前回、月も輝いてきた夜。ベンチでひとり悩み込んでいたルナ。そこへ誰かが声をかけてきました。
さてさて、誰なのでしょうか。
今回も、ごゆるりとお楽しみください。
「…ぇ……」
考え事に集中していた私は、完全に意識の外からかけられた声に一瞬反応できなかった。でも意識を現実に戻しながら視線を正面に向けてみれば、そこには綺麗な黒髪を、所謂ツーサイドアップと呼ばれる髪型にした赤い瞳の女の子がいた。ネプギアより少しだけ背が小さめで黒い服を着た女の子は、私のことをじっと見ていた。どうやら反応待ちのようで、私は少し考えた後、口を開いた。
「…なんにもしてないよ」
「ふーん。その割に辛そうな顔をしていたわね」
「え…? そんな顔、私してた…?」
「してたわ。まるで世界の終わりが来たような」
「さすがにそれは大袈裟なんじゃないかな?」
「いやマジでそのぐらい暗い顔とか雰囲気とか出してたんだけど、何があったのよ」
「いやぁ…ちょっと分からなくなっちゃってね……」
「…何が分からなくなったのかが分からないわね」
「うん、心配させちゃったみたいだけど、ごめんね。気にしないでね」
「そう言われて「はいそうですか」なんて下がれるわけないじゃない。…隣いい?」
「…? 別にいいけど……」
そう言うと女の子は私の隣に座って一息つくと、私に向き直った。
「もしよかったらだけど話を聞くわよ」
「なんで…?」
「ほら、話すだけでも楽になるっていうじゃない。それに誰かに話すことで答えが出るかもしれないわよ」
「話すだけで何とかなる問題かなー、これ」
「何事もやってみなきゃ分からないわよ。ほら、言ってみなさいよ」
「でも私達初対面だよ?」
「いいから。で、その悩んでることって?」
「んー…まぁ話しても問題ないかな」
別に話したところで問題が起きるわけでもないだろうし、ただの一般国民に話したところで何かが起きるわけでもないだろうし。
でも彼女に話すことで自分の中で答えに辿り着けたらいいなぁ
「…私が悩んでることはさ。どっちが正しいのかなって思っちゃって」
「どっちが正しい? 何があったの?」
「詳しくは言えないんだけどさ。例えば二つのグループ。白のグループと黒のグループがいたとするよ」
「うん」
「白のグループは色んな人のためにルールに沿って人助けをして、悪いことをする人は捕まえる人達。逆に黒のグループはルールに違反して、悪いことをする人達。どっちが悪い人なのかな」
「そんなの違反する方が悪いんじゃないの?」
「でも違反する人達のおかげで助かってる人がいるんだよ。その世間では悪いことと言われてることをすることで、ルールで守られない人達を救ってる。だったらその人達は本当は良い人で、その人達を捕まえようとする白のグループの方が悪い人なんじゃないかなって思い始めちゃって……」
「…どっちが良い人で、どっちが悪い人なのか…ね」
「うん。それと私はどっちなのかな。白のグループの人には助けてもらった恩を感じてるから一緒に行動してるし、皆さんの活動を手助けしようとしてるけど、でもその時は皆さんから黒のグループは悪い人達だって聞いてて、実際大切なものを壊しちゃうような人もいたから、私自身も悪い人達だって思ってた。でも実際黒のグループのやってることを聞いたり、その人達の気持ちを聞いたり、そのおかげで助かってる人がいるって知っちゃうと、私はどっちにいればいいのかな……」
「…アンタ自身はどう思ってるの? その助けてくれた人達と、悪いことをしている人達」
「…わかんない。助けてくれた人達は悪い人達を捕まえて、これ以上悪いことをしないように、その悪いことをされて困る人が出ないようにするために動いてるけど、悪い人達の中にはルールに違反してでも、ルールに守られない人達を助けようとしてて、実際色んな人が助かってるし……」
「まぁ確かに難しい問題ね……」
「人助けって、良いことなんだよね。でもそれで言うと人助けをしている黒のグループを捕まえようとしている白のグループは悪い人達なのかな。それともやっぱりルールに違反してるんだから、違反している人を捕まえようとする白のグループの方が良い人達で、違反してる黒のグループの人達は悪い人なのかな。私はどっちにいた方がいいのかな。人助けはしたいし、困ってる人がいたら助けてあげたい。でもそのためにルール違反するのはどうかと思うけど、そもそもそのルール自体が問題あるのかもしれないと考えちゃうし……」
