魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第七十八話 要請

謁見室に到着すると意外な人物が来ており相変わらず赤の好きな男だなと思いながらも友人なりの挨拶をしに行った。

 

「久しぶり将輝、来てたのか?」

「克也か久しぶりだな。後輩達の活躍する姿を見ておきたくて来ていたんだが横槍が入ったから落ち着いてられん。」

「仕方ないさ魔法師達を一般人が完全に受け入れてくれるまでの辛抱だ。」

「回線の接続が完了しました。」

「「ありがとうございます。」」

 

回線が接続されたことで大画面に十師族各当主が映り始めた。一条家は剛毅と将来輝の二人で四葉家は代理の克也だが驚く当主は誰もいなかった。

 

『全員の準備が整いましたので今回の議題についてお話ししましょう。七草殿よろしくお願いします。』

『かしこまりました。』

 

最年長の真言が口火を切り弘一に説明を促した。

 

『皆様ご存じの通り午後二時前に我が研究所である第七研がテロリストによって襲撃を受けました。目的は不明ですが恐らく研究資料を狙っていたかと思われます。』

「ご報告ありがとうございます。襲撃者は捕縛したのですか?」

『いいえ、襲撃され被害を拡大させないために当家の実行部隊を即座に向かわせましたが捉えようとした瞬間自爆され身元を確認できませんでした。』

 

弘一の説明を聞いていた当主達は一斉に眉をしかめた。弘一の説明を疑ったわけではなく自爆と言う単語を聞き昨年の師族会議でのことを思い出したからである。

 

「目的は研究資料だと弘一殿は仰いましたがそれ以外の目的ではなかったと断言できるのは何故でしょうか。」

『パスワードブレイカーやハッキングツールを所持していたからですよ四葉殿。テロリストなどという低俗な輩の道具で盗まれるような柔な設計はしておりませんので流出はありませんご安心を。』

『七草殿映像など持っておられませんか?』

『ありますので少々お待ちを一条殿。』

 

弘一が流した映像には顔をサングラスとマスクで隠した十人組の内の三人が残りの七人に手伝ってもらい塀を乗り越えている様子を映し出していた。塀を乗り越えた三人組が一目散に研究所へ向かう様子はこのような犯罪行為に慣れているというより敷地内を知り尽くしているように感じた。

 

「襲撃者の技量はどれほどでしたか?」

『映像からもわかるようにかなり慣れている様子でしたのでその道の特殊訓練を受けた者かスペシャリストでしょう。逃走した七名は十文字家に協力を要請しており共同で追跡中です。数日で捕縛できるでしょう。』

 

閣下の警戒とタイミングが良すぎるが偶然事件が起こったと考えるべきだろう。何より今は閣下と弘一を疑っている暇はない奴らを捕縛しそいつらの背後関係を洗い出すことが最優先だ。

 

『これにて緊急会議を終了します。皆様多忙の中ありがとうございました。』

 

真言がそう締めくくると各当主が挨拶を済ませそれぞれ映像電話を切る。俺も映像を切りホテルの支配人にお礼を言い謁見室を出た。

 

 

 

会場に向かっている間将輝が心配そうに聞いてきた。

 

「さっきの話のことだが何か引っかかるのは俺の気のせいか?」

「どういう意味だ?」

「第七研に侵入し研究資料を盗み出そうとしたと予想するのは納得できるが気になるのは侵入者の方だ。何故バレやすいパスワードブレイカーやハッキングツールを大量に持ち歩いていたんだ?身元を偽造するか必要最低限の物で動くのが基本だ。そう思わないか?」

「思うさ。なんとなくだが『我々を見つけてみろ』とでも言われているような気がする。」

「挑発のつもりなのか?」

「それもあるだろうけどもう一つ気になることがある。」

「何?」

 

俺は立ち止まり将輝の眼を見据えながら口を開いた。

 

「目的だよ。研究資料なら第七研でもなくていいはずだ。」

「だから何だ?」

「つまり黒幕が意図的にそこを狙わせたんじゃないかということだ。第七研の研究テーマは『群体制御』。あらかじめ弾となるものを用意して個々独立した物体,現象を1つの生きもの如く操る。第七研が開発した『群体制御』は少なくとも百以上の物体を同時に動かす魔法だ。ここまできたら何か気付かないか?」

 

将輝は少し吟味していたが答えに辿り着いたようで眼を見開き嘘だろとでも言いたげな表情を向けてきた。

 

「分かったか?」

「他者に作用させる顧傑の魔法と似ている。今回の黒幕はあいつの関係者なのか?」

「確信できる証拠は一つも無い。だが俺の予想通りなら顧傑の協力者、弟子、同胞あるいは…。」

 

