魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第七十二話 惨事

達也がモノリス・コード三位決定戦の試合会場に到着したのは始まる三十分前だった。準決勝で一高は九高に負けたため三位決定戦に回ることになっており本戦次第では逆転される可能性は十分にあるため安心は出来なかった。

 

「達也君、克也君は?」

「一年生のCAD調整に行ったよ。といっても最終調整するだけだから仕事は皆無に等しいけど。」

 

達也が苦笑しながら答えたが幹比古から質問されたので真顔に戻した。 

 

「ところで達也話し合いはどうなったんだい?」

「許可してもらったよ。」

「出場選手は?」

「克也が決める予定だから決勝が終わり次第伝えてくれると思う。今は応援をしよう。」

 

 

 

大型ディスプレイには八高と遠方で睨み合う後輩三人が映し出されていた。一昨年同様一高と八高の試合は『森林ステージ』で行われるようだ。

 

「魔法力では劣っているが気持ちは負けていないなそこは評価してもいい。」

「達也お兄様、勝てると思いますか?」

「万に一つも無いとは言わないけどかなり厳しいだろうね。克也が完璧に調整していても本人が使いこなせなければ意味が無い。」

 

厳しい評価だが達也の言葉に勝ってほしいという思いが含まれていたため言葉ほどきつくはなかった。

 

戦闘開始から数分後、両陣営のちょうど真ん中辺りで双方のオフェンス担当選手から同じ魔法が放たれ少しの間拮抗したが互いに効力を失い魔法式は破綻した。それを見た観客は歓声で迎えたが達也達の表情は厳しいままだった。

 

「押されてるね。」

「分析できる眼がないと今のは気付けなかっただろうな。」

「達也お兄様どういうことですか?」

 

幹比古と達也の呟きに状況が理解できず深雪は質問してみた。

 

「今の魔法は『陸津波』だが一高選手はかなり本気で発動させていたようだが八高選手は半分ほどしか出していないように見えた。今のでオフェンス担当選手も実力の差に気付いただろうがここで諦めるわけにはいかないだろう。」

「達也君、どうなると思う?」

「一方的な展開にならないよう祈るしかないだろうな。」

 

達也は望みをかけていたが望みが叶うことはなく一方的な展開になり開始から十分で三位決定戦が終了してしまい一高は意気消沈していた。

 

一位 三高

 

四位 一高

 

総合順位

 

一位 三高 五百五ポイント

 

二位 一高 四百六十五ポイント

 

三位以下混戦状態

 

結果、最終日前日にはついに一高が首位から陥落してしまった。

 

 

 

その日の夜、克也は達也の部屋に集まったいつものメンバーに参加選手を発表した。

 

「オフェンスは達也、遊撃は幹比古、ディフェンスはレオに頼みたい。」

「問題ない。」

「任せて。」

「いいぜ、でもディフェンスって何すりゃ良いんだ?」

 

レオは今まで参加していなかったのでルールを知らない。それは予想済みだったので説明することにした。

 

「ディフェンスは自陣のモノリスを敵の攻撃から守る役目だ。勝利条件は知っているだろ?」

「相手チームを戦闘続行不能にするかモノリスに隠されたコードを打ち込む、だったよな?」

「その通り。それで隠されたコードを読み取るには無系統の専用魔法式をモノリスに打ち込まなきゃならない。専用の魔法式が鍵になっていてモノリスが二つに割れるんだが一旦分割されたモノリスを魔法でくっつけることは禁止されている。だがモノリスの分割を阻止することは禁止されていない。専用魔法式の最大射程は十mに設定されているからそれ以上の距離では機能しない。」

「ってことは、俺の役目としては敵チームを十m以内に近づけないこと、鍵が発動されてもそれでモノリスが割れないように防ぐこと、モノリスを割られてもコードを読み取られないように邪魔をすることの三つか。」

「満点だレオ。」

 

レオの理解の早さに克也は満面の笑みで頷きを返した。

 

「硬化魔法でモノリスの鍵を打ち込まれても割れることはないからくっついたままの状態を保つことが出来る。割れてしまったモノリスを再びくっつけることにならないからルール違反にはならないよ。」

「克也、それって立派な悪知恵だぜ?」

「頭が回るとか作戦を練るのが上手いと言って欲しかったんだけど。」

「克也は達也と同じで人が悪いぜ。」

「そりゃどうも、双子だから許してくれ。」

 

