機動戦士ガンダムSEED〜狂戦士は嗤う〜   作:零崎極識

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第15話 南国での出会い

「なに!?嬢ちゃんが帰ってきてない!?」

 

 無事にザフトの部隊を撃退したアークエンジェルだったが、出撃したはずのカガリが帰ってきていないという報告にブリッジは騒然となっていた。戦闘を終えて帰投したカナトもその話を聞くと思わず頭を抱えてしまった。

 

「とりあえず、各人は小休止をとって2交代で捜索をする。最初の捜索チームは俺とカナトだ。出撃は30分後、それでいいか?」

「……問題ありません」

 

 ムウが仕切りカナトはコックピットから降りると軽食を取りに戻るとすぐに出撃できるように待機する。

 

 そして、定められた通りの時間になりカナトとムウは出撃するのだった。だが、いくら探しても見つかることはなく時間がどんどん過ぎるだけだった。

 

「ちっ……いったいどこに落ちたんだ……」

「……見つかりませんね」

 

 ムウとカナトは通信を交わしながらまずは空から海面を探す。しかし、波が高いのかすぐに海面が揺らされて破片があっても見つけるのは困難だった。

 

「幸か不幸か、この近くには無人島もあるそこに落ちたことを祈るしかないかもな」

 

 ムウが悔しそうな表情を浮かべて言う。その言葉を信じてカナトも、捜索を続けるのだった。

 

 

□□□□□□

 

 

「うっ……ここは……?」

 

 カガリは強い日差しに目を細めながらもゆっくりと目を開けるとそこは見たことも無い砂浜だった。身体を起こして振り返れば乗っていたスカイグラスパーが墜落して使い物にならなくなっていた。

 

「確か……あの後輸送機と遭遇して……」

 

 ナビゲーションモジュールがやられてフラフラと飛行した後に、たまたま輸送機と遭遇すると戦闘になり相打ちになった。

 

「救難信号を……」

 

 カガリはスカイグラスパーのコックピットで救難信号を設定するとひとまず雨風を凌ぐために付近を探索する。人の気配はほとんどなくどうやら無人島のようだ。砂浜を超えて森に入ろうとしたところで、モビルスーツが目の端に映った。

 

「あれは……!」

 

 急いでその見えたモビルスーツに近づくとその機体は、ストライクにそっくりな物だった。それに見とれていると背後から人の気配がして慌てて振り向くがその前に地面へと押し倒される。

 

「きゃぁぁぁっ!!」

「おんな……のこ……?」

 

 思わず悲鳴をあげてしまったカガリの声を聞いて襲ってきた襲撃者はナイフを首に突き刺そうとしたところで動きが止まったのだった。

 

 

「おまえ、名前は?」

 

 あの後襲撃した男に簡易的な拘束をされて近くの洞窟に連れていかれたカガリはムスッとした表情で男の質問を聞いていた。

 

「カガリ・ユラ……お前は?」

「俺は……アスラン・ザラだ」

 

 拘束した男、アスランは火を起こしながらそう答える。

 

「こんなかよわい女をお前はどうするつもりだ」

「別になにもしないさ、ただ……変なことをしようとしたは俺は、お前を殺す」

「……っ!」

 

 アスランの冷ややかな目にカガリは肝を冷やしたが、鋭利な目つきはほんの一瞬だけで、そのあとは優しそうで優柔不断そうな目つきになった。

 

「……ところでカガリはなぜこんな場所にいた?地球軍ではないだろう?」

「守りたいもののために戦っていただけさ」

「守りたい……もの……」

「ああ、戦争で色々なことを観てきた。それは1人の力ではどうしようも出来ない事だけど……それでも私は、守りたいって……」

 

 悲しげな表情を浮かべるカガリをアスランはただじっとみていた。

 

「……お前は強いよ」

「ザフト軍人なのに、そんな弱気を吐くのか?」

「俺だって本当は戦いたくはないさ、でも……やられたままでは終われないのさ」

 

