アークエンジェルへと帰還したカナトはすぐさまI.W.S.Pの整備へと入った。その様子を見ていたマードックも手伝うように機材の調整を行う。
「帰還して早々にどうしたんだよ、坊主!」
「……メイスを持ったまま飛べないとなると……恐らくスラスター部分に負担がかなりかかってると思いまして……」
そう言いながら、スラスターの所を見てみると確かに部品の損耗がかなり酷く、壊れてもおかしくない状況になっていた。
「こりゃ……なかなかに厳しいな」
「メイスを外して出撃するか……これを使わないかの……2択ですね」
ひとまずはいつでも使えるように部品を交換するようにお願いすると、ブリッジへと向かう。その途中でキラと会ったが、この前までとはどことなく雰囲気が変わっているようで、何となく声がかけづらくスルーする。
ブリッジへとたどり着くとナタルとマリューがまた喧嘩したようで空気が悪くなっていた。
「遅くなって申し訳ありません……」
「貴様の遅刻癖は何とかならんのか!」
「……すみません」
ナタルに頭ごなしに怒鳴られてムッとした表情を浮かべるカナトだったが、怒ってもしょうがないと判断したのかすぐに頭を下げて謝る。それを見てマリューは苦虫を噛み潰したよう顔をうかべる。
「とりあえず、敵の撃退には成功したけど……残念なことに敵は『砂漠の虎』と呼ばれる『アンドリュー・バルトフェルド』の部隊だと思われるわ」
「……砂漠の虎……」
砂漠の虎といえば連合でも有名なザフトのエースパイロットのひとりだ。
「いくら初戦で勝てたとはいえ……恐らく敵は次から本気でかかってくるはずだわ」
「ちょっと流石にやりすぎちまったか?」
ムウがおどけたように言うものの漂う空気を感じ取ったのか、おちゃらけた表情から真面目な表情へと切り替えた。
「こっちの戦力としては、ストライクとベルセルクにスカイグラスパーが2機、パイロットは3人となると……戦力不足は否めないよな」
「……これだけの戦力でアラスカまで自分たちで行けと言うのは、酷な任務よね」
ろくな支援も与えられぬままアフリカからアラスカまでの逃避行ははっきり言って厳しいものがある。
「一応ルートとしては遠回りではあるけど、比較的安全なインド洋ルートか、ジブラルタルを突破して大西洋ルートで最短距離を行くか……」
難攻不落と呼ばれたジブラルタル基地を突破するのは現実的な選択肢ではないということで必然的にインド洋ルートを取る事にはなし崩し的に決定するのだった。
「とりあえず、本艦は移動してどこかに身を隠しつつ物資の補給をしたいわね」
「それならば、この近くの街で情報収集も兼ねるのはいかがでしょうか?」
「副長の案に賛成だ、せっかくの地上だし楽しめる時には楽しまないとな!」
「……フラガ少佐は……それが目的なんじゃないですか……?」
何はともあれひとまずは目的地が決まり、地図データから近辺の街を探すとそちらへ向けてアークエンジェルを移動させるのだった。
それから2日後、敵の目を欺くように移動したアークエンジェルは絶好の岩場に巨大な船体を隠すことに成功した。もっとも、そこは『明けの砂漠』と呼ばれるレジスタンスの前線基地のようで一悶着は起こってしまったが。
「……それで結局……レジスタンスとは共同戦線を張るわけですね……」
「ま、現地人の協力は重要だしな。それに……敵の敵はってよく言うだろう?」
格納庫でフラガ少佐とカナトが話しながら機体の調整を行っていた。
「それにしても……キラの知り合いがレジスタンスにいるのは……予想外でしたね」
「いきなり平手打ちされた時は驚いたがね」
ストライクから降りたキラに金髪の女の子が近づいてビンタした時は周りの時が止まったようだった。
「確か、カガリとかいった金髪の子と2人して街に出て一体何をしているのやら」
「まぁ……キラはあの……赤髪の子と付き合ってるみたいですけどね」
カナトが食堂に行った時に2人で並んで座って仲睦まじく食事をしていたのを見て確信したようだ。
「やれやれ、若いっていいねぇ……俺もあやかりたいよ」
「フラガ少佐だって……女の人にモテるじゃないですか」
「かく言う坊主も、ザフトに幼なじみがいるんじゃなかったか?」
「……まぁ……」
ムウにそういう風に言われたカナトは遠い目をしながらミラが何をしているのかに思いを馳せた。と、その時、ブリッジからフラガ少佐とカナトに対して呼び出しがかかった。2人とも何があったのかという顔を浮かべると、すぐにブリッジへと向かった。
ブリッジへ入った2人を待っていたのは、頭を抱えたマリューと激高寸前のナタルの2人だった。
「どうやら、レジスタンスに対して、砂漠の虎が攻撃を始めたらしいのよ。それに耐えきれずにレジスタンスが飛び出して言ったのだけど……」
「……無茶苦茶ですね……」
「とりあえず、ストライクは先行させたけどね」
「……分かりました、では自分も……出撃します」
「悪いけど、お願いね」
そう言うとカナトはベルセルクのコックピットに乗ると、メイスを今回は外して、I.W.S.Pに付属している9.1メートル対艦刀を代わりに装備して出撃する。
