魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第六十八話 落胆

入学式前日の夕食後、達也は予想外の人物から連絡を受けていた。

 

『久しぶりだな特尉。』

「その呼び方は秘匿回線ですか?よくもまあ毎回毎回、一般家庭用回線に割り込めるものです。」

『簡単ではなかったがな。特尉の家は一般家庭にしてはセキュリティが厳しくないか?』

「最近のハッカーは見境がないですから。それに家には色々と見られたくないものが多いので。」

『そのようだな今も危うくクラッキングを喰らいそうになった。』

「それは自業自得というものです。余程深く侵入しない限りカウンタープログラムは作動しません。」

『新米オペレーターにもいい薬になっただろう。』

 

むしろ毒になり辞めていきそうだったが達也の管轄外なので口を挟むことではない。

 

「ところで今回のご用件は?」

『うむ、先月駿河湾沖で顧傑を取り逃がした際に使った【戦略級魔法】のことなんだが。』

「克也を呼んだ方がよろしいですか?」

『頼む。』

 

風間に達也は少し待ってもらうよう頼み地下室でCADの調整をしている克也の元に向かった。

 

 

 

自動ドアを抜けるとキーボードをすさまじいスピードでタイピングしている兄に近づき用件を伝えた。

 

「風間さんが?」

「ああ、すぐに来て欲しいらしい。」

「分かった。」

 

克也はすぐに立ち上がり達也の後を追い掛けリビングに向かった。

 

 

 

「お待たせしました。」

『二分もかかっていないんだそんなことで機嫌は損ねん。達也なら俺の我慢強さを知っているだろう?』

「重々承知しております。」

 

時間を計っていたのだろうか経過時間を伝えてきた。何故そんなことをしていたのか気になったが今は用件を聞くことが先だ。

 

「ご用件はなんでしょうか風間さん。」

『言いにくいなら『中佐』と呼んでいいんだぞ?』

「自分は達也と違って軍人ではなく一介の魔法師です。軍関係者でない自分がそう呼ぶと周りに誤解を与えますから。」

『達也と違って生真面目だな克也は。』

「達也も真面目だと思いますが。」

「中佐そろそろご用件を。」

『すまん達也。』

 

話が脱線し目的が変わってきたので達也が軌道修正すると風間は自分のミスを自覚して謝罪した。

 

『今回来てもらったのは克也が使用した【レーヴァテイン】のことで耳に入れて欲しいことがあったからだ。克也の魔法を【戦略級魔法】と認め国内三人目の【戦略級魔法師】として認定すると統合幕僚会議で決定した。発表は克也が第一高校卒業し司波深雪が四葉家当主を継承したときと決まった。質問はあるか?』

「発表の名前は実名ですか?実名だと卒業した後も行動しづらくなります。」

『それは分かっているだが今の段階では決定していないのだ。君が卒業するまでには決めておこう。あの魔法の使用者を見つけようと大亜連合や新ソビエトが動き出している気をつけろよ克也。君はこれから狙われるかもしれんから当主に護衛を増やしてもらった方がいいと思うが。』

「いくら四葉家でも俺を護衛できる魔法師は早々に準備は出来ません。」

『そうだろうな失礼した。』

 

風間は克也の傲慢ともとれる発言を否定しなかった。克也が日本ではトップの世界でも片手に入ると言われるほどの魔法力を持っているのだから大口をたたいても誰も攻めることは出来ない。克也も傲慢だと自覚しているが誰より自分の実力を理解しているからこそそんな発言をしたのだ。

 

『おっと長話をしすぎたようだ新米が焦っているから切るぞ。』

 

どうやらネットワーク警察に回線割り込みのしっぽを掴まれたらしい。この場合ネットワーク警察の腕前を褒めるべきか風間の部下の腕にため息をつくべきか判断に迷うところだ。

 

『ではまた会うときがあればな。』

 

その言葉を最後に風間との連絡は切れた。

 

「達也今のはどう判断すればいいと思う?」

「どっちもどっちだな、お相子でいいと思うがもう少し腕を上げて欲しいな。」

「叔母上にも伝えた方がいいよね?」

「隠す必要も無いし言わなければ後々怒られそうだし言っておくべきだろうな。」

 