 そう言いながらカガリの拘束を外すと外された本人はキョトンとした表情でアスランのことを眺める。

 

「良く考えれば、拘束したところで意味ないしな」

「……ふふっ、お前、変なやつだな!」

 

 カガリは言い訳をがましいアスランを見て思わず笑ってしまったのだった。

 

 そして、日が沈み辺りが暗くなれば必然的に睡魔が襲ってくるものでカガリもアスランもウトウトとし始めた。互いに最小限度の警戒心はあるものの本能には逆らえず、眠ってしまったところで不意にカガリの無線機からノイズ音が聞こえてきた。

 

□□□□□□

 

「……多分この辺りだとは……」

 

 ムウと交代したカナトはベルセルクで近くの島をしらみつぶしに探すことにしていた。この近くには群島も多くそちらに不時着した可能性も高いと判断し、目視とレーダーで探す。

 

 いくら群島とはいえすぐに見つかるだろうとは思っていたがなかなか見つからないカガリに不安と怒りが湧いてきた。

 

 そんな捜索を続けているととある島から金属反応が見つかった。すぐにその反応のところにいったが、あったのはスカイグラスパーではなく、墜落したディンだった。

 

「……スクラップだが……持って帰るか……」

 

 マップにポイントをしてカガリの捜索を続けるが手がかりは一向に見つからなく交代の時間が来る。ひとまずディンを確保してアークエンジェルに帰れば、当たり前のように変な目で見られるのだった。

 

 捜索を開始してから何時間も経ち、夜も明けたところでついにカガリの無線機へと繋がったのだった。無線機の反応がある周辺を組まなく探すことでついにスカイグラスパーを見つけたのだったが同時に進行方向から1機の敵の反応を見つけた。

 

「……こちらカナト機……遭難機を発見……同時に敵機接近……!」

「分かったわっ!ただちに援護を出します!」

 

 カナトはそのまま敵へと向かっていく。一方の敵、セリーヌのディンもこちらに向かってくる敵を捉えていた。

 

「まさかこんな所で敵と会うとはね……!」

 

 レーダーの反応を見ながらセリーヌは近づく敵に挑みかかるように機体を飛ばす。そして、見えてきたのは苦渋を舐めさせられたベルセルクだった。

 

「貴様かぁ!!」

「この前のディン……!」

 

 カナトはディンを見るやいなや、速攻でメイスを肩へと装着し、カラドボルグを構える。セリーヌもライフルを構えてお互いに空中戦を始めるのだった。互いにライフルの射程に機体を収めながら、攻撃を繰り出すも弾丸が機体を掠めることも無く、どんどん残弾が減っていく。

 

「やはり取り回しがキツいか……!」

 

 カナトのカラドボルグは破壊力を高めているためそれほど装弾数が多いわけでもなく命中しない以上撃ってもしょうがない。一方で、セリーヌのディンもベルセルクに効果的な弾丸自体はそれほど多くなく、やはり無駄弾を使うのは勿体ないと思ったのか一気に距離を詰める。

 

「接近戦なら!」

「……結局これしかない……!」

 

 カナトはカラドボルグを腰に格納すると無手のままでディンを迎え撃つ。それをみたセリーヌは怒りを感じながら、ライフルを構えて打ち込む。それを見切ったカナトは機体を最小限に捻らせて、最短距離で滑るように近づく。

 

「なっ……!?」

「そこ……!!」

 

 メイスを肩から抜き、袈裟懸けに振り抜く。セリーヌもその攻撃を避けるために機体を捻らせるが、ライフルをもった右腕をメイスで砕かれて機体バランスを崩す。

 

 

「このままでは……!!」

「もう一撃……!」

 

 体勢を崩したディンにトドメを刺そうとしたところで横合いから極太のビームが飛んできた。カナトはすぐに機体を動かしてビームの射線から逃れて攻撃を受けた方向をみるとそこに居たのは地上からこちらを狙っているイージスだった。

 

「ちっ……!」

「こいつ……!!」

 

