魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第八十五話 拉致

水波は四葉家お抱えのボディーガード三人と近くのショッピングモールに衣服などの生活用品の買い出しではなく食料の調達に来ていた。使用人達に頼めば済むはずだが健康のためにとわざわざ自ら買い出しに来ていた。

 

「水波様、あまり歩き回られてはお身体に障ります。」

「歩かなければお腹の子供に悪影響ですから歩かせて下さい。」

 

水波はボディーガードが自分の子供ではなく自分の身体を心配することに憤りを感じていた。何故子供優先ではなく自分なのかそれが水波にとっての唯一の不満だった。

 

調整体として生まれ幼きときに両親を失った自分を引き取りあまつさえ当主の甥っ子と婚約し子供をもうけるという幸せを掴んでいるにもかかわらず水波の心は一部曇っていた。

 

自分の心配より子供のことを考えて欲しいという水波の思いとは裏腹に魔の手が水波に近付いてきている。そのことを水波もボディーガードも気付かずにいた。人影がなくなり人払いの結界が張られていることにことに気付いたのはほぼ人がいなくなってからだった。

 

「水波様お気を付け下さい。」

「結界ですか?」

「おそらく、人払いと認識阻害の両方が展開されているかと。」

 

水波の前に立つ四谷辰巳は自分の判断が正しかったことを敵の襲来により認識した。店と店の隙間からナイフを持った全身を黒の服で揃えた何者かが跳びかかってきた瞬間に辰巳は動き襲撃者の顎を右掌底で打ち抜き少しばかり浮いた無防備な背中に右回し蹴りを喰らわせた。

 

声も出さず地面に倒れた襲撃者を冷ややかに見下ろし水波の元に戻った。

 

「今のは何ですか?」

「目的は不明ですが明らかに我々を狙っていたようです。目的が水波様自身なのか我々ボディーガードなのかわかりません。」

 

辰巳は襲撃者が単独だとは思っておらず周囲を警戒していたが警戒範囲外から狙われてはどうしようもない。

 

「がっ!」

「ぐっ!」

 

突然ボディーガードの二人が胸部を弾丸に貫かれ絶命した。その瞬間水波が物理障壁を展開するが身重なためか強度は十分ではなく続いて発砲された弾丸によって障壁が揺らいでいた。

 

「水波様危険です今すぐ店の中に!」

 

辰巳に言われても身重な水波は素早く動けない。かといって辰巳が抱えて振動を水波と子供に与えながら逃げるわけにもいかなかった。辰巳が逃げる方法を考えている間に先程の襲撃者と同じような服装をした人物達に囲まれていた。

 

その人物達からは生気を感じられず何かに取り付かれたように命令をただ遂行しているように水波と辰巳は感じた。

 

「水波様どの程度までであれば魔法を行使できますか?」

「六割ほどであれば可能です。」

「では御身だけに障壁を発動させて下さい私はこれからこいつらを殲滅します。それまでご無事で。」

 

辰巳はそれだけ伝え生気を感じられない人物達の一人に突撃し体術で戦闘を開始する。辰巳は魔法師ではないので魔法はまったく使えないが体術であれば四葉家屈指の実力を持つ猛者だ。生半可な鍛え方をした者であれば秒殺される…。

 

{こいつら人間でも魔法師でもない機械仕掛けという感じじゃないところを見ると強化人間か?それもケミカル強化を受けているようだが…。}

 

「きゃあ!」

「水波様!?」

 

悲鳴が聞こえ振り返るとどこからともなく四人の襲撃者が現れ水波の物理障壁を壊そうと躍起になっていた。

 

「水波様!ちっ貴様らそこをどけ!」

 

救助にいきたいのだが強化人間達がその道を塞ぐ。一人一人が手強いので全力勝負をせざる終えなくなり挑むが人数差もあり急速に体力を奪われる。そのうちに攻撃が裁ききれなくなり一人が放った左回し蹴りが水月にクリティカルヒットする。

 

「がっ!」

 

呼吸が一瞬止まり有り得ないほどの距離を吹き飛ばされ壁に激突する。

 

「ガハッ!」

 

吐血しその血の量に驚く。四葉家に仕えている間もその前もこれほどの血を流したことはなかった。実戦経験も何度もしているがこれほどの怪我をしたことは一度もなかった。いとも簡単にやられた自分を恥じるがそれ以上に水波を守れないことに苛立ち立ち上がろうとするが足腰に力が入らずその場に崩れ落ちてしまう。

