追記 順位変動と点数調整を行いました。
今年も何事もなく九校戦会場に到着し軽く体を動かし本番の競技会場で各々練習を始める。やはり簡易コースと本番コースは雰囲気が違う。大会初日から俺の出番のため同じ出場選手と少し長く体を慣らしていた。予選突破は確実だが体を慣れさせることに越したことはない。
懇親会では相変わらず深雪が男勢に囲まれていたが達也が婚約者だと知らされる前に比べて激減したので深雪からすればありがたいことだろう。
俺も三高の女子生徒に深雪より少ないとはいえ囲まれていたので深雪を気にする余裕があまりなかった。偶然将輝が近くにいたので助けてもらい事件は一件落着した。
「将輝、助けてもらったのはこれで三回目だな。」
「九校戦は毎回助けている気がする。」
「ごもっとも。今年はどうなるかな九校戦。」
「一応ナンバーズの配下の魔法師を警備員として派遣しているから一昨年のようにはならないだろう。」
「俺もそう信じたいけど気になることがあるから心配なんだ。」
将輝の安堵は配下の魔法師を信頼しているから出ているものだが俺は完全には信頼できていなかった。
「気になること?」
「最近USNAで『ブランシュ』と『ノーブル』が新しい組織を作ったからその影響がここにも来ないか心配なんだ。」
「それは初耳だな他に誰か知っているのか?」
「達也と深雪、水波だけだ。まだ日本で事故を起こしていないから十師族には知らせなくていいというのが『母』の考えだ。」
「テロを起こされれば俺達の立場は急落だぞ?」
「同感だが専守防衛で取り締まるわけにはいかない。」
「分かった俺個人でも注意して見ておく。」
将輝との会話は小声で親しげに話していたので周りからは何も言われずにすんだ。
翌日八月四日、各校三年生が全てをかけて優勝を狙いに来る九校戦が始まった。一日目はスピード・シューティング男女予選 決勝トーナメントとバトルボード予選が行われる。克也とほのか、雫の三人が出場するので二位以上は確実視されており三人もそのつもりだった。
克也は達也と二人でバトル・ボードの競技用CADの調整を一高テントで行っていた。
「克也は一試合目でよかったな。休憩が取れるからありがたいが三日間連続なのは痛いな。」
「むしろ俺は嬉しいけどね。そもそもこれくらいで魔法力がなくなったり体調を崩すような柔な鍛え方はしていないよ。」
「そうではなくてだな俺の感情的な問題なんだが。」
「それこそ達也は気にしなくていいよ。」
克也と達也が楽しげに話し合っているのを深雪と水波は嬉しげに見ていた。二人が互いに心の底から信頼し合っていることを知っているため二人の話をニコニコして聞くことが出来ていた。二人以外が真顔で話している二人を見たなら真剣に作戦を考えているように見えたことだろう。
「これで問題ないだろう何か不都合がないか確認してくれ。」
「達也に頼んで不満なことなんて無いに決まっているだろ?何年お前の側で見てきているんだと思ってるんだ?」
「十八年間だが記憶にあるのは六歳頃だから十二年間か。それでも腕はあの頃とは別次元にまで昇っていると思うぞ?」
「自分で言うか?」
克也の言葉は本気で思ったわけではなく茶々を入れたものだったので達也も機嫌を損ねるどころか嬉しそうに口角を上げていた。
「そろそろ準備した方がいいんじゃないか?もう二十分前だし。」
「そうだね着替えるのには数分しかかからないとしてもコース上で気持ちの整理をしたいしね。」
「おや克也でも気持ちの整理をしないとダメなのか今回はやばいかもしれんな。」
「あのね達也俺でも初めてのことは緊張するんだけど。」
「これはこれは失礼なことを言ったな。予選通過することを願っているよ。」
「言ってろ優勝してやるから眼をそらさず見てろよ?」
両者ともに人の悪い笑みを浮かべながら言葉を交すことにさすがの深雪と水波でも苦笑いするしかなかった。といっても達也は多少口を酸っぱくしても緊張をほぐしていることを克也が理解してくれることを分かっていたし克也は達也が緊張を和らげてくれていることを理解していたので突っかかることはしなかった。互いが本当に信頼し合っているからこそなしえる技であった。
