前回のあらすじ。
初めてラステイションに来たルナとネプギア。
早速情報を探しにとルナはネプギア達と離れ、街へ繰り出します。
しかし何故か路地裏で道に迷ってしまいましたが、そこへ犯罪組織の構成員が現れ、犯罪組織へ勧誘しました。
ルナはそれを好機と見て、彼についていくことにしましたが、はたして彼女の思惑通りの事は動くのでしょうか?
今回もごゆるりとお楽しみください。
ネプギア達と分かれてゲイムキャラの情報を集めようって聞き込みをしていると、路地裏で道に迷ってしまった私。
だけどそこを偶々通りすがった犯罪組織の構成員を名乗る人に声をかけられ、勧誘された。一度断ると、今度は見学だけでもって言われて、それを私は好機と思い彼に着いて行って、それで着いたのは何処かの公園。子供たちが遊具などで遊ぶ、ごく普通の公園だ。
もっとも、私の目の前には彼と同じように犯罪組織の構成員を意味する趣味の悪いパーカーを着た男女を除けばだけど。
「えっと…ここって……」
「うん、公園だよ。今日はここで子供たちにマジェコンを配るって仕事なのさ」
「配るんですか?」
「貧しいわけでもない家庭の子供からはお金を取るけどね。さすがにこのゲーム機もソフトは無料でも材料費とかが掛かってくるから」
「まぁゲームをするためにお金を取るのは当たり前ですけど……」
「でもあくまで貧しいわけでもない家庭の子供や、その親から貰うんだよ。貧しい家庭の子供はゲーム一つ買うことが出来ない。その子供たちに娯楽を与えるためにもね」
つまり普通の家庭か、裕福な家庭にマジェコンを売ることで得たお金を、貧しい家庭の子供の娯楽、つまり彼らのためのマジェコンに変えようってことなんだろう。
でもそれは普通の寄付や募金じゃダメなのだろうか?
…ダメだからやってるのかな。世の中、例え有り余るお金を持っていても、貧しい人に何も与えない人もいるわけだし。
そう考えてるのをよそに、彼等は用意していたのだろういくつかの段ボールの一つから画面の付いた何かの機械を取り出した。あれがマジェコンなんだろう。彼はそれを両手に持つと、掲げるようにして大声を出した。
「はーい! 毎度お馴染みマジェコンヌだよー! 今回は最新機種! 今まで出来なかったゲームも無料で出来るマジェコンだー!」
「最新マジェコン!?」
「なになに!? お兄ちゃんそれちょーだい!」
「おれもおれも!」
彼の声を聞いた子供や、その親があっという間に彼等を、マジェコンを囲み、マジェコンを欲しがる。私はその勢いに思わず身を引き、遠くから眺めることにした。
彼等は押しかける子供たちや親に動じず、まるで慣れてるようにマジェコンを配っていく。もちろんお金をいただいている。しばらく経てば人はいなくなるかと思ったけど、噂を聞いたのかどんどん人は集まって、我も我もとマジェコンを欲しがる。
正直意味が分からない。そりゃ無料でゲームができるというのは消費者にとってはいいのかもしれない。でもそのためのマジェコンにお金を払っているじゃないか。まぁマジェコンにさえお金を払えば、他のゲーム機も、ソフトも買わなくていいってことだから安上がりなのかもな。
しかしこうして見ていると、とても犯罪をしているようには見えない。ただ何かを販売しているようにしか見えないのが、不思議だ。その何かが違法な機械だってことを除けば、だけど。
と、眺めていると、ポケットに入れていたNギアから着信音が流れた。はて、誰からだろうかと画面を見れば『アイエフさん』の文字。先日連絡先を交換していたから不思議ではないが、今連絡が来るのはタイミングが悪いというかなんというか……
とにかく出ないと向こうに心配をかける。だからって今ここで出たら外の話声とかが入ってしまう。
そう思った私は彼等から離れようとして……
「あれ? どこ行くの?」
「あっ…えっと、ちょっと電話が……」
「あー、うん。行ってらっしゃい」
「い、行ってきます」
路地裏で話しかけてきた構成員に話しかけられたけど、素直に電話に出てくると言えばそのまま売り子に戻った。話しかけられた瞬間ドキッとしたけど、どうやら怪しまれてないみたい。
とにかく着信が切れる前に電話に出なきゃ。
私はマジェコンとかそういう単語がうっすらとしか聞こえてこない範囲まで離れると、ようやくアイエフさんからの電話に出た。
「も、もしもし……」
