機動戦士ガンダムSEED〜狂戦士は嗤う〜   作:零崎極識

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第17話 中立と信念と

 結論からいえば、アークエンジェルは無事にオーブの企業『モルゲンレーテ』の秘密ドッグへとたどり着くことが出来た。ただ、船体に受けたダメージは大きく修復にはそれなりの時間がかかるようだった。

 

「まずは、このように助けて頂きありがとうございます」

「いえいえ、礼など結構です。まぁ……こちらとしても考えがあってのことですから」

 

 マリューが対応しているのは、オーブ首相のウズミ・ナラ・アスハだった。首相が直々に面会するなど滅多なことがないためそれに対応するクルーなどは緊張した面持ちで話を聞いていた。

 

「助けてくださったのは娘さんのためですか?」

「少しはあるが……それとは別な理由ですよ。具体的にはオーブのモビルスーツの開発に協力して頂きたい」

 

 その後の話で、内容としてはストライクのような動きのできるOSの開発が難航しており、それに協力して欲しいとの事だった。受けざるをおえないため、そのようにことを運んだマリューだったが、会談を終えると疲れきった様子でシートに腰掛ける。

 

「はぁ……」

「納得いきません!あれは連合の機密なんですよ!」

「でもこうしないとここからは出れないのよ……」

「ですが……!」

 

 すると、ブリッジに入ってきたムウがその会話を聞きながらコーヒーを差し出す。

 

「じゃあ、副長さんは俺らに泳いでアラスカまで行けってことかい?」

「……今回の件も、アラスカに到着し次第報告書で上げさせて頂きます」

 

 そう言うとナタルはコーヒーを受け取らずに部屋へと帰っていった。

 

「やれやれ、もうちょっと柔軟に考えて欲しいんだがね」

「……少佐は私の判断が間違ってると思いますか?」

「いや?むしろ、俺なら喜んで提案に乗るぐらいだけどね」

 

 事実、マリューは全ての条件を呑んだ訳ではなく、ストライクの戦闘データの提供は断ったのだ。代わりにキラとカナトという優秀な人材をモルゲンレーテに貸し出すことにはなったのだが。

 

「まぁこれがいい落とし所なんじゃないか?それに……クルーにも息抜きは必要だしな」

「少佐も外に出られてはどうですか?」

「俺は若い連中が帰ってきてからにするさ」

 

 若いクルーには真っ先に外出の許可を出せば、あちこちに買い物に行ったり、家族に会いに行ったりしていた。

 

「あ、せっかくだし俺といっしよに出かけるかい?」

「……け、結構です!」

 

 ムウがマリューをデートに誘うがすげなく断られてしまった。

 

 

 一方で、キラとカナトはモルゲンレーテの工場で作業をしていた。開発主任の『エリカ・シモンズ』に連れられてやってきたのはオーブのモビルスーツ『M1アストレイ』のテスト現場だ。

 

「ひとまずこれを見て欲しいの」

 

 そう言ってエリカはトランシーバーで何かを伝えると目の前のアストレイがゆっくり動きだした。何やら各部を動かしているようだが、その挙動はあまりにも遅くまともに動いてないのは、誰の目で見ても顕著だった。

 

「……正直なところこれが今の完成度なの。これをもっと実戦に耐えられるようにしたいんだけど、協力してくれるかしら?」

「……分かりました、アークエンジェルを修理してくださる以上、協力せざるを負えませんから」

「……これは、なかなか……」

 

 カナトもキラも仕方なしに協力するも、作業がはじまれば真剣に取り組み、みるみるうちにアストレイの動きは機敏になっていった。

 

 作業を開始してから3日後、見間違えるほどに動きがなめらかになったアストレイにエリカや、そのテストパイロット達は驚き、キラに感謝していた。その一方で現場の作業員には、カナトの提案や、技術に感動しているものがたくさんいた。

 

「……なんというか……こういうのは昔を思い出すな……」

「そう言えば、カナトさんって……元々はメカニックですよね?」

「ああ……だが、今はパイロットをやってる不思議だよな……」

 

 カナトは作業の手を止めずに会話を続ける。

 

「俺だって……小さい時は機械弄りが好きだったんだ……だけど、両親を殺されてから……俺の動機は、復讐を果たすために変わった……」

「……今もザフトが憎いんですか?」

「わからん……ただ、俺の両親を殺した奴は……この手で……」

 

 コーディネーター、ナチュラル両方に顔を広く持っていた両親を殺す動機に心当たりのある連中などを探すのも一苦労だが、それでも、こうして敵を排除するために力を付けている。

 

「……ま、もっとも今こうやってるのは……他にやることが見つからないってのもあるんだが……」

「カナトさん……」

 

 そんなことを話していると、エリカが2人の元にやってきた。

 

「だいぶ、目処もたったし明日と明後日は2人とも休みなさいな」

「えっ、いいんですか?」

「いいもなにも、船のクルーの人達だって休んでるわけだし、2人だけ休めないってわけないじゃない」

 

 そんなこんなで、休みを貰い久しぶりに外に出たカナトとキラはそれぞれ、別々の場所へとでかけるのだった。

 

