XDシナリオafterstory 『晴れ煌めく陽光』 作:nagato_12
◇ ◇ ◇
小日向未来。数年越しに再会を果たした、ワタシの一番の親友。
数日前。数多のノイズとの戦いの末、自分の命さえ投げやりに燃やし尽くそうとしていたワタシの手を握ってくれたのは、別の世界の〝彼女〟の手だったけれど、それでも『小日向未来』という少女はどの世界に居ても、自分の幼馴染の為なら世界の壁すら越えてしまえるような、ワタシにとって『陽だまり』の存在であることに違いがなかった。
それは彼女――ワタシの危機を聞いて、わざわざ駆けつけてくれたこの世界の未来も、同じであったようで。
彼女はなんと、ワタシと再会をしたあの日。あの後、盛岡で一緒に暮らしていたという両親を強引に説得をして、こっちへ――私立リディアン音楽院への転校を申し出ていたのだという。
もちろん、普通では考えられないような無謀過ぎる思いつき。家族の説得や、転入試験に引越しの準備など、どう贔屓目に考えてみたところで、とても現実的ではないような考えだった。それなのにも関わらず――驚いたことにワタシの幼馴染は、その願望を現実のものにしてしまったらしい。
今日、こうして未来がワタシの寮室を訪ねてきたのは、転入届けを学院側に提出するためだったのだそうだ。
「明後日くらいには、一緒に学校へ通えるようになると思う」
楽しみだなぁ、と。嬉しそうに顔を綻ばせて、未来。
彼女が語って聞かせたあまりの急展開に、すぐには理解が追いつかないワタシだったけれど、その中でもとりわけ動揺してしまったのが、未来が既に決めていたというその引越し先だった。
「相部屋だった子にも声を掛けてみたら、別にかまわないよって言ってもらえたから」
明後日からは、一緒に暮らそうね響。
動揺というより、もはや仰天だった。
そう、未来が引っ越してくるのは、他でもないワタシの部屋だというのである。
リディアンの学校寮は通常、二人組の生徒に一部屋を与えられるシステムだ。ワタシのように一部屋を一人で独占している環境は、本来ではありえない。それを、どうやって探し出したのか、未来は部屋を出て行ったはずのワタシの元ルームメイトと話までつけて、合鍵をもらったのだという。
朝起きたら未来がすぐ傍に居た事に、これで図らずも納得がいってしまうワタシだった。
「な、なんて無茶苦茶な……」
一連の事情を聞かされて、やっとのことでワタシの口から、呆れたような声が零れる。
「あ……ご、ごめんね響。勝手に決めちゃって……もしかして、迷惑だったかな」
「…………」
そんなことない、と。すぐに返事をしそうになったが、戸惑い通しのワタシの口は、うまく動いてくれなかった。
未来との共同生活――陽だまりのそばで居られる、そんな生活。
そのヴィジョンはあまりに幸せ過ぎて――輝きすぎていて。
降って沸いてきたような、そんな幸せが、独りぼっちでもがき続けることが日常になっているワタシには、相応しくない気がして。
ワタシは思わず、下を向いてしまうのだった。
「……ひびき」
そんなワタシの様子を見て、未来がそっとワタシの手に触れる。
さっきもこんな風に手を握ってもらったけれど、そのときよりも優しく、彼女はワタシの手を包み込むように握り締めた。
「……私ね、響に逢いに行くまで、それまで響がどんな生活をしていたのか、どんなに苦しみながら戦っていたのか、ぜんぜん知らなかったんだ」
「……みく」
「響が一番ツラいとき、私は響のそばに居てあげることが出来なかった。私はそれが、その事実がとても悔しい。そんな自分が許せない」
「そ、そんなこと――ッ」
ないっ、思わず言い返そうとしたが、未来はそんなワタシを静かに制して、言葉を続ける。
「ううん。私ね……一番の親友が苦しんでいたのに、それに気付いてあげることが出来なかったんだよ? 響に……酷いことをしてしまった。今さら許してもらおうなんて、思っていない――それでも。私は響と、貴女とこれからも一緒に居たいんだ」
これは私のわがまま。調子の良い話かもしれないけど、そうじゃないと私は、立花響の一番の親友として、胸を張れない。
未来の手に力が篭もる。そこから伝わってくるのは、暖かな彼女の体温だけじゃない。まるで彼女の気持ちが、繋いだ手を通してワタシの中に流れ込んでくるようだった。