『ルナ? アイエフだけど』
「は、はい。どうしましたか?」
『実はギルドでクエストを受けたから行くことになって、それでアンタを誘おうと思ったのよ。アンタ、今どこにいるの?』
「い、今ですか? 今は…そのぉ……」
『公園にいる』と素直に話せばいいけど、一瞬話していいものかと躊躇してしまった。だって公園にいるのは、マジェコンヌの活動を見学…という名の敵情視察をしていたから。
どうしよう、と答えに悩んでいると、電話の向こうで不機嫌そうな声が聞こえた。
『…歯切れが悪いわね。もしかして迷子にでもなってるんじゃないでしょうね?』
「へっ!? い、いえそんなことないですよ!?」
そう否定したけど、ここに来る前は迷子になっていただけにドキッとする。
と、更にタイミングの悪いことが起きた。私自身マジェコンヌの人達から離れるということしか意識してなく、人気までは気にしてなかったから、当然近くを通る人もいるわけで……
「へへっ、やったぜ! 最新機種のマジェコン!」
「やっぱマジェコンってさいこーだよな! 早くやろうぜ!」
「おおっ、このゲームもできるようになったなんてさすがマジェコン!」
なんでこのタイミングでそんな大声でマジェコンマジェコン言うんだよー!!
…そう言葉を外に出さなかったのは褒めることだと思う。
近くを通った男の子達を恨めしく睨んでいたが、男の子達の声は電話の相手にもバッチリ聞こえていたわけで、電話から聞こえてきた声に体がビクッと反応してしまう。
『…ねぇ今マジェコンとか聞こえたんだけど、アンタ今どこで何してるの?』
「えっと……」
『サボってたとかでもいいから、正直に答えなさい』
「さ、サボってないです。ただちょっと公園で聞き込みをしてたら犯罪組織がマジェコンを配っている現場に遭遇してしまっただけで……」
『はぁ!? それを先に言いなさい!』
「ごめんなさい……」
『で、犯罪組織がいる公園ってどこよ』
「あっ、いえ。実は私が居合わせたときにはもう撤収作業に入ってまして、今は影も形もなく……」
『一足遅かったってわけね』
「はい」
電話の向こうでアイエフさんがため息を吐くのを感じた。きっと犯罪組織の人間を少しでも捕まえようとか、マジェコンを配るのをやめさせようとかしようとしたんだろう。
現時点でまだマジェコンは公園の子供達に配られてるけど、それを伝えてアイエフさん達が来たら、私の計画が失敗する。今はまだ敵を手のひらで泳がせておかないといけない。そのためには味方も騙さないと。
『ま、いいわ。で、クエストなんだけど行く?』
「いえ、私はまだ街で情報を集めたいので、今回はパスで。三人で行ってきてください」
『いや三人じゃないんだけど…ともかく、それなら私達だけで行ってくるから、また後でね』
「はい。お気を付けて」
『そっちも無理のない範囲で』
その言葉を受けつつ私はボタンを押して電話を切る。
ふぅ、どうにか穏便に事を運べたぜ……
でもごめんなさい、アイエフさん。素直に言えなくて。ただマジェコンヌの見学をしてるだなんて言えば疑われる。そうしたらネプギア達と敵になるかもしれないとか考えたら正直には言えないです。
でも有益な情報を手に入れられたら、素直に今やってることを言います。手に入れられなくても多分言います。協力してる女神様に隠し事なんてあんまり良くないもんね。
しかしさっきアイエフさん、“三人じゃない”とか言ってたけど、何かあったのかな。三人のうち誰か私みたいに抜けたか、あるいは誰かがパーティに加入したか……
それはまた後で聞いてみよう。覚えてたらだけど。
念のため…っていうのもおかしいけど、Nギアの電源を切っておこう。また連絡がきても出れないだろうし。
さっ、戻ろ戻ろ。
電源を切って元の場所に戻ると、中身が無くなった段ボールが転がっていた。私が電話していた間にも勢いよく売れ、あれだけあった箱がどうやら残り一箱しかなさそうだ。
そしてその中身も売れて、最後の一つがまだ幼い少年の手に渡された。
「はいっ! 最後の一つでーすっ!」
「わっ、やったー! まにあったー!」
「よかったね! 是非マジェコンでいっぱい遊んでね!」
「もしお友達にまだマジェコンを持ってない子がいたら、誘ってあげてね。俺たちはここでよく配ってるから」
「うんっ! わーい! おかーさーん!」