 カナトがイージスに向けて攻撃をしようとしたところでムウから通信が入った。

 

「坊主!お嬢ちゃんが帰ってきたぞ!いますぐ撤退するんだ!」

「……了解」

 

 カナトは攻撃をくわえるのをやめるとすぐに機体を反転させてアークエンジェルへの帰途へと向かうのだった。

 

 その後特にザフトからの追撃もなく無事に着艦したカナトは機体を降りたところで、座り込んだカガリを見つけると詰め寄った。その様子を見ていた作業員達が慌てて、集まってくる。

 

「……遊びでやってるんじゃないんだよ……!」

「何を……!!」

「勝手な行動で……仲間が死ぬかもしれない……そんな経験をアフリカで……したんじゃなかったのか……!」

 

 珍しく怒りのボルテージが上がっているカナトに対して何も反論できないカガリはただただ、悔しそうに黙っていることしか出来なかった。

 

「おい坊主!!そこまでにしておけよ!」

「……すみません……」

 

 カナトは手を離すとその場を後にするのだった。

 

 

□□□□□□

 

 無人島から無事に戻ってきたアスラン迎えたのは、怒りに溢れたイザークとやれやれと言った表情のディアッカ、すごく心配そうな表情を浮かべたニコルだった。

 

「はん!我らが隊長が無人島で遭難するとは!」

「やれやれ……本当にそれで隊長が務まるのかい?」

「……お二人ともまずは心配をしてはどうなんですか……?」

「……みんなすまなかった」

 

 アスランはひたすらに頭を下げて謝るが、それをみたイザークとディアッカは別の部屋へと移動した。あとに残ったのはニコルだけだった。

 

「アスラン……あの島で一体何があったんですか?」

「いや特に何も無かったさ」

「……ですが今のアスランは、どこか迷っているようなそんな感じがしますよ?」

 

 ニコルは隣に腰かければ、覗き込むようにアスランを見る一方、アスランは目を合わせようとはせずに目をそらす。

 

「アスラン、これは戦争です。隊長であるあなたに言うのはおかしいのかもしれませんが……そんなに迷っているのなら、1度身を引くのもいいのではないですか?」

「そんなこと……」

「少なくとも、こういう迷いを持っていればいずれは仲間の誰かが、死ぬかもしれないんですよ。その責任だけは忘れないでくださいね」

「ニコル……」

 

 それだけ言うとニコルも部屋を出ていきあとに残ったのは、悩みを抱えて考えが巡りに巡っているアスランだけだった。

 

「失礼します、先程は助けて頂きありがとうございました」

「……君は確かバルドフェルド隊にいた……」

「セリーヌ・ディオンです、足つき追討の任務を受けて参りました」

「ここの隊の隊長を務めているアスラン・ザラだ。よろしく頼む」

「こちらこそ、よろしくお願いします。それにしても……この若さで隊長とは、大変ですね?」

「そんな大層なものでもないさ……」

 

 もの憂いげな表情を浮かべるアスランにセリーヌは、遠慮なく言葉を放つ。

 

「貴方は選ばれたんですよ、それなら自信を持ってください」

「えっ……?」

「うだうだ悩んでたら、後悔しますよ?」

「……はは、さっき同じことを言われたよ」

「だから、しっかりしてくださいね。私まだ死にたくないですから」

 

 そう言われてアスランは自分が置かれている立場を再認識するのだった。

 

□□□□□□

 

 それからしばらくして、アークエンジェルはインド洋を抜けようとしていた。幸いなことにそれからザフトの追撃はなかったものの、諦めてはいないだろうという全員の認識もあり常に警戒は怠っていなかった。

 

「……それにしても、このままアラスカまで逃げ切れればいいんですがね」

「それならいいけど……後ろの敵もきっと逃がしてはくれないでしょうね」

 

 操舵手のノイマンが希望に縋るように言葉を発するがその可能性はほとんど潰えたようなものだった。何故ならば、アラートを示す警報がブリッジに鳴り響いたからだった。


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