機動戦士ガンダムSEED〜狂戦士は嗤う〜   作:零崎極識

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第18話 暴虐の剣

 なんとか船体の修理も終わり、オーブの艦隊に見送られながらゆっくりと領海を離水するアークエンジェル。あの艦隊の中には、ここに来るまで一緒に戦ったカガリとキサカもいた。

 

 最後には、泣きそうな顔をしながらキラを見送っていたのは、クルーの中でも微笑ましいと思いながらもしっかりと別れを告げたのだった。そして、その見送られたキラはストライクのコックピットに座っていた。

 

「……アスラン」

 

 オーブで会話をした親友の姿を思い出せば、もっと話をしたかったという思いと次に会うのは戦場という事実に残酷さを感じえない。

 

「僕は……」

「キラ……ここを乗り越えれば、俺たちは……アラスカに着くんだ……踏ん張れよ」

「カナトさん、僕はアスランと戦います」

「そうか、覚悟を決めたなら……それはいいことだが……まずは生きて帰ってこい……」

 

 と、その時艦内にアラートが鳴り響いた。事前に準備していたカナトとキラはすぐに機体を動かしてカタパルトへと準備する。

 

「トール、無理はするなよ……?」

「大丈夫です、コーディネーター相手に勝てるなんて思ってませんから」

「……それなら大丈夫そうだな」

 

 ディンに乗り込むトールに通信を送ればカナト機もカタパルトへと進める。

 

『カナト機発進どうぞ!』

「了解、カナト・サガラ……ベルセルク、出ます」

 

 曇り空の広がる戦場に狂戦士が足を踏み入れる。

 

 既に、先に飛び立ったキラはアスランのイージスと剣をまじえていた。その横には、増加装甲を付けたディンが援護する形で攻めかかっている。

 

「カナト!デュエルは任せた!」

「……了解」

 

 ムウの指示でデュエルに踊りかかるベルセルク。デュエルもそれに答えるようにグゥルから飛び立てば空中でビームサーベルを抜き切りかかる。

 

「今日こそ貴様を倒す!」

「しつこい……!」

 

 落下する勢いを利用して切りかかるデュエルに対して、メイスで鍔迫り合いを演じながらベクトルを変え上をとる形に機体を動かす。それを読んでいたかのように、デュエルはこちらへと機体を向けて、レールガンとミサイルを斉射する。

 

「ちっ……」

「ふん!これぐらいで沈むお前じゃなかろう!」

 

 レールガンの射線から機体をずらし、ミサイルを頭部のイーゲルシュテルンで迎撃すれば強襲する形でメイスを振りかぶる。

 

 デュエルもその勢いにビームライフルを向ける暇もなくスラスター制御で地面を這うように飛びながらもう一度ミサイルを放つ。

 

 それを気にせずにメイスを正面に構えながら正面から突っ込みもつれ合うようにぶつかり地面へと押し付けた。

 

「がぁっ……!」

「……っ!」

 

 カナトはすぐに機体を立て直しコックピットを蹴りあげながら機体をバク転させて、地面へと降り立ちメイスを構える。イザークも機体を吹き飛ばされるが、スラスターを上手く使い機体を制御してから、地面を滑るように踏ん張った。

 

 奇しくもそれはこれから互いに決闘をしようとするかのような立ち会い方だった。もっとも、カナトにとっては決闘などをするつもりは毛頭ないが。

 

「……ふっ!」

「こいつ!」

 

 カラドボルグで牽制をする余裕はないと判断すれば全力でペダルを踏み込み、一気に間合いを詰める。デュエルもビームサーベルを抜きベルセルクを切り捨てるために踏み込む。

 

「……ここっ」

「なにっ!?」

 

 メイスよりも先にビームサーベルの切っ先がベルセルクのコックピットハッチを斬る寸前でカナトは機体を急制動させてから、下からすくい上げるように踏み込む。カナトの身体を凄まじい、Gが襲うが耐えきりメイスをデュエルのコックピットへと叩きつけた。

 

 その勢いを殺せなかったデュエルは空中へと舞い受身を撮ることも出来ずに地面へと転がった。うんともすんとも言わないデュエルに1歩1歩迫るベルセルク。

 

 そして、メイスを振りかざして潰そうとした時後ろからのアラームが鳴り響いた。咄嗟にサイドステップをしながら振り向くとそこにはこちらへの牽制射撃をばら撒きながら迫り来る、ディンの姿があった。

 

「デュエルはやらせないっ!!」

「ちっ……邪魔なんだよ……!」

 

 デュエルよりも早いディンを相手にメイスで戦うのは難しいと判断したカナトは、『9.1メートル対艦刀』を抜いて斬り掛かる。

 

 ディンのパイロットのセリーヌは近寄らせまいと、左手の『散弾銃』を構えてトリガーを引く。面での攻撃を受けたベルセルクはその威力のあまり仰け反るように倒れ込むも、距離を開けるために後ろへと跳ぶ。

 

「やっかいな……」

「ショットガンは強いけど……!」

 

 ポンプアクションで、弾丸を装填するも残弾は残り2発と心もとない。カナトもカナトで、あと1発当たればPS装甲が落ちてしまう可能性があった。

 