軽い冗談を交えながら説明したのでレオの不安もある程度は消えたようだ。だが心残りなのは撃退方法なのだがレオ自身も分かっているらしく聞いてきた。

 

「鍵は理解できたけどよ撃退の方はどうすんだ?自慢じゃねえが遠隔攻撃は苦手だぜ?」

「今回はたまたま運が良くてな新人戦の合間に作ろうとしていた物があるんだけどこれを使おうと思う。」

 

克也が部屋に入るときに持っていた箱の中身をレオに渡した。

 

「これは?」

「遊びのために作った武装一体型CADで一昨年の九校戦で渡辺先輩が使った硬化魔法を応用したものだ。人を殺す目的では作っていないけど刀身部分を作り替えればそれに使うことも出来る。」

「物理攻撃は禁止だろ?」

「質量体を魔法で飛ばす攻撃は禁止されていないから問題ないはずだよ。そもそも硬化魔法の定義は『相対位置の固定』だ。固定概念として『接触していなければならない』というのがあるからそれを取っ払えば『接触』している必要は無い。感覚としては『飛ばす』というより『伸ばす』に近いと思う。レオにとっては面白い武器になると思うよ?」

 

ニヤリとしながら聞くとレオも同じようにして見返してきた。

 

「任せろ克也。」

「幹比古、『感覚同調』は同時にいくつ使える?」

「今なら三つまでかな。『視覚』と『聴覚』、『嗅覚』だよ。」

「常時使える状態にしていて欲しい決勝トーナメントは何が起こるか分からないからね。」

「了解。」

「幹比古のCADは俺と達也が調整しておくからレオはエリカと腕慣らしをしてきて欲しい。その『小通連(しょうつうれん)』にはレオの個人設定がしてあるからいつでも使用可能だよ。」

「さすが克也、気が利くぜ。」

 

レオがそう呟きエリカと二人で練習場に向かったのを確認したあと俺と達也は深雪、ほのか、雫、美月、幹比古が見ている前で猛烈なスピードでキーボードを叩きマニュアル調整を始めた。そのスピードに深雪を除く四人は「相変わらず異常なスピード」とでも言いたげな表情で克也と達也を見ていた。

 

調整が終わったのは約一時間後だった。

 

 

 

今日からは本戦に戻りモノリス・コードの予選、ミラージ・バットの予選と決勝が行われる。午前中はモノリス・コードの予選を行い午後からはミラージ・バットの予選を、夜からは決勝が予定されているが克也は明日のモノリス・コード決勝の最中は試合を観戦できないと確信していた。『レプグナンティア』の日本支部を中心としたデモ隊がやって来ると真夜から情報を貰っていたためその対応をしなければならないためだ。

 

ナンバーズの配下の警備員達にも頼んでいるが完全に防げるとは考えていない。将輝に伝えたいところだが決勝の前に動揺はさせたくないため話さずにおくことにした。

 

 

 

本戦モノリス・コード予選一高は余裕で勝ち進み決勝トーナメントに進出し将輝とジョージを含む三高も同じく危なげなく進出した。準決勝は八高となり一昨年の雪辱を果たすつもりで意気込んできた三人だったがあれからさらに魔法力を伸ばした達也達に勝てるはずもなく一昨年以上の力の差を見せつけられ決勝に進んだのは達也達だった。

 

「これでモノリス・コードの優勝はほぼ確定だな。」

 

決勝ステージが一昨年同様「草原ステージ」に決まり独り言を呟きながら大会委員を問いただしたい気持ちになったが今聞いても仕方が無い。俺が立ち上がり観客席から離れようとするとエリカに聞かれた。

 

「達也君の試合見ないの?」

「ちょっと野暮用がね。」

「お家関係?」

「そんなところ。」

 

軽くあしらい九校戦会場のある富士南東エリアに唯一繋がっている一本道を向かってくるデモ隊を視ながら歩き出す。ホテルに向かうふりをして入退場ゲートに向かう途中水波に出会い驚いた。

 

「水波、どうした?」

「達也兄様に克也兄様と同行しろと命じられましたので来ました。」

「荒っぽいことにはならないはずなんだけどまあいいか、おいで水波。」

 

水波が婚約者として来たのではなく四葉に関わる魔法師として来たのだと克也には分かっていたため追い返すようなことはしなかった。

 

 

 