「どう思われようと関係ない……もう響が一人で背負い込んで、独りぼっちで苦しむだなんて耐えられない……響さえよかったら、これから貴女のそばに、私も一緒に居させてほしい」
未来はそう言って、ワタシの目を真正面からに見据える。
あぁ、なんてこの手は――。
別の世界の未来に手を握ってもらったあの時と同じ、穏やかな気持ちがワタシの中に流れ込んでいく。
そうか。これが――これこそが、ワタシがずっと求めてやまなかったモノ。ワタシの――、
「……やっぱり、〝陽だまり〟だ」
「え……?」
「……別の世界の、未来が言ってたんだ。自分は〝立花響の陽だまり〟なんだって」
ワタシの言葉に、未来はきょとんとした顔になる。大きな瞼を何度か瞬かせた後、やがて彼女はおかしそうに破顔すると。
「ふふっ、なぁにそれ」
と笑った。
「……あ、はは」
つられて、ワタシも笑う――笑った。
なんだか本当に、随分と久しぶりにワタシは。
自分らしく、笑えた気がした。
「響、遅れちゃったけど――ただいま」
「……ホントだよ。遅刻だからね、未来――おかえりなさい」
◇ ◇ ◇
「ごめんね響。まだちょっと書類の提出や、入学の手続きがあるらしくて……。さきに寮に戻っておいてもらえるかな? 晩御飯は一緒に食べようね」
これは未来の台詞。
派手な遅刻をしたけれど、それはいつものことで特に気にも留められていないのか、教師から怪しまれるといったことも特に無く、無事に午後からの授業を受け終わったワタシが、学院内の事務課で手続きをしていた彼女と合流した際、そんな言葉を掛けられた。
別に急いで帰宅するような用事も無いので、待っていようかと申し出てみたが、未来には「悪いから」と丁重に断られてしまった。
無理に待って、彼女にいらない気を遣わせてしまうのも悪いと判断してワタシは、言われた通り素直に帰路へつく。
誰かの帰りを待つ。
そんなこと、もう随分としていなかったことなので、なんだか気持ちがふわふわと落ち着かない気分だった。
意味も無く、商店が立ち並ぶ人通りの多い道を選んで、寮のある方面へと歩く。真っ直ぐ家に帰ると、とても穏やかにはいられないような気がしたからである。
(なにか、未来に買って帰ろうかな……)
お店のウィンドウをぼんやりと視界に留めながら、そんなことをふと考えてみたけれど、そこでワタシは、彼女の喜びそうな品に心当たりがないことに気が付く。
(もう何年も会ってなかったんだから、知らないで当然……だよね)
年月が開けてしまった、ワタシと彼女との距離。それが少しだけ、空しさを感じさせて。ワタシは寮へと向かう足取りを、少しだけ遅らせる。
(未来の好きなものって……なんだろう。小学生の頃は、カキ氷とか好きだったけど……)
食べ物の好みは、まだ高校生になっても変わっていないのだろうか。さすがに何年も過ぎれば、彼女の味覚も変化していてもなんらおかしくはない。それにたとえ変わっていなかったとしても、カキ氷は少し、お土産としてはチョイスしにくい品物である。
それに贈り物といえば食べ物、と安易に考えてしまっては、未来に呆れられてしまうかもしれない。久しぶりに再会した幼馴染に、食い意地が張ったヤツだと思われてはたまらない。
(未来に聞いてみたいことが……いっぱいある……)
一体、なにが好きなんだろう。どんなものが嫌いで、どんなものに興味を持つような女の子になっているのだろう。
たくさん聞きたい。もっとたくさん知りたい。そう思って、ふと気が付いた。
「……そっか、ワタシ」
二人の間にできた空白。年月が開けてしまったその距離を自然と取り戻そうとしている、そんな自分に。そのことがとても、嬉しくてたまらないと感じてしまっている自分に。
「……はやく、会いたいな未来」
さきほど会ったばかりだというのに。なんだかおかしくて、ワタシは家に向かう足取りを早めようとした。
そのときだった――。
「ッ!?」
街中に轟く爆音のアラート。ビリビリと衝撃さえ伝わってくるかのようなその音に、ワタシの近くを歩いていた通行人たちが悲鳴をあげる。
「ノ、ノイズ警報だッ」
「嘘だろッ、昨日もあったんじゃねぇのかッ!?」
半ばパニック状態になりながら、逃げ惑い始める人々。瞬く間に平穏な風景は、悲鳴と怒声の混じった喧騒へと塗りつぶされていった。
洪水のような勢いで、避難していく人々の流れの中。ワタシはノイズ警報が垂れ流しにされている方向を睨み付けた。
(ノイズが……ッ!)