バトル・ボードの第一レースの予告がされ観客と選手の熱気は否応なく高まり出場選手の気持ちも高揚していた。俺の名前がアナウンスされると歓声?悲鳴?(特に女子生徒から)が上がり俺の精神HPを少し削った。
「なんか一昨年と去年のピラーズ・ブレイク以上に凄いんだけど。」
「一年生は生で見れるから嬉しいんじゃないか?」
「克也だから仕方ないよ。」
エリカ、レオ、幹比古が感想を述べている間に開始時間になり観客席が静かになる。
空砲が鳴らされ2097年度九校戦最初の競技が始まり合図と共に飛び出したのは克也だった。魔法発動速度が四葉史上最速の克也が合図の後に魔法を発動させて最初に動き出すのは当たり前だ。
「克也さんの魔法速度がまた上がってる…。」
「達也さん、克也さんには限界がないの?」
驚いているほのかと雫からの質問に達也は真顔で答えた。
「克也自身も限界を感じているらしいからこれ以上は無理だろうね。それでも競技用CADでこれほどの速度で発動されると他校にとっては驚異だろうな。」
「僕達でもげんなりするんだから競ってる選手の気持ちは想像もつかないよ。」
「さすが『神速』ね。」
エリカ達が討論している間に克也は最初のコーナーを曲がっていた。水面を滑らかに走る姿は天使の舞とでも言えるようで観客を魅了している。
「渡辺先輩とは少し違う戦術だな。」
「達也それって硬化魔法を使っていないってことか?」
「そうだ、克也は自分の体とボードを一つのパーツとして移動魔法をかける渡辺先輩とは真逆で自分の体とボードそれぞれに移動魔法をかけている。」
「達也、そっちの方が難しいよね?」
「ああ、ボードと自分の体に別々の移動魔法をかけるからバランスをとるのが難しい。だが克也は工程が多い方が使いやすいらしくて敢えて難易度の高い戦法を用いているからほのかに近い魔法師だな。」
達也に褒められてほのかは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「達也は調整したんだから知っていたんだろ?」
「いやインストールされた魔法式は見ていないからどんな戦いをするかは分からなかった。」
「じゃあ達也君は何をしていたの?」
「ゴミ取りだ。」
「それは克也さんでも出来るのでは?」
「克也より俺の方が除去出来るらしくて克也に頼まれたんだ。」
克也が水路に設けられている上り坂を水量に逆らって昇っていく瞬間を大型ディスプレイが映し出していた。
「加速魔法に振動魔法かいやもう一つ使っているようだが凄いな一度にこれだけの魔法を使えるとは。渡辺先輩と同じように臨機応変、多種多彩な使い方をしている。まだあいつのことを知り尽くせていなかったようだ。」
「仕方ありませんよ達也お兄様。よく知る人の新しい場面を知れることは素晴らしいことじゃありませんか。」
「ああ、そうだな。」
「一位は確実ですね。」
美月の言葉に全員が頷き克也のレースを最後まで見守っていた。
ほのかのレースも予定通りに行き一高選手は全員が準決勝に進んだ。
そして雫の出場するスピード・シューティングの第一試合が行われている間に達也は一高テントで雫のCADの最終調整を行っていた。
「違和感はないか?」
「問題ない。」
雫のことを知らない人が見れば「愛想のない子」だと思っただろうが二年間も一緒にいる達也からすれば嬉しそうにしているのがわかった。
「一昨年と同じものだから感覚さえ思い出せれば予選は突破出来る。」
「うん、ありがとう。」
お礼を言って試合会場の選手控え室に向かう雫の背中を達也は優しく見送っていた。
ランプが全て灯った瞬間クレーが空中に飛び出し得点有効エリア内に飛び込んだ瞬間全て粉々に粉砕された。
「これって雫さんが一年生の頃に使った魔法ですよね?」
「ええ、魔法名『能動空中機雷(アクティブ・エアー。マイン)』。スピード・シューティングの得点有効エリアは空中に設定された一辺十五mの立方体です。達也さんの起動式はこの内部に一辺十mの立方体を設定して、その各頂点と中心の九つのポイントが震源になるよう設定されています。各ポイントは番号で管理されていて展開された起動式に変数としてその番号を入力すると震源ポイントから球状に仮想波動が広がります。一度魔法を発動させると震源を中心とする半径六mの球状破砕空間を作りだします。」
「精度より威力が雫の持ち味だからこの魔法を使えるのよ。」