子供は元気よく返事すると、母親と呼ぶ人の元へ走っていった。母親も母親で子供の喜ぶ顔に嬉しそうな表情を浮かべてる。
でもその手に持ってるのは、違法なゲーム機。多分少年にとってはソフトがいっぱい入っただけのゲーム機なんだろう。あるいはゲームを簡単に進めることが出来る便利な機械。純粋にそのゲーム機を手に入れたことに喜んでいる。親はそのゲーム機が違法であることを知っているはずなのに、子供と喜ぶ。なんとなく、可哀そうだと思ってしまった。
「あっ、戻ってきた」
「…はい。もう配り終わったんですか?」
「うん。いつもこの公園で配ってるからさ、噂を聞いた子供とか大人が来てくれるんだ。だからいつも最新機種は完売。また作ってきても売れるからありがたいよ」
「教会の人に見つかったりしないんですか?」
「うーん、不思議と見つかったりはしてないかな。そもそもマジェコンを使うのは悪いことーとか言ってる割に、使うことも所持することも売ることもそこまで禁止してないしね。別にいいんじゃないかな」
「…そうですか」
きっと教会側は今のところ禁止にしたところで効果がないと思ってるんだろう。色々と詳しい事情を知らない私でも、女神様が捕まってるときにマジェコンを禁止したところで効果が出ないのは分かってしまう。
ただまぁ、だからといってこれからもマジェコンが禁止されないとは限らないけどね。
と、思考に意識を持ってかれつつ、彼らが空になった段ボールを片付けるのを見て待ってる。
手伝いとかはしない。この程度でも手伝えば、それは私が女神様を…ネプギアを裏切ったと思われる。ということはないかもだけど、何となく自分の中で自分自身がネプギアを裏切ったように感じてしまう気がしたからしない。
今やってる行動も裏切りと捉えれるかもだけど、スパイと同じ行動なので違うので、そこは要注意。
さてさて、お次は何をしに行くんですかねぇ
「よーし! 片付け終わったし、次の場所に移るぞー!」
「「「お──!!」」」
「…おー」
ってまたマジェコンを配るんですか。一体何台のマジェコンを製造しているのやら。それに売れるようですしね。ラステイションってば大丈夫? あっ、女神様が捕まってる時点でギリギリか。
ま、今のうちだけどね。ネプギア達が女神様を助け出したらこうやってマジェコンを売ることも、そもそも犯罪組織マジェコンヌがあることもなくなるから、今しかこうやって何かを売ることはできなくなるだろうね。
まぁ私には関係ないことだし、私にとってもマジェコンヌは悪いことをしてるんだから無くなる方がいい。私の恩人でもあるネプギア達のためにもね。
さてさて、お次は何処かな~
って、呑気に考えていた時期が私にもありました。
っていうほど昔のようなことでもないし、というか今日のお昼少し前に思ってたことだし。
というのもあの後も色んなところで配り続けていったんだよ。場所はまた公園だったり、ただの広場だったり、怪しげな路地裏だったり。って言ってることからもう一回だけでは済んでないことは分かるよね。
もうね、段々と子供とか大人が必死になってマジェコンを得ようとしたり、ゲットできたらできたで嬉しそうな表情を浮かべるのを見て一々反応する気力も起きなくなるぐらい見てた。そりゃこの活動に感動の一つでも覚えれば楽しいし、辛くないのかもしれないけど、私はこの活動にあまり興味はないし、そもそもマジェコンヌ自体に興味もない。強いて言うなら女神様達を捕まえることが出来た人の情報が知りたいね。普段何処にいるのかとか、何をしているのかとか。
ま、そんな犯罪組織の欠点となりうる情報なんて、そうほいほい出てくるわけないと分かってはいたけど、それでもここまで何も出てこないとこの計画は失敗したかなと思ってしまう。計画という計画でもない、ただのその場の思い付きでもあるけど。
といってもマジェコンを配る人たちが誰かとか、どういうところで、どういう時間に配ってるとかは分かってきたけど。それも女神様救出の一手にはなり得ない。どうしたものかねぇ。
なんて考えながら私は皆さんと休憩していた。目の前にはペットボトルのお茶とお菓子が広がっている。
お昼は手短に食事して、その後もいっぱい配っていたので、休憩中というわけだ。皆さんもそれぞれコンビニなどで買ってきたお菓子や飲み物を食べたり飲んだりしてお話を楽しんでいる。