どうする。以前の自分なら、一も二もなく駆け出している状況。
すぐにでも警報が発生している場所へ、ノイズを殲滅しに向かう場面。
しかしそれは。自分の身体の中にノイズと戦う術が――胸の歌が、在ったから。
(今のワタシには、胸のガングニールはない……行ったところで、ワタシにはなにも出来ない)
ノイズと戦えないワタシが行っても――。
そんなことを考えて立ち尽くしていた、そのとき。
「だ、誰かっ、わたしの娘を知りませんかっ!? あ、あのっ! 誰かっ!」
ワタシの耳に、一人の女性の悲鳴が聴こえてきた。
「……ッ!?」
声のする方を見ると、そこには顔を真っ青にしながら取り乱している女性の姿。彼女は必死の形相で、すれ違っていく人々に縋りついている。
悲鳴の内容から察するに、どうやら避難しようにも運悪く、自分の娘と離れてしまっていたらしい。
(ノイズと戦えないワタシ……行ってもなにも出来ないワタシ……)
たとえ――そうだとしてもッ。
考えるより早く、ワタシは女性が居るほうへ駆け出していた。
「……そのはぐれちゃった子の、特徴を教えてッ!」
◇ ◇ ◇
母親から教えられた特徴をした、少さな女の子を、けたたましくサイレンが鳴り続ける中で、響が発見できたのは幸運以外の何物でもなかった。
(――っ! 居たっ!)
少女が蹲っていた場所へと駆け付けて、響は呼吸を落ち着ける。
それと同時にざっと辺りの建物を見まわしたが、大きく損壊している場所は見つからない。どうやらまだ、この辺りの区画まではノイズは押し寄せて来ていないらしい。それを確認し、響は静かに胸を撫で下ろす。
「お母さんがいないのぉっ、お母さんが――」
母親とはぐれたショックと、災害時の独特な空気感に呑まれてか、泣き続けることしか出来ない少女。年端もいかない彼女の低い身長に合わせて、響はその場でしゃがみ込むと、少女に視線を合わせた。
「……だいじょうぶ。お母さんの居るところ、お姉ちゃんが知ってるから。だから、お姉ちゃんと一緒に行こ」
ね? と、穏やかな声音を使って話し掛けると、少女はしゃくりあげるような泣き声を上げながら、たしかに一度頷いた。
少女の身体を背負い込み、重心をやや前方に傾けながら、その場で立ち上がる響。彼女が、近くの避難シェルターの位置取りを思い出そうとした、ちょうどそのとき。
「――ッ!!」
腹の底に響くような轟音と強烈な振動を立てながら、すぐ目の前にあった建物が崩壊した。
「……クソッ!」
一瞬のうちに、瓦礫へと変貌していく風景。響はその中――朦々と立ち上がる砂埃の中に、たしかにこちらを見据えながら、飛び込んでくる影を見た。
慌ててその場で、少女を抱えたまま横へ飛び退く。すると、さっきまで響が居たその場所を、流動するナニカが凄まじい速度で通り過ぎていった。
ソレは直線上にあった街路樹へと衝突し、ようやく動きを止める。肌がチリチリするような、独特な感覚。響の首筋を、うすら寒い嫌悪感が撫でていった。
「っ」
人間を炭化させ、瞬く間に分解してしまう超常特異災害――人類はその未知の異敵を《ノイズ》と呼んでいる。
少女を背負い直すと、響はすぐさま踵を返して、ノイズが現れた方とは逆方向へと駆け出した。
「……こわいよ、おね……ちゃ、ん」
背中越しに聞こえてくるのは、恐怖に震えて今にも消え入りそうな少女の泣き声。
「――だいじょうぶ」
冷や汗を額に浮かべながら。全力疾走する足は一切緩めず、響は気丈に振舞ってみせる。瓦礫へ変わっていく街を駆け抜けながら、立花響はそれでも、弱い者へと懸命に語りかけた。
「こんなの、へいきへっちゃら――だから」
生きるのを、諦めないで。と。
立花響は、走り続けた。
後方から聞こえてくる破壊音にまるで追い立てられているかのように、無人になった街道を走り続けて、どのくらいの時間が経過したか。
いくら自分の年齢の半分もしないような子供とはいえ、人一人を背負っての全力疾走をいつまでも続けることは、たとえ装者としていくつもの戦場を強靭にくぐり抜けてきた響であっても、不可能だった。
それどころか、シンフォギアとしての力を振るえない今の自分は、同世代の人間のフィジカルとそう大して違いがない。
走るスピードはみるみる落ちて、足取りにも少しずつもつれが生じ始める。自分のスタミナに限界を感じ始めた、そのときだった。
「……ッ!?」
