魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第六十三話 暴挙

二月十一日月曜日、四人が学校に登校すると妙に校内がざわついていることに気付いた。

 

「ほのかおはよう、何があったんだ?」

「あ、克也さん深雪おはよう。一条さんが職員室に入っていったのを見た生徒がいるらしくてその噂が流れてるみたいです。」

「「将輝(一条さん)が?」」

「制服の色は?」

「赤だったそうですよ。」

 

制服がそのままだということは転校ではなく事情があって来たのだろう。まだ将輝本人だと決まったわけじゃないが彼ならテロのことで調査しに来たというところか。

 

「まだ、あいつだと決まったわけじゃないから悩んでも仕方ないよ。来ているなら一限目の前に俺達に対して説明があるだろうから変な先入観を持たない方が良い。」

 

「そうですね。」

 

ほのかを説得してから席に着き情報端末を開く。手慣れた動作でお気に入りの書籍サイトに接続し小説の世界にのめり込む。

 

 

 

将輝が来ていたことは事実らしく一限目が始まる前に教頭先生と共にA組にやってきた。事情は詳しく説明されなかったが俺の予想通りだろうと思っていた。将輝が座る席は先月自主退学した生徒の空いた席になり俺の横になったため話をするのが楽になった。

 

一限目と二限目の間の休み時間に俺は将輝を連れ出した。俺と将輝が廊下を歩いていると喜びに満ちた悲鳴があちこちから上がったが無視して空き教室に向かう。部屋に入って遮音フィールドを張り真剣な面持ちで向かい合う。

 

「今回一高に転校ではなく移籍したのはあの件が理由か?」

「ああ、向こうでは調査しにくいから三高の校長に頼んで一高に行けるようにしてもらったんだ。魔法科高校のデータは魔法大学を仲介としてどの高校にも送ることが出来る。座学なら三高の授業を一高でも受けられるからな実技や体育は対象外だが。」

「お前なら一ヶ月程度なら問題ないだろ?三高と一高の実習内容は真逆と言っていいほどかけ離れているが良い経験になると思う。しばらくの間は俺達に頼って早くこの環境に慣れてくれ。そうすれば捜査の時も安心して動けるだろ?」

「すまんな、不謹慎だがこんな経験を出来るのは滅多にない楽しませてもらうぞ。」

「ふふふ、天狗にはさせないよ将輝君。」

 

空き教室で二人は互いに人の悪い笑顔で向き合っていた。女子生徒がその光景を見ればこう表しただろう

 

『悪魔の密約会議』

 

と。空き教室から帰ってくると深雪に説明を求められたが何も隠すことはなかったので話しておいた。

 

 

 

今日の実習はリーナと勝負したのと同じものだった。どうやらこの学校ではこの実習がよく行われ魔法力がどれだけ伸びたのかを計測するための恒例行事らしい。

 

「克也、これはなんだ?」

「簡単に言うと事象干渉力と魔法発動スピードを競い合って勝敗を決める遊びだな。」

「遊び?」

「俺からすればこれは遊びだと思ってしまうんだよ。九校戦とは違う本当の実戦を俺達は経験してるからな。」

「お前の気持ちは理解した。それで一番強いのは誰なんだ?」

「深雪だよ。」

「お前より強いのか?次期当主なら分からなくもないが。」

「四葉の当主は『強力』な魔法師ではなく『優秀』な魔法師が継ぐから判断材料にはならないよ。俺は演算処理つまり魔法の発動スピードが速いけど深雪は事象干渉力が高いから先に発動させても結局最後は押し切られちゃうんだ。」

「それなら俺も司波さんには勝てなさそうだな。俺と勝負をしないか?雪辱を果たすぜ?」

「また負けるのが落ちだよ将輝。」

「言ってろその余裕の笑みを驚愕に変えてやる。」

 

最初は真面目な話をしていたはずなのに互いに煽り始め結局勝負で決着を付けることになった。俺達が装置の前に立つと先ほどまでざわついていた実習室が静まり試合を見つめる。

 

「カウント行くぞ克也。」

「いいよ。」

「スリー」

「ツー」

「ワン」

「「ゼロ!」」

 

