機動戦士ガンダムSEED〜狂戦士は嗤う〜   作:零崎極識

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第4話 圧倒

 カナトがブリッジに向かうとそこには艦長であるマリューが座って何かを考えているところだった。ドアが開いて、誰かが入ってきたことに気づいたマリューはドアの方向を向く。

 

「おかえりなさいカナト君……戦闘はどうだったのかしら?」

「はい、ジンを撃破したものの……イージスは取り逃しました……」

「そう……わかったわ、ひとまず次の戦闘までゆっくり休んで?今回の戦闘データの提出はしっかりやっておいてちょうだいね」

 

 マリューにそう言われるとカナトはすぐに端末にデータを打ち込みそれを手渡す。

 

「……数値覚えてたの?」

「保存先のファイルへのアクセスコードです……こいつがないと戦闘データにアクセス出来ないので……」

「では、休んだ後に提出してね?」

「…………了解」

 

 カナトはひとまず部屋に戻ってシャワーを浴びることにした。部屋へ戻る途中にいかにもまだ学生といった風貌の少年とすれ違った。

 

「あのっ!えっと……」

「……何か?」

 

 カナトは少し鬱陶しそうな雰囲気を出しながら応対する。その雰囲気を感じ取った少年はなかなか話を切り出せそうになかった。

 

「……用がないなら行くけど」

「あなたは、あの機体のパイロットなんですか?」

 

 やっと口を開いた少年から聞こえてきたのはベルセルクのパイロットはあなたですかという質問だ。

 

「……そうだけど?」

「えっと、先程は助けていただきありがとうございまし

た」

「……君、どこに居たんだ?」

「ストライクの中に居ました」

「……別にストライクを助けた訳でもないからお礼なんていらないよ」 

 

 カナトは素っ気ない態度でそれだけ言う。

 

「失礼ですけど……お名前を教えてもらえないでしょうか!」

「……カナト・サガラ」

「カナトさんですね?僕はキラ、『キラ・ヤマト』です」

「キラ……ね、とりあえずストライクは君に預けるよ……だから、壊すなよ?」

「えっそれはどういう……」

 

 カナトはそれだけ言うと部屋に戻っていった。あとに残されたのは言葉の意味を考えるキラだけだった。

 

□□□□□□

 

 一方、追撃を考えているザフト側ではアスランがラウに呼び出されていた。

 

「実際にあの新型と交戦して……どうだったかね?」

「はい、あのパイロットは……熟練してるとは言い難いですが、機体の性能を熟知してると思われます」

 

 交戦してみて思ったことを述べるとラウは満足そうに頷きながら話を聞いていた。隣ではヴェザリウスの艦長である『フレデリック・アデス』がラウを横目で見ていた。

 

「……だがもう一度出撃したいということはどういう事だ?」

 

 アデスはアスランの要望に対して少し難色を示していた。貴重な新型の機体を壊されては叶わないと思っているためである。

「あの新型を……倒すためです……!」

 

 アスランは目に力を入れながらアデスにそう言った。一方でアデスは複雑そうな顔をしていたが、それより先にラウがアスランの考えを汲み取った。

 

「そうだな……それにあの船はそろそろコロニーから出るだろう、そこを仕掛ければいいのではないかね?」

 

 ラウはアデスの考えは汲み取らず、アスランに攻撃を仕掛けさせようとしているようだ。アスランはその指示に感謝をし一方で、アデスは苦虫を噛み潰したような顔をして、ラウを見る。

 

 ラウはその視線に何も感じずにアスランへ作戦の指示をする。アデスは苦情を言っても無駄だと判断し他のパイロットへ命令を伝えるのだった。

 

□□□□□□

 

 シャワーを浴び終わったカナトはブリッジより搭乗機にて待機せよとの指示を受け、コックピットに座っていた。

 

「……さっきシャワーを浴びたのは失敗したかな」

 

 恐らく再び戦闘になりまた汗をかくことを想像するとなんとも嫌な気分になった。

 

「本艦はこれより『ヘリオポリス』を離脱する」

「……ここ、ヘリオポリスって名前だったんだ……」

 

 今更気づいたことにつっこむ者は誰もいなかった。やがて、振動が伝わってきて船が加速しているのはわかった。しばらくするうちに振動が止み、今度は無重力状態になったのだった。

 

「そして敵が攻めてくる……と」

 

 その時艦内にアラートが鳴り響く。

 

『総員第一戦闘配備!ストライクはカタパルトデッキへ!ベルセルクは待機せよ!』

「ストライクを先に出すのか……」

 

 カナトは1人そう呟きながら、カラドボルグを右手に握り、メイスは左肩に装備していつでも出撃できるように備える。

 

『引き続き、ベルセルクはカタパルトデッキへ!』

「了解……」

 

 カナトはベルセルクをゆっくりと動かし、カタパルトへと機体を固定させる。

 