数十メートル先。自分の進行方向に続いていたはずの道路が、大きく歪んで崩落してしまっているのに気が付いた。どう見繕ってみても、飛び越えられるような規模のものではない。
それならば、別の道を――。慌てて方向変換をしようと考えるが、道が崩落するほどの破壊を受けた街で、無事に通り抜けられそうな他のルートなど、タイミングよく存在しているはずもなかった。
進路を絶たれ、別の逃げ道もない。チラリと振り返ってみれば、後方からコチラを目掛けて走り寄ってくる影がいくつも見える。
(どうする――イチかバチか飛び降りるか!? ダメっ。それじゃあこの子が無事で居られるかわからないっ。でもこのままじゃいずれ――どうするッ)
目まぐるしく脳みそが回転して、この場を無事に生還する術を探し出そうとするが、都合の良い解決方法は見つからない。
動揺と焦りばかりが募って、余裕が無くなっていく自分の頭にはやがて、
(今のワタシに――ガングニールの歌が、在れば)
そんな、考えても仕方のないことまで過ぎっていった。
「おねぇちゃん……わたしたち、しんじゃうの?」
背負った少女から、そんな弱々しい問いかけが投げられる。
「!」
追いかけてきていたノイズが、もうすぐそこにまで迫ってきているのがわかった。前には崩れた道が、ぽっかりと大穴を開けている。
絶体絶命の窮地――にもかかわらず。
「……さっきも、言ったでしょ」
立花響はそれでも、顔を俯かせることだけはしなかった。
「生きるのを、諦めるなぁッ!!」
吼えるように叫んだ後、響は余力のありったけを振り絞って後ろへ――ノイズの群れが迫っている方向へと、駆け出した。
ノイズが迫ってきている中での、正面突破。常人ならば、気が狂ったとしか思えない異常な選択だったが、それを選んだ響の思考は、決して捨て鉢によるものではない。
普通の人間なら、ノイズという絶対の危機を前にして、まともに動くことなんて到底出来ない。しかし、もし――対ノイズ戦闘に熟練した者が居たとすれば?
先頭を走っていた一体が、身体を流動的に変形させて飛びついてくる。先端が少しでも触れれば、あっけなく人体は炭へと変わってしまう、そんな一撃必殺の恐怖。
響はそれを、わずかなサイドステップのみで避ける。
たとえシンフォギアを纏えずとも。
夥しく蓄積されたノイズとの戦闘の数々は、立花響の身体の中にたしかな経験として、きちんと根付いていた。
研ぎ澄まされたその経験が、彼女にノイズの間合いを正確に伝えていく。
「ッ、ふっ――っ」
右へ、左へ。身体を翻しながら、ノイズからの必殺の一撃を辛うじてのタイミングで、かわし続ける。
(これなら、もしかしたら――ッ)
押し寄せてくるノイズからの攻撃をかわしながら、がむしゃらに前へと足を踏み出す。ピンと細く張られた綱を、危ういバランスで進み続けるような、そんな離れ業。
やがてそんな決死の綱渡りは、一縷の希望がわずかに垣間見えたところで――
「あ――」
綱そのものが、プツンと音を立てて引き千切れた。
瓦礫の一部かなにかに足を引っ掛けたのか、ぐらりと体幹が崩れる。少女が離されないように両手で彼女を支えていたため、響は受身も取れずにアスファルトの路面に顔を打ち付けてしまう。
(まずい――これじゃ、あ)
慌てて身体を起こそうとするが、そこにノイズの一体が、こちらを目掛けて既に飛びついてきているのが見えた。
世界がスローモーションのように、緩慢な動きを見せる。
身体を変形させて、命を刈り取る楔のように、こちらに飛び込んできているノイズ。響の中の経験が、このままでは確実に自らに死が訪れることを告げていた。
今から回避したところで、わずかに間に合わない。それまでに致命的な間合い。
否。
もし
(――っ)
そんな選択肢がわずかに頭を掠めていったが、それが意味する結果を、立花響は――立花響という少女は。
許せるはずが、ないのであった。
「……うぁああああァッッ!!」
繋いだ手を離さずに。立花響は最期のそのときが訪れるまで、懸命に抗い続けていた。
そのときは、いつまで待っても訪れなかった。
痛みもなければ、身体が炭へと変わり崩れていくような奇妙な感覚もない。それとも案外、死ぬときというのはこんなものなのだろうか。
もしかしたら既に、自分の身体はおろか、痛みを感じる感覚さえも、真っ黒な炭に変わり果てているのかもしれない。
いや、だとしたら――変だ。もし炭になってしまったのなら、今こうして思考が出来ている自分はいったい――?
