その剣はただそこに佇んでいた。まるで何かを待つように感じたのは私の気のせいかもしれない。
そして、それとは別にその場だけが他の場所と違う様に感じた。この感覚、この間のピクニックの時にも感じたような……
「あれがルナちゃんの剣……?」
「はい。あの戦闘でルナさんが最後に剣を突き立てたまま倒れ、そのまま消えてしまった。しかし剣はその場に残されたままだったのです」
「そうだったんですね」
ゲイムキャラの話を聞きながらその剣を見る。綺麗な銀色の片手剣とも両手剣ともいえない大きさ。長さも見た感じでは短剣とはいえないけど、通常の長さより短い。軽そうで、重そう。中途半端な武器だなって思って見ていれば、刃と柄の間の
そんなことを考えていればアイエフさんとコンパさんが落ち着かない様子でキョロキョロと周りを見ていた。
「なんなのかしら。ここだけ今までの場所とは空気が違う様に感じるわ」
「なんだか神秘的な感覚がするですぅ」
「そう言われてみれば…普段感じ慣れているような慣れていないような感じが……」
どうやら皆さんもこの感じを感じ取れたみたいだ。
「おそらく皆さんが感じ取っているのは守護の力だと思われます」
「“守護の力”?」
「守護の力とはその名の通りの力。主に女神様が国を守護する時に使われる力のことです」
「それって普段から私達の国…他の国もそうだけど、国を覆っている女神様の力よね。それなら普段から感じているはずだけど。なんでここだけそれが極端に感じられるのかしら」
「それは国を覆う守護の力が、覆う範囲が広い故に薄くなったのを普段から感じているためです。それがこの場所では力の密度が濃い。だからこそ感じ慣れていてもこの場ではとても濃く感じられるのです」
「そういうことなのね」
「ちょっと待ってください。どうしてここだけ守護の力が濃いんですか? ここは国の外ですし、女神の守護も届かない範囲のはず……」
ネプギアの疑問は勿論だ。ここは国の外。一応女神様のネプギアはここにいるけど、さっきからずっとこの場にいたわけじゃないし、それどころか自分たちと同時にこの場に来た。だからここは女神様が守護している場所ではない。だというのに何故こんなにも濃い守護の力を感じ取れるんだ?
「私にもよくわからないのですが、どうやらあの剣から力が放出されているようなのです」
「剣から?」
「見た感じじゃ変わったところはないけれど……」
ゲイムキャラから言われて私達は剣を見るが、先ほどから光に反射して輝いているだけで変化は……
…まって。“輝いてる”?
「これ…もしかして光ってる?」
「え? まさか機械剣でもない剣が独りでに光るなんてそんなこと……」
アイエフさんが疑うのも分かるけど、でもよく、本当によく見れば輝いている。周りの明るさに紛れて、弱い光を放ってる。もしかしてこの剣から守護の力が放たれているのと何か関係が?
「どうやらその剣は放出している力に比例して輝くようなのです。そしてその剣は持ち主であるルナさん、あなたにしか使えないと私は考えております」
「私にしか使えない?」
守護の力というものを放っているらしい変わった特性を持っているが、見た目は光っていることを除けばただの美しいだけの剣だ。装飾品としても活用できそうなほどの。その剣がなぜ私にしか使えないと?
「はい。ここ数か月、この場を訪れた者が数名いました。それぞれが犯罪組織に属する者であったり、偶々通りかかった旅人であったりと。その誰もがこの剣を見て、そしてその美しさに持ち去ろうとしました。しかし誰一人としてこの剣を抜き去ることはできなかったのです」
「誰も抜けなかった……」
剣身はあまり深く突き刺さっているようには見えない。少し力を加えればすぐ抜けそうなのに……
「そうかしら。すぐ抜けそうに見えるけれど」
「なんでしたら試してみてください。ルナさん以外は抜けないはずです」
「じゃあ私から」
そう言ってアイエフさんは剣に近づき柄を握った。
「…くっ…あ、あら? くっ…ほっ…はぁっ…!」
アイエフさんは必死に剣を抜こうとするが、剣はびくともしない。アイエフさんは諦めず色んな角度から抜こうとしたり、とやり方を変えながらやっても、全く動かない。
「だ、だめ…なんなのよこれ。まるで地面にくっついてるみたいに動かないんだけど。コンパもやってみる?」
「は、はいですぅ」
アイエフさんに誘われてコンパさんも頑張ってみるが、アイエフさん同様に剣は全く動かなかった。というか物理で何とかなるものだろうか、これ。
「どうせだしネプギアも試してみて」
「わかりました」
ネプギアも抜こうと柄を持った。すると全く変化のなかった剣の光が一瞬強さが増したように見えたが、すぐ元の強さに戻ってしまった。そしてそのことに気づいたのは私だけだった。
それからネプギアはアイエフさん達同様抜こうとするも、全く変化なし。ゲイムキャラの言った通り本当に抜けないみたいだ。
「ネプギアでもダメってことは、本当にルナにしか抜けないのかしら」
「ルナさん、試してもらえますか?」
「は、はい……」
ゲイムキャラに言われて思わず頷いて剣に近づくが、正直皆さんが駄目なら私も抜ける気がしない。でも“もしかしたら”の可能性を少しだけ期待してその柄に手をかける。
その瞬間、目に見えて光が強くなった。しかもそれは一瞬のことじゃない。思わず手を引っ込めてしまうと、すぐ光は止んでしまったが、先ほどとは違い全員そのことに気づいた。
「い、今剣の光が強くなりましたよね……?」
「ええ…私にもわかったわ」
「ルナちゃんが触れたからです?」
「………」
私が触れたから、この剣の光が強くなった?