「…何というかアンタ、まだ子供でしょうに難しいことを考えるわよね」
「子供って…君だってそうだよね。私より少し小さいし」
「この程度誤差よ。それにアタシはめが……」
「“めが”…?」
「いえ、何でもないわ」
「えー。言いかけておいて何でもないとか」
「とにかく、アンタはどっちが正しいのかはっきりさせたいのよね?」
「はなしそらされたー」
「いいから!」
女の子は無理矢理話を誤魔化そうとする。
ま、私もそれほどその言葉の続きに興味もないし、必要もない詮索をする気もないからいいけど。
「まぁ、そうだね。もし白のグループが正しいのなら私はこのまま白のグループに着いていくし、黒のグループが正しいのなら彼らに着いていくこととなるだろうし」
「どっちについていくかは、どっちが正しいのかによるのね」
「…かもしれないし、今のままを望むのかもしれない。分かんないんだよ。本当に」
「ふーん」
「ははっ、興味ないよね、こんな話。結局自分の問題なわけだしさ」
「そうね、興味がないわけではないけど、そればっかりはアタシもアンタの答えを出すことはできないわ。でもね──」
女の子は真剣な眼差しで私を見て言った。
「アタシの意見を言わせてもらうなら、アタシは、アタシが正しいと思うことをするわ。どっちが良いとか悪いとか関係なしに、アタシが何をしたいかで行動するわね」
「良い悪い関係なしに……」
「大体どっちも正しいか分からないのなら、自分が正しいと思う行動をすればいいのよ。そうすればその行動はアンタにとって正しいことじゃない」
「あっ…そっか」
そこで一つの疑問が消えて行った気がした。一歩だけ、前に進んだ気がした。
「…ありがとう。少しだけ思考が先に進んだ気がする」
「そ。お役に立てたのならよかったわ」
「うん。でもやっぱりわかんない」
「うんうん…って、分かってないんじゃない!」
「うん。でも、ううん。だからこそもっと悩んで、考えて、私が正しいと思う行動をすることにするよ」
「そう。なら問題ないわね」
「うんっ」
私の疑問、私にとってどっちが良い人で悪い人なのかはやっぱりまだ分かんないけど、それでも暗かった道の一つが照らされたように行く道が決まった。まだその道でいいのか不安だけど、それなら考えるだけ考えて、そのうえでその道を通ろう。そうすれば後悔はないはずだよね。
と、意気込んでいると、女の子が不思議そうに言葉を発した。
「ところでもう暗いけど、アンタ家に帰らなくていいの?」
「…はっ!? しまった! 今何時!? というかなんで連絡が……」
なんで連絡が来なかったのか、と思いながら急いでポケットからNギアを取り出してスリープモードを解除しようとしても画面が点かない。
まさか故障…? と思っていると、昼間の出来事を思い出した。
私、あの時アイエフさんからの電話を受けて…切った後…それから……
「あぁっ!?」
「ど、どうしたのよ?」
「そういえば私…あの時からずっと電源切りっぱなしだったぁぁぁ……!」
切りっぱなしなら連絡が来なくても仕方ない。というより連絡が来ても気づかないのは仕方ない。わけないよね……
急いで電源を付けてみれば待ち受けに映るは着信の嵐。あの後夕方辺りからアイエフさんやネプギアさん、コンパさんからの着信が数十件…メールも何件も来てて、どれも私が今どこにいるのか。なんで連絡が取れないのか。危険な目にあっていないかという心配するものだった。
「…どうやら連絡がいっぱい来ていたみたいね」
「う、うん…どどど、どうしよう…今すぐ連絡しなきゃだめだよね? でも怒られるのは嫌だし……あっ!」
そうこうしている間にもNギアは着信音を奏でる。驚いて思わずNギアを落としかけたけど、どうにか落とさずにほっと一安心。…着信音はまだ鳴り響いてるけど。
思わず女の子を見れば呆れた様子で「出ればいいじゃない」と言う。このままだと切れちゃうし、私から掛けなおす勇気もないから出るしかないよね……
と、恐る恐る電話に出ることにした。
「も、もしもし……」
『あっ! やっと出た! このバカ! なんでずっと連絡出ないの!』
「ご、ごめんなさい……」
どうやら相手はアイエフさんのようだ。うぅ…アイエフさんに怒られるの苦手だなぁ……って、私初めて怒られてないか?
