それではご覧いただきましょう。これは彼女達の活躍の前座でございます。
どうぞごゆるりとお楽しみください。
第一話『囚われの女神。空から落ちてきた人』
[空?]
──落ちている。
開幕早々何言ってんだと思うだろうけど、本当に落ちているのだからしょうがない。
え? 何が落ちているんだって?
聞いて驚くといい……
『私が、空から、落ちているんだよ!!』
いや待って何で!? 何があった!?
何で私空から落ちてるの!?
やばい身に覚えがないよ!?
というかここ何処!? いや空中だってのは見るからに分かるんだけどさ!? しかも周りに雲があるから空中の中でも高度の高い場所にいるんだろうし……
とりあえず下を見よう。もはや方向感覚がズレてきてるが落ちてる方向が下なのは間違いないはず。
……下が見えないね……
いや洞窟とか空洞とかなら暗闇で見えないのはわかるよ?
でも空中で、だけど夜だからか暗くて、それでも下が見えないのはどうかと思う。だって月の光とか街の明かり……はあるのか不明だけど、とにかくある程度は明るいのに下が見えないって……それだけ高いところにいるってことでしょ?
まてまてまてっ!?
死ぬって! この高さは流石の私も死ぬよ!
例え下が海だろうが巨大プリンの上だろうが死ぬって! 重力で死んじゃうよ! 落下死だよ!! いや転落死? いやどっちでもいいからぁぁ!
ダレカタスケテエエェェ!!
side out
──空次元ゲイムギョウ界──
そこは4人の守護女神と4つの国家によって成り立つ異世界である。
女神パープルハートの治める【革新する紫の大地】『プラネテューヌ』
女神ブラックハートの治める【重厚なる黒の大地】『ラステイション』
女神グリーンハートの治める【雄大なる緑の大地】『リーンボックス』
女神ホワイトハートの治める【夢見る白の大地】『ルウィー』
彼女達は自らの力の源である信仰心『シェア』を得るために時に競い、時に争いながらも国をより良くしようと活動してきた。
しかし、ある惨劇によりその歴史は一旦幕を閉じてしまった。
『犯罪神マジェコンヌ』を復活させようと企む『犯罪組織マジェコンヌ』にシェアを奪われてしまったのだ。
犯罪組織によってシェアがすべて奪われることを、そして犯罪神が復活してしまうことを危惧した守護女神たちは互いに協力関係を結び、ギョウカイ墓場と呼ばれる場所にいる犯罪組織の四天王を倒しに向かった。
その数、守護女神4人と女神候補生1人。計5人。
しかし彼女たちはたった一人を相手に敗れてしまった。相手は犯罪組織の女神、マジック・ザ・ハード。
彼女に負けてしまった女神たちはギョウカイ墓場に囚われの身になってしまった。
それから3年────
ゲイムギョウ界はマジェコンヌの脅威に怯えていた。あらゆるゲームソフトを違法DL出来るゲーム機『マジェコン』のせいでショップは枯れ、クリエイターは飢え、あらゆるギョウカイ人が絶滅したかと思われた。
かつては無法地帯とは隔離されたゲイムギョウ界であったが、マジェコンヌ登場以来、人々のモラルは低下の一途を辿っていた。
人々は本来、守護女神を信仰しなくてはならないのに、小学生の8割はマジェコンヌを崇め、むしろ親が邪教と知りつつ子供に推奨し、取り締まるべき政府もなぜかスルーしまくりで、とにかくゲイムギョウ界はもう滅茶苦茶で、もはや、そこらへんの民度の低い無法世界と同じレベルにまで落ちぶれ果てたのであった。
そして、力尽きた者は次々にギョウカイ墓場へ送られ、永遠に暗闇をさ迷うのである。
[ギョウカイ墓場]
「ふぅ、やっと着いた。ここがギョウカイ墓場ね」
「まま、待ってくださいですあいちゃん〜……」
──ギョウカイ墓場──
そこはゲイムギョウ界で力尽きた者が最後に辿り着く、名の通り墓場であり、その者達の魂やらなんやらがそこら辺をさ迷っている場所である。他にも壊れてしまった昔のゲーム機やコントローラーなど、ガラクタ置き場ともなっている場所である。
そこに、二人の女性が訪れていた。
一人は『あいちゃん』と呼ばれた茶髪のストレートヘアを双葉のようなリボンでサイドに留めているのが特徴的な女性、名を『アイエフ』。小柄な体で、ナインブランドの青いコートを着ていて、下は黒い短パンだ。だがコートの方はサイズがあっていないのか手が袖に隠れてしまっている。
もう一人はピンクのウェーブがかったロングヘアで、頭の上にCの文字が付いた茶色のカチューシャを付けている女性、名を『コンパ』。ハートニットと呼ばれる白いニット服を着ていて、腰には丸いウエストポーチを付けている。下はチェックの赤いスカートだ。
二人とも可愛らしい女性だが、何故彼女たちのような者がギョウカイ墓場のような場所に来ているのか。コンパにいたっては恐怖で震えていた。
「何そんなにビクビクしてんのよ」
「だだ、だって…おかしなのがいっぱいいるですぅ……」
ガサガサ……
「ひゃっ!」
先に進みたいものの、先ほどからコンパはこんな調子だ。アイエフは呆れ半分でコンパにどう声をかけようか迷っていると、二人の持つ通信機器から声が届いた。
『ギョウカイ墓場は力尽きた者が最後に来る場所です。彼女たちもかつてゲイムギョウ界の住人だったんですよ』
そう答えたのは二人をギョウカイ墓場に送った張本人、名を『イストワール』。プラネテューヌの教祖だ。
「そそそ、そうなんですか……」
「まったく、だから大人しく待ってろってあれほど言ったのに……」
「いやです! 待ってるだけなんて嫌なんです! 私だってねぷねぷとギアちゃん、他の女神さん達を助けたいんです!」
「それは私も一緒よ。あいつらったら三年間も音沙汰なしで。この私にこんなに心配かけるなんて……」
『大丈夫です。きっと彼女たちなら無事ですよ。例え大怪我を負っていたとしても、お二人に渡したシェアクリスタルさえあれば……』
「シェアクリスタル…… 信仰の力を結晶化したもの。これさえあれば……」
「女神さん達を助けられるですね!!」
「そうね。よしコンパ、さっさとあいつらを見つけ出して、引きずってでも連れて帰るわよ!!」
「はいですっ!」
「…さて、大分歩いたけどネプ子達見当たらないわね……」
「はい…みなさん、一体どこにいるんでしょう……」
…………ぅぅ……
「ひっ!?」
「何よ。急に大きな声出して」
「なな、何か……何か聞こえたですっ!」
「何か? 何かって何よ」
「た、多分声が……」
「声!? どこから? どこから聞こえたの!?」
「あっちの方からですぅ……」
「あっちね。行ってみましょう!」
「あ、待ってください! おいていかないでほしいですー!」
「いた! ネプ子!」
「ぅ……あいちゃ……こんぱ……?」
声が聞こえた方に向かうと、そこには彼女達が探していた女神、パ—プルハートことネプテューヌがいた。先ほどの呻き声は意識を取り戻した彼女が出した声だったのだ。
しかしそれはほんの少し。二人の名前を口にした後すぐに意識を手放してしまった。彼女の体は電子機器のコードのような触手でがっちりと縛られており、ほんの少しも動けなさそうだ。
「ギアちゃんも……! 女神さん達もいるです!」
コンパは周りを見渡すと他の女神も見つけた。しかし彼女達もネプテューヌ同様に触手で縛られていて、意識がない。
「ひどいです……誰がこんなことを……」
「ネプ子! しっかりしなさいよ! ネプ子ってば!?」
「…………」
「ダメ、気を失ってる。くっ! 何なのよ、この触手みたいなのは!?」
アイエフは何とか助け出そうと触手を解こうとするが触手はびくともしない。緩くなることもなくがっちりと女神を縛ったままだ。
『力ずくでは無理です。コンパさん、シェアクリスタルを使ってください』
「は、はい! えっと、たしか鞄の一番下に大事にしまって……」
「……そうはぁぁ……させるかああっ!」
「きゃああっ!?」
「だ、誰!? ジャマをしないで!!」
コンパがシェアクリスタルを取り出そうとすると物陰から誰かが出てきた。黒いメカの容姿をしており右手には斧のような槍を持っている。表情は怒り心頭、激怒しているようだ。
「ふ、ふはは……はあっはっはああ! 本当にこんな所まで来る酔狂がいたとはなああああ! 三年間も、こんな所でじぃっと待たされたんだ……たっぷりと相手をしてもらうぜえええ!!」
「よくわかんないけど、やる気まんまんみたいね……コンパ! こいつは私が引き付ける。その間にみんなを!」
「は、はいですっ!」
アイエフはそう言い女神達をコンパに任せ、敵の相手をする。コンパはその間に鞄からシェアクリスタルを取り出し、まずは一番近くにいた薄紫の髪をした女の子、ネプギアにシェアクリスタルをかざした。
その瞬間、シェアクリスタルから仄かな光があふれ、ネプギアを包んでいく。
「お願いです……これで、目を覚ましてください!」
「ぅ……ぅう……ぁ……」
「ギアちゃん! 目を覚ましたですか!?」
「……コンパ、さん……? ぅぅ、私、たしか……」
「よかったですぅ! よーし、このまま他の女神さん達も……」
シェアクリスタルの力のおかげかネプギアは意識を取り戻した。気づけばあれほどがっちり縛っていた触手はまるで力を失ったかのように垂れていて容易に抜け出すことが可能となっている。
この調子で他の女神を──とコンパが意気込んだ瞬間。後ろで敵の相手をしていたアイエフが敵の攻撃によって吹き飛ばされてきた。
「きゃああっ!」
「弱いぃ……! 弱すぎるうう! もっと、もっと楽しませろおおお!!」
敵はアイエフとの戦闘が不満だったようで怒りに任せて叫んでいた。その戦いを望み、戦いを己を楽しませるものとしている姿はまるで戦闘狂だ。
「アイエフさんっ!?」
「ネプギア! はは、起きて早々、無様なとこ見せちゃったわね。でも気を付けて。アイツの強さ、ハンパじゃないわ」
「私も協力するです! 女神さん達が目覚めるまで、時間を稼がないと!」
「わ、私も……私も一緒に戦います!」
コンパは引き続き女神を、ネプギアは武器を手に出現させ、敵と向き合う。アイエフは先ほどのダメージか、しばらく動けそうになかった。
「いきます! M.P.B.Lオーバードライブ!!」
ネプギアはそう言うと自分の武器である万能銃剣『
敵はそのまま地上に落下。衝撃で土煙が舞う。
……やったか?
そんな三人の期待を裏切るように土煙の中、敵は立ち上がった。煙が晴れ、その姿を見てみると全くの無傷といっていいほど傷がなく、ダメージが通ったようには見えなかった。
「この程度か……? 本当に、この程度なのかああああ!?」
それどころか怒りをさらに買ってしまったようだ。
「全然効いてない……コンパ! ネプ子達はまだなの!?」
「うう、全然起きる気配がないですぅ……」
コンパは必死に呼びかけたりシェアクリスタルを近づけたり試行錯誤するも、その努力は空しく、女神達の意識は戻らない。
『もしかして、シェアクリスタルの力が足りなかったのでしょうか……』
「そんな! それじゃどうしようもないじゃない!」
「このままじゃ……私、また負けちゃうの? やだよ、そんな……」
敵は強く、女神は起きる気配がない。頼みの綱であったシェアクリスタルも力不足。三人は絶体絶命の危機を前に意気消沈してしまう。そんな彼女達を追い詰めるかのように敵は言葉を放った。
「もういい……弱い奴の相手などつまらぬぅぅ! まとめて吹き飛べええええ!」
「ダメ! 止められない、今の私じゃ……」
敵は己の武器である槍を構え、大きく振り上げる。その時、ネプギアの頭にふとシェアクリスタルがよぎった。
「そうだ! あのクリスタルの力を使えば……お願い、間に合って!」
ネプギアはコンパの手から零れ落ちていたシェアクリスタル拾うと、敵に向けてかざした。敵は槍を振り下げている途中だった。
「うおおおおおおおっ!」
「えええええええいっ!」
その瞬間、シェアクリスタルから眩いほどの光が溢れ出る。それは先ほどネプギアを包んだ光とは比べ物にならないほど強く、眩しい光。敵はその光をまともに見てしまい、目を覆う。そしてクリスタルから溢れ出した光はまるで天を貫くかのように空へ伸びていき、やがてクリスタルが砕けたと同時に消えた。
「ぬぐっ!? ぐわああああ!! な、なんだこの光は……目が! 目がああああ!!」
「効いてる……? やるじゃない! ネプギア!」
「間に合った、の……? うっ……」
「え? ギアちゃん……? し、しっかりするです!」
「ちょ、どうしたのよ!? こんな所で気絶なんてしたら……」
「許さん、許さんぞ! お前らああ! 目が戻ったら、全員ぶっ殺おおおす!!」
シェアクリスタルが砕け、ネプギアが倒れ、敵は何とか行動不能になっている状態。この状況をどうしたらいいか混乱していたアイエフとコンパのもとに通信機器を通じて声が聞こえた。
『お二人とも、ここはひとまず退いてください。今の私達ではどうすることもできません』
「くっ……分かりました! コンパ、急いでネプギアを運ぶわよ!」
「は、はい!」
コンパがネプギアを背負うとイストワールの指示通りその場を退く二人。そのまま敵が見えなくなるくらい遠くまで退却した。
「……どうやら撒いたみたいね」
「ひい、はあ、ひい……ギアちゃん、意外と重たいですぅ……」
「結局、助けられたのはこの子だけだったわね。おまけに……」
「割れちゃったですね、シェアクリスタル。ギアちゃんが力を使った時に……これじゃもう、女神さん達を助けられないです……」
「…………」
二人の表情は暗い。女神を助けられなかったこと。敵に完膚なきまでに負けてしまい、逃げることしかできなかったこと。二人の心は悔しさで溢れていた。
『落ち込まないでください。ネプギアさんを助けられただけでも十分な成果ですよ』
「イストワール様。私達はこれからどうすれば……」
『一度プラネテューヌに戻ってきてください。ネプギアさんには休息が必要でしょうし。……それに三年前、彼女達の身に何が起きたのがも伺わなくてはいけません。ネプギアさんには辛い思い出かもしれませんけど……』
イストワールの指示を聞き、ギョウカイ墓場を後にするアイエフとコンパ。
気落ちしていた二人、そして気絶していたネプギアには見えなかった。ギョウカイ墓場の空を覆う薄暗い雲の中に、先ほどの光がまだ仄かな光を放っていたことを──
日が暮れ、月と星々が輝く夜の、とある場所。
ここはプラネタワー。プラネテューヌの教会、つまりプラネテューヌの女神が住まう家だ。他にも国のシンボルや女神様に仕える教会職員の仕事場であるが、今は説明を省かせてもらおう。
そしてそのプラネタワーの上層部、テラスとなっているその場所に一人の少女がいた。
肩の少し下くらいまで伸びた金髪をツインテールで結び、紫色で“N”のデザインが付いた白い帽子を被る小柄な少女。何より特徴的なのは彼女に妖精のような羽がついていて、足で地面に立っているのではなく見開きの本の上に座って宙に浮いていることだろうか。
彼女の名は『イストワール』。ここプラネテューヌの女神に仕える教会職員の中でも“教祖”と呼ばれる一ヶ国に一人しかなれない、女神に一番近い役職に就いている人物で、その正体はプラネテューヌ初代女神が国の歴史を記録するために造った人工生命体だ。
そんな彼女はテラスで夜風に当たりながら考え事をしていた。議題は『女神救出作戦』。
三年前、犯罪組織が蔓延り、女神が囚われてしまってから練っていたその作戦は先日、女神の友人であるアイエフとコンパによって実行に移され、ほぼ失敗に終わった。とはいうものの女神の妹、プラネテューヌの女神候補生であるネプギアだけは何とか救うことができただけ十分な成果だ。あとはネプギアに協力してもらいこの状況を打開するしかない。
しかし助け出されたネプギアはここ数日眠ったまま一向に目を覚まさず、三年かけて貯めたシェアで作られたシェアクリスタルは救出の際に砕け散ってしまった。
女神を救出できなければ犯罪組織を壊滅状態にできない。犯罪組織を壊滅させられなければ犯罪神が復活し、以前ゲイムギョウ界を崩壊させようとしたように破壊してしまう。犯罪神が復活したら……それだけでゲイムギョウ界は終わってしまう。
それだけは阻止しなければならない。プラネテューヌの教祖として。歴史の記録者として。そしてとある姉妹にこの世界を任された古き友人として──
その時、ふと彼女の頭の中をその友人がよぎった。一人はもう数百年、下手すれば千年以上会っていない、それでも何処かで生きているだろう友人。もう一人は数十年間会っていない。そして生死すらも分からない友人。彼女たちは今何処で何をしているだろうか。昔は一緒に暮らしてすらいたというのに今では生きてるかすら分からないのだから時とは残酷だと、イストワールは思った。
そしてそれと同時に思ってしまった。もし彼女達がいればこの状況を打開できるのではないか、と。
「……ってだめですね、私ってば。今はネプテューヌさんやネプギアさん達が頑張ってるんですから。彼女達に期待していては……」
それでも思ってしまう。彼女達がいれば、と。
そんなイストワールを月は照らし、夜風は彼女の頬を撫でる。そのどちらもが彼女の心を慰めるかのように優しい。
「…そういえば、彼女達は夜空がお好きでしたね。あの方は星を。もう一人は月を」
夜空を見上げれば優しくゲイムギョウ界を照らす満月が。そして暗い空を光り輝く星たちが。それぞれが夜空を美しい幻想的な星空へと変えていた。街の光にも負けないほど強く輝くのは昔、彼女達が頑張ったから。そう思うと懐かしさと寂しさが溢れてくる。
「言ってましたっけ。星たちが光り輝き月の光が増す時は、何かが起こる前触れだったりするって……」
昔彼女達が言った言葉が蘇る。実際に何かが起きたということは少なかったが、彼女達はいつもそういった幻想を信じていた。いや、幻想を“知っていた”。だからこそこんな夜には思わず願ってしまう。女神達が助け出され、再びゲイムギョウ界に平和が訪れることを。そしてまた彼女達に会いたいと。
彼女の願いに応えるかのように月光は強さを増していく。やがて月光は光の柱となり、プラネタワーを囲むかのように降り注いだ。
「な、なにがどうなって!?」
「い、イストワール様! これは一体!?」
「なんなんですなんなんです!? 何が起こってるですか!?」
「私にもよくわかりません。月の輝きが増したと思ったらこんな──」
この日ネプギアの様子を見に教会に泊まりに来ていた二人は外の様子に慌ててテラスに出てきた。二人にこの状況を説明しようにも自分自身も驚きで混乱しているためうまく説明できないイストワール。そのときふと先ほどの言葉が頭をよぎった。
「……『星たちが光り輝き月の光が増す時は、何かが起こる前触れ』」
「イストワール様……?」
イストワールが呟いた言葉。その言葉が聞こえたアイエフはどうしたのかと名前を口にする。しかしイストワールは反応しない。ただ一心に月を見て考えていた。
──もし、彼女たちの言ったことが本当だったら──
──もしこの現象が何かの前触れだとしたら──
そんな彼女の考え事をよそに光はやがて消えていく。そしてまるで最初から何もなかったのように夜空の輝きは普段通りに戻っていた。
「…何だったのよ、今の……」
「さぁ……? 何が起こったです?」
「分かりません。しかし良くないことの前触れではないと思います」
イストワールは月を見上げたまま言った。その様子に二人は不思議に思う。イストワールとはそれなりの付き合い、特にアイエフは職場では彼女の部下だったりするのだが、こんなにも月を見続ける彼女を二人は初めて見た。更に彼女は先ほどの現象を“前触れ”と称した。その発言もまた二人が彼女を不思議に思う要因となっていた。
しかしまあ先ほどの現象の方が不思議だったりするのだが、彼女達にとってはイストワールの様子の方が不思議だったらしい。
そしてそれから数分……いや数十分だろうか……
しばらく三人で月を眺めるも特に何も起きず、流石にそろそろ寒くなってきたのか部屋へ戻ろうとした三人。
そのとき──
『うわああああ! どいてどいてどいてええええ!!』
ドカ────ン!!
空から何かが落ちてきた。それは口を開く暇もないほど唐突な出来事で、三人は呆気にとられてしまう。
そして衝撃により上がっていた土煙が晴れた先には──
「きゅう……」
「え……女の子?」
「ど、どうして空から女の子が落ちてきたんです……?」
「わ、分からないわ。と、とりあえず気絶してるみたいだけど……」
「…ひとまず部屋へ運びましょう。アイエフさん、コンパさん、頼めますか?」
「はいです!」
「分かりました」
普通の人より小さい自分の身体では無理だったので二人に頼むと、二人は嫌な顔せずに女の子を抱え部屋へと運んだ。イストワールもその後を追おうとすると、後ろからカツンッと音がした。振り返るとそこには先ほどまでなかったはずの竹箒が落ちていた。おそらく女の子と同じように空から落ちてきたのかもしれない。もしかしたら女の子の持