魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第七十七話 出席

深雪が四葉家当主を継承したことで新しい時代が始まったと言えるだろう。各家から祝言が日本魔法協会本部を通じて四葉家に送られ深雪はあまりの量にこめかみを引きつらせていた。

 

「深雪あんまり無理せずゆっくりでいいんだぞ?」

「いえ、早く読み終えなければ準備に支障が出ますから。」

 

財務処理を克也が四葉家本家の移築のための交渉を達也が担当しながら深雪に心配そうに話すが「当主になったばかりの緊張感」と「当主ならば可能な限りの事務処理をしなければならない責任感」の板挟みでストレスが溜まっているであろう深雪は強情に言い張っている。

 

まだ継承して一週間でこの状態ではこの先が心配だが叔母上よりは事務処理が出来るのでストレスさえ溜めなければ迷惑をかけることにはならないだろうと俺は深雪を評価している。

 

達也は今浦賀に四葉家本家を移築するための工事を行っている現場にいるためここにはいない。

 

叔母上は深雪が事務処理を自分よりそつなくこなす現場を目撃し精神的なダメージを受け自室に引きこもってしまっている。

 

深雪は「自分のせい」だと言っていたが真面目にやっていただけなので何も悪くないことを指摘すると吹っ切れたらしく気にせず仕事をしてくれている。

 

だが問題なのは睡眠中の時だ。俺は一人で寝ているのだが夜中に時折こっそり叔母上が俺の部屋に忍び込み布団に潜り込んでくるので鍵をかけるがマスターキーで開けられるのでほぼ鍵の役割を果たしていない。

 

一度追い出すとドアの前で寝られてしまい運ぶことになり必要ない仕事を引き受けることになったのでそれ以来追い返すことは出来なくなった。

 

 

 

昼前から事務処理をしていたので時計を見ると既に午後三時を過ぎておりそろそろ本家を出なければ夕方までに自宅に到着できないので帰宅することにした。

 

「あとは頼むよ、水波に心配かけたくないから早めに帰る。」

「すみません克也お兄様、毎度こんな面倒をかけてしまって。」

「気にするなって言っているだろう?あと二ヶ月もしたらいちいちこっちに戻らなくて済むんだ。それに大切な妹と一緒に仕事できるんだから文句はないよ。出来上がるまで少しの辛抱だ葉山さん深雪をお願いします。」

「ありがとうございます!」

「かしこまりました。」

 

ご機嫌になった深雪を葉山に託し仕事場を後にする。俺が三日に一度本家と自宅を往復しているのは水波がまだ学生なので一人で家にいさせるのは危険だという三人の意見が一致した結果であり婚約者である克也にさせるべきだという達也と深雪の意見によるものだ。

 

水波なら多少の手練れでも怪我をすることはないが俺の婚約者だと顔バレもしているため狙われることが多々ある。何度か俺も遭遇しているためいつも周囲を警戒している。

 

 

 

毎日俺は水波を一高の校門前まで送っているので後輩達によく声をかけられる。水波はコミューターに乗っている間は普段以上に甘えてくるので俺は非常に嬉しい。

 

ここまで自分のことを好きになってくる女性ができるとは思っていなかったから余計に胸は高鳴っている。

 

克也は水波を送るという仕事を毎日しているが朝は毎回水波に起こしてもらっている。八雲に体術の稽古をつけてもらう日も普通に起きる日も水波に助けてもらっているので少し罪悪感がある。

 

でも水波がそれを楽しそうにしているのでこのままでもいいかというある意味救われない状況になっていた。

 

これまでは「深雪特製お目覚めジュース」を飲み頭を回転させていたが最近は「水波特製愛のお目覚めジュース」にグレードアップしていた。味や効果は変わらないが水波が作ってくれたというだけで心が満たされる気がする。

 

 

 

「水波、もう今年の九校戦の選手選考は終わったのか?」

「はい、問題なく終わりました。二年生の実力不足は克也兄様と達也兄様のおかげで解決済みです。」

「努力が無駄にならなくて何よりだよ。」

 