バックパックの出力のおかげもあり、空を飛ぶのは容易だったが、機体のバランスが若干悪いのか、それなりに傾いてしまってはいるが、現場へと急行するには十分だった。
到着すると既にレジスタンスの車両部隊はほとんど壊滅しており、キラのストライクとバクゥ隊が戦っているようだった。
「援護する……!」
カナトは、上空からガトリング砲でバクゥ隊を牽制しながら、フォーメーションの間へと割り込む。奇襲に一瞬動揺が走ったのを見逃さずに、手近にいたバクゥへ肉薄すると、2振りの対艦刀ですれ違いざまに脚と背中のレールキャノンを切り裂いて戦闘不能にさせる。
その一方でキラも隊長機を相手に凄まじい戦いをしていた。フォーメーションの仕切り直しを見切ると、なんとシールドを投げつけて視界を奪い、隊長機ではない敵機に肉薄すると容赦なく、ビームサーベルでコックピットを潰す。
被害の大きさにバルドフェルド隊は見切りをつけてすぐに退却しだした。それを追うようにキラがストライクを飛ばそうとするが、カナトが引き止めて近くの基地に撤退するのだった。
基地にたどり着き、ベルセルクから降りるとそこには悲しみに打ちひしがれたレジスタンスたちの姿があった。その中にはカガリもいる。
「……何やってるんですか」
「私たちは……!必死に戦った、それなのに……!どうして……!」
「それは、あんたらが……暴走した結果だろ」
カガリが涙を流しながらキラに詰め寄ったのを見ながらカナトが冷たい言葉を浴びせる。
「お前らは……向こうにとってはなんとも思われてないんだよ……」
「それに、気持ちだけで一体何が守れるっていうんだ……!!」
詰め寄られたキラもかなり頭にきていたのか普段からは想像できないような声を出して、詰め寄ってきたカガリの手を振り払うのだった。
その後『明けの砂漠』は解体の方向へと進み、アークエンジェル隊は砂漠の虎を突破して、インド洋へと進むルートを決めるのだった。翌日、インド洋からアラスカまではほとんど補給することが出来ないため、何人かのクルーで食料品や水などを買うために近隣の街へと出ていた。
「……まさか、俺も……行くとは」
カナトは1人、メモを片手に街をさまよっていた。カナトのメモに書いてあるものはおおよそ、スラム街で調達できることに成功するような若干非合法なものを調達していたのだった。
「……おおよそ、これでよしっと……」
買い物を終えて大通りに出ると、次の瞬間何かのフードショップで銃撃戦が始まり、カナトは素早く物陰に隠れる。ちょうど、敵の後背を突くような位置に居たが、動くよりも先に黒服の一団が瞬く間に制圧したのだった。
(動きを見るに軍人だ……ということは、バルトフェルド隊の連中か)
そう思いしばらく観察していると、キラとあのカガリがどこかへと連行されるのが見えた。すぐさま、電話で連絡しようとするが、それよりも先に後ろに気配を感じて振り向く。
「悪いけど、連絡を取らせるわけには行かないのよね」
「……ちっ」
「貴方も来てもらうわ?」
そこに居たのは、銃口を向ける何人かの男と、絶世の美女だった。カナトは抵抗することも無く渋々と受け入れてどこかへと連れ去られるのだった。
□□□□□□
「……一体どこに連れていくんですか?」
「せっかくだからね、君たちともっと語り合いたいと思ってね」
キラとカガリはバルトフェルドの乗る車に乗せられてどこかへと運ばれていた。隣には常に敵意の籠った目でバルドフェルドを見るカガリの姿があった。
「少なくても今日は君たちと殺しあいをするつもりは無いさ、まぁ……君たちの行動しだいでは保証はしないがね」
「そうですか……」
「おやおや、適応力が高いようで」
バルトフェルドはニヤニヤと笑みを浮かべながら上機嫌で車を運転しながら他愛のない話を振るのだった。
「なんでお前は私たちが敵だって分かったんだ?」
カガリは抱いていた疑問を素直にぶつける。するとバルトフェルドは笑い声を上げながらシンプルな理由を答えた。
「ははっ、それは至極単純な理由さ、見慣れない人物がいた、それだけで十分だろ?」
「……確かにそうですね」
その理由にキラも充分納得するのだった。そしてたどり着いたのはとある豪邸でキラもカガリも空いた口が塞がらないのだった。固まっている2人を案内するように中へと推し進めていく。
「やぁ!アイシャ、もう1人の方も連れてきてくれたかい?」
「ええ、もちろんよ?」
「……なるほど、こういうことか……」
そこに居たのはアイシャと呼ばれた美女と、苦虫を噛み潰したような顔をしたカナトだった。
「改めて自己紹介をしよう、僕が砂漠の虎こと、アンドリュー・バルトフェルドだ。そしてこっちが僕の愛人のアイシャだ」
「はーい、アイシャよ?よろしくね」
「アイシャ、ひとまずこっちの女の子を着替えさせてくれ、ソースを浴びて大変なことになってる」
「ケバブね?わかったわ」
そんな会話をするとカガリはアイシャへと連れ去られて奥の扉へと案内されるのだった。
「男性陣は、僕とお話でもしようじゃないか?」
そう言いながら男性陣はソファーへと腰掛けるのだった。