俺は言葉を一度切り言葉を続けた。

 

「そいつの背後にいる人物だ。」

「…嘘だろ?まだあいつの後ろに何者かがいるとお前は言いたいのか?」

「さっきから言っているだろ?証拠は何一つ無いから予想でしかないって。だがあいつに近い何者かが手を出してきているのは間違いないと思う。」

「今年も穏やかには過ごせなさそうだな。」

 

同感である意味を含めてため息をつきスピード・シューティングが行われている会場に向かった。

 

この時克也は思い違いをしていた。顧傑の背後にいる何者かは国外にいると考えていたのだが実際は近いところに潜んでいることに気付いていなかった。そしてその魔の手は着実に日本の魔法社会に影を落とし始めていた。

 

その日の夜は水波に同じ部屋で同じベッドで寝るよう強要され翌日水波を腕枕した際の痺れが残っていた。

 

 

 

クラウド・ボールでは水波がアイス・ピラーズ・ブレイクでは泉美が優勝し新人戦は少々ヒヤッとする場面もあったが新人戦優勝を果たしたので今年の一年生の魔法力は気にかける必要はないようだ。

 

本戦ミラージ・バットでは香澄が亜夜子と熱戦を繰り広げたが惜しくも敗れ準優勝に輝き最終日のモノリス・コード決勝では琢磨を含む一高と文弥を含む四高の因縁の対決が行われた。

 

一昨年のように瞬殺されることはなく琢磨達はうまく戦略を立てていたが師補十八家が十師族の一角である四葉家の分家である黒羽家次期当主の文弥に敵うはずもなく戦闘開始から十五分で琢磨達は戦闘不能にされモノリス・コードの優勝は四高に決まった。一高は準優勝に終わったが三高が三位に終わったため総合優勝し悲願の七連覇を果たした。

 

今年は九校戦自体では事件は起こらず警備の強化を行っていたのが功を奏したようで安心できた。自分達が在籍していた頃は毎年何かしらの邪魔が入ってきたので毎回毎回対応しなければならなくなり余計な仕事をする羽目になった。

 

そこで俺が深雪に九校戦の警備の強化を打診すると深雪も同じ気持ちでいてくれたらしく二つ返事で了承してくれた。

 

自分達のように自ら解決できる魔法師はまだ育っていないだろうと克也達は思っており行動に移したまでだ。自惚れているように見えるが決してそのようなことはなくむしろ控えめな行動だ。

 

克也と達也なら『無頭竜』でさえ情報だけ渡しても自分たちで事態を収拾することができるだけの実力を持っているので天狗ではないだろう。

 

 

 

九校戦会場から四葉家新本家に帰宅し仕事部屋に入るとスポンサーや企業との商談を終えていた深雪が事務処理をしておりその隣には達也が優しく微笑みながら深雪を見ていた。そんないつもと変わらない様子に俺まで頬が緩んできたがそれを隠そうとせずに二人に声をかける。

 

「ただいま二人とも。」

「お帰り克也。」

「え?あ、お帰りなさいませ克也お兄様。」

 

達也と違い仕事に集中していた深雪は達也の視線を感じなくなり顔を上げると克也が立っていたことにようやく気付いたのでワンテンポ返事が遅れた。

 

「九校戦はどうだった?」

「なかなか良かったよ。母校が優勝する場面を目撃出来て嬉しかったな。」

「ほう、一高が七連覇したと?」

「ああ、文弥と亜夜子も活躍していたからあとで褒めてあげないとな。」

 

この十日間商談尽くしだった二人は九校戦の結果を目にする暇がなかったらしく俺が話すまで忘れていたようだ。達也に限って言えば思い出せないことはなくただ忙しくて思い出す暇がなかったらしい。

 

「エリカから連絡が来てたぞどうやら関東の剣術で有名な学校や流派を全て倒したらしい。」

「相変わらずやることが分かりやすいなエリカは。関東を制圧したとなれば次は東北か?それとも中部か?」

「さあなそこまでは書かれてなかったからエリカの行きたいところに行くだろ。ただ全国制覇なんぞされたら俺達でも太刀打ちできそうにない気がする。」

 

達也の言葉に試合で負けた瞬間を思い浮かべるとあの人をイラつかせるのが得意な笑みを浮かべながら俺を見ているエリカの顔をが浮かびつい舌打ちを漏らしてしまう。

 

レオの気持ちが理解できるのでよく三年間も耐え抜いたなと称賛したくなる。レオの名前を思い出し今頃何をしているのか気になった。

 