私はその会話の中で何かしら情報がないか気づかれないように探りをいれても、やっぱりここにいるのは本当に下っ端と同じ下っ端…ってなんか分けづらいな。ともかく組織の上の方のことは何も知らないらしい彼ら。隠している人も中にはいるのかもしれないけど、それを見分けれるほど私は人を見ることはできない。
しょうがなく今回は諦めて、見学が終わったらまっすぐネプギア達の元へ戻るかね。そのころには皆さんもクエストを終えて戻ってきてるでしょうし。
と考えてたら一人がしみじみといった感じに何かを語り出してきた。多分犯罪組織についての話の流れから話す雰囲気になったんだ。それを聞くのはもちろん私しかいないようなので、もうあきらめたので、どんな長話にも付き合いますよ。お菓子をつまみながらでいいのなら。
「なんか懐かしいよな。俺たちがまだホームレスだったころ……」
「そうだな、もう三年にもなるのか」
「あの頃の私達ってホント人生のどん底にいたわね~」
「えっと、皆さん昔は家がなかったんですか?」
というか今は家があるのか? なんて失礼なことを思ってしまうけど、心の中にしまっておく。
「ああ。俺たちって実は犯罪組織に入る前は毎日生きるだけでも苦しい生活をしてたんだ」
「毎日毎日ゴミ箱漁って何か食べれるものとか服とか売れるものとか。そういうのを食べたり売ったりしながらな。今思えばとんでもねえ暮らしだよなー」
「それぐらい毎日生きてくのに必死だったの」
「それぞれ職もなくてな。というより職がなくなったから家も無くなったって感じだが」
「そうそう。俺なんか昔はラステイションの中でもそこそこ良い会社に勤めてたんだがよ。上司の奴が会社の金を横領してやがって。しかもそれがバレたときに自分の部下、つまり俺がやったって言いやがったんだぜ? しかも巧妙に証拠とかいうものもでっちあげてさ。会社も教会もそれを信じやがって俺には多額の請求が来て借金まみれ。そんとき妻と中学生ぐらいの娘がいたんだが、家族までそのことを信じやがって絶縁だ。親はもう死んでたし、親戚も俺を見捨てて、俺は家も財産も名誉も信頼も失っちまった。そっから仕事探そうにも前科があるとか家がないとかで誰も採用してくれねーの。たっく、ラステイションはホント仕事はいいが無くなった途端住みづらい街だぜ」
「私も同じような感じかな。お金関係で濡れ衣着せられて全部ぱあ。仕事探してもこんな私を雇ってくれるとこなんてないし、あっても女としての体を使うものばっかり。お金はいいけどプライドがその仕事をするのを許せなくて」
「僕は冤罪。結婚した相手に浮気されたとか言われて、慰謝料とかいっぱい取られた挙句仕事も失っちゃって。家賃払えずに追い出されちゃった」
「ここにいるのってそういうので路頭に迷う羽目になった人ばっかりなんだ。中にはまともに生きて、そのうえで俺たちの活動に参加してくれてるやつもいるけど」
「仲間になってくれるのは大助かりだよ。おかげで僕たちのグループはラステイション支部の中で上位の貢献度を犯罪神様に捧げることができるんだから」
「ふぅん、そうだったんですね」
手近にあったクッキーを咀嚼しながらでも話を聞いていた私は、ふと疑問に思った。その疑問を聞いてみようか悩んだけど、これは別にスパイ行為とは関係ない、私個人が思った疑問だから聞いてもいいのか分からない。
それでも気になったのは仕方ない。疑問をぶつけてみることにした。
「じゃあ皆さんはどうして犯罪組織に入ろうと思ったんですか?」
「そりゃまぁ俺たちは犯罪神様に救われたからな」
「救われた?」
「ああ。あれはまだ犯罪組織が活性化してなかった時だな。俺がいつものようにゴミ箱を漁ってたらロボットみたいなやつが来てよ。犯罪組織に入ってくれれば食糧とか住むところとか用意してくれるって。俺も最初は聞いたとこもない組織に入れだなんて怪しいとは思ったが、どうせ受けて騙されても、もう失うものなんかない。そう思ったらOKしてたぜ」
「私やホームレスからこの犯罪組織に入った人は大体そんな感じね」
「そのロボットっていうのは?」
「僕たちの上司、『ブレイブ・ザ・ハード』様のことだよ。犯罪組織を支える四天王の一人さ」
「四天王……」
確か三年前、各国の女神様4人とネプギアをたった一人で倒してしまった人が、その四天王だと聞いている。四天王ということは4人いるわけだから、ブレイブ・ザ・ハードとやらはその一人で、もしかしたら女神様を倒した人なのかもしれない。私自身女神様を倒したという四天王の容姿と名前は聞いていないので、どの四天王が倒したのか知らないのだ。