でもさっきネプギアさんが触った時だって一瞬だけ強くなった。
そこには多分私とネプギアさんが持つ何かの共通点があるからだろうけど、何が共通点なのかは今はさっぱりだ。
でも、とりあえず引き抜こう。話はそれからかな。
剣に手をかけると再び光る。今度は驚かず、両手でしっかりもって、腰に力を入れて……
「──はぁ! ってわわっ!? いったぁ……!」
いてて……
力いっぱい引き抜こうと構えていたから、あっさり抜けたことでバランスを崩して思いっきり尻もちをついてしまい、お尻を打ってしまった。たんこぶとか出来てないよね?
と、痛みで目をつぶってた私だけど、手に何か握ってるのに気づいた。思わず見てみれば私の両手には先ほどまで地面に突き刺さっていた剣が握られていた。光は消えてる。
「あっ…ぬけちゃった……」
「うそっ…あんなに力入れても抜けなかった剣があんなあっさり……」
「ってことはあの剣は本当にルナちゃんの剣ってことなのかな」
「でも、なんでルナちゃん以外には抜けなかったですぅ?」
「おそらくですが、あの剣には持ち主を識別する機能が備わっていたのではないでしょうか」
「だからルナ以外はあの剣を持つことができなかったわけね」
「…そうなの?」
と、思わず私が問いかけたのは手に持つ剣で、それに気づいて「剣に話しかけるって……」って恥ずかしくなった。
でも剣はその問いに光を強くすることで答えてくれた。
「あっ、また光が強くなった」
「多分ルナちゃんの言葉に答えてくれたのかな?」
「そうなのかな……」
私は立ち上がり、改めて剣と向き合う。銀色に光る剣身。握る柄は金色に光り輝いていて、持つ手は昔から持っていたかのように違和感がなかった。
しかし未だに剣が仄かな光を放っているのはなぜなのだろうか。もしかしてまだ何かある?
するとまた光が強くなった。
「え? なんでまた光が強くなったです?」
「もしかして、私の考えに反応してる…ううん。答えることができるの?」
そう訊けばまたも剣は反応する。
どうやらこの剣はただの剣ではなかったようだ。
「持ち主を識別することができるほどだもの、そういうことができてもおかしくないのかもしれないわね」
「それってインテリジェントウェアポン…剣だからインテリジェントソードというものですか?」
「インテリジェントウェアポン? ネプギア、それって何?」
「えっと、武器に高性能の知性が組み込まれた、考えることができる武器のことだよ。…でもおかしいよ……」
「何がおかしいの?」
「インテリジェントウェアポンはずっと昔プラネテューヌで開発されていたの。でも当時の責任者がその開発を凍結、研究成果を全て消去したから、存在しないはずだよ」
「ならこれはそれとは違うってことなんじゃ……」
「でも他の高性能知性が組み込まれた武器なんてないはず……」
「というかどうしてネプギアはその情報を知ってるのよ」
「ちょ、ちょっと趣味で……」
「趣味?」
アイエフさんの質問に照れ気味に答えるネプギア。
趣味で自分の国の昔のことを調べてるなんて、それだけ女神様としての自覚があるのかぁ。まだ候補生なのにすごいんだなぁ
「それは後で考えるとして、ひとまず教会へ戻りましょ。ゲイムキャラの協力も得られたことだし」
「そうですね。では──」
「ちょっとまってください」
そう呼び止めたのは私で、私でもどうして皆さんを引き留めたのかわからない。
でもなんだかこのまま行ってはいけない。
だって未だに剣は光り続けている。むしろ私の気持ちに答えてさらに光が増している気がしなくもない。
つまりまだ何かやり残していることがある…?
剣は光り続けているから反応したかなんてわからない。でも確かに反応した。そう感じた。
「どうしたのよルナ」
「何か、何かやり残した気がするんです」
「“何か”って?」
「わかりません、でも少し待ってもらえますか?」
アイエフさん達は私の言葉に「いいよ」と答えてくれて、待ってくれた。
さて、何をすればいいのかな。
訊いてみればわかるかな?
