魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

94 / 120
第八十七話 覚悟

夜遅く本家に戻った俺を出迎えたのは腕を組み厳しい表情をして佇む達也だった。俺は何も言わず横を通り向けようとすると腕を掴まれた。

 

「何処に行っていた?」

「何処でもいいだろ。」

「教えろ。」

「教えなければならない理由を教えてもらおうか?」

 

突き刺すような視線で自分を貫かれたように感じた達也は自分が今まで感じたことのない何かを感じていた。克也は達也の手を振りほどき自室に向かった。

 

{俺は恐怖していたのか?冷や汗が何度も溢れたことはあったが今回のは違う。身に感じる危険じゃない魂いや精神に直接ダメージを与えるそんな視線だった。克也お前に何があった?}

 

達也にはまだ何があったか知らされてはおらずそれが余計に達也の精神を追い詰めていた。

 

{使用人や叔母上、葉山さん達は俺に何か隠している俺だけじゃない深雪にも。それが何か分からない水波がここにいないことと関係があるのか?}

 

達也にとって今の最大の不安要素は克也の精神の不安定さだ。今というより五年前から達也は自分の眼の『リソース』を全て深雪に注いでいるため克也の気配や位置を知ることは出来なくなった。

 

ただでさえ自分とは真反対と言っても過言ではないほどに人間性が違うのだから知り得ないこともあるがそれでもお互いに誰よりも信頼できる双子なのだから役に立ちたいと思ってしまう。

 

{深雪を不安にさせないためにも自分の不安は一度棚上げしなければならんか。もし四葉家にとって重大な問題であるなら早期解決をするべきだ明日にでも問いただすか。}

 

達也は克也が去って行った廊下を一度見てから深雪が寝ている寝室に向かう。

 

 

 

達也が翌日の朝、克也を問いただそうと克也の部屋に向かったがすでに克也の姿はなかった。日課のランニングにしても帰ってくるのは遅すぎるし何より不自然なのは克也の新しい特化型CAD{ブラッディー・ローズ(血薔薇の銃)}が作業台の上に置いていなかったことだ。

 

普段克也は寝るときも自室にいないときも{ブラッディー・ローズ}だけでなく{ブラッド・リターン}を必ず作業台の上に置くという癖があった。

 

克也が無防備に置いている理由は克也自身が使用する想子にしか反応しないというある意味セキュリティとも言える鍵をかけているからだ。

 

克也はCADを使用せずにある程度の魔法を使うことができる。克也がCADを持つ理由は二つ。

 

一つは「CADを使用せずに魔法をCADと同等の速度で発動できる」という四葉にとっても秘密にしなければならない能力があるが故である。

 

もう一つは「敵を殺すと決めたとき」である。殺意に結びつき行動に移すことなど克也にはほぼありえないことだ。

 

だが達也は今ここに{ブラッディー・ローズ}がないのは後者だと直感していた。さらに克也の焦りを達也は何かの前触れだとも思い嫌な気しかしなかった。

 

{やはり聞き出すしかないか。}

 

達也は一番事情を知っているであろう人物に聞きに行くためにある部屋に向かった。

 

 

 

「叔母上、四葉に何があったのか聞いてもよろしいですか?」

「どうしたの達也さん?」

 

達也は真夜の自室に葉山の許可を得て入室し開口一番そんなことを口にした。

 

「とぼけないでください克也を見れば分かることです。四葉に何かあったのですか?」

「何もありません。」

「叔母上!」

 

達也が大声を上げても真夜は無表情に達也を見上げていた。苛立ちを覚えたがここで爆発させるわけにもいかずどうにか抑える。だが抑えるのもいつまで保つか分からない達也自身がよく分かっている。

 

達也は何も言わず真夜を睨み付け部屋を荒々しく出て行った。

 

真夜はその恐ろしい睨みにも恐れず気丈に見返し続けていたが達也が部屋を出て行くと息を吐き出した。

 

{あの睨みに耐えられるのはそうそういないでしょうね、葉山さん黙っていられるのも時間の問題よ。}

 

 

 