「ブレイブ様は偉大な方だ。俺たちのような不幸に見舞われたやつでも、救ってくれ、更に貧乏な家庭に生まれちまった子供にも娯楽を与えようと活動しているんだから」
「そのブレイブ様が従う犯罪神様はもっと偉大な方。だから私達はブレイブ様の為、ひいては犯罪神様のためにこうやって信仰を広めているのよ」
「信仰を広めることによって女神様に救われない人も救うことが出来るし、ブレイブ様に救われた恩も返すことが出来る。一石二鳥というわけだな」
「それどころか三鳥にも四鳥にもなるわ」
「そして俺たちはその恩恵を皆に広めたい。だから活動するとともに仲間を増やしているんだ」
「どう? 犯罪組織マジェコンヌに入る気になってくれたかな」
彼らは全員、本当にその四天王に恩を感じているようで、慕っていることが話の中ではっきりと分かった。彼らにとってはもしかしたら犯罪神様よりブレイブ・ザ・ハードの方を信仰しているのかもしれない。
それに私は今まで犯罪神は悪い神なのだと思ってきた。当然犯罪組織に属する人間のやってきたことはアイエフさん達経由で伝わっている。そしてそれは全部悪いことだった。悪いことだとアイエフさん達は言っていた。
それもそうだ。ゲームを作っている人は純粋にそのゲームで遊んでもらいたいのに、チート機能なんか付けられて、正規ルートでクリアしてくれない。それどころかゲームを買うためのお金も出してくれないのだ。そんなのゲームを作るクリエイターがいなくなるのも不思議じゃない。そんなのゲームで支えられているこの世界では、致命的だ。だからこそ女神様達は犯罪組織を壊滅させようとしているのだから。
でももしそのやってきたことの中に、誤解があれば?
もし彼らのように、純粋に救われない人を救おうとしている人がいたとすれば?
もしそのためにやっていた行動が、女神様の意思にそぐわないなどという理由で罪として罰せられていたら?
その考えは愚かなものだと、心のどこかでは思っていた。そんな考えは、言ってしまえば貧しい人にお金をあげたり、盗まれたのを取り返すために活動している怪盗に思う疑問と似たようなものだ。
つまるところ、答えなどない。
彼らがやっていることは悪いことだが、それで救われている人がいる。
彼らは悪いことをやっているのだから、捕まえなくてはならない。
でも彼らがやっていることは人助けだ。人助けをしている人を、どうして捕まえる?
堂々巡りで、本当の答えなんてどこにもなくて、結局捕まえるか捕まえないかは人それぞれの意見なのだ。
それに答えなんて存在する方がおかしいのかもしれない。
だんだんわからなくなってきた。
結局彼らは悪い人なのだろうか。良い人なのだろうか。
あるいは彼らだけが良い人で、犯罪組織が悪いのか。
彼らだけでなく、犯罪組織も良い人ばかりなのだろうか。
下っ端のように例外がいるだけなのだろうか。
わからない。わからない。
だから私は、放置することにした。最初の目的も、自分が何をしようとしたのかも、自分の心境も。全部一旦置いておくことにした。置いておいたって答えなんて出ないけれど、それでも今の私には答えなんて出せないのは明確だったから。
「ごめんなさい。私は皆さんの活動や皆さんの話を聞いて、色々考えたんですが、私は何が正しいのか分からないので……」
「…そっか」
元々断る気ではいたけど、この心境で断るのは本当に怖い。断った瞬間、口止めとかで何かされるんじゃないかとか考えてしまう。
そんな考えだったからか、次の言葉には固まってしまった。
「ま、それもそうだよね!」
「…え?」
彼…最初に私に話しかけてきた構成員は笑顔でそう言い放った。
驚き周りを見れば皆さん同じように笑顔だ。目が笑ってないとかじゃなく、本当に優しそう笑う人もいれば、その人の性格を表しているかのようなニシシといった笑い。私に悪感情を出す人は一人としていなかった。
そのことにまた驚き固まっていると、皆さんそれぞれ言い出した。
「僕たちだって最初は犯罪組織は悪い奴らじゃないのかーって思ってたさ。でもブレイブ様の信条を聞けば女神と犯罪神様、どっちが悪いのかわからなくなった」
「そこに答えなんてないのに、いっぱい悩んだり、相談したりして」
