魔法科高校の劣等生~双子の運命~   作:ジーザス

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第八十九話 発見

達也との会談の次の日藤林さんから予想通りの結果が帰ってきた。

 

「やはりハッキングされていましたか。」

『それもかなり高度にね。』

「犯人は分かりましたか?」

『数多のルートからハッキングされているから見つけるのは事実上不可能ね。』

 

藤林さんは本気でがっかりしているらしくいつもの笑顔ではなく声もいくらか低くなっている。『エレクトロン・ソーサリス』の肩書きを持つ彼女の魔法を以てしても尻尾を掴ませない人物とは一体何者なのか想像もつかない。

 

「情報の上からではなく自分達で見つけるべきなのでしょうか?」

『情報の上でも現実でも必ず足跡は残るからそれを一つずつ洗えば出てくるだろうけど。』

「効率が悪すぎますね。」

『十師族に報告はしないの?』

「これは四葉家の問題です他の家を巻き込むわけにはいきません。それに報告すれば大人数を動かすことになるかもしれませんしそいつらに警戒されせることになります。」

 

このことは最低限の人にしか知らせたくないので四葉家以外に知っている人物は藤林さんだけだ。師匠には知らせてはいないがあの人のことだから何か掴んでいるかもしれないのでそろそろ聞きに行くべきだろう。

 

『そこまで言うなら祖父にも言わないでおきます。まだ全部の解析が終わったわけじゃないから何か分かればまた連絡するわ。』

「ありがとうございます。」

 

映像電話を切りリビングのソファーに座り背もたれに体を預ける。ここ五日間の疲労のせいか眼の奥が鈍く痛み瞼を強く閉じてしまう。達也は昨夜から始まった深雪の陣痛を心配し四葉家お抱えの産婦人科に泊まり込んで深雪の側にいるためここにはいない。

 

産まれれば喜ぶことができるが心の底から喜べるか微妙なところだ。次の世代を担う新しい命の誕生に喜びたいが水波の安全を確認しない限り本当の意味での祝福を送ることはできない。

 

達也だって深雪だって自分達の子供が産まれれば少しの間は水波のことから意識が離れるそれは仕方がない。だが分かっていても忘れないでいてほしいと願ってしまう。

 

「克也様、緊急のお客様です。」

「誰からですか?」

 

重く深い思考に陥っているとリーナ専属の使用人であるシルヴィーさんから声がかかった。

 

「北山潮と申されています。」

 

予想だにしない人物からの面会を求める要求に驚きを隠せない。

 

「今すぐ応接室に通して下さい。」

「畏まりました。」

 

長く仕えている使用人達とそれほど変わらない動作で部屋を出て行く女性を見送り自分も応接室に入る。数分後二回しか会ったことがないがどう見ても普通ではないことが起こったのだと分かるほど必死な顔をしながら潮が入ってきた。

 

「克也君助けてくれ!」

「北山さん落ち着いて下さい。一から話してもらわないと判断できません。」

「…すまない。」

 

潮はシルヴィーが出した冷えた麦茶を一気に飲み干し落ち着きを取り戻した後ゆっくり話し始めた。

 

「雫がさらわれた。」

「雫がですか!?」

「雫だけではないほのかちゃんも一緒にだ。」

「…場所はどこでですか?」

 

硬質化した俺の声音に腰を砕かせながらも答えた。

 

「…渋谷の大型ショッピングモールだ。」

「時間帯は?」

「一時間前だ。警察から少女二人がさらわれ映像解析した結果その少女が雫とほのかちゃんだと連絡が来た。」

 

渋谷と聞きもう手段を選んでいる場合ではない。身内だけでなく友人まで手を出したのだ容赦などできるはずがない。

 

「お引き受けいたします。」

「いいのか?」

「無論です。友人をさらわれたとなれば黙って見過ごすことなど出来ません。」

「克也君ありがとう!」

「克也様緊急の連絡です!」

 

潮と固く手を握り合っているとシルヴィーが情報端末から耳を離し叫んできた。

 

「どうしました?」

「先程お話ししていたお二人を発見したそうです。」

「「何!?」」

 

まさかのタイミングに驚くがこの上ない情報だ。

 

「誰がどこでですか?」

「亜夜子様と文弥様からです。確証はありませんが情報によるとお二人と思われる想子波動を発するワゴンが空き家に入っていくのを見かけたそうです。」

「今から俺も向かうと二人に伝えて下さい。北山さん必ず二人を連れて帰りますしばらくここで待っていてください。」

 