達也と意見を交換し四葉家へ直通電話で連絡する。

 

『これはこれは克也様と達也様、本日はどうなされました?』

「夜分遅くに申し訳ありません叔母上はどちらに?」

『ただいま真夜様はご都合が悪いのです。』

 

葉山が電話に出た時点で予想はしていた。

 

「ではお伝えしていただきたいことがあるのですがよろしいですか?」

『なんなりと。』

「先程、風間中佐より自分を『戦略級魔法師』として発表することになったとご連絡を頂きました。」

『ほう、四葉家から二人も【戦略級魔法師】が出るとは嬉しい限りですが克也様の場合は実名でということでしょうか?』

「それはまだ決定していないようです。自分が一高を卒業して深雪が当主を継承した後に名前を公表するようなのでそこで最終決定がされるようなので。」

『分かりました奥様にお伝えしておきますご連絡ありがとうございました。』

 

葉山が一礼して電話は切れ翌日の入学式のために俺達は少し早めに就寝することにした。

 

 

 

2097年四月七日、今日は全国の魔法科高校で入学式が行われる。去年に引き続き克也と達也は新入生の引率を行っていたが例年迷う生徒は少なく毎年五人もいないためこの時間は気晴らしに充てている。

 

迷う生徒が少ない理由は「前の生徒について行けば目的地に着けるだろう」という安易な考えでありもし先頭が間違っていれば後続をも巻き込み迷惑がかかるということなのだが大抵は間違いなど起こらないので気にする必要は無い。

 

式開始時間五分前になり講堂に向かい舞台の袖で待機していると達也が帰ってきた。

 

「達也、引率した人数は?」

「無しだ克也は?」

「こっちもゼロだ。今年の新入生はしっかりと校内地図を頭にたたき込んでくれたみたいだね。」

「俺達でも全体の八割しかまだ把握できていないがな。」

「地図と実物は細かいところが違っていることが多いからね。」

「去年から大幅に変更されたから二年生は一から覚え直しだ。俺達は今年で終わりだからあまり気にしなくていいけど。」

 

そうこうしているうちに式は始まり緊張気味な詩奈の答辞によって緊張感に包まれていた講堂も和みつつがなく終了した。和んだといってもうわついていたわけではない。

 

生徒会役員のトップ三人がいることでちょうどいい空気のバランスが保たれたと表現した方が正しい。四葉家の次期当主候補とその婚約者、そして世界でも数少ない『ヘル・フレイム』を使う現当主の『実子』。

 

そんな三人がいるところでのんきになれる人物はいないだろう。彼らの友人の少女でも「しない」ときっぱり断るほどに。

 

そのおかげもあってか詩奈や深雪が長時間来賓の方々に拘束されることもなかったので話をする時間が思っていたより早くとることが出来た。

 

「三矢さん、お話は七草副会長からお聞きしていると思います。生徒会役員になってもらえますか?」

「謹んでお受けいたします。未熟者ですがよろしくお願いします。」

「それでは生徒会書記として活動していただきます。詳細は桜井さんに聞いて下さいね。」

 

生徒会勧誘が去年のように断られることがなく三年生は安堵していた。特に去年それに関わっていたほのかは胸に手を当てて息をゆっくり吐き出すように肩の荷を降ろしていた。

 

 

 

入学式翌日からは正規のカリキュラムに沿って授業が始まる。一年生も午後から授業が始まるが一限目は履修登録に割り当てられ午前中は上級生の授業風景を見学することが出来る。今のように…。

 

「かなり見られてますね克也お兄様。」

「俺ではなく深雪なんじゃないか?深雪は容姿が良いし魔法力あり人望あり生徒会長さらには四葉家次期当主だ。深雪を無視なんて出来ないだろう?」

「克也さんは気付いていないの?」

「雫、克也さんは分かって言っていると思うよ?」

「性格が悪いと思うのは私だけかなほのか?」

「それは同感だよ雫。」

「二人ともその言われ用は不本意だぞ。」

「「冗談です(だよ)。」」

 