「そういえばレオはどうしてるんだろう。」

「ドイツに渡ってから連絡が来ないからなんとも言えん。レオのことだから肉弾戦の戦い方を伝授させられているのかもしれんな。」

「西城君ですからありえますね。」

「あいつってドイツ語喋れたっけ?」

「「あ…。」」

 

俺の素朴な疑問に二人は硬直してしまった。俺は自分が爆弾を投げ込んだことを後悔しシャワーを浴びてくるという名目で仕事部屋から逃げ出した。

 

数日後、レオからの手紙で『ドイツ語を覚えさせられているためまだ一度も目標の【も】という字も見えていない』と書かれていた。俺の悪い予感が的中し三人で引きつった笑みを浮かべることしかできずそれを見ていた水波は首を傾げていた。

 

 

 

リーナは頭を抱えその歳相応な奇麗な顔を歪めていた。決して恋という名の乙女な悩みではなくここ最近USNA国内で頻発している魔法師排斥運動に頭を悩ませていた。

 

魔法師排斥運動が起こるのはいつものことなので心中は{またか}という具合だが最近の運動はより過激で死者が出るありさまだった。死者が出ても運動を続ける彼らにUSNA政府は毎日国会で討論していた。魔法は抑止力にもなるが危険なものであるとも分かっているためどうすればいいのか迷い多大なストレスを抱えていた。

 

リーナが訓練に向かおうとしている最中突如警報が基地内に響き渡った。

 

{これは火災警報?いえ違うわこれは非常警報!でも何でこんなことが何者かが侵入したとでも言うの?ありえないここは国内でも有数のセキュリティの強い場所簡単には侵入できない。カツヤだってそう評価していたわ。}

 

リーナは指令室に何があったか聞きに行く途中で最悪の事態に出くわした。基地内の軍人が大勢の男に囲まれナイフで刺されている場面を目撃し思考停止に陥り一人がこちらを見た男の眼の光を見てリーナの意識は回復した。

 

その男の眼の光は尋常ではない魔法師に対する憎悪を含んでおりリーナは戦わず遠回りしてから指令室に逃げ込んだ。指令室の壁は重機関銃の攻撃に耐えられるように特殊加工されているので基地内で一番安全な場所だ。

 

「大佐何が起こったのですか!?」

「落ち着いて聞いて下さい総隊長今から言うことは全て事実です。つい先ほどこの基地に『レプグナンティア』のデモ隊が不法侵入しました。警備隊が制圧に向かいましたがあまりの数にデモ隊によって警備隊が制圧されその流れで基地内に侵入し悪態の限りを尽くしています。」

「そんな…。」

「大佐!」

 

二人が話している最中によく知った軍人が指令室に見たことのない必死な表情をしながら入ってきた。

 

「罰は後程お受けしますしかし今すぐにお伝えしたいことがあります!」

「カノープス少佐罰など与えませんそれでどうしたのですか?」

「デモ隊の一部が兵器保管庫に乗り込もうとしています今は水際でなんとか凌いでいますが防衛線が破られるのは時間の問題です!」

「なっ!では私が行きます!」

「総隊長はおやめください。」

「ベン、何故ですか!?」

「彼らは危険です総隊長の腕を疑っているわけではありません。総隊長にはここから逃げていただきたいのです。」

「カノープス少佐の言う通りです総隊長には逃げていただきます。」

 

信頼する二人に諭されてはリーナでも受け入れるしかない。心配されるのはあまり好きではないが自分の身を本気で気にかけている二人の思いを無礙には出来ないと感じ素直に受け入れることにした。

 

「分かりましたどちらに逃げればよいのですか?」

「日本です。」

「日本ですか?」

「はい、このような事態を想定して一昨年から逃走経路を確保していました。既に亡命先には貴女を受け入れると快く引き受けてくれた方々がいますから感謝しなさい。今すぐにでも避難してください総隊長はUSNAの希望の光なのです貴女を失うわけにはいきません。」

「分かりました要望を受け入れてくれた方々はどなたのですか?」

「それは着いてから自分の眼でご確認ください。カノープス少佐総隊長をヘリポートへ。」

「イエスマム。」

 

 

 

カノープスに連れられてリーナは基地内のヘリポートに来ていた。幸いここまではデモ隊が進行していないようだが制圧されるのも時間の問題だろう。基地内とはいえ端から端まで車で移動しても十分はかかる。

 

デモ隊が不法侵入してから十五分しか経っていないのだから基地のほぼ中央にあるこの場所まで来ていないのは普通だ。

 

ヘリに乗り込み離陸準備に入っているとカノープスがリーナに厳重にロックされた何かが入った箱を渡した。リーナは?マークを浮かべながら箱を受け取り開けるとそこには『ブリオネイク』が収納されていた。

 