「それでも俺たちがこうして犯罪組織にいるのは犯罪神様が正しいと、俺たち自身が思ったからだ。その気持ちを強要する気はないし、無理に組織には入れだなんて言わない」
「でも組織に入らないのなら、今日のことは内緒にしてくれると嬉しいかな」
「はい、もちろん」とは言えなかった。
それでも彼らは笑顔で、優しかった。
そして彼は私に言った。
「君は最初に言ったよね。犯罪組織は悪い組織だと聞かされてるって。だから僕たちの話を聞いて悩んじゃうんだよ。本当に悪いのはどっちかって。でも答えは自分で決めるといい。今のまま犯罪組織は悪いものだと思っているのもよし。僕たちの話を聞いて犯罪組織の方が良いと思えば仲間になってくれなくても信仰してくれるだけでもいい。人間だもん、悩むのも成長のうちだよ。でももし仲間になってくれるときは僕たちは君を拒まない。僕たちは『来るもの拒まず、去るもの追わず』で動いているからね。だからいっぱい悩んでもいいよ。自分が納得できる答えを導けるまでね」
「…はい」
それから彼らと別れ、彼に案内してもらってアイエフさん達と分かれた場所まで戻ってきた。そこに着いてからは後は自分で何とかすると言って彼とも別れた。時間はもう夕方で、日は暮れ始めている。早くアイエフさん達と合流しないと、暗くなってしまうなと思いはしたけど、何となくアイエフさん達に会いたくなくて、近くのベンチに座った。もっというなら誰にも会わず、一人でいたい。何も考えたくない。でもさっきのことに答えを出したい。
そんな矛盾は、成立するのだろうか。考えないのに、答えなんて出せるのだろうか。ましてや自分で考えなくてはならない答えに。
アイエフさん達は恩人だ。空から落ちてきて、記憶がなかったから助けてくれた恩人。私は確かに彼女達に恩を感じている。彼らがブレイブ・ザ・ハードに恩を感じているように。だから私はアイエフさん達は良い人なんだと思ってきた。でも今はどっちなのかもわからない。アイエフさんも、コンパさんも、ネプギアも。良い人なのか、悪い人なのか。
悪い人が人を助けるなんてことをするか? と思えば、もしかしたら戦力アップのためだけかもなんて嫌な考えが頭をよぎる。それだけのために助けられたのだとしても、恩は感じただろうが。
でもアイエフさん達の敵である犯罪組織の構成員。その彼らは良い人なのかも悪い人なのかも分からなくなった。
アイエフさん達が良い人なら、その敵は悪い人だ。
アイエフさん達が悪い人なら、その敵は良い人だ。
じゃあ私はどちら?
どっちが悪い人で、どっちが良い人なのか。
結局考えが最初に戻る。頭が痛くなる。だから考えたくないのに、答えは出したい。
ふと空を見上げればオレンジに染まる空に、ぼんやりと月が見える。細い弧を描く月は、明日には見えなくなって、明後日にまた光が満ちていくのか。はたまた明日は更に光を増していくのか。
…これはただの現実逃避だ。逃げちゃダメなことから逃げてしまっているだけだ。
でも、それでも考えたくないと、考えてしまう。矛盾がまた見つかった。
結局、どうしたらいいのか。分からないよ。
だから私は気付かなかった。私に近づく気配に。
「ねぇアンタ。こんなところで何してるの?」
後書き~
最後の彼女はいったい誰なのか……
言っておきますが、ルナが行動している間のネプギアサイドの話は書きませんよ。ほぼルナをクエストに誘うためにアイエフが電話する以外原作通りですから。
それでは次回は少し早めにお会いできることを期待して。
See you Next time.
支配エンドルートが読みたいかどうか。
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読みたい
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読みたくない
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支配エンドとは、
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ゲハバーンを手に取ったネプギアが、
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次々と女神を殺すエンドである。