というかバカって言われた…ぐすん……
『それで大丈夫? 怪我とかしてない? というか今どこにいるの?』
「えっと、今いる場所は朝分かれた場所です。怪我とかはしてません」
『そう、今すぐ迎えに行くから待ってて!』
「い、いいですよ…さっきメールを見ましたらコンパさんから宿の住所が送られてきてましたし……」
『ホントに大丈夫? アンタ地図の使い方とか分かるの?』
「え? ち、地図? …あっ、これ地図アプリ入ってるんだ」
『…知らなかったのね。とにかく今から迎えに行くから、そこで大人しくしてなさいよ!』
「え? いやあの──」
プツッ…ツーツーツー
私は断ろうとしたけど、その前に強制的に向こうから電話を切られてしまった。
呆気に取られてNギアを離して通話画面が元の画面になるまで固まってしまった。
とりあえず女の子が「なんだって?」と訊いてきたから「迎えにくるって…」と言ったところでようやく頭が回り始める。
あぁこれ怒られる…もう怒ってたけど、会ったらもっと怒られる……
ついつい涙目で女の子の方を見ると、女の子はため息をついて「ほらほら、泣きそうにならないの。子どもじゃないんだから」なんて言ってくる。いいもん、子どもだもん。さっき君がそういったんだもん。
でもどうしよう。大人しくここで待てって言われてるから待ってればいいんだけど、正直アイエフさんに会いたくない。さっきとは違う意味で。
だからって逃げるわけにもいかない。アイエフさんに怒られるのは嫌だけど、心配されてたんだから、申し訳ない気持ちもあるわけだし。
「…どうしよう」
「どうしようも何も、迎えが来るなら、待ってればいいじゃない」
「そうなんだけど、怒られるよね。心配されてたんだよね。謝らなきゃだよね。お礼は言った方が良いのかな。後今日のこと色々聞かれるよね。どうしてこんな時間までーとか連絡着かなかったのは何でとか。どうやって説明したらいいのかな」
「素直に話せばいいじゃない」
「話せないこともあるから悩んでるんだよー!」
「あーはいはい。ともかく迎えが来るならそれまで待ちましょう」
「ん……え? 一緒に待ってくれるの?」
「えぇ。べ、別にアンタが心配で一緒に待つわけじゃないからね? ただアタシは家に帰ってもやることがないから暇つぶしに一緒にいてあげるんだから」
「…ありがとう」
「……ふん」
さっきまで優しかった──ううん、今もすっごく優しい女の子は、さっきとまでと違って少しだけツンツンしちゃったけど、優しいなと思って、ついついお礼を言うときににこやかに笑みを浮かべた。女の子は私の表情を見ると、照れ臭そうにそっぽを向いてしまったけど、ベンチから立つことはない。やっぱり優しい。
多分この時の私の表情は、誰が見てもニコニコとした、人によればニヤニヤしたともとれる表情だっただろう。それぐらい私は嬉しかった。問題が少し解決したのもそうだけど、見知らぬ女の子と仲良くできた。見ず知らずの私にも心配してくれるぐらい優しい女の子に出会えた。それだけか、それ以上か。それぐらいのことでさっきまでの暗い心は、夜空に浮かぶ月よりも明るくなった気がする。
傍から見たらやけにニコニコした少女と、ツンとした雰囲気の女の子が隣同士でベンチに座っている不思議な光景かもしれない。アイエフさんが来たら、それはそれで怒りを忘れて呆れかえるかもしれない。その後怒るかもしれないけど、それはそれで今の私なら別に耐えれるかもしれないと思い始める、細い弧を描く月の下でした。
ちなみにこの後アイエフさんが一人で迎えに来ると、アイエフさんと女の子がお互いを見て一瞬固まって、すぐに女の子が逃げちゃった。訳が分からずアイエフさんに「あの女の子と知り合いですか?」と訊いたら「ちょっと昼間にネプギアがね……」と言ったっきり。
そのあとすぐに宿に着いて、これまたすごく心配していたコンパさんとネプギアが声をかけてきたり、部屋で三人に囲まれて、私は正座でアイエフさん(と時々コンパさん)の有難いお説教を受け、今日何をしていたかを聞かれたときは、色んなとこに行って、色んな人に話を聞いて回ったけど、すでに知ってることしか分からなかったとかウソを吐いた。正直心苦しかったけど、まだもう少し、味方を騙しておく時期かなと思ったので、それらの説教はまた後日聞くとしましょう。