ほのかと深雪の説明に美月は納得し雫の試合を見ていた。雫は一昨年と同じようにパーフェクトで決勝トーナメント出場を決めた。
そして雫は決勝トーナメントでも全てパーフェクトで終え一高選手で最初の優勝者になった。
一日目の競技結果は
スピード・シューティング・女子 優勝
スピード・シューティング・男子 三位
一位 一高 七十ポイント
二位 三高 四十ポイント
とさい先のいいスタートになった。
「雫のおかげで三高に差をつけれたのが大きいな。うちは七十ポイントで三高が女子二位 男子二位で四十ポイント新人戦が始まるまでに可能な限り点数差を開けたいところだな。克也、深雪、水波、香澄頼むぞ。」
首脳陣として集まっていた四人に活を入れると四人とも力強く頷いた。
大会二日目、達也はクラウド・ボール男子の担当を克也は水波と香澄を担当した。克也がエンジニアとして参加することを達也と深雪が反対したのだが本人が「自分の準備は出来ているから」と言って折れなかったので仕方なく任せることになっていた。
「水波、CADはどうだ?」
「問題ありませんむしろ今の方がいい感じがします。」
クラウド・ボール選手控え室には第一試合目に出場する水波とそのエンジニアの克也だけだった。その所為なのか水波の距離がかなり近かったが克也は嬉しかったので水波をもてあましていた。
「水波は物理障壁が使えるからそんなに起動式はいらないんじゃないか?」
「念には念をです。」
試合開始時間になり水波がコート内に入ったのを確認した後ベンチに座りながら見ていた。
水波は自分が少し浮かれていることを自覚していた。
{克也兄様が自分を見てくれている頑張らなきゃ。}
水波は昨日一日二人で話す時間が無く甘えることが出来なかったのでストレスが溜まっていた。最近克也に甘えたくなることが増えたことに気付いておらず「触れて欲しい」、「何処にもいって欲しくない」自分の気持ちを隠していた。それは一種の独占欲だった。
合図と共にボールが敵コートに放たれ相手選手が移動魔法で水波のコートに跳ね返したがコート中央のネット上を通過した瞬間何かにぶつかったかのように押し戻された。銃身の短い拳銃型CADを使っている水波は一歩も動かず拳銃の銃口に当たる部分を敵に向けて立っているだけだった。動くのはボールが跳ね返ってくる瞬間トリガーを引く動作だけだ。相手は普段の何十倍の運動量をさせられ三セットマッチの一セット目の途中で棄権し水波が勝った。
「予定通りだなこれなら決勝でもこれくらいで終わるだろう。」
コートから出てきた水波にタオルを渡し話しかけた。
「拍子抜けですが一高が勝てるなら気にしません。」
「そうだな香澄の調整もしないとダメだからそろそろ移動しようか。」
水波の荷物を持ちながら選手出入り口に向かうと頬を膨らませながらもあとを追い掛け克也に続いて会場を後にした。観客から見えなくなった場所で俺の左腕に抱きついてきたが幸せそうにしているので振り払わず好きなようにさせた。水波が俺の腕から離れたのは一高テントに着く直前だった。
香澄も試合を余裕で勝ち上がり決勝戦で水波とぶつかり惜しくも負けたがクラウド・ボール女子で一位 二位を勝ち取り三人は首脳陣からお礼を言われたが香澄に「上位に入ったら高級スイーツを一つおごる」という約束をされてしまい断り切れなかったのが唯一の失敗だった。
「克也、予選で見せた魔法なんだが加速魔法と振動魔法以外に何を使っていたんだ?」
達也が克也のCADを調整しながら揺り椅子に座り今にも眠りにつきそうな克也に聞くと克也は眠そうに答えた。
「振動減速魔法だよ。ボードと水面に働く摩擦熱を軽減させて摩擦係数を極限にまで下げたんだ。普通に加速魔法と振動魔法を使うだけでも十分なスピードが出るけど摩擦を下げた方が滑りが良くなる。」
そう伝えて克也は睡魔に負けたのか寝息を立てて落ちその様子に達也は苦笑しながらも調整を続けた。
克也と深雪は達也が調整したCADで相手を全く寄せ付けない強さで予選を勝ち上がった。
三日目の成績は
クラウド・ボール・女子 優勝 準優勝
クラウド・ボール・男子 予選敗退
アイス・ピラーズ・ブレイク・女子 予選突破
アイス・ピラーズ・ブレイク・男子 予選突破
となり三高は
クラウド・ボール・女子 三位 四位
