機動戦士ガンダムSEED〜狂戦士は嗤う〜   作:零崎極識

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第9話 戦いの理由

 カナトは機体の整備が終わり、部屋に戻ろうとすると格納庫へ繋がる通路の途中で、キラとノーマルスーツを着た2人に遭遇した。

 

「あ、か、カナトさんおつかれさまです」

「キラか……どうしたんだ……こんなところで」

「え、えっと……」

 

 カナトに事情を聞かれただけでしどろもどろになるキラ。カナトは訝しんでノーマルスーツの2人の身元を確認しようとするが、バイザーが降りているせいか顔が確認出来ない。

 

「……キラ、その2人の身元を確認させてくれ……」

「…………」

 

 黙り込むキラにカナトは銃を抜き、もう一度言った。

 

「キラ」

「……だめです」

「……なに?」

 

 今度はカナトを睨みつけるようにキラが目を上げる。

 

「こんな所にいたら、ラクス達は利用されるだけなんです!」

「……だが、それはキラの考えだろう……艦長たちには許可を取ったのか……?」

「そ、それは……」

 

 すると、片方がバイザーを上げて素顔を晒した。その顔はカナトの幼馴染であるミラだった。

 

「カナト、ラクス様をザフトに返してくれない?」

「ミラ……気持ちは分かるが俺も……今は連合の兵士なんだ……」

「そうだよね……分かってたよ」

 

 するとミラはキラを羽交い締めにし、どこからか銃を抜いてキラのこめかみに突きつける。

 

「この子を殺されたくなかったら大人しくして」

「……ミラお前……!」

 

 だが、カナトは銃を下ろさずにミラへと向ける。するとその時、船が大きく揺れた。思わずつんのめるカナトに対し、ミラは分かっていたかのように体勢を立て直し、すぐにキラを人質にして格納庫へと向かった。慌てて、後ろを追いかけるカナト。

 

「ミラ……!お前は……!!」

「カナト、これはコーディネーターとナチュラルの戦争なの……!私はあなたを撃ちたくないのよ!」

 

 ミラはそう言いながらラクスとキラを連れてストライクのコックピットへと上がっていく。カナトも止めるべくベルセルクのコックピットへと上がる。

 

「……なんなんだよ……!ほんと……!」

 

 カナトは1人ボヤきながらベルセルクを起動させるがその時、ウインドウにマリューからの通信が入ってきた。

 

「カナトくん、悪いけど追撃は中止して」

「……艦長、それはどういうことですか……?」

 

 カナトは突然の命令に訝しみ睨みつけるようにウインドウを見る。するとマリューは睨み返すようにこちらを見る。

 

「私たちは、脱走したという名目でこの件を処理しようと考えているの」

「……そうやって、この状況から逃がすということ……ですか……」

 

 カナトは表情を変えずにぼそっと呟く。その呟きが聞こえたのかマリューは表示を顰めて目をそらす。

 

「……分かりました……」

 

 渋々と言った様子でカナトはベルセルクをスタンバイモードにしてコックピットから降りた。そして、何も言わずに自室へと戻るのだった。

 

□□□□□□

 

「……ごめんね?こんな手荒な真似をして」

「いえ、ミラさんの方こそ……良かったんですか?」

 

 ストライクをカタパルトへと進めながらキラは問いかける。それを受けたミラの表情も明るいものではなかった。

 

「キラ!絶対に帰ってこいよ……!」

 

 その時、ウインドウにトールの泣きそうな顔が映った。

 

「うん……!ありがとう、トール……!」

 

 キラは申し訳なさそうにしながら機体を動かし発進する。そして約束したポイントへと機体を到着させると赤い機体が既に待ち構えていた。

 

「約束通り来た、ハッチを開けて確認したい」

「……アスラン……」

 

 キラはハッチを開けて身を表すと遅れてイージスのコックピットも開いた。

 

「キラ……どうしてこんなことを?」

「僕は戦いたいわけじゃない……でも、こんなことをするほど卑怯者にはなりたくないんだ……!」

「ならお前も一緒にこい!そうすれば……!」

 

 だがキラは首を横に振った。

 

「でもあの船には……守りたい人が、友達が乗っているんだ」

「キラ……なら今度会う時は、お前を討つ!」

「僕もだよ……アスラン!」

 

 そして、ラクスとミラをコックピットの外に誘導するキラにラクスが振り向く。

 

「キラ、また会えますか?」

「うん多分また会えるよ」

「そうですか……待ってますね?」

 

 そして2人はイージスへと乗り移りキラとアスランは互いにハッチを閉じる。キラは一瞬だけ後ろを振り返るとそのままアークエンジェルへと帰還するのだった。

 

□□□□□□

 

 ストライクの信号を確認したアークエンジェルだったがそのブリッジの空気はどことなく重かった。何故ならば規則違反と称して処罰しようとする動きと、それを止める動きの両方があったからだ。

 

「ストライクまもなく着艦します」

「……ヤマト少尉をブリッジへと招集しろ」

 

 ナタルがメカニックへとそう指示し、緊張の空気が漂う。そしてストライクが無事に着艦しキラがブリッジへと現れた。

 

「ヤマト少尉、何故あんなことをした!」

 

 ナタルが開口一番に怒鳴るように声を大きくして言う。

 

「なら……ラクスたちを捕らえて自分たちを守るのが正しいことなんですか!」

「生きるためには仕方の無いことだろう!それとも貴様は死にたいのか!」

 

 そんな問答の中、カナトがブリッジに入ってきた。

 

「……なんの騒ぎですかこれ……」

「キラくんの処遇をどうするかの話し合いね」

「個人的には……処分するべきですが……それでパイロットが居なくなるのはまずいですね……」

「だがこのままでは増長するぞ!」

「だから……もしこれ以上酷くなったら……後ろから撃ちます」

 

 カナトのその言葉に全員が無言になった。

 

「それで……文句ありませんよね?」

「……そういうことにしましょう。今後も同じようなことがあればカナト君に後ろから撃ってもらうから」

「……はい、分かりました」

 

 こうしてひとまず捕虜の件はどうにか解決したが、どこかぎこちない空気が流れるのだった。

 

 そんなちょっとした揉め事があった後、カナトは自分の部屋に戻ってくつろいでいるとしばらくして部屋のドアがノックされた。

 

「……どうぞ」

「失礼します……」

 

 そこに入ってきたのはキラだった。カナトは少し訝しげな目を向けるもとりあえず椅子に座るように勧める。それに合わせて椅子に座ったキラだったが、なかなか口を開かない。

 

「用事は……?」

「えっと……カナトさんは、何の為に戦ってるんですか?」

 

 キラから発せられた問いに対しカナトは一瞬だけ考え込む素振りをみせる。

 

「……自分のためだな」

「そうなんですか?」

「ああ……俺が死なないで済むために戦ってるだけだ」

「そう……なんですね」

「だが、キラ……お前はお前の戦う理由を探せ」

 

 カナトはキラの目を見据えてそう言う。

 

「漫然と戦ってたら……いつの間にか飲み込まれる……だから理由を探せ」

「……はい、分かりました」

 

 そしてキラはカナトの部屋を出ていくのだった。キラを見送ったあと机に目を向け幼い時の写真を手に取る。

 

「……そう……戦うための理由……」

 

 カナトは少しばかり感傷に浸るのだった。


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