「……?」
響が、おそるおそる目を開けてみると、そこには。
小さな少女を背負って、腰を抜かしているのか、地面に倒れこんでいる自分と同世代らしい女子の姿があった。髪はボサボサで、気の抜けたような間抜けな表情をしている。否、ちがう。これは――自分だ。
そこには、自分の姿があったのだ。まるで鏡に映ったように、そこへ映り込んでいた自分の虚像と、視線が合う。
そこには、さっきまでノイズが飛びかかって来ていたハズで、まるでその鏡はワタシをノイズから護ってくれているかのように、そこに――。
「……鏡?」
「――違う。剣さ」
応えは、頭上から降ってきた。
◇ ◇ ◇
ノイズ出現の報を受け、二課本部から発つヘリに乗って現場へと駆けつけた私は、上空からノイズに追われ、走り回っている見覚えのある顔を見つけた。
「立花っ!」
迷いなくヘリから飛び降りると、自由落下をしながら、上空で胸の中の聖詠を解き放つ。
――Imyuteus amenohabakiri tron.
光が自分の身体を包み込んで、絶刀を身に纏う。
私は空中で体勢を整えると、腰から抜き放った白刃を大剣へと変化させて、落下の勢いを殺さずに、そのままの衝撃で地面へ突き立てたのだった。
「……鏡?」
「違う、剣さ」
見下ろすと、その場に座り込む戦友の姿。そして彼女の背中に、どうやら巻き込まれた民間人と思しき少女が背負われていることに気が付いて。
(たとえ戦う術を喪っても――お前は、誰かを守ろうと戦っているのだな)
変わらない、立花響という一人の戦士の生き様。彼女と言葉を交わす機会は、それほど多くあったわけではないけれど。
わずかに自分の口元が緩むのが、自分でもわかった。
ならば、私は――。
(誰かを守ろうとするお前を、護ってみせるとしよう――)
それが防人として、お前の隣に肩を並べていた私の使命だ。
私は腰から剣を一振り抜き放つと、支柱にしていた大剣から飛び降りた。立花が座り込んでいた方とは別の――ノイズの群れがいる方へ。
そこからは、一瞬だった。
斬りつけて、斬り伏せて。
振りぬくたびに風鳴る防人の剣が、群れをなして押し寄せていたノイズをすべて灰燼と帰すのに、さして時間はかからなかった。
やがて。
『……辺り一帯のノイズ反応、完全に消滅しましたっ』
最後の一体。頭部に切っ先を突き立てて灰に還すと、ヘッドギアから本部にいる藤尭オペレーターらしき声で、そんな報告が挙げられた。
『ご苦労だった、翼』
少し間を置いて、私を労う叔父様の声も入る。
「……叔父様、現場に立花の姿があります」
『なに!? それは本当か!?』
「ええ。ですから今から、彼女と共に本部へ――」
そう言いながら、私が振り向くと、
「……なっ」
そこにはすでに、立花の姿は消失していた。
代わりに彼女が背負っていた、年端もない幼い少女が一人で、怯えたようにこちらを見ながら立ちすくんでいる。
「お、おねぇちゃんが、『後はあの人についていけば大丈夫だ』って……っ」
慌てて辺りを見渡したが、すでに近くには居ないらしく、立花らしき影は見当たらない。どうやら私が現れてすぐに、この場を立ち去ってしまっていたようだ。
かくかくと膝を震わせながら、目元に大粒の涙を溜めている少女。さきほどまでノイズに囲まれていたのだ、無理もない。
「…………わかったわ。心配いらない。私の後に、ついてきてくれるかしら?」
纏っていたシンフォギアを解き、私はその場にしゃがみこんで、少女へと語りかけた。彼女の目が、生身になった私を映す。
『……翼、仕方ないさ。その少女を安全な場所まで送り届けて、本部に戻ってこい』
「……不承不承ながら、了承しました」
通信の声に返事をして、私は少女に近付くと、その手を握って歩き出すのだった。
(まったく……せめて別れの言葉くらい、交わしてくれても良いものだろうに)
炭の舞う暗い空を眺めながら、私はこの場から消えた彼女の背中を想いながら、一人ごちるのだった。
これにて第一章、終了です。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
第二章は執筆でき次第、投稿させていただきます。遅筆の身ですが、来月までには頑張りたいと思います。
ついてこられる方だけ、ついてきて頂けると幸せです。ゼンリョクシッソーダー。