俺の抗議にほのかと雫は人の悪い笑顔で返事をした。俺はどうやら二人に扱い方をマスターされてしまったようでここ最近弄ばれることが多くなっていた。不愉快ではなく自分達の正体を知っても昔と変わらずにいてくれることが嬉しいので嫌ではなかった。

 

「今日の授業はなかなかのテーマだな。」

「一度もやったことがない実習ですね。」

 

今回の実習は空中に壁から生えたアームにセットされた重さ十kgの金属球を「ランダムな時間差で落下させ地面にぶつかる前に魔法式を構築させ指定された場所に移動させる」というものだ。

 

必要とされるのは「落下した金属球にどれだけ早く反応できるか」、「どれだけ早く魔法式を構築させることが出来るか」の二つが求められる。反射速度と魔法式を素早く選択しどれだけ早く行使できるかという肉体的な能力と処理速度の違う二つのことを瞬時に判断することが目的となっている。

 

克也や深雪は余裕とでも言いたげな表情でその他はげんなりとした表情だった。克也の番が来たため大型CADの前に立ち準備が整ったことを監督の講師に大型CADの横に置かれたボタンを押すことで知らせる。確認した講師が自分の前に置かれた赤いボタンを押すと三秒間のカウントダウンが始まる。

 

ゼロになっても金属球は落ちてこず一年生は今か今かと待っていた。そして何の予兆もなく金属球が落下してきたが克也は慌てずに魔法式を大型CADに流し込み起動式を展開させる。ノイズ混じりの魔法式に顔をしかめながら移動魔法と加重系魔法による複合術式を金属球に作用させる。加重系魔法で引力を中和し移動魔法で指定された場所に移動させゆっくりと着地させる。魔法を発動し終わると一年生からもクラスメイトからも拍手喝采を浴びた。

 

「さすが克也お兄様です魔法の全てが完璧でした。」

「ありがとう深雪でも本来の八割もでていないよ。」

「あれだけの速さで発動できたのに?」

「あの大型CADは旧式でねメンテナンスできる人が限られてるから今は使いづらいんだ。余剰想子光や光波ノイズが多かったのがほのかも見えただろ?」

「ええ、確かにいつもより多かった気がします。」

 

ほのかは『エレメンツ』の末裔であるためノイズなどには敏感なため克也は聞いてみた。

 

「これを代えて欲しいが予算の問題で出来ないだろうな『母上』に願っても対価を要求されるのがおちか。それを置いといて次はほのかの番だぞ。」

「本当だ、何かアドバイスはありますか?」

「アドバイスか…敢えて多工程の魔法を使ってみたらどうかな?今回は魔法発動速度じゃなくて『どれだけ衝撃を与えずに地面に下ろせるか』が求められているからほのかにはいい訓練になると思うよ。」

「ありがとうございます!」

 

ほのかの後に雫や深雪もやってみたがほのかの点数には勝てず俺を睨んできたため俺は居心地が悪くなった。睨む二人からほのかが守ってくれたのだがなんとも言えない空気になったのは仕方が無いことだと自分の中で思い込むことにした。

 

 

 

その日の昼食でも新入生の見学の話が話題だった。

 

「こっちはかなり人多かったけどそっちはどうだった?」

「こっちもかなり多かったな。聞いた話一高志望者が過去最高を記録したそうだ。」

 

達也の話は初耳だったので前のめりになってしまったが他のメンバーも同様らしい。

 

「それだけじゃなく筆記試験の平均点が去年より十点近く高いらしくて魔工科志望の生徒も増えたようだ。」

「達也の影響だろうね。」

「達也以外に犯人はいないんじゃねえか?」

「達也君だね。」

 

幹比古やレオ、エリカは達也以外に犯人はいないと確信しているらしく決めつけていた。一科生も達也だと分かっていたので敢えて追求することはなかった。

 

「良い方向に曲がってくれたと思えばいいんじゃないか?」

「そうだなやはり恒星炉実験が大きかったんだろう。ここまで影響が出ているとは正直予想外だった。」

 

達也は嬉しそうに呟きその笑みは穏やかで本当に嬉しそうだった。


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