魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第六十四話 暴走

俺は達也と二手に分かれて捜査をしていたが向かっている途中嫌な予感を感じていた。何かが水波達に向かって行くのを。さらに進んでいると水波の気配が揺れているのを感じバイクを急旋回させ一高へ向かう。

 

{水波!誰だか知らんが揺るさん。}

 

殺意を纏いながら交通法に違反しないギリギリの速度で向かう。

 

『達也、感じたか?』

『ああ、可能な限り全速で向かっているが五分はかかる。』

『俺もだ。急ぐから頼む。』

 

硬質な声で『念話』でやり取りしながらも一高へ向かう。水波の無事な姿を確認しない限りこの焦りは抑えきれないところまで上昇していた。

 

 

 

一高に着くと男どもに囲まれている女子生徒がいたがそこに水波いるのは見ずとも確信していた。男達が手を突き出しているが眼に見えない壁に阻まれるかのように途中で止まってしまい水波が苦しげに顔をしかめながら必死に魔法障壁を保っていた。

 

バイクを通行の邪魔にならないように置きヘルメットをゆっくり脱ぎながら息を吐く。そうでもしなければ今すぐにでも消してしまいそうだった。

 

克也にとって今もっとも大切な存在は達也でも深雪でもなく『水波』だ。最愛の婚約者が苦しんでいる姿を見れば意識するよりも早く魔法を放ってしまいそうになる。深雪が嫌悪感をあらわにしている表情を見ても殺意には繋がらない。それなりには怒りもするが『水波』ほどではない。

 

男達の指輪に向かって『燃焼』を使って燃え散らす。「腕を向ける」や「指さす」など余計な行動をしなくても意識を向けるだけで魔法が発動する。CADなど必要ない。タイムラグはほぼなく発動ともに指輪が燃え散る。

 

「克也兄様!」

 

水波が嬉しそうに言ってきたので笑みがこぼれそうになったが怒りでそれは消える。

 

「どけ!」

 

克也の口から鋭い怒号が響き男達は数歩後退る。自分達より明らかに強い人間に恐れた結果だった。その隙を見て水波と深雪、泉美が男達の囲いから抜け出しこちらに走り寄ったことを男達は確認しようやく自分質がどんな状態にいるかを認識した。

 

「水波、障壁を張ったまま学校に入れるか?」

「可能です。」

「では二人を守ったまま校門の中に入って少し待ってろすぐ終わらせる。」

 

命令通りに水波が二人を守りながら校内に入ったのを確認する。泉美はこの一年間見たことのない克也を見て怯えていた。自分が思っていた『四葉克也』は優しく誰にも分け隔て無く関わる人間だったが今の『四葉克也』は狩猟する狩人のように見えていた。

 

三人が一高に入ってようやくリーダーは部下に命令を下した。

 

「同志よ邪教の徒を逃がすな!」

 

それは不幸な結果をもたらすだけだった。克也を無視して三人を狙う五人の男達は克也の横を一歩も前に踏み出すことは出来なかった。全員がほぼ同時に攻撃を喰らい地面に突っ伏したが克也は無表情にいや人間を見るような眼ではなく『世界の異物』を見るような視線を倒れた男達に向けていた。

 

「貴様!一般人に攻撃をするとは死を以て償え!」

「お前ら誰に何をした?」

 

リーダーの男の言葉に耳を貸さずに冷え切った声音で聞く。泉美は腰を抜かし地面にへたり込み水波は後退りし深雪はまるで寒さに震えるかのように体を震わせながら克也を見ていた。

 

「誰に何をしたかって聞いてんだけど聞こえないのか?その耳は飾りか?」

 

克也が背筋も凍るような声を発しながら一歩ずつ近寄る。克也が歩いた痕は燃やされたかのようにコンクリートが溶けへこんでいた。克也を覆う想子が克也の感情に反応し得意魔法である振動系加速魔法が発動されていた。

 

克也の抱いている感情は『怒り』ではなく『憤怒』。想子が熱を発し陽炎のように揺らめきながら克也を覆っているため克也自身が熱を発しているかのように見える。

 

『克也落ち着け!今すぐその怒りを抑えろ!周りに被害が…。』

 

達也からの『念話』を遮断し男に近付きながら聞く。

 

「俺の『もの』を苦しめやがって許さん、貴様らには地獄に行ってもらう永遠に続く痛みと苦しみを味合わせてやるよ!」

 

俺の叫びに男達が腰を抜かし四つん這いで逃げようとするがそれが滑稽に見え笑いが止まらなかった。

 

「ハハハハハハハハ!なんだよその動きはそれでも人間か?もはやゴミだなお前らは!」

 

普段の克也なら言わないような言葉を聞いて三人は青ざめていた。

 

{なんて快感だ!これが『怒り』という感情か素晴らしいこれがあれば『水波』を傷つけずに幸せに暮らせる。素晴らしいぞ!}

 