それから借りた部屋が二人部屋を二つとのことだったので、私とネプギア。アイエフさんとコンパさんの部屋割りでそれぞれ分かれ、部屋の壁に忘れ去られていた月光剣を立てかけて、剣と少し会話をしたり、夕食の時間は過ぎてるからもう無いことを知り嘆いたり、大浴場、とは言えない小さな湯船で一日の疲れを癒したり、部屋で剣を磨いたり、剣の機能である頭の中で動きをシュミレーションするイメージトレーニングをしたり、空腹で鳴くお腹を抑えながらも夜10時ぐらいには寝れた。どうやら一日中歩き回ったり精神をすり減らしたりしてたことで私の予想以上に疲れが溜まっていて、それが湯船で心がリラックスしたおかげでぐっすり熟睡することができたようだった。
しかし寝るまでの間、一つ気になったことがあった。
何故かネプギアの元気がないのだ。朝分かれるまでは元気だったのに、私の説教の最中も、その後おやすみと声をかけるまでもずっと落ち込んでいるように見えた。もっとも本人は隠そうとしていて、逆に隠せてなかったという結果なわけだけど。
多分私が色々やってる頃に、ネプギア達のほうで何かあったのだと思う。クエストに行くと電話があったから、そのクエストで何かあったのかな。もしかして誰かが怪我をしたとか…って思ったところで、ネプギアにもアイエフさんにもコンパさんにも怪我はないように見えたから、多分怪我はしてない。しててもコンパさんが何とかしてる。じゃあなんで?
そう考えながらでも私の意識は遠のくわけで、その中でまた一つ思ったことがあった。
──…あ。女の子の名前聞いてない──
「桜の下には、死体が埋まっている。その死体から出た血肉が、桜の養分となる。だから桜は綺麗なピンクの花を咲かせるんだぜ」
「そうなのですか?」
「いやいや●●●。●●ちゃんの言ってることは眉唾物だよ」
「そう思うだろ? でも本当なんだなーこれが」
「…少なくとも、この桜は違うでしょ。そんな不気味な桜じゃない」
「ああ、そりゃそうだ。私達と世界を繋ぐものが、そんな穢れたものであるものか」
「では●●●が言った桜はどこにあるのですか?」
「ああ、あれは私の故郷にあるぞ。あんまりにも人間の死体を与えられて妖怪化した挙句、死にたくなるような気を撒くようになっちまったから、今じゃ一人の少女の死体で封印されてる」
「●●●の故郷というと、●●の国ですね」
「●●の国、行ったことないんだよね」
「いつか行くことになるかもな。最も、あの正規ルートで●●●●してほしくもないけど」
「そんなこと言われても、そのルートも何も知らないんだけど。ただ●●ちゃんが●●の国出身としか知らないし」
「うんうん、それで十分。…あっ、●●●、その瓶取ってくれ」
「まだ飲むんですか? もう5本目ですよ」
「こんなん序の口序の口♪ さぁ、花見は始まったばっかりなんだし、まだまだ行くぞー!」
「酔いつぶれないでよー」
「この程度で潰れるもんか。さぁさぁ、今日もゲイムギョウ界が平和なことに感謝しつつ、飲めや歌えや宴会じゃあ!」
「だから花見だってばもう……」
「ふふふっ」
後書き~
次回、朝起きたルナは、自分の身に起きた異変に気付いて……
出てきたはいいけど、使ってもらえる機会がなかなか訪れない影の薄いあの剣にようやく出番が来ますよ!
それでは次回もお会いできることを楽しみにして。
See you Next time.
支配エンドルートが読みたいかどうか。
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読みたい
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読みたくない
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支配エンドとは、
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ゲハバーンを手に取ったネプギアが、
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次々と女神を殺すエンドである。