水波を連れて道路に向かうと予想以上のデモ隊の人数に頭痛がした。これだけの人数が来ているのに何故警察は無視しているのか不思議に思ったが警察の人数では抑えきれなかった分が流れてきているのだろうと考え詮索をやめた。

 

「水波、物理障壁の準備をしておいてくれ。」

「何故でしょうか?」

 

水波は首をかしげながら不思議そうに聞いていた。

 

「あいつらが投擲してくるかもしれないから念のためにね。俺達なら避けられるだろうけど死角から狙われたらマズいから。」

「わかりました。」

 

水波がCADを取り出し魔法を発動する準備が整う頃にはデモ隊が目前にまでやってきていた。立て札やスローガンを書き込んだ布を大勢で持ち歩いている者もおり今回のためにやってきたことが分かる。

 

{このタイミングで来られたら迷惑にもほどがある。こちらの人数では対処できないだろうな。}

 

克也は後ろに控えるナンバーズ配下の警備員達を視ながら思っていると一名の暴漢が石を投げつけてきた。一歩横に移動するだけで避けれるが明確な敵意を込めて投げ付けられた側とすれば嫌悪感を抱いても仕方ない。

 

「投げつけた理由を聞いても良いか?」

 

冷ややかに見つめながら聞くとリーダー格とおぼしき人物が数歩前に歩き出し答えた。

 

「この先のエリアで魔法を用いた大会が行われていると聞いた。今すぐに中止して貰いたい。」

 

少しは話の通じる相手のようなので質問に答えながら情報を聞き出すことにした。

 

「それは事実だが何故中止しなければならないのか聞きたい。」

「魔法は人間の命を容易く奪う物でありそれを見境無く使われては困る。」

「確かに魔法は人間の命を簡単に奪えるが人間の命を救うことも出来る。見境無く使うことは法で固く禁じられているはずだ。」

「しかし、我々の中には魔法による被害を受けた者が大勢いる。責任を取ってもらわなければこちらもこれ以上抑えることは出来ない。」

「そちらが怪我をされているのは存じているがこちらも暴力によって大怪我を受けている。ならどちらにも非があるのではないか?」

「こちらは魔法など使っていない。そちらは魔法で自衛できるだろう?それに魔法師は一般人より強いはずだ。」

 

どうやら俺の予想は間違っていたらしく「魔法を勝手に使ってはならない」や「魔法で自衛すればいい」など自分勝手な意見を口走ってくるため内心辟易しだしていた。

 

「貴方は言っていることが支離滅裂だと気付いていないのか?魔法を勝手に使ってはならないと言いながら魔法で自衛すればいいと言う。自衛した場合勝手に魔法を使ったなどと文句を言うのだろう?馬鹿馬鹿しくなってくる。それに魔法師でも一般人より能力の劣る者はいくらでもいる。魔法師だったらなんでも出来ると思っているは大間違いだ。」

「黙れ!」

 

先程まで冷静に話していた男が大声で怒鳴り始めた。

 

「お前らのせいで俺達は迷惑しているんだ!他国から攻撃されるのお前達の存在があるからだろうが!」

「その狙われるあなた達を守っているのはその魔法師ですよ?俺達は元々作られた存在だ望んで生まれたわけじゃない。」

 

俺は怒り狂っている男の感情に流されず彼を落ち着かせようと無表情に語っていたがそれが油に火を注ぐことになるとは思ってもいなかった。

 

「黙れ!お前らやってしまえ!」

「「「「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

 

男の命令に従い多くのデモ参加者が武器を振り回しながら走ってきたので彼らの目の前五mに『ダーク・ナイト・フォール』を着弾させる。男達はえぐられた地面を見て急停止し目線を上げて俺を見てきた。

 

「俺はあなた達に怪我をさせたくないんです。人間には言葉という人間にしかないものがあるじゃないですか話し合いましょうよ。怪我をして喜ぶ者など誰もいません。」

「魔法を使う者など人間と呼べるわけがないだろうが!お前ら殺せ!ここにいる魔法を使う者を全員殺してしまえ!」

 

男がもう一度叫ぶと先程とは比べものにならない数が突撃してきた。

 

「交渉決裂か、全員総攻撃用意!決して殺すな捕まえられるだけ捕まえろ!」

「了解!」

 

俺の声に集まっていた警備員全員が迎え撃つために同じように突撃した。

 

「水波、怪我をしないように自分に物理障壁を展開しながら戦ってくれ。お前なら気絶させるなど容易いだろ?」

「大丈夫です克也兄様もお気を付けて。」

 