克也は感情に飲み込まれかけていた。強い感情はときに人を飲み込みあられもない姿に変化させ人間性を奪う。それが今克也に起こっている現象だった。

 

俺に向かってナイフを切りつけてくるリーダーを腕を振る風圧で吹き飛ばし四つん這いになって逃げている男に近づき首を掴み持ち上げる。

 

「は、はな、せ。」

「それが人にものを頼む態度か?どちみち言い方を変えても許しはしない。水波見ていろお前を苦しめた人間の命が消える瞬間を!グハァ!」

 

克也が言葉を言い終え首を絞めようとすると背中を強烈な衝撃が襲った。振り返ると狼狽の表情を浮かべた達也が立っていた。

 

 

 

克也が怒りながらリーダーに向かって歩いている最中達也はバイクで一高へ可能な限りの速度で向かっていた。その道中今までに感じたことのない恐ろしい怒気を感じ冷や汗をかいていた。

 

{なんだこのおぞましい怒気は!?克也なのか?だがこれはまずい!感情が膨らみすぎて飲み込まれかけている!}

 

『克也落ち着け!今すぐその怒りを抑えろ!周りに被害が…。』

 

『念話』を一方的に切られ何度かけても繋がらず遮断されたのだと気付いた。一高に着きバイクを放置し体術で克也に急接近し克也の背中に蹴りを喰らわせるとこちらを振り向き睨み付けてきた。その眼はもはや人間ではなく悪魔そのものだった。

 

「克也目を覚ませ!俺はお前と争いたくはない!」

「お前も俺から水波を奪うのか許さん!水波は俺のものだぁぁぁぁ!」

 

俺の言葉に耳を貸さず魔法を放ってきた。『グラム・ディスパージョン』を使い魔法を無効化したが魔法の兆候を感じさせず肉薄され蹴り飛ばされる。

 

「ぐ!」

 

とてつもない衝撃が体を襲い吹き飛ばされ壁にたたきつけられた。

 

「達也お兄様!」

「来るな深雪!」

 

俺に駆け寄ろうとする深雪を押しとどめ立ち上がる。

 

{何だ今の速度は魔法の兆候を感じなかった。それにこの蹴りの威力、想子を使って筋力をブーストしたのか?感情が原因ならそれは精神が崩れているということそれを治せば克也は元に戻るはずだ。だが『あれ』を使うには接触しなければならないやむを得ん。}

 

達也は自ら克也の懐に突っ込み攻撃を繰り出す。右フック、左足払い、右ハイキックことごとく避けられるがそれが達也の狙いだった。連撃の隙を狙って克也が攻撃を繰り出してくるのでそれを躱しまた同じように攻撃し克也の攻撃を躱すのを繰り返す。

 

どれくらい経っただろうか克也がついに動き達也が腰を折り足を浮かすほどの強烈なパンチを達也の腹に喰らわした。

 

「グハァ!…捕まえたぞ克也。」

 

肋骨を折られ内臓を潰されながらも克也の攻撃を受け止め笑顔で笑う達也。

 

「目を覚ませ克也ぁぁぁぁぁ!」

 

掴んだ腕から『再生』が発動される。達也の固有魔法『再生』が克也の精神に作用し『憤怒』が『怒り』にそして『怒り』が無かったことになった。克也の体を覆っていた禍々しい想子の嵐が収まり克也は目を閉じたまま動かなかった。自分にも『再生』を使い肋骨骨折と内臓破裂がなかったことにし克也を抱えて一高に向かった。

 

 

 

「う…ここは?」

 

目を覚ますとそこは見覚えのある部屋だった。

 

「ここは俺の部屋か?俺は何でここに?一高にいたはずじゃ…。」

 

夜の色に星を散りばめた天井を見上げ気付く。寝息が聞こえたので聞こえた方に眼を向けると水波が肩から上を俺のベッドの上に乗せながら寝ていた。何が起こったのか分からずにいるとドアが開き達也が入ってきた。

 

「目が覚めたのか?」

「達也俺は一体何を、一体何があったんだ?」

「詳しく話そうリビングに来てくれ。」

「分かった。」

 

重い体を持ち上げ寝ている水波を自分のベッドに寝かせリビングに向かった。

 

 

 

リビングには深雪と達也が深妙な面持ちでソファーに座っていた。時計を見ると午前九時を指しており今日は平日なはずなので学校があるはずだ。

 

「達也、学校に行かなくていいのか?」

「学校はしばらく休みだ」

「休み?なんで?」

「それも含めて話をする。」

「わかった。」

 

達也の真剣な表情に俺は余程なことがあったのだと直感した。

 

「まず、学校は今日から一週間臨時休校だ。『人間主義者』が二高に続き一高でも起きたんだから判断は正しい。次にお前は自分が何をしたかわかっているのか?」

「俺が何をしたんだ?」

 

