機動戦士ガンダムSEED〜狂戦士は嗤う〜   作:零崎極識

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第16話 お姫様

「レーダーに熱源反応!後方より接近する機体あり!これは……例の連中です!」

「やはりそう逃がしてはくれないわよね……総員、第一戦闘配備!」

 

 予想していた通り、アークエンジェルはザフトよ攻撃を受けることになり速やかに迎撃体制に移行する。パイロット達もすぐさま各搭乗機へと乗り移る。

 

「やれやれ……おちおち休んでもいられないぜ」

「……敵か……」

「逃がしてはくれないのか……!」

 

 パイロットはそれぞれコックピットへと座り出撃準備をとる。キラは今回もエールストライクで出撃をすることになっている。幸いなことに敵の機体は大気圏で飛べない以上、おそらくはSFS(サブフライトシステム)で足回りを強化してくるとみた。

 

「いいか、最悪敵の足を奪えば逃げ切れるからな」

「了解!」

「……了解」

 

 そしてカタパルトが開かれれば、カナトとキラの機体から順次空へと発進していく。

 

「よし!ひとまずは逃げ切れるだけの時間を稼ぐぞ!」

「分かってます……!」

「了解しました!」

 

 数では劣るものの、質では負けていないと判断したムウはアークエンジェルの直援をキラへと任せ、カナトとムウで切り込むという作戦に出た。

 

 それを知ったザフト側もバスターとデュエルをぶつけ、ブリッツとイージスをアークエンジェルへと向かわせる。

 

「毎度毎度しつこいんだよ!」

「ええいっ!ちょこまかと……!」

 

 ムウのスカイグラスパーとディアッカのバスターが交差し互いに攻撃をくわえる。3次元的な軌道に上手く、相手を捉えられないディアッカに対して、ムウは太陽や、周囲の風などを捉えて死角から攻撃をしていく。

 

「自慢の装甲も、無限じゃないんだよ!」

「やってくれる!」 

 

 バスターはグゥルという足枷がある以上、器用にかわすことはできず実弾は装甲で受け止めながら、肩に装備しているミサイルを発射する。ムウは、そのミサイルの誘導を切るために機体をロールさせながらエンジンを吹かし、雲へと突っ込めば、急旋回でバスターの背後をとる。

 

 バスターも遅れて振り返るが、その頃にはスカイグラスパーのミサイルが正面から迫っており直撃すればそのままグゥルから落ちた。

 

「ちっ……!このっ!」

 

 バスターは、地面に着地すれば、ちょこまかと飛ぶスカイグラスパーを相手に弾幕を張るが、ムウはそれを隙間を縫ってかわし再び攻撃を仕掛けるのだった。

 

 一方で、カナトはデュエルと戦っていた。最もデュエルにも同じくグゥルが着いており空中を自由に飛べるベルセルクには不利を強いられていた。

 

「とっとと落ちろよ……」

「ここは負けられないッ!」

 

 機体を動かしながら着実に距離を詰めようとするカナトと、機体を揺らしながら距離をあけ、弾数に制限のあるベルセルクに対して、射撃戦に持ち込むイザークとの戦いは我慢比べを強いられていた。

 

 それを薄々勘づいていたカナトは、ミサイルの攻撃をあえて装甲で受けるとミサイルの爆煙で機体を隠す。一瞬とはいえ、機体を見失ったイザークだったが、次の瞬間度肝を抜くことになった。

 

「……そこだな……!」

「なにっ!?しまった……!」

 

 煙が晴れた瞬間に、現れたのは機体にほとんど傷がついていないベルセルクが目の前で対艦刀を抜くところだった。咄嗟にシールドを掲げて防御しようとするイザークだったが、カナトの狙いはデュエルではなくグゥルだった。

 

「これで追ってこれないだろ……!」

「しまったッ……!」

 

 グゥルを対艦刀でぶったぎれば、空を飛ぶための脚を失ったデュエルが下の孤島へと落ちていくのを見送って、アークエンジェルの援護へと向かうのだった。

 

 アークエンジェルの周りではキラがイージスとブリッツを相手に奮闘していた。アークエンジェルの対空砲を避けながら、ストライクの相手をするのは些か厳しいようで、ブリッツもマシンガン攻撃を受けているようで攻めあぐねていた。

 

「……あの援護は……」

 

 カナトはアークエンジェルの援護に向かう時に映っていた機体を見て少し驚いた。なぜなら、島に廃棄されていたディンだったからだ。乗っているのはおそらく先日シミュレーターに乗ったばかりのトールだ。

 

 初陣にしてはかなり精度よくブリッツの牽制をしているようでいくらPS装甲だろうが電力が切れればただの装甲だその事を理解した上での立ち回りだろう。

 

「あとは任せろ……!」

 

 カナトは遅れて入ったアークエンジェルの防衛戦に参加すれば近くにいた居たブリッツに向かって突っ込む。

 

「あの機体……!今日こそ!」

「おとされるわけないだろ……!」

 