(どうする……近づけば迎撃されるが……)

 

 今の方法としては、カラドボルグで戦うか無理やり近づいて接近戦を挑む方法しかない。そう考えたカナトは右腕のカラドボルグを向けてそのまま放つ。

 

 案の定、それを見切られ機体を動かしながら避けたディンは右手の重機関銃でこちらを牽制してくる。どうにか、当たらないようにするも全てを避けるのは困難で、着実にエネルギーが減ってきていた。

 

「ジリ貧……かっ……!」

 

 その時、ひとつの案が浮かびフットペダルを踏み込み一気に間合いを詰める。

 

「同じことをしようたって!」

 

 それを見逃すはずのないセリーヌは左手のショットガンを構えてトリガーを引いた。その寸前にカナトは左手のパンツァーアイゼンをショットガンの銃口へと発射した。

 

 ギリギリで届いたパンツァーアイゼンに命中した銃弾は散弾としての機能を果たす前に砕かれて、大した威力の出ない攻撃へと成り下がった。代償としてパンツァーアイゼンはボロボロになってしまった。

 

「次弾装填は……!させない……!」

「くぅ!!」

 

 仕方なくショットガンを捨てたセリーヌは重斬刀を抜き対艦刀と切り結ぶ。さすがにガンダムタイプと量産機ではパワーの差があるためか、押し込まれそうになるもその勢いを利用して、機体を回転させながらコックピットへ向けてサマーソルトキックを繰り出す。

 

「はぁ……!?」

「くそっ!」

 

 さすがのセリーヌも無傷とは行かずに、右腕を切り飛ばされてしまったもののまだまだ戦闘続行は可能だった。

 

「私にだって意地はあるのよ!」

「……こいつ、普通じゃない……!」

 

 再び踏み込み、今度こそディンを撃墜しようとしたところで不意に横合いからアラートが鳴り響く。

 

「セリーヌさん!援護します!」

「ニコルかっ!」

 

 ブリッツも合流し2対1という不利な状況を背負うことになったカナト。

 

「……やるしかない」

 

 カナトは覚悟を決めて、ベルセルクに搭載している『ベルセルクシステム』を発動させた。その瞬間流れ込んでくるのは『怒り』と『闘いの本能』だった。

 

「うぅぅ……!あぁぁぁぁ!!」

 

 以前よりもおかしいと思う暇もなくさっきよりも出力の上がったベルセルクが一息にディンへと踏み込む。その速さは尋常ではなくセリーヌが対処しきれない程だった。

 

「嘘っ!?」

「やらせない!」

 

 ニコルはすんでのところでセリーヌを庇うが振るわれた対艦刀がブリッツの右腕を切り飛ばす。

 

「しまった!?」

「これでぇぇ!!」

 

 カナトは立ち塞がったブリッツへと対艦刀を振るおうとするが、その寸前にディンの最後のショットガンを胴体に貰い吹き飛んだ。

 

「ぐわぁぁぁ!?」

「はぁ……!はぁ……!」

 

 吹き飛ばされたベルセルクはすぐさま体勢を立て直して、ディンへと突撃する。ディンはそれを迎え撃つために重斬刀を抜き構える。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

「この一撃で……ッ!」

 

 セリーヌが振るった重斬刀は見事にベルセルクの胴体を切り払ったが()()()()()()()()()()()()刃が砕け散ってしまった。

 

(そんな…………!)

 

 絶望に満ちたセリーヌが見たのは凶悪な顔をしたベルセルクの頭とそれに割り込む()()()()の背中だった。

 

「セリーヌさん!逃げ…………!」

「邪魔だァァァァ!!!!」

 

 獲物を庇われたベルセルクは、対艦刀をブリッツのコックピットへと突き立てるもPS装甲に守られた装甲を穿つことしか出来なかった。だが、それに留まらず、もう片方の対艦刀を全く同じ場所に突き立てるのだった。

 

「ああ……あぁ…………!」

 

 硬直するセリーヌの目の前でブリッツがまるで捕食されるかのようにベルセルクに蹂躙され、その姿を見たアスランと先程まで意識を失っていたイザークがすぐさま行動を開始した。

 

「ニコルぅ……!!」

「貴様ぁぁ!!」

 

 イザークが後ろからベルセルクへと襲いかかり、気を引いている隙にアスランがディンを回収する。その間、セリーヌは呆然とブリッツのコックピットから流れている赤い液体を見ているのだった。

 

「あぁぁぁぁぁ!!!」

「こんな奴にィ!!」

 

 暴走を続けるベルセルクに対して、イザークは体へのダメージを追いつつも、理性のない突撃にどうにか活路を見出しながらアークエンジェルから徐々に距離を取っていく。

 

 その時、不意にベルセルクの機体が赤色から灰色に変わった。パワーダウンしたと思ったイザークがここぞとばかりに反撃するも、あとから遅れてきたストライクに邪魔をされる。

 

「くっ!一旦撤退するしかないかっ!」

 

 イザークはそのまま反転すればすぐさまその場から離れるのだった。そして、後に残ったのは呆然と立ちすくんだベルセルクとなんとも言えないような表情をしたキラだけだった。


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