「…ねぇ、もし何かやり残していることがあるのなら教えて。私はどうしたらいい? 何をしたらいいの? 教えて!」
その瞬間、剣の光はまばゆく光、辺りを包み込む。そして何をしたらいいのか頭に浮かんでくる。
「剣を振ればいいの?」
剣は反応する。そうだ、といわんばかりに。
「…わかった」
改めて剣を構える。しっかり踏ん張れるように両足を開いて、両手で剣を持って、剣をまっすぐ上へ振り上げ、
「はぁっ!」
力いっぱい振り下ろす。
その瞬間、剣は光を裂き、光に波紋のように広がり消え、周りは元の明るさへと戻って…ううん、元の明るさより暗くなってる。
「ひ、光が…え?」
「な、なんなのよ一体! いきなり光ったかと思ったら急に消えたりして」
「よ、よくわからないことの連続ですぅ」
後ろで混乱している皆さんを見ながら、私は感じていた。
いや、“感じなくなっていた”。
「なっ、これは……」
「どうしたんですかゲイムキャラさん」
「先ほどまでここを包んでいた守護の力が消えています!」
「えっ!? そんなこと……うそ……」
「ほ、ほんとだわ。さっきまでの感覚がない……」
「ど、どうしてですか? そんなにすぐなくなるものなんですか?」
「そんなことはないはず。もしかして剣を引き抜いたから……」
「でも剣を抜いてもしばらくは感じてましたよ?」
「まさか…この剣は……」
そう皆さんと驚きながら話していた私。ゲイムキャラさんは何か知ってるような発言をしたけど、それどころじゃなかった。
不意に感じ取れた敵意に身が強張る。急いで周りを見渡せばこちらを見る、いいや睨むモンスターの視線。
「皆さん、どうも悠長に話している場合ではなさそうです」
「…そのようね。コンパ、ネプギア。武器を構えて」
「は、はい!」
「わかったです!」
私たちはそれぞれ武器を構える。私は先ほど手に入れた剣を。
私たちが武器を構えたことで周りのモンスターは自分たちが気づかれたことが分かったみたいだ。オオカミの姿のモンスターは隠す気がないように唸りながら物陰からゆっくりと出てきた。一匹が出てくると他のモンスターも出てくる出てくる。
二足歩行のネコのぬいぐるみみたいなのだったり、兜を被ったネコ。馬に鳥の羽が生えたようなのもいるし、向日葵やチューリップみたいな花のモンスターもいる。後ニンジンとかダイコンとかナスとか……
思うんだけど、この世界のモンスターって個性的なのが多すぎない? もっと普通のモンスターでもいいと思うんだけど……
まぁ普通のモンスターってどんなのだって言われても困るんだけどさ。
とにかく続々と出てくる。この間のスライヌの群れなんて目じゃないくらい。
「なっ、なんでこんなに大量のモンスターがここに……」
「おそらく、先ほどまでこの地を覆っていた守護の力が消えたことによるものかと……」
「だからってこんないっぱい来る!?」
「で、ですがそれ以外なんでこんな大量のモンスターが来ているかなんて説明のしようが……」
さすがのゲイムキャラさんもこの事態には戸惑うようで、声色からもそれが窺えた。
しかしそうこうしているうちにもどんどんモンスターは集まってきて……
「まずいわね……私達囲まれたわ」
「戦うしかないです……?」
「ええ。ネプギア、女神化できるわよね」
「はい!」
ネプギアは返事するとすぐに体が光に包まれ、中からネプギアに似た、女神化したネプギアが出てきた。この時の姿はパープルシスターって名前なんだって。
そう思ってたらゲイムキャラさんが私の剣に近づいてきた。
「ルナさん、あなたにも力をお貸ししましょう……」
え? と驚いている私を置いて、ゲイムキャラさんは私の剣、その鍔についた玉に近づいた。するとゲイムキャラさんと玉がパァと共鳴するように光ったかと思うと、ゲイムキャラさんが吸い込まれてしまった。
──ドクンッ──
「あっ……」
その瞬間、剣の命が蘇ったように感じた。
さっきまでは死にかけみたいな。そんな感じだったと思わせるように、力強い生気を感じた。
…いける。これならいける。
この大群も、何とかできる!
目の前のモンスター達はとんでもないくらい大群で、下手したらゲイムキャラさんの言っていた過去の私が一人で相手した量と同じくらいかもしれないけど、こっちは私だけじゃなくてネプギア、コンパさん、アイエフさんがいて、ゲイムキャラさんが力をくれたんだ!!
私達4人なら、倒せる!!
…うん。そうだね。訂正するよ。
私達
「それじゃ、やりましょうか!!」
「ええ!」「うん!」「はいです!」
行くよ! 『ムーンライトグラディウス』!
…Yes,master.
余談、ルナはネプギアがインテリ云々を知ってるのはプラネテューヌが~と言ってますが、完全にネプギアの趣味です。
また次回お会いできることを期待して。
See you Next time.
・オリジナル設定
『インテリジェントウェアポン』
かつてプラネテューヌの教祖の発案により研究、開発が進んでいた人工知能を搭載した武器。しかし発案者であり責任者であった教祖がその武器が戦争の火種になりかねないことを知り、開発を停止、研究を永久凍結させた。当時の研究データは全て消去され、過去にそのような研究がされていたとだけ伝わっている。
元ネタは『リリなの』のレイジングハート達インテリジェントデバイス。