 一方のニコルも煮え湯を飲まされたベルセルクに対して思うことがあるようで、リベンジに燃えているようだった。

 

 ブリッツは右腕のトリケロスを構えてランサーダートを発射する。それを見切ったカナトはギリギリのところで避けると、一気に間合いを詰める。

 

 それに応えるようにビームサーベルを展開すればベルセルクのメイスと上手くかち合い鍔迫り合いを行う。

 

「ビームサーベルを……受け止める……っ!?」

「そっちの動揺は……伝わってきてるよ……!」

 

 カナトは力任せに押し切るように操縦桿を押し込むと、徐々にブリッツへと迫っていく。負けじとニコルも抵抗するがパワーの差が大きく、やむなくブリッツを後退させた。

 

「ニコルっ!一旦引け!」

「アスランっ!?」

「ここは撤退しよう……!」

 

 キラのストライクと打ち合い、攻めあぐねていたアスランのイージスがニコルの隣に降りたてば、ストライクが遅れてベルセルクの隣に立つ。

 

「アスラン……!」

「キラ……!」

 

 追撃戦が始まろうとしていたその時、一筋の極太ビームがアークエンジェルのエンジン部を貫いた。一瞬の硬直の末、カナトはすぐに船へと機体を走らせる。遅れて、キラも後を追ってきた。すんでのところでストライクとベルセルクは翼に着艦することが出来たものの船の揺れが凄まじく、しがみつくので精一杯だった。

 

 一方で、高度を維持できないアークエンジェルは操舵が効かないのか次第にオーブへの領海へと突っ込むように落ちていく。そして、襲いかかる砲弾にアークエンジェルは包まれるのだった。

 

ーーーエンジンに被弾する数十分前

 

 出撃するパイロットを見送ったマリューはすぐに対モビルスーツ戦準備をさせて、後方から接近する2機へと牽制を開始する。最初は、対空防御やバリアントなどで弾幕を張るも、敵機が船体の下に入り込めば弾幕が薄くなるのは必然だった。

 

「くっ……!さすがはザフトのエースね……!ランダム回避運動ッ!」

「ちっ、とにかく敵を近づけさせるな!ヤマト少尉にも伝えろ!」

「あと1人出れる人が居れば……!」

 

 その時、マリューの手元の電話機が鳴った。掛けてきたのは格納庫のマードックだ。彼にしては焦った様子なのが伺える。

 

「艦長!坊主の友達が出撃するって言って聞かないんです!」

「なんだと!?」

 

 それに真っ先に反応したのは、副長であるナタルだった。確かに、CICからすれば手数が増えるのはありがたい話ではあるが、キラとは違いナチュラルを出撃させるのはとても、リスクがあると考えていた。

 

「……分かりました、出撃を許可します。ただし、直接甲板に出て迎撃のみです」

「伝えておく!」

 

 そう言うとマードックは出撃を許可を今か今かと待ち続けているトールへと許可を出した。

 

「いいか、操作できるとはいえ敵はエースパイロットだ!無理すんじゃねぇぞ!」

「わかってますよ!俺だって、少しぐらいはっ」

 

 ナチュラルとは思えない足取りでディンを動かすと、甲板へと直接降り立ち手に持ったマシンガンで、迎撃を始める。

 

 その一方で、敵の猛攻を受けているアークエンジェルは徐々にだが、正規のルートを外れてオーブの領海へと近づいていた。

 

「艦長ッ!このままではオーブの領海に!」

「わかっているわ!取り舵20!速度維持して!」

 

 だが、左翼からくわえられる攻撃に進路変更もままならず、流されていく。その時、ブリッジに通信が入った。

 

『こちらはオーブ海軍だ、貴艦はオーブ首長国領海に近づいている、速やかに転進されたし。従わない場合は撃沈する』

 

「まずいわね……!すぐに対応を!」

「そんな……!?オーブは撃ってくるの!?」

 

 ミリアリアやサイなどの幼い子供たちはそんな事実を突きつけられて、動揺を隠せない様子だった。だが、無情にも転進することは叶わず、横合いから極太のビームがエンジンを貫いた。

 

 凄まじい衝撃にクルーは悲鳴をあげ、マリューやナタルはすぐさま艦の現状把握に務める。

 

「右翼エンジンに、直撃!推力低下!高度維持できません!」

「エンジン部第三区画に火災発生、ダメージコントロール急げ!!」

 

 その時、ブリッジにカガリとお付のキサカが慌てた様子で入ってきた。

 

「艦長!このままオーブの領海に突っ込め!!」

「何を!?」

「向こうには私が話を付ける!!」

 

 そう言うと、アークエンジェルのインカムをひったくって、声高に叫んだ。

 

「私は、オーブ首長国連邦首相……ウズミ・ナラ・アスハの娘、カガリ・ユラ・アスハだ!!」

 

 その言葉に、ブリッジは思わず無言になり飛び交う砲弾による振動だけが響き渡ったのだった。


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