克也はその日、日が昇る前から水波を探していた。犯行現場を中心に半径五kmの範囲をしらみつぶしに捜索していたが夕方になっても手掛かりは何一つ見つからなかった。

 

「眼」を使って水波の想子の痕跡を探したが現場以外には見つけることも出来ず捜査に早くも行き止まりを感じていた。

 

相手の用意周到さに脱帽だがそれが余計に自分を苛立たせていた。そこまでして水波を狙う意味がわからない何故水波でなければならないのか想像も出来ない。

 

コンビニで買ったアイスコーヒーを片手にベンチに腰掛けていると知った人から電話がかかってきた。

 

「もしもし。」

『克也君、何があったのか聞いてもいいかしら?』

「何がですか?」

『達也君から連絡をもらったのよ【克也が可笑しいから話を聞いてやってほしい】って。』

 

弟の気遣いに感謝するべきところだが今回ばかりは苛立ちしかなかった。

 

「ありますが今はお話しできません。ところでお願いがあるのですがよろしいですか?」

『面倒なことでなければね。』

「渋谷の大型ショッピングモールの想子測定器がハッキングされていなかったか調べてもらえませんか?」

 

予想外の仕事に?マークを浮かべているのが電話越しでも分かった。

 

『…時間帯は?』

「一昨日の朝から夕方にかけてでお願いします。」

『 わかったわ少し時間をちょうだい。』

「もちろんですそれでは。」

 

電子機器を調べることのできる人物が協力してくれるのであれば捜索がかなり楽になる。だがそれでも他のナンバーズのように大量の魔法師を抱えているわけではない四葉にとってはストックを使い捨てる勢いで投入しなければ発見は困難だろう。

 

だが襲撃者の警戒を強めるような大人数を投入するわけにはいかず少数となるのでどのみち捜索は難航する。他の分家を凌駕するほどの諜報能力を持つ黒羽家といえども片手の数しか投入できないとなるとかなり時間はかかる。

 

後手に回るしかないが尻尾を掴みこちらの動きを知られないためには仕方のないことだ。克也はベンチから立ち上がり捜索に再び戻り路地裏に消えていった。

 

 

 

達也は真夜の部屋から退出した後、四葉本家にいる使用人や執事に何があったのか聞き出すため脅して回っていたが誰一人として答える者はいなかった。何かを隠しているのは事実であり水波と克也関係であるのは疑いようがないことである。

 

「達也様、いかがされたのですか?」

「ちょっと考え事をね。新しい研究テーマについて考えていただけだよ深雪は気にしなくていい。」

「それならよいのですが何やら本家が慌ただしく感じるのですが気のせいですか?」

 

自室から一歩も出ることのない深雪はこの部屋にいるだけで少なからず本家の空気を嗅ぎ取っていたらしい。普段であれば状況を理解してくれることに喜ぶところだが事情や体調のことを考えると今回ばかりは気付いてほしくなかった。

 

「…大丈夫だよ深雪の出産が近いからみんな緊張しているだけだ深雪は気にせずリラックスしていなさい。」

「克也お兄様はどちらに?ここ二日一度もお会いしていないのですが。」

 

今度こそ達也は黙り込み上手い言い訳が簡単に浮かばずどうしたらいいのか迷ってしまった。

 

「…克也は有力ナンバーズのパーティーに呼ばれているよここ三日の間に立て続けに招待したいという招待状が何枚かきてね。」

「納得いたしました。」

 

揺り椅子に腰掛け穏やかに微笑む深雪に達也は罪悪感が込み上げてくるのを感じ気力で押さえ付けたが同時に兄に怒りを抱いていた。一人で抱え込もうとするのは昔から変わらず正義感故の行動だが長い付き合いだからこそ許せない物がある。

 

{今日こそ吐いてもらわないと俺の気が済まんな。多少手荒になっても仕方が無い。}

 

達也はいつのまにか寝息を立てている深雪に微笑みながら心の中では覚悟を決めていた。




今頃ですが克也の容姿は吸血鬼騎士に登場する玖蘭 枢(くらんかなめ)を参考下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。