互いに別の方向に走り出し暴漢を可能な限り止めに行く。多方面からほぼ同時に跳びかかってくる男達の距離・体勢・呼吸・速度・クセを瞬時に把握し最低限の動きと攻撃で無力化する。無力化した暴漢を警備員に拘束させ他の男達を狙う。

 

右方面から『キャスト・ジャミング』が放たれる。黒板を爪で引っ掻いたような不快な音が聞こえてくるが想子を一定量で体全体に放出しカーテンのように自分の体を覆う。するとほぼその音が聞こえてこなくなり真鍮色の指輪を付けた左腕を突き出している男に近付きながら呟く。

 

「『アンティナイト』古代文明の栄えた都市にだけ産出する軍事物資。雇い主(パトロン)はウクライナ・ベラルーシ再分離独立派。パトロンのスポンサーは大亜連合か?どうやって手に入れたか気になるが今はどうでも良いよ。」

 

俺の言葉に驚愕をあらわにしたので俺の予想は正しかったようだ。体術で男の背後に回り首筋に手刀を叩き込み気絶させる。他の暴漢を捉えるために克也は縦横無尽に駆け抜け始めた。

 

 

 

二時間ほど経った頃、数百名を捕縛したところでデモ隊が引き返して我先にと退散を始めた。眼に見える範囲からいなくなるのを確認して腕時計を見ると時刻は十六時を少し過ぎたところだった。

 

達也達が優勝したかどうかは分からなかったが予定通りに行けば総合優勝しているだろう。安堵しようと長いため息を吐こうとした瞬間遠くからやって来る何かの音が聞こえた。

 

「水波、何か聞こえなかったか?」

「何も聞こえませんでしたが。」

「あなた達も聞こえませんでしたか?」

「いえ、いつも通り歓声が聞こえるだけですが。」

 

{俺の聞き間違いか?}

 

そう思っていたが俺の聞き間違いではなかった。ヒュルルルルルと音が聞こえ始めどんどん大きくなり近付いていることが分かった。

 

「何だ?」

 

北西の空を見上げると何か物体らしき物が飛んでくる。それが何か克也には分からなかったが放置すれば最悪の事態になると直感し『燃焼』をそれに向かって放ち原子まで燃やされた「それ」は跡形もなく消え去った。

 

「今のは何だったのですか?」

「分からない。でも良くないことが怒っているのは確かだ。」

 

そう答えた瞬間ここにいる魔法師だけでは防げないほどの数の「何か」が向かってくることに気付いた克也は舌打ちを漏らした。

 

「なんて数だ!これじゃあ、防ぎようがない!水波、会場の上空三百mに幅百mの物理障壁を展開できるか!?」

「可能ですが強度が足りません!」

 

水波の報告に再度舌打ちを漏らすが悩んでいる暇はない。上空をとてつもないスピードで飛んでくる「何か」を撃ち落とすなどナンバーズ配下の警備員といえど簡単なことではない。それならば自分が可能な限り撃ち落とせば良い。

 

遠くに聞こえた音が全員にはっきり聞こえる頃になるとようやくそれが何だったのかが分かった。

 

「ミサイルだと!?それも国防陸軍特殊長距離ミサイルじゃないか!」

 

叫ぶがそれよりも早くに『燃焼』を連続発動させミサイルを燃滅させるが如何せん数が多すぎて全てを撃ち落とせず会場の観客席に向かって落ちていく。

 

{まずい!}

 

しかし俺の動揺はすぐに収まった。何故なら会場の観客席上空に局所的に展開された物理障壁によって爆風が防がれたからだ。それでも俺の安心は長くは続かない何故なら第二波として先程と同じかそれ以上の数のミサイルが撃ち込まれたからである。

 

なおも燃滅させ続けるが防ぎきれないミサイルの数が増え水波の物理障壁に向かって飛んでいく。さすがの水波でも一瞬の気の緩みも許されないこの状況で魔法を連続発動させるのは厳しいらしく少しずつ物理障壁が歪み始める。

 

{このままじゃ観客が!}

 

その時これまで以上の数のミサイルが撃ち込まれ為す術もなく水波の物理障壁が破られ三発が観客席の天井に直撃した。

 

ミサイルが直撃した観客席の天井は簡単に崩れ落ち真下に落下した。悲鳴や怒声が聞こえてくるがどうしようもなく俺達は現場を見上げることしか出来なかった。

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