 

その間にも水波の物理障壁は揺らぎ今すぐにも定義破綻しそうだ。だが満身創痍の辰巳では残りの十人を倒すなど不可能だ。それを理解しているが故に悔しさが倍増し自分の無力さを恨む。そして恐れていた自体が目の前で起こる。

 

「離しなさい!今すぐここか…ムグ!」

 

十人から攻撃を受けた物理障壁はいとも容易く破られ腕と足には縄を巻き付けられ最後に猿轡を口に巻き付けられた水波はあっという間に拉致されてしまった。

 

「水波様ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

辰巳の怒号も虚しく襲撃者達は水波を担いで走り去っていった。辰巳は自分の両腕を怪我することもいとわず地面に思いっきりたたき付けた。

 

{俺はなんて無力なんだ。当主様の要望にも応えられず護衛の任務さえまともにできないとは。警戒を怠っていたわけではないむしろしっかりと周囲は警戒していた。だがその結果がこの様だ信頼を失うのには十分すぎる理由だ。}

 

「お困りのようですね。」

 

不意に話しかけられ顔を上げると目の前にいたのは幼さの残る第一高校の制服を着た少年だった。

 

「貴様何者だ!」

「おお怖い満身創痍にもかかわらずそれほどの声を出せるとはかなりの戦闘力をお持ちですね。」

「減らず口を!」

 

このタイミングで現れたということは先程の襲撃者達の仲間だと思い辰巳は血反吐を吐きながら食ってかかる。

 

「貴様あいつらの仲間だな!?水波様を何処に連れて行った!」

「誤解されているようですね。」

「誤解だと?」

「はい、自分は彼らとは仲間ではありません。自分は依頼主代理であり彼らを命令する立場です。」

「ならば余計に許すわけにはいかん!」

 

辰巳は全力を振り絞りその少年に蹴りを放つがあっさりと避けられてしまいカウンターでボディーブローを喰らわされまたしても俯せに倒れ込んでしまう。

 

「よわ、これが四葉家に仕える魔法師なんですか?」

「仕方ないだろう彼らとやり合い重傷だったのだから。それにその者は魔法師ではない。」

「あ、当主様お疲れ様ですどうやら作戦は成功のようです。」

「そのようだなお前の指示もなかなかだったぞ七宝君。」

「ありがとうございます。」

 

{七宝だと?師補十八家ともあろう一家の子息が何故このようなところに!}

 

辰巳は自分の上で会話をしている二人の素性を見ようと目線だけを移動させそして驚愕した。

 

 

{何故貴方がここに…。}

 

「何故ここに私がここにいるのか聞きたいようだね。私がここにいる理由は私の夢を叶えさせるためだよいやこの言い方は適切ではないかな私と彼の野望とでも言えるかな。さて七宝君そろそろ行こうか目標は捕獲できた。ここに長居する必要は無い。」

「わかりました。」

 

琢磨は笑顔で頷き去って行く男についていく。辰巳は動かせない足の代わりに腕を使ってその場を去ろうとするが怪我をした腕ではそれほどスピードは出ず体力も大量に消費しているのですぐに息を切らしてしまう。

 

それでも辰巳はやるべき事を成そうとし腕を止めようとはしない。血が腕の傷口から滲もうが口に血が上ってこようが気合いでねじ伏せ進み続ける。

 

{このことを当主様に、克也様にお伝えしなくては…。}

 

「がはっ!」

 

突如背中に激痛が走り振り抜くと体の前に分厚い本を落とした状態で右手を自分に向け歓喜に震えている琢磨がいた。

 

{これが『ミリオン・エッジ』七宝家の切り札の一つか…。}

 

辰巳の意識はそこで闇に飲み込まれた。

 

「この眼で直接見れるとは思わなかった良い物を見せてもらったよ。」

「これからたくさん見る機会がありますよ。」

「ふふふふ、ではそれを楽しみにしておこうか。」

 

琢磨と当主と呼ばれた男は死んだ辰巳をその場に残し人を殺したとは思えない清々しい笑みを浮かべ去って行った。

 

 

 

克也が辰巳の死と水波の拉致を知ったのは本家に帰宅してからだった。

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