 カナトは適当に街をぶらぶらし、昼食をとって海岸へと足を運んでいるとその道の途中で、複数人に囲まれた女の子が目に入った。

 

「いや、ナンパとか困るんですけど……」

「ほらほら、ちょっとぐらいいいじゃんー」

「君、なかなか可愛い顔してるじゃん?」

 

 タチの悪いナンパのようでカナトはかかわらないように、通りすぎようと思ったが絡まれている子の顔を見て対応を変えることにした。

 

 カナトはわざとらしくその集団の近くを通ると、1番手前にいた男にぶつかり露骨に舌打ちをした。ぶつかられた男はその様子にキレるように、カナトを突き飛ばす。

 

「ああ?なんだてめぇ?」

「そっちこそなんだよ……邪魔なんだが……?」

 

 ギロっと睨むカナトを囲むように若い3人の男が立ち位置を変えるが、それには目もくれずに睨みつけるカナト。やがて、しびれを切らした取り巻きの男が後ろから殴り掛かる。

 

 それを見ずに避けると、突き出された腕を取り背中の方で固定するように捻りあげればもう1人の方へと突き飛ばす。出鼻をくじかれるように仲間が飛んできた男は、もつれ合いながら少しの間動きがとまった。

 

「くっ、この……っ!」

「……」

 

 正面にいた男が殴りかかって来るのを見ると首を少し動かしただけでかわし、カウンターを食らわせるようにみぞおちにキツイのを1発かました。その威力がかなり強かったのか、その場でうずくまる男。

 

「……行くぞ」

「は、はいっ」

 

 1人呆然としていた女の子の手を取りその場を立ち去れば、結構距離を離したところでようやくその手を離す。

 

「久しぶりだな……マユちゃん……」

「お久しぶりですっ、カナトさん!」

 

 絡まれていたのは、家族ぐるみで交流のあった『マユ・アスカ』だった。親の職場の関連で交流があった、アスカ家とは食事に行ったり、兄妹の面倒をみたりしていたため、見て見ぬふりは出来なかった。

 

「そうか……オーブに来てたのか」

「ここは、コーディネーターにも優しいですから……」

「確かに……今は情勢がな……」

「はい……ところで、カナトさんはどうしてここに?」

「……仕事の関連さ」

「なるほど、お仕事大変そうですね?」

 

 最後に会った時は軍に入るなんてことを誰にも言っておらず、きっと彼女も『オーブの研究員』として働いていると思っているだろう。

 

 その後、立ち話もなんだということで喫茶店に行き、当たり障りのない会話をしてから別れて、ドックへと向かう途中に、海岸を見つめながら座り込むキラを見つけた。

 

「……どうかしたのか?」

「あっ、カナトさん……」

 

 見るからに意気消沈した様子でいつもよりもさらに頼りなくような雰囲気を出していた。

 

「実は……」

 

 キラは、そう言って何が起きたかを掻い摘んで説明をした。どうやら、ザフトにいる親友と出会い、そいつがアークエンジェルを追っているらしくここを出れば間違いなく、襲われるようだ。

 

「なるほど……戦いたくはないと」

「ですが、戦わないと……守りたいものも守れないので……」

 

 俯くキラに対して、カナトは特に何も言わずにただ座り込んだ。少しの間沈黙が続くと、おもむろに口を開いた。

 

「……いいか、覚悟を決めろ。敵は本気で打ってくるんだ……もし、辛いなら俺に任せろ」

「カナトさん……」

 

 キラはその言葉を聞くとゆっくりと首を振る。

 

「……ありがとうございます、でもそれでも僕が撃ちます」

「……ふっ、少しはいい顔になったな……さぁ、帰るぞ」

 

 そして、男ふたりは守るべき船へと帰っていくのだった。

 

 

□□□□□□

 

 

「キラ……お前は……」

 

 オーブへの潜入を終えて帰ってきたザラ隊はそれぞれの私室で出撃準備をしていた。もちろん、その号令をかけたのは、幼なじみであるキラと出会ったアスランだ。

 

 イザークやディアッカは、その命令に疑問を抱いていたが、確信のある表情でそれを伝えたアスランに見直したようで、信じて出撃準備に入った。

 

「俺は……お前を討ちたくない……けれど」

 

 未だに『足つき』から降りることも無く立ち塞がるどころか、着実にこちらへの被害を増やしているキラの技量に些かの恐怖心をアスランは抱いていた。

 

「……弱気になってはダメだ」

 

 と、その時にコンコンと部屋のドアがノックされた。中に入るようにうながすと、そこに居たのはニコルとセリーヌだった。

 

「2人ともどうしたんだ?」

「アスランが何かを抱えているような感じだったので」

「ま、隊長としての責務が重いのは仕方ないですけど、さっきの表情はさすがに分かりますよ?」

 

 2人にそう言われれば、きっとイザークとディアッカにもそれが伝わっていたのだろう。そう言われると少しばかり恥ずかしくなった。

 

「……アスランの事情は分かりませんが、僕達にもやらなければならない事があります」

「……ああ、わかってるさ」

「隊長、私たちはここで死ぬつもりはありませんからね」

「……肝に銘じておくさ」

 

 そして覚悟を決めた表情を浮かべてキラとアークエンジェルを討つための準備を始めるのだった。


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