わった。

 

「冗談よほのか。」

「その通りだ二人とも少しからかっただけだ。ほのかが言いたいのは今日、師族会議だから俺達が来ないと思ってたんだろう?」

 

二人でまとった空気を素に戻して聞く。

 

「そうです!行かなくてもいいのかなって。」

「気持ちは分かるが俺達は行かなくていいんだよ。出席者は『現』当主であり『次期』当主じゃないからね。それに開催場所は出席者以外は知らされていないから行こうにも無理だからほのかと雫が知らなくても当然だ。二日目の選定会議に出席する師補十八家の方々も今日の時点では大体の場所しか知らされていなくて具体的な場所はまだ通知されていないはずだよ。」

 

同じ頃達也と水波、香澄、泉美もクラスメイトから同じ質問を受け同じように説明していた。

 

 

 

十師族の当主達は箱根にあるそれなりに名の知られたホテルの貸し会議室に命のやりとりにも劣らない真剣な面持ちで集まっていた。

 

不思議な点は克人が父親の後ろに立っていることだろうか。開始時間になり真っ先に手を挙げたのは十文字家当主 十文字和樹(かずき)だった。

 

「私は先日魔法技能を失いましたのでこの場を以て十文字家当主を退き息子の克人に譲ろうと思うのですがよろしいですか?」

「十文字殿がそう言うのであれば誰も文句は言わないでしょう。家督継承を十師族の許可をもらう必要はありませんのでご自由になされよ。それでは新しい十文字家当主として克人殿、席に着かれよ。」

 

最年長の九島真言(まこと)が全員の内心を代弁して発言した。克人が席に着き少しの間反政府活動および侵略行為の監視状況を説明し一段落したあと七草家当主 七草弘一が発言許可を真言に求めたことで残りの八人がげんなりした雰囲気を醸し出す。弘一が発言を求める時は毎回会議がめんどくさくなるため当主達は嫌なのだ。

 

「四葉殿、次期当主のご決定おめでとうございます。」

「ありがとうございます。」

 

互いに言葉だけを見れば祝いの言葉を言いお礼を言っているように見えるが実際にはそんな生やさしいものではなかった。二人は愛想笑いを浮かべているが弘一は眼に嫌な光を浮かべ真夜は冷ややかに見返していた。

 

何故か二人とも既に臨戦態勢で今にも魔法の応酬に発展しそうだった。残りの八人の当主達は『やれやれ』という表情と『またか』という表情に分かれていた。

 

「しかし次期当主候補の従兄である克也殿の婚約は承服いたしかねます。」

「何故でしょうか克也と婚約者は互いにそれを望んでおりますが?」

「彼のような優秀な魔法師の遺伝子を調整体の不安定な遺伝子と掛け合わせてはなりません。それならば有力魔法師との間に子供をもうけるべきだとお考えをお伝えします。」

 

弘一の発言に真夜を除く当主達が眉をひそめる。弘一の発言は調整体という存在を許容していないと言っていることと同じである。

 

真夜はかなり限界に近いようだがここで爆発させれば十師族から外されるどころか魔法社会からの追放にもなりかねないので我慢していた。

 

「本人達の意思は無視すると言いたいのですか?」

「魔法師であるならある程度心を殺すべきだと思いますが?」

「私は何を言われようと婚約を破棄などしませんよ?息子の幸せな姿を見たいですし二人の間に生まれてくる子供に問題はありませんからご心配なく。」

「…それはどういうことか教えていただけますか?」

「教えるつもりはありません。他人の魔法を聞くことはタブーですから。」

「発言いいでしょうか四葉殿、七草殿。」

 

二人の危険な会話に一条家当主 一条剛毅が割り込み少し空気が和らぐが次の言葉で先程より張り詰める。

 

「一条殿どうぞ。」

「ありがとうございます四葉殿。失礼いたします私は息子の将輝の気持ちを優先し克也殿の婚約を推薦いたします。」

「…一条殿貴方は魔法社会の発展を望まないと申しますか?」

「そうは言ってはおりません。確かに心を殺して優秀な魔法師と結婚することは魔法社会の発展に繋がると思っていますよ七草殿あなたの昔のことを知っていますから。」

 

真夜は『昔のこと』という単語を聞いて表情を厳しくしたが気付いた者はいなかった。

 

「七草殿の言いたいことは理解できます。七草殿は確か克也殿に娘さんをお二人婚約させたいとおっしゃっていましたから二人が望むなら解消するべきだと思います。」

「三矢(みつや)殿それは二人が克也殿にアタックをしても構わないと申すか?」

「八代(やしろ)殿男女の相性は交際してみなければ分かりません。もしかしたら克也殿がお二人との方が婚約されている桜井殿より相性が良いと気付くかもしれません。」

「…二人にアタックさせることは認めましょう。しかし婚約は解消しませんそれでよろしいですか七草殿?」

「それで結構です四葉殿。」

 

真夜が渋々頷いた様子を見れたことに満足したかのように明るく返答した弘一であった。

 

 

 

弘一が投げ込んだ爆弾で全員が疲れを見せたあと一度休憩を挟み会議は再会した。最初の発言者は意外にも真夜で爆弾を爆発させた。

 

「皆様は周公瑾という人物をご存じですか?」

「それは誰ですか四葉殿?」

「七草家や九島家の当主がよくご存じだと思いますが説明いたしましょう。」

 