七月の半ばのある土曜日の朝、食後の一時に水波に聞くとしっかりと頷きながら答えてくれた。来月半ばから2098年度の九校戦が始まるが去年の新人戦を見る限り苦戦するだろうという俺の予想は良い方向に外れたらしい。

 

俺と達也は去年の九校戦が終わった直後から一年生の魔法力底上げのための訓練を開始していた。魔法大学や防衛大学校などに進学する生徒達とは違い四葉家に戻るだけの克也達はかなり余裕があったので週に三回放課後に野外演習を行っていた。

 

ほぼ強制参加だが用事や体調不良であれば参加しなくても構わないという条件で行っていた。魔法訓練を克也と深雪たまに雫やほのかが体力などの肉体的な面は克也、達也、レオ、幹比古が担当するということもあり「第一高校 地獄の訓練大会」という名前と「自信を失っても生徒会及び作戦考案者は一切責任を負いません」という自己責任を重んじる書類と「目指せ九校戦7連覇!」というスローガンの元開催したにもかかわらず全校生徒の内7割近くの生徒が参加してしまい対応に追われる日々を送ったという何とも言えない時間を過ごした。

 

だがそのお陰なのか二ヶ月経った頃から参加者の実習での成績が大幅に上がり職員一同から感謝されたことがあった。

 

「ということは今回は安心して大会を見れるということだな?」

「はい、克也兄様が来られるのですか?」

「深雪はスポンサーや配下の企業との商談や交渉が詰まっているから忙しくて来れないだろうね。達也は深雪のボディーガードだから来ないのは確定だし代役として俺が行くことになるかな。」

 

自分が説明している間水波が小さくガッツポーズをしたことに克也は気付いただろうか。泊まる部屋を副会長である水波が決めることになっているのでもしかしたら克也を同じ部屋にするかもしれない。いや必ずそうするだろう何故なら毎日一緒にいられるのだから。

 

今話している場所は司波宅だ。本家を浦賀に移築してからそれほど時間は経っていないがやはり自宅の方が落ち着くのでこちらに来ている。正直言えば水波と長く一緒にいれるからというのも無いわけではないむしろそちらの方が高い。

 

 

 

九校戦開幕直後に会場へと足を運びVIP席に座りながら試合を眺める。スピード・シューティングでは詩奈が去年と同じように『ドライアイスの亜音速弾』で無双している様子をディスプレイが映し出し自分の眼と『全想の眼』を同時行使しているといつの間にか閣下がやってきていた。

 

「閣下、お久しぶりです。」

「しばらくだ克也君。一昨年の論文コンペ前依頼だな息災か?」

「ご覧の通りです閣下。ところで今年もイタズラをされたのですか?」

「三年に一度あの魔法を使うことにしていてね何人が気付くか試しているのだよ。魔法師の卵がしっかり成長し受け継がれているのかを確認するために。」

 

イタズラがばれて居心地の悪そうな笑みを浮かべる子供のように無邪気な笑顔を見ると三年前と変わらないなと思えてくる。未だに『パラサイドール』のことを許してはいないがここで過去を掘り返すような無粋な真似はしなかった。

 

「今回はどんな立場で来られたのか聞いてもいいかな?」

「何も企んではいませんよ今回は四葉家当主の代理として来たまでです。」

「君は『戦略級魔法師』として公表されても私に対する態度は変わらないのだな。」

 

俺が三人目の『戦略級魔法師 神代要』だということを知ってることに驚いたが俺の雰囲気のぶれに気付いたのだろう種明かしをしてくれた。

 

「真夜から話を聞いていてねまさか君がそこまで成長するとは思わなかった。」

「『母』が話したのですか内緒だと言っていたのにあの人は…。」

「師に伝えていても可笑しくはなかろう?」

 

人の悪い笑みを浮かべてくるのは教え子の『息子』が強力な魔法師ということを喜んでいるからだろうか。

 