俺はとぼけたわけではない。本当に記憶がないのだ。

 

「どこまでなら覚えている?」

「『人間主義者』に近付いて質問をしたところまでだ。」

「お前は記憶がないんだな?」

「ああ、俺にもわかるように説明してくれ。」

「わかった、お前は暴走した。」

「そんな馬鹿な、俺が暴走だなんてあるわけがない。…深雪本当なのか?」

「本当です。」

 

深雪の言葉に俺は愕然とした。自分がそんなことをするはずがないと思っていたのに実際はしていたことは俺の心を深く傷つけた。

 

「俺は誰かを殺したのか?」

「いや、殺していないから大丈夫だ。水波にお礼を言っておいてやれよ?お前が倒れてからさっきまで夜も寝ずに看病してくれたんだからな。」

「分かった、目が覚めたらお礼を言っておくよ。泉美はどうした?」

「かなり怯えていましたから誤解を解くべきだと思います。克也お兄様、後ほど謝罪をした方がよろしいかと。」

「分かった、泉美にもしっかりと謝っておくよ。」

 

俺はしっかりと頷き笑みを浮かべた。達也と深雪は克也の笑顔がいつも通りだったことと元の克也に戻ったことを喜んだ。

 

 

 

俺は達也と深雪との会話を終え七草家へ電話していた。出たのは意外にも真由美だった。

 

『あら、克也君どうしたの?』

「朝早くにすみません泉美はいますか?」

『何か用事?』

「ええ、昨日のことについて謝罪したいことがありまして。」

『分かったわ少し待ってて。』

「お手数をおかけします。」

 

真由美が泉美を呼んでくるまで数分かかったがやってきた泉美は怖がっていた。

 

「泉美、大丈夫か?」

『…正直言いますとまだ怖いです。』

「俺は自分が何をしたのか記憶が無いだが迷惑をかけたのだと理解しているすまなかった。」

「泉美、俺からも謝罪する許して欲しい。」

「泉美ちゃん、私からもお願いごめんなさい。」

 

上級生三人に同時に謝られるのは精神的に悪いと分かっていたが謝罪したいのは本気だったのでその感情は胸にしまい込むことにした。

 

『謝罪を受け入れます。』

「ありがとう泉美。」

『それほど悩むことではありませんから来週お会いできることを楽しみにしています。それでは。』

「ああ、また来週ね。」

 

泉美が謝罪を受け入れてくれたおかげで心の重荷が減ったことで気分も良くなり楽になった。

 

 

 

「達也早朝何をしていたんだ?」

 

翌日の朝、俺の何気ない質問に達也はコーヒーで咳き込み深雪は顔を真っ赤にして俯いてしまったので余計に何が起こったのか知りたくなった。

 

「さすがに言えん。だが顧傑をこの眼で確実に捉えたからもう逃がすことはないとだけ言っておこう。」

「捉えたというのはどういう意味だ?」

「俺は普段『精霊の眼』の『リソース』を深雪に割り当てている。」

「『リソース』?」

「注意力や集中力その他諸々を含めた意味で俺は『リソース』と呼んでいる。話を戻すが俺が全『リソース』の七割を使えば国から特定の人間を見つけることが出来る。だが俺は『感情的な問題』で深雪から『眼』を話すことが出来ない。一瞬でも離れた瞬間に深雪に何かが起こりそうで怖くて仕方が無い。俺が眼を離しても深雪は怪我をすることもない昔とは違うと理屈では納得しても『感情』が納得しない。『眼』で視えなければ俺は安心できないならば感じることが出来れば『感情』が納得してくれるのではないかと仮説を立てた。」

 

達也の説明を聞き逃すまいと克也は真剣に耳を傾けていた。

 

「深雪の体温を実感できたことで俺は深雪から『眼』を離すことが出来た。そのおかげで奴に『印』を打ち込むことができたからもうあいつを見失うことなどない。この世界に存在している限り世界の何処にいようと見失わない。」

「つまり次は捕縛することが出来るというわけだね?」

「ああ、奴を捕まえてテロ事件を解決したと世間に知らしめることが目的だ。成功すれば俺達に向けられる視線もマシになるだろう。」

 

近いうちに顧傑を捕獲できるのは確実だということがはっきりしたことに安堵したが一つ聞き忘れていることを思い出した。

 

「聞き忘れていたんだけど『体温を感じることが出来た』って言ってたけどどういうこと?体温を感じるだけでいいなら手を握るだけでいいだろ?」

 

俺の質問に達也は情報端末を取り出し小説サイトを開いた。『回答を拒否する』とでも言っているかのように視線をこちらに向けてこない。深雪はといえばさらに顔を真っ赤にして今にもボッと音がして爆発しそうになっていたので俺は首を傾げて二人を見ていた。


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