クラウド・ボール・男子 二位 四位
アイス・ピラーズ・ブレイク・女子 予選突破
アイス・ピラーズ・ブレイク・男子 予選突破
一位 一高 百五十ポイント
二位 三高 百十ポイント
三位以下混戦状態
「克也、明日はバトル・ボードとアイス・ピラーズ・ブレイクの決勝だ疲れはないか?」
「余裕過ぎて暇なくらいだ。」
ややずれた答えが返ってきたが普段と何も変わらないので気にした首脳陣はいなかった。
「深雪も頼むぞ。」
「分かりました。」
達也の言葉に力強く深雪は頷いた。
翌日大会三日目、克也は普段よりすっきり起きれたことに首をひねっていたが何かいいことが起きそうだったので気にせず一高テントに向かった。
克也は予選リーグを危なげなく突破し決勝リーグでも圧倒的な力の差を見せつけ決勝まで駒を進めた。もう一人は準決勝で将輝とぶつかり負けてしまったが先程行われた三位決定戦で勝利し三位入賞を果たした。
俺も負けるわけにはいかず気合いを入れ試合に臨んだ。俺がせり上がりで登場するとこの三日間で一番大きな歓声が上がった。何故なら俺の服が真っ白なスーツ所謂タキシード姿だからだ。俺は拒否したのだが水波とそれを勧めてきた女性(ひと)の圧力に耐えきれず仕方なしに着たのだ。
「達也君あれは何?」
「タキシードだが?」
「そうじゃなくてなんであの服装なの?」
「本人は嫌がっていたが『母上』に強要されたらしい。」
「似合ってるからいいんじゃないかな?」
「あまり言ってやるなよ?落ち込まれたらバトル・ボードに支障が出かねない。」
そんな話し合いがされているとは知らずに克也は特化型CADを構えた。合図と共に『流星群』に似た魔法を発動させる。『夜』が将輝の氷柱を包み光の矢が貫き瞬殺と形容できる速度で決勝戦を終わらせた。瞬殺された将輝は悔しがらずこれが現実だと受け入れていた。
着替えて一高テントに向かうと香澄と泉美に詰め寄られた。
「「克也兄(お兄様)さっきのはなんですか!?」」
「さっきのは『流星群』のアレンジバージョンだよ。」
「アレンジですか?」
泉美は理解できないとでもいうように聞き返してきた。
「俺の『流星群』は『母上』のとはちょっと違うらしくてね四葉家の技術者にややこしいから別の魔法として使って欲しいって言われたんだ。」
俺の説明に泉美と香澄は納得してくれたので深雪の応援に向かった。
克也の魔法は『流星群』ではないことが最近の研究で分かり名前を変更して使うことになった。『ダーク・ナイト・フォール(奈落の底)』と真夜によって名付けられ克也は秘匿するつもりだったが真夜に命令され今回使用していた。魔法名の『奈落の底』とは所謂地獄に落ちることを示しており魔法が直撃した場所がえぐられる特徴から名付けられていた。
深雪も圧倒的な魔法力でアイス・ピラーズ・ブレイク・女子で優勝しバトル・ボード決勝ではほのかと克也が優勝し九校戦前半を最高の結果で終えることが出来た。
一高
アイス・ピラーズ・ブレイク・女子 優勝と二位
アイス・ピラーズ・ブレイク・男子 優勝と四位
バトル・ボード・女子 優勝と予選敗退
バトル・ボード・男子 優勝と予選敗退
三高
アイス・ピラーズ・ブレイク・女子 三位と四位
アイス・ピラーズ・ブレイク・男子 二位と三位
バトル・ボード・女子 二位 三位
バトル・ボード・男子 二位 四位
一位 一高 三百九十ポイント
二位 三高 二百七十ポイント
三位以下混戦状態
となり圧倒的な差を付けることか出来たが新人戦が危ぶまれていた。
「百ポイント差を付けられたのはいいが新人戦で点数を稼ぐことは難しいだろうな。」
「そうだね今年の一年生は技術方面に偏っているから選手の実力が低い。せめて新人戦は三位以上は確保したいけど三高がどれだけ伸ばしてくるかによって順位変動はあり得るよ。」
達也と克也は真剣に話し合っていたがネガティブ思考になってしまうのはどうしようもなかった。一高に技術者が不足していたので今年志望者が増えたことに喜びを感じていたが今になって魔工師志望者が多いことの裏目が出てしまうとは思ってもいなかった。
「最悪一つは優勝を取りたいから詩奈に頑張ってもらわないとね。」
「ああ、スピード・シューティングは勝ち取りたいな。」
達也は克也の言葉に頷きながら順位表を確認していた。