順番にカウントダウンし最後に声を合わせて発しパネルに手をたたきつける。使うのは単一工程の移動魔法。金属の球を相手側に押し込み合う。一瞬の均衡の後金属の球が将輝側に落ちる。

 

「またかー!」

「三戦三勝だ将輝。俺には勝てねえぞ?ふふふふふ。」

「ぐぬぬぬぬぬぬ。」

 

将輝が歯ぎしりしている姿を見て俺はほくそ笑んでいた。周りの生徒達は『さすが主席』とでも言いたげな表情で二人を眺めていた。

 

「深雪何が起こったか見えた?」

「私にもはっきり見えなかったけど克也お兄様の方が魔法の発動が早くて一条さんに勝ったんだと思うわ。」

「克也さんの発動スピードがさらに上がってる気がする。あれは反則級だよ。」

「克也お兄様は四葉史上最速の魔法発動速度を有していると叔母様に教えられたからその名に恥じないことを示したのよ。『神速』の名は伊達じゃないのよ。」

 

克也の二つ名を出しながら自慢気に答える深雪をほのかと雫は優しい笑みで見つめていた。

 

その頃将輝は克也に文句を言っていたが克也はどこ吹く風とばかりか明後日の方向を見ていた。

 

 

 

「将輝、一緒に昼食を取らないか?」

「いいのか?」

「もちろんですよ一条さん。誰も断りはしませんから。」

「是非に。」

 

将輝を食堂に誘いいつものメンバーと食事を始めているとエリカが先ほどの実習のことについて聞いてきた。

 

「こっちは均衡が長く続くから見ててあんまり面白くないのよね~。A組ではどうだった?」

「克也さんと一条さんが戦ってましたよ。克也さんの圧勝でしたけど。」

「え?一条君また負けたの?」

 

エリカは悪気があってした質問では無いのだが負けた人間からすると嫌みにしか聞こえないが将輝は優しいからか怒らずに苦笑しながら答えた。

 

「完敗だよこいつには勝てる気がしない。魔法発動スピードが異常だ。」

「その言い方は不本意だぞ将輝。」

「だが一条の言いたいことは理解できる。克也の魔法発動スピードは人間の限界に肉薄しているからな。一種の化け物だ。」

「…達也から人外扱いをされるのは正直かなりへこむ。」

「達也も十分化け物だけどね。」

「幹比古に同意だな。」

「幹比古、お前も一度話し合わなければならないようだな。」

「よしてよ達也!何で僕だけ!?」

「気分だが?」

「余計に質が悪いよ!」

 

このように楽しげな会話と一部悲鳴があったが楽しそうな空気に女性陣は微笑まし気に見ながら微かに大人気ないとでも言いたげな表情をしていた。

 

 

 

顧傑の捜査は達也が黒羽家に呼ばれた日以外何も進展していなかった。達也は黒羽家が見つけた顧傑の潜伏場所に行くとジェネレーター三体しかおらず顧傑は逃走した後だったらしい。どうやらこちらとのやりとりを『フリズスキャルヴ』で傍受され暗号を解読されたらしい。

 

 

 

今日はまたしても面倒な一日が始まった。普通の少年なら嬉しい日であり魔法科高校の男子生徒も一緒だが俺はそれに乗ることは出来なかった。何故なら顧傑の捜査が一切進まないので徒労感を覚えていたからだ。

 

「よう克也どうした?」

「いや、少し悩みがあってな。」 

「悩み?奴が捕まらないことならお前が気にしなくても良いと思うが。」

「それもあるが今日がちょっとね時間が経てばわかるよ。」

 

俺の言葉に将輝は分からないとばかりに首をかしげていたがそれは女子生徒が教室に来るまでの僅かな時間だけだった。

 

「一条君も司波君もあげる!」

 

俺達二人にラッピングされた小箱を有無を言わせず握らせて走り去っていった。

 

「克也これは?」

「しばらくはこれが続くと思った方が良い。」

 

将輝の質問に正しく答えずむしろ注意を促していると先ほどの女子生徒をきっかけにして多くの女子生徒が俺達の机の上にラッピングされた小箱の山が出来上がってしまった。クラスの男子からは嫉妬の眼を向けられるが不可抗力なのでどうしようもない。

 

「警告の理由は理解できたが何故こんなことになった?」

「…お前今日何の日か知らないのか?」

「何か行事でもあるのか?」

 