「ベンこれは?」

「何かが起きた時のための護身用です。上から許可は降りていませんが総隊長の所有物ですから無断で持ち出してもとやかく言われることはありませんしこのような事態ですからこのことを気にする余裕もないでしょう。総隊長お気をつけて、総隊長の安全が確認でき次第我々もそちらに向かいます。」

「ベン約束ですよ?日本で必ず会いましょうバランス大佐と一緒に必ず来てください。」

「約束しましょうUSNA世界最強の魔法部隊の魔法師として必ずお迎えに上がります。」

 

リーナとカノープスは戦友として握手を交わし互いにハグをし離れた。

 

カノープスはヘリで遠ざかるリーナを見送りながら約束が果たせないだろうと感じ始めていた。ここにいる軍人の数では侵入してきたデモ隊に押し切られるのが眼に見えるほどの戦力差があり善戦しても数日持ちこたえるのが関の山だと。

 

救援要請を各基地に送っているが援軍の到着とこの基地が占領されるタイミングが際どく彼らに捕まれば斬首されるだろうとも予測していた。

 

デモ隊を殺すことは許可されており『分子ディバイダー』の使用も認められている。人間を幾人も殺してきたカノープスだが罪悪感がないわけではなかった。殺す度に心が手が自分自身が汚れていくのが分かった。

 

最初の内は嘔吐など精神的なダメージがあり軍人を辞めたいと思ったこともあった。しかしいつからか何人殺しても嘔吐などをしなくなったがそれは人を殺すことに心が慣れてしまったという自分にとって耐え難い苦痛を味わうようになった。

 

上からは命令通りに動き要望通りに任務をこなしてくれる軍人、部下からは魔法力があり人徳のある頼れる上司だと人が求める人間になっていたにもかかわらずカノープスの心は満たされなかった。

 

しかしそんな時一人の金髪碧眼の少女と出会いカノープスの生き方は変わった。自国を守るために人を殺すのではなく普段は頼りない普通の年端も行かない少女のために人を殺すのだと彼女が任務を遂行できるように補助するために人を殺すことが自分の存在理由なのだと自分の娘と二歳しか変わらない少女に教えられた。気付かせてくれた少女のために自分は死ぬのだと誓い今日まで生きてきた。

 

カノープスは『分子ディバイダー』を発動するための武装デバイスを自室に取りに行き水際で防ぎ続けている部下の増援に向かった。

 

 

 

リーナがバランスに知らされる数分前克也はもう関わることがないだろうと思っていた人物からの緊急要請に驚いていた。

 

「こちら四葉家執事の葉山です。」

『お久しぶりです葉山殿、私はUSNA統合参謀本部情報部内部監察局第一副局長 ヴァージニア・バランスです。緊急の要請をお願いしたくご連絡いたしました。克也殿をお願いできますか?』

『分かりました少々お待ちください。』

 

葉山は突然のバランスからの連絡にも驚かず恭しく答え克也に声をかけた。

 

「克也様、お電話です。」

「俺に?誰からですか?」

「USNA統合参謀本部情報部内部監察局第一副局長 ヴァージニア・バランス殿からです。」

 

名前を聞いて俺は嫌な予感しかしなかったが出ないわけにはいかず葉山から受話器を受け取った。

 

『お電話変わりました四葉克也です。』

『お久しぶりです克也殿今回は緊急の要請をお願いしたくご連絡させていただきました。どうか我々の要請をお受けしてもらいたいのです。』

『要請とは?』

『【スターズ】総隊長 アンジー・シールズことアンジェリーナ・クドウ・シールズを保護していただきたいのです。』

『…理由をお聞きしてもよろしいですか?』

 

リーナの保護を求めるなど普通では考えられないことなので事情を聴きだすことにした。

 

『先ほど【レプグナンティア】のデモ隊が基地指令室に不法侵入しました。今はどうにか持ちこたえていますが制圧されるのは時間の問題です。そこで総隊長を危険から遠ざけるために国外へ避難させることにしました。そこで総隊長と親交のある貴方に保護してもらえないかと思い連絡させていただきました。』

『分かりました要請を受け入れましょう。』

『…よろしいのですか?』

 

二つ返事で要請を受け入れた克也にバランスは驚いていた。

 

『自分は四葉家当主補佐です。当主の決定と自分の決定は優先権が違うだけでほぼ同じ効力があります。それに事情を知れば当主も同じように承諾します。』

『ありがとうございます克也殿この御恩は一生忘れません。総隊長の到着ですが翌日の夕方頃だと思われますよろしくお願いします。』

 

その言葉を最後に電話は切れた。そしてこの会話が最後で二度と話をすることが出来なくなるとは克也も知らなかった。

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