(やられる……!)
そう思ったカナトは咄嗟にベルセルクの左手を正面に持ってきて、次の瞬間にはビームが左腕を貫く。だが、その行動により胴体への着弾を免れることに成功はした。
左腕が爆散しその衝撃で機体が外側に流れる。一方のデュエルもそのビームを撃った途端にエネルギーが切れたようでPS装甲がダウンした。
追い討ちをしようにもベルセルクのOS内にも不具合が多数起きてとても戦闘できる状態ではなかった。
「……ここは逃げるしかない……か」
カナトはそう判断すると機体を反転させどうにかアークエンジェルへと逃げることにしたのだった。
しばらくすると崩落するアルテミスからアークエンジェルが出航するのが見えた。どうやら、混乱に乗じて逃げてきたようだ。
「カナト君、状況は!?」
「……左腕をやられて機体にはエラーが……」
「わかったわ、収容後速やかに現宙域より離脱します」
「了解……」
そしてベルセルクは無事に収容され、アークエンジェルは崩落したアルテミスを離れるのだった。
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PS装甲の落ちたデュエルとバスターは遅れてガモフへと収容されたのだが、パイロットであるイザークとディアッカはさっきの戦闘に満足出来なかったのか不満感を抱いていた。
「あいつ……!次こそは!」
「イザーク、俺とお前のコンビネーションで次は倒せるぜ!」
イザークとディアッカはカナトの乗るベルセルクを倒すために念入りに打ち合わせをするのだった。
その一方でアスランはキラの乗るストライクが少しずつ脅威になっているのを感じているのだった。
「キラ……お前はいったいどうしたいんだ……?」
そんなことを考えていると部屋にニコルが入ってきた。
「アスラン、具合はどうですか?」
「……あんまり良くないがどうかしたのか?」
「あっちの機体、日に日に動きが良くなってる気がして」
たしかに、今回の戦いでもニコルのブリッツを単独で相手取っていたしその成長は計り知れない。
「……次に戦う時こそはあれを落とさなきゃな」
アスランは複雑な心境でニコルにそう言葉を返すのだった。
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「それにしても……避難民どころか、物資の補給もままならないとはなー」
ブリッジでムウが呟く。それに反応したのは副長のナタルと艦長のマリューだった。
「あのタイミングでのザフトの襲撃は予測不可能だったとは言えませんが……」
「……もう少し猶予が欲しかったところではあるわよね……」
マリューとナタルは船の現状を思い出すと深いため息をついた。空気が悪くなる中で遅れてカナトがブリッジに入ってきた。
「ひとつ提案があるのですが……」
「なんだい?言うだけならタダだぜ?」
ムウはからかうように気さくに声をかけてくれる。カナトはそれに甘えて今後の提案をする。
「ユニウスセブンの跡地で補給を……」
その提案に、マリューやナタルはおろかムウまでもが閉口してしまった。
「……さすがに墓荒らしをするほどの胆力はないぜ?」
「ですが、このままだと……確実に水が足りません……」
今のままだと水不足になるのは目に見えていた。
「……とは言ってもメインにとるのは氷です……その他のものには手が出せそうにないだろうし……」
ムウとマリューはその案を真剣に吟味し始めた。
「……たしかに水が不足したら間違いなく暴動が起きるな」
ただでさえ、ストレスが貯まる環境なのにこれ以上されるとどうなるかわかったものでは無い。結局その判断がくだされ、船はユニウスセブンの跡地へむかうことになったのだった。
『ユニウスセブン』、地球連合が突如核ミサイルを撃ち込んだ農業用プラントである。本来ならばここでプラントに必要な水や食料、空気といったものを生産するはずだったが、コーディネーターを忌み嫌うナチュラルによって滅ぼされてしまった。
ここはの攻撃がきっかけになりこの戦争は始まってしまった。という経緯があるこの場所で、カナトは少しばかり感傷に浸っていた。
(……なぜ無差別に人が死ななければならない……)
そんなことを思いながら協力してベルセルクを使い氷の塊を見つけてはマニュピレーターで砕いて回収する。しばらくそうしているうちに、アークエンジェルから通信が入ってきた。どうやら、遭難艇をキラが見つけて保護したそうだ。
「それで……こうして用心に用心を重ねてるわけですか……」
ベルセルクを帰投させたカナトがコックピットから降りると、保安局員たちが銃を構えながらその遭難艇のハッチを開けようとしていた。
カナトは少し離れた場所で様子を伺うだけだった。その隣にはムウが同じように様子を見ていた。
「なんでもザフトの物かもしれないとさ」
「……なるほど……」
それは確かに警戒しないといけないが、だからと言ってあれはやりすぎな気もしないでもないが……
「さーて、蛇が出るか……」
扉が開くと中からはピンクの髪色をした女の子が出てきたのだった。あまりにも浮世離れした光景にその場にいた全員の動きが止まっていた。
「……マジかよ……」
そんな呟きが格納庫の中に静かに騒いだのだった。