俺は二人の返事を聞かずに応接室を飛び出し自室に置いている{ブラッディー・ローズ}を取りに行き自分の車で文弥達の元へと向かった。

 

 

 

文弥達の居場所は車に搭載しているカーナビに表示可能なためシルヴィーに聞く必要はなかった。二人が雫とほのかを発見できた理由はシルヴィーの魔法を応用し克也の技量では見抜けない残留想子を感知できる機会をFLTと共同開発した。念のために知り合い全員のデータをインプットしていたおかげで今回は発見することが出来たというわけだ。

 

交通法ギリギリの速度で向かい十五分もかからず文弥達の場所に到着した。

 

「二人とも準備はいいか?」

「克也兄さん、お二方はあの場所にいるのは間違いありません。」

「そのようだな二人の存在を感じる。それに水波もいるかもしれないな水波の存在も強く感じるがどこにいるかが分からない。水波の付近にだけ認識阻害の結界が張られているようだ。」

「克也さんどうしますか?」

 

亜夜子の質問は自分が入れば足手まといにしかならないのを自覚しているが故の質問であり俺は連れて行くべきではないと思っていた。亜夜子の魔法は諜報向きであり実戦に適した魔法ではないためこういう場所では本来の実力は出せない。

 

「亜夜子、お前は黒羽家の魔法師とここら一体を警戒していてくれ。誰かがあの空き家に侵入しないようにね」

「わかりました。」

「文弥、行くぞ。」

 

亜夜子が護衛の魔法師とその場を離れ警戒に当たったのを確認後文弥に声をかけると無言で頷き俺の後ろを歩いてくる。

 

空き家の前に立つが特に何もおかしな点は見られないワゴンを荒れた庭に置いてある以外は。

 

「克也兄さん、あれがお二人が乗っていたと思われるワゴンです。」

 

俺は振り返らず文弥の言葉を耳で聞き壁に左耳を押し当て魔法名『壁耳』を発動させる。これは古式魔法の一つで新婚旅行の前に幹比古から精霊の扱い方を教えて貰い唯一習得できた魔法だ。

 

一年の九校戦で『逃水』を使ったことを知った幹比古が『ならば精霊を軽く使えるかもしれない』という突拍子のない自論を掲げ半ば強制的に訓練させられた。

 

風の精霊に力を借り微弱な空気の振動を可聴域にまで音量を上げ内部の音声を聞き分ける。

 

 

『まさかこの二人を拉致させるなんてなボスは何を考えているんだ?』

『知るかよ幹部によると【ボスは口で言っていることと考えていることが一緒なのか分からない】らしいから俺達みたいな入ってから間もない人間が理解できるわけがねえだろ。』

『それより見ろよこの二人なかなか上玉だぜ久々にいいかな?』

『てめえずりいーぞなら俺はこっちのかわいこちゃんをいただこうかな。』

 

 

男二人の卑猥なやり取りを聞き怒りが上昇するがなんとか抑える。

 

「二人はここで間違いないな。文弥、俺の肩に触れて『ダイレクト・ペイン』で中にいる奴らを無力化しろ。」

 

振り返らず命令すると文弥は不満そうな顔をせず俺の左肩に左手を置き流れ込む情報を読み取り魔法の照準を合わせ固有魔法『ダイレクト・ペイン』を発動させた。

 

中から数人が倒れる音が聞こえると同時に入り口のドアを『燃焼』で燃滅させ中に入ると五人の男が倒れていた。

 

簡素なベッドに寝かされていた雫とほのかを見ると上半身の衣服を剥がされあられもない姿に成り果てていたので文弥に眼を閉じるように言い二人の衣服を移動魔法で元通りに戻す。

 

「達也兄さん、認識阻害の結界はどこに張られていますか?」

「この床下から地下五mの立方体だな。」

「立方体ですか?」

「俺の魔法『ベルフェゴール』じゃ消去できんようだ。」

 

文弥は驚きどう動こうか迷っているようだが俺の説明は続く。

 

「俺の『ベルフェゴール』が効かないとなるとこれは噂に聞いた『パーフェクト・キューブ』かな。」

「『パーフェクト・キューブ』ですか?」

 

聞いたことない魔法名に文弥が首を傾げるので説明することにした。

 

「『パーフェクト・キューブ(完璧なる包囲)』あらゆる魔法や物理攻撃を防ぐ完璧な防御魔法だ。とても強力な硬化魔法で示した範囲を空間に留めるから使える人間はほぼいない。」