天然さにため息をつきたくなるが堪えて説明してやる。

 

「今日は十四日つまりバレンタインデーだよ。」

「…なるほど理解した。克也は知ってたのか?」

「いや、朝教えてもらった。嫌なことを思い出すからもらいたくはないが邪険にはできない。向こうではもらわなかったのか?」

「もらっていたが今回は捜査で日にち感覚を忘れていた。」

「まあいいけどこれやるから全部持って帰ってやれ。」

 

手提げカバンを将輝に一つ渡す。朝、何故か水波と深雪に一つずつ渡されそのまま持ってきたのだが役に立ったということはもしかしたら二人は将輝が知らないことを見越していたのかもしれない。達也は一つ持っていたが俺が二つ持っていることを不思議だとは思っておらずむしろ当然とばかりに見ていた。

 

昼食時は女子生徒から逃げるために生徒会室を利用した。水波が何故か着いてきたが気にせず弁当を食べ誰も見ていないからか水波は俺の左腕に抱きつき幸せそうに至福の笑みを浮かべていた。

 

克也達が年相応の気分に浸れたのは一日だけだった。

 

 

 

二月十五日金曜日昼頃、魔法関係者達にとってもっとも恐れていた事態が勃発した。反魔法師団体によって組織されたデモ隊が魔法大学構内に侵入しようとしたところを警官と揉み合いになったのだ。魔法大学には国防上の機密にあたる情報を大量に保管しているため部外者の立ち入りを厳しく制限しているため警官の取った行動は魔法師を擁護するものではなく政府の方針に従っただけなのだがデモ隊は知ってか知らずしてか警官を非難し暴力行為に出た。

 

「ついに始まったか。」

「始めやがったな。」

「やってくれたね。」

「馬鹿馬鹿しい。」

 

昼食中にニュースを見た俺の言葉を始めにレオ、幹比古、エリカが文句を言う。

 

「逮捕者が二十四名か最近にしては多いな。画面に映った限りは二百人ほど全てを含めると五百人ぐらいか。ここ五年のデモの中では一番の多さだこれをきっかけにしていろいろな場所で起きなければいいが。」

「それは難しいと思うよ達也。こんなのは始まりに過ぎないからどれだけ懸念しても食い止めることは出来ない。」

 

俺はこの場の空気を悪化させることをわかった上で達也の意見を切り捨てた。

 

「『言論の自由に対する侵害』『集団行動の自由は集会の自由と同様に尊重されるべき』ね。デモ隊の行動を肯定し警官の対応を否定するのはいかがなものかと思うが心情を考えればそうなるか。」

「克也の言う通りだと僕も思う。この弁護士と同じ意見を述べる輩は増えるだろうね。」

 

幹比古の不吉な予言を否定することが出来たのは一人もいなかった。

 

 

 

午後三時頃、十師族から日本魔法協会本部を通じてマスコミ各社に抗議文を送った。

 

『魔法大学は常に部外者の立ち入りを普段から厳しく制限しているため今回の警官の対応は魔法師を擁護したわけではなく政府の方針に従っただけであるため警官を避難するべきではない。』

 

という内容だった。これのおかげなのかデモ隊の行動を批判するマスコミと警官の対応を非難するマスコミに真っ二つに分かれ昼夜問わず討論が日本各地で起こっていることを克也達は知らなかった。

 

 

 

翌日も事件が起こり魔法科高校生徒達は不安に押しつぶされそうになっていたが各高校に政府が派遣した特殊部隊が警備していたためデモ隊は侵入することは出来なかった。しかしそれは校内にいるときであって登下校中は含まれない。そのため一般人と変わらない不審者がいたとしても気付かないうちに事件に巻き込まれてしまうことがある。今日のように。

 

克也と達也は捜索に向かう途中事件のことを聞き学校に引き返していた。

 

「詳細は?」

「二高の女子生徒が下校中に数名の『人間主義者』に襲われたそうです。その際自衛として魔法を発動させたようですが加減を間違い重症を負わせてしまったようです。」

「回線は?」

「今接続中です。」

「接続完了しました。」

 

深雪に一つずつ事件のことを聞いていると水波が二高との回線が繋がったことを伝えてくれた。お礼を言いマイクに話し掛ける。

 