『リニアボルテージ上昇、カタパルトハッチオープン!』

 

 そして、赤かった信号灯が緑へ変わる。

 

『ベルセルク発進どうぞ!!』

「ベルセルク……出るよ……!」

 

 体に負荷がかかり、シートに押し付けられながらも宇宙へと飛び出す。船から出ると周囲にはコロニーの残骸などが沢山漂っていた。そしてヘリオポリスの方を見てみると、ヘリオポリスは完全に崩壊してしまっていた。

 

「……こんなことになるとはね……」

 

 カナトは少しばかり責任を感じたものの、割り切って敵への警戒に移った。あまりにもデブリが多いため、レーダーでの索敵は難しく、神経を使って偵察しないといけない。

 

「……来た……」

 

 敵はアークエンジェルを狙ってくることに間違いはなく、カナトはあえて少しアークエンジェルから距離を離して展開していた。これは、他の機体よりもスラスター出力が大きいから出来ることであり、この機体でなければカナトもこのような戦法は取らないだろう。

 

 敵のジンはベルセルクに気づいておらずアークエンジェルの方へと近づいていく。その後ろから急襲するように迫るベルセルク。ジンがふと後ろを振り返った時には既にメイスを振りかぶったベルセルクがそこにいた。

 

「……邪魔」

 

 呆気なくメイスに殴られ吹き飛ばされたジンはデブリに衝突して爆散した。そして、味方がやられたことに気づいたジンがアークエンジェルではなく、カナトの方を狙ってくる。

 

「……まるで射的だね」

 

 カナトはメイスをしまい、カラドボルグを構える。ターゲットスコープを展開して狙いをつけると躊躇うことなく引き金を引く。電気によって加速された砲弾は狙いを過たずジンのコックピットを貫いた。一瞬、遅れて爆散する機体に敵は呆然と立ち尽くしている。

 

 そして、それを見過ごすカナトではなく次の機体へ狙いを定めて再び引き金を引く。そして爆散する機体。ようやく、敵は回避行動を取り始めたが、カナトはジンと軸を合わせて、動きながら狙撃する。見事に一発で命中し爆散した。

 

「次は……」

 

 その時コックピットにロックオンアラームが鳴り響く。咄嗟に機体を横へ滑らせると遅れてビームが通っていった。その方向を見るとデュエルがライフルを向けていた。

 

「……へぇ、それで当てようってしてたんだ……」

 

 カナトはベルセルクのスラスターを一気に吹かし間合いを詰める。

 

「ちっ……やっぱり反応するか」

 

 イザークは遠距離攻撃は当たらないと判断しすぐにライフルをしまうとビームサーベルを抜く。

 

「かち合いじゃ……このベルセルクには勝てないよ」

 

 メイスを横合いから振るとデュエルはメイスの軌道をみて、下方へとベクトルを変える。だが、カナトはそれを見切って振り抜いたメイスを今度は叩きつけるように振る。

 

 その挙動を見切れなかったデュエルは何とかシールドを構えるも正面からメイスを受けてしまう。

 

「ぐわぁぁぁ!!」

 

 正面からメイスを受けると呆気なくシールドが砕け、凄まじい衝撃がイザークを襲った。そして、追撃のためにもう一度メイスを振ろうとしたところで横合いから、ビームが飛んできた。

 

「今度はバスターか……」

 

 メイスをしまいカラドボルグを取り出して対抗しようとするがその前にもう一度狙撃を受ける。さすがに銃口が見えないビームは避けるのが難しく機体を常に動かしながら、バスターへと迫っていく。

 

「すばしっこいぜ!こいつは!」

 

 バスターに乗るディアッカは迫ってくるベルセルクを狙いながらボヤく。さっきの狙撃でケリをつけようと思っていたのだが、どうにもFCSにズレが生じるようだ。

 

「けど、次で落とせなかったら恥だからさ!」

 

 不規則に動くベルセルクを狙ってトリガーを引くが、それもよけられてしまう。

 

「落ちろ……!」

 

 カナトは機体を高速で動かしながらカラドボルグでバスターに狙いをつけ、躊躇なく引き金を引く。加速された弾丸はバスターに回避させる猶予を与えずにライフルを破壊した。

 

「嘘だろ!?あの距離でか!?」

 

 一方のディアッカは武装を破壊されたことに驚くあまり動きを止めてしまっていた。もし、あれが偶然ではなく狙ってやっていたのだとしたら……と考えるとおぞましい。

 

「もう一撃……」

 

 カナトが狙いを付けたところでアークエンジェルから通信が入った。

 

『サガラ少尉、本艦はこれより現宙域より離脱する!深追いするな!』

「……了解」

 

 カナトはすぐさまベルセルクをアークエンジェルの方へ向けるとスラスターを加速させ、その場を離れるのだった。

 

 


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