克人が真夜に聞き真夜が二人の名前をわざと出し視線を向けると弘一はポーカーフェイスを保ち真言は背筋を伸ばした。

 

「彼は横浜中華街を根城していた大陸の古式魔法師です。一高での反魔法国際政治団体『ブランシュ』によるテロ、九校戦での国際犯罪シンジゲート『無頭竜』の暗躍、横浜事変でのゲリラ及び大亜連合破壊工作部隊の手引き、吸血鬼と呼ばれる『パラサイト』事件を引き起こした黒幕の日本における代理人を務めた人物です。」

「四葉殿、『務めた』というのは既に粛正済みだということですか?」

「その通りです八代殿。周公瑾は昨年十月、一条将輝と九島光宣の協力を得て達也が仕留めております。ちなみに『ブランシュ』は達也と深雪、十文字殿を含む四人が、『無頭竜』は克也が壊滅させました。」

 

真夜の報告に会議室をざわついた空気が満たした。周公瑾討伐に克也も参加していることを真夜は知っていたが伝える必要は無かったので話さなかった。

 

「それはそれは次世代が育ってくれているのは嬉しいことですね。」

「私や十文字殿からすれば後輩ですが。」

 

六塚(むつづか)家当主 六塚温子の茶々は年長者の笑いを誘ったが真夜が再度投げ込んだ爆弾で和んだ空気は霧散する。

 

「七草殿、九島殿貴方達は周公瑾と関係をもっていましたね?七草殿は配下の名倉三郎氏を使い周公瑾とコンタクトを取り民権党の神田議員を間接的に利用し一高へ押しかけさせ反魔法師運動を煽っていたのは調べで着いています。九島殿は周公瑾の要望を聞き入れ『道士』と呼ばれる大陸の魔法師を保護しましたね。何かおっしゃりたいことはありますか?」

「四葉殿私は周某が何かを仕掛けているとは知らなかった。」

「貴方が保護した『道士』が私の息子と姪と貴方の息子である克也と達也、深雪、光宣を襲ったことはご存じですか?」

「…それは知らなかったお許し願いたい。」

「何事もありませんでしたからお気になさらずに。七草殿はどうでしょう。」

 

真夜は真言に対しては穏やかに話していたが弘一に向くと先程と同じように冷ややかに見つめていた。

 

「確かにその人物とは関係を持っていました。反魔法師運動を活発化させガス抜きをさせ魔法師に被害が出ないようにしたまでです。それに彼は危険だと判断し名倉三郎に消すよう命じましたが返り討ちに遭い無残に殺されました。」

「その後何故我々に援軍を出さなかったのですか?」

「名倉氏は当家にとっても指折りの実力者でした。その彼を容易く殺す魔法師がいると痛感させられこれ以上犠牲を出さないために派遣しなかっただけです。」

「それならその情報を我々に与えてくれればよかったのでは?」

「必ず情報を他の十師族に伝えなければならないという約束はありませんから伝える必要は無いと判断していました。あの時は名倉氏が亡くなったことを受け入れられる状態ではありませんでした。そのため正常な判断が出来ずあのような判断をしてしまったという次第です。」

「この四ヶ月の間に伝えることが出来たのではありませんか?」

「それ以降も忙しく思い出す時間が無かったのですお許しを。」

 

剛毅と弘一の会話を残りの当主は聞いていたがもっともらしいことを言っているが胡散臭く感じ疑いの念を弘一に向け始めていた。

 

 

 

翌日、選定会議は前回と変わらないメンバーで始まった。

 

「昨日話していた周公瑾という人物のことですが彼はこの日本における黒幕の代理人と四葉殿はおっしゃいましたが誰が差し向けたのでしょう。」

「それは私からお伝えします二木(ふたつぎ)殿。周公瑾の黒幕は『顧傑(グ・ジー)またの名をジード・ヘイグ』といい彼の捜索にはUSNAも協力してくれています。」

「USNAがですか…?どうやって協力してもらえたのですか?」

「顧傑は『ブランシュ』の総帥、『無頭竜』前首領リチャード=孫の兄貴分であり『パラサイト』事件の指導者、最近USNAで『ブランシュ』より勢力を伸ばし過激な活動を続けている『ノーブル』の設立者です。」

 

当主達が驚愕している間も真夜は話し続けた。

 

「政府によって情報統制されており皆さんぐらいしか知られていないUSNAの魔法基地が襲撃された事件ですが襲撃したのは『ノーブル』のメンバーです。そしてUSNAと共同捜査できるように努めてくれたのは私の息子の克也による功績です。」

「克也殿ですか彼は魔法力だけではなく人と人とを結びつける能力が高いようですね。その協力は四葉家だけですか?」

「我が四葉家との間の約束事ですが情報が入り次第お伝えしようと思っています。ご心配なく七草殿のように伝えないということはありませんから。」

 

五輪(いつわ)家当主 五輪勇海(いさみ)に真夜は頷きながら答えた。『USNAの兵器保管庫から旧式携行ミサイルが盗まれた』ことは絶対に話さないと克也がUSNAと約束したため真夜は話さなかったがこれ以外は伝えるつもりなので全てが嘘というわけではない。

 

「その首謀者はどこにいるかは誰にも分かっていないようですが案外この会議を狙っているかもしれませんな。」

 

八代雷蔵(らいぞう)の言葉を発したのと同時に激しい音と振動が会議室を襲った。それはまったくの偶然で各当主達も驚きで何が起こったか理解できていなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。