「君に伝えておきたいことが幾つかあるのだが構わないかな?」

「自分に出来ることであればなんなりと。」

「では、お言葉に甘えて話しておきたいが良いニュースからいいかな?それとも悪いニュースからかな?」

「では悪いニュースからで。」

「…普通ここなら良いニュースからではないかね?」

「では良いニュースからで。」

「…。」

 

あっさりと掌をひっくり返す克也の態度に烈も論文コンペ前の響子同様黙り込んでしまう。克也は意図的に話したつもりないらしくその様子に首をかしげていた。

 

「…まあいい、良いニュースは光宣のことだ。」

「光宣ですか?」

「ああ、今まで君が治療していたがようやく特効薬を開発することが出来てね今回の九校戦にも参加しているよ。」

「おめでとうございます。光宣が出るとすればモノリス・コードですね?これは勝つ見込みがありませんね困ったものです。」

 

賛辞も悩みもどちらも俺の本音だ。光宣が実戦で活躍することが出来ることに喜びもあるがモノリス・コードに出場するとなると素直に喜べなくなる。一高OBとして後輩には負けて欲しくないし総合優勝して欲しいのだからそう思っても仕方がない。

 

光宣にとって初めての九校戦であり最後の出場になるモノリス・コードに全力で挑んでくるのは想像に難くない。今の最上級生もなかなかの魔法力を持っているが光宣の『パレード』には勝てないと確信している。光宣には活躍して欲しいし後輩には負けて欲しくないという感情に板挟みにされているがこの程度でどうこうなるような内臓の鍛え方はしていない。

 

鍛えたといっても毒物を飲み込むなど危険な方法ではなく比喩表現に近いものだ。

 

「孫にとって最初で最後の九校戦だから活躍して欲しいのがこの老いぼれの願いだ。そして悪いニュースだがどうやら面倒なことになってきているようだ。」

「何か起こるのですか?」

「『レプグナンティア』の活動が活発になってきていてな世界各地で彼らによる魔法師を狙ったテロが頻繁に起こっている。」

「魔法師を狙ったと言いましたが正確には第一世代や調整体を主にしたテロなのではありませんか?」

 

俺の質問に閣下は顔を曇らせた。第一世代や調整体が狙われたとなれば孫である光宣にも被害が来るかもしれないという心配が大きくなったのだろう。光宣が調整体だと知っているのは烈と俺、達也、深雪、水波だけだが烈自身は自分だけだと思っているはずだ。

 

俺が知っていると知らせないためには話をずらす必要がありそうなため少し解釈を曲げてみた。

 

「閣下は魔法師全体ではなく一部が狙われていることを危惧されているのですね?問題ありませんよ我々は第一世代だろうと調整体であろうと分け隔てなく助けます。それが十師族の存在理由の一つです。」

「…ありがとう克也君少しだけ気が軽くなったよ。私は既に当主から降りた身だ一々現十師族の話に首を突っ込むわけにはいかない頼んだ。」

「お任せください。」

 

俺の意図的な理解の仕方に閣下は助かったと思ったのだろうかなり肩の荷が降りていた。だが俺に魔法師の存在を守って欲しいという願いは本物であると俺は感じていたため素直に頷いた。

 

烈との会話の後、黒羽家に『レプグナンティア』の活動について調べるよう命じ昼食を食べに屋台へ向かった。

 

 

 

昼食を終え午後から始まるスピード・シューティングの決勝リーグを見に行こうとすると緊急事態を知らせる警報が携帯端末から聞こえたので取り出し開くとさすがの俺でも驚愕せざる負えない事態が書かれていた。俺は急ぎ足で来た道を引き返して指定された部屋に向かい始めた。

 

『何者かによって第七研究所が襲撃を受けた 午後二時より緊急の師族会議を開く 司波克也殿は至急、富士南東野外演習場の謁見室を利用されたし』

 

とメールには書かれていた。

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