「ではジェネレーターが張っているというのですか?」

「ジェネレーターのような出来損ないでは何十体いようと使用はおろか魔法式の構築さえ出来ないよ。」

「では一体何がこのような魔法を…。」

 

文弥は俺の発言の意味を理解していないようだ。

 

「俺はさっき『ジェネレーターのような』と言ったのは覚えているよな?なら機械もしくは大人数の魔法師なら発動可能ということだ。」

「そんな魔法を使える魔法師がいるのですか?」

「使えるのはこの魔法の二次開発者イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフ只一人だ。」

「…何故新ソ連の戦略級魔法師の術式がここで使われているんですか?」

「どこかで繋がりがあったのだろう。」

 

克也は素っ気なく答えただ一つの魔法を足下に向かって発動させた。すると足下から体をなでるように吹き上げる「何か」を文弥は感じた。だがそれよりも驚愕したのは『パーフェクト・キューブ』を破った克也の魔法に驚いていた。

 

「克也兄さん、一体何をしたんですか?」

「魔法を解除したそれだけだ。」

「どうやって解除したんですか?」

 

克也は早く先に進みたかったが文弥の不安を取り除くことを優先した。

 

「俺は『パーフェクト・キューブ』を強制的に定義破綻するように仕向けた。魔法名『アブソリュート・キャンセル(強制解除)』は『パーフェクト・キューブ』を無効化できる唯一の対抗魔法だ。」

「そんなものをどこで…。」

「これは魔法大学の中に保存されている文献の中でも更に規制のかかった有害文献の中に書かれていた五十年前に考案された未完成の魔法だった。三年前に文献の整理をしている際に許可を貰って本家で達也と二人で完成させたんだ。」

「何故そんなものが書かれていたのですか?」

「当時、新ソ連が強力無比な魔法を開発中だと知った日本の魔法師の一人が生涯をかけて最強の防御魔法を無効化できる対抗魔法を設計した。五十年前はそれほど魔法も今ほど発展していたわけじゃないから完成させられなかったんだろう。」

 

克也と達也は三年をかけ設計途中だった魔法式を製作し今年の正月に完成させた。

 

「どのような効果があるのですか?」

「『パーフェクト・キューブ』は硬化魔法によって想子が分子のように連結しあって強固な壁を作っている。『アブソリュート・キャンセル』は移動魔法で想子の繋がりを切るまたは外して別の場所に繋ぐ魔法だ。もちろん『パーフェクト・キューブ』より強い干渉強度が必要になってくるし消費想子量も尋常じゃない。力尽くで定義を変更させるから普通の魔法師では使用できない。っと長話をし過ぎた文弥は二人を頼む俺は下に行く。」

 

{ブラッディー・ローズ}を床下に向け『ベルフェゴール』と『燃焼』を発動させ認識阻害の結界と床のコンクリートと土を消し飛ばす。すると水波の存在を認識でき安心したのと同時に憎悪が沸き上がりそのまま先程開けた穴に飛び込み地下室まで落下する。

 

空間を完全に掌握した克也は着地の際に音も立てず衝撃など自分の体に何一つ影響はなかった。呆然としながらこちらを見ている研究者らしき「異物」を容赦なく『ヘル・フレイム』で存在を消し去り機械につながれている水波の元へ向かう。

 

顔は真っ青で頭には数多のコードが繋がれたヘットギアらしき物をつけられていたので優しくしかし最短スピードで外し破壊すると警告を表す警報が鳴るが俺の耳に入らず『全想の眼』で水波を見るとその場に崩れ落ちてしまった。

 

「…水波、お前も…なのか?」

 

ぼそっと自分の声ではないような声で呟きよろよろと立ち上がりコードが繋がっている機械に走り寄りキーボードを猛烈なスピードでタイピングし情報を見つけようとしたがまたしてもハッキングされデータを盗まれてしまう。そのハッキングにはウイルスが仕込まれていたらしくその画面一杯に髑髏マークが現れる。

 

 

うなだれたのは僅かな時間で水波を抱え開けた穴を上り文弥と合流する。

 

 

 

「克也兄さん戻って…克也兄さん?」

 

文弥は克也の腕に抱かれている水波を見て安堵したが克也の表情を見て異変に気付いた。克也の表情が普通ではないのだ。能面でもポーカーフェイスでもない本当に感情が消えた表情で立つ克也は何も言わず移動魔法を雫とほのかにかけて空き家を出て行く。

 

文弥は根っこになったように床に張り付き動かない足を懸命に動かし克也の後を追った。




次話からさらにシリアスになっていきます。
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