「こちら第一高校生徒会副会長 司波克也です。どうぞ。」

「こちら第二高校生徒会副会長 九島光宣です。克也兄さんテレビ回線に変更してもらえますか?」

「光宣か了解、少し待っててくれ。」

 

副会長が光宣だったことに驚いたが実力を考えれば妥当な人選だ。回線を変えると映し出されたのは相変わらず少年としての美貌をした顔だった。

 

「光宣、事件の詳細を教えてくれ。」

「分かりました克也兄さん。本日午後、女子生徒が一人で下校中突然男六人に囲まれました。」

 

俺の友人としての質問に光宣も同じ対応で答えてくれたが光宣の報告に生徒会室にいる全員が眉をひそめた。特に女子生徒五人が。

 

「囲んだ男達が『人間主義』の教義を説き始めたので女子生徒はどくようにお願いしましたが聞き入れられませんでした。そこで防犯ブザーを鳴らそうとすると掴み掛かられました。」

「その後は?」

「偶然通りがかった一年生三人と二年生一人の男子生徒が駆け付け乱闘になりました。男達は格闘技を習っていたようで二年生が殴り倒されたのを見た女子生徒が魔法を放ち怪我をさせたという次第です。」

「怪我の状況は?」

「二年生が鼻骨骨折、鼓膜破裂、肋骨亀裂骨折、数カ所に内出血。内臓にもダメージがありかなり重症です。一年男子一名が鎖骨骨折、一名が脳振盪。もう一人と女子生徒は無事です。」

「『人間主義者』の方は?」

「魔法の影響で一人が不整脈が一名、一人が転倒したときに顔を強打し口内を切って歯が一本折れています。残りは軽い擦り傷程度です。」

 

『人間主義者』より生徒の方がよっぽど酷い怪我だ。

 

「生徒の方が重症だろ。誰が『人間主義者』の方が重症だって言い出したんだ?」

「魔法による不整脈が酷かったと思われたようです。精密検査の後は元々高血圧で不整脈が出やすい人だと分かったんですが報道で重症だと言われたようです。」

「厄介事がまた増えた。ありがとう光宣助かった気を付けろよ?」

「こちらこそありがとうございました。そちらもお気を付けて。」

 

電話を切るとため息を大きく長くついた。

 

「今回は許されるだろうがこの先が危ぶまれるな。」

「達也さんどういうことですか?」

「この先被害を受けなければ魔法による抵抗は許されないと言い出す政治家や裁判官が出てくるかもしれないということだよ。」

「司波先輩、それでは魔法師には自己防衛の権利が無いという結論になってしまいます。」

「それならば魔法以外の方法で自衛すればいいと言い出すだろう。魔法以外の方法で自分を守れるのはごく僅かだ。特に女子生徒は危険すぎる俺達でも守り切れない。」

達也は無表情に言葉を発した。

 

 

 

数日後、深雪達は一高の最寄り駅前に卒業生に送るための記念品の打ち合わせに来ていた。泉美と水波を連れて来た理由は来年のための経験だ。水波の場合は克也に頼まれて深雪を護衛していると言ったほうが正しい。一高への帰り道深雪達は恐れていた事態が発生していたのを今気付いた。

 

「貴方達何をしているのですか!」

 

泉美が一高の女子生徒を囲んでいる男達に叫ぶと数人がにやつきながら振り返った。

 

「おいあれ、四葉克也の婚約者と一高の生徒会長だぞ。」

 

と言う声が聞こえたかと思うと男達がこちらに向かって走ってきたため水波は反射的に魔法障壁を張った。水波の判断は正しくその数秒後男達の掴み掛かろうとした手は障壁に阻まれていた。

 

「魔法を使うなど許されん!罰を与えよ!」

 

リーダーらしき男が右手を挙げ、勢いよく振り下ろす。彼の左右に立つ四人の青年が右手の中指に真鍮色の指輪をつけ前に突き出す。

 

「アンティナイト!?」

 

泉美の口から叫びを上げる。

 

「天罰!」

 

リーダーの号令と共にキャスト・ジャミングのノイズが三人を襲う。水波がうめき声を上げて胸を押さえ体勢を崩す。揺らいだ障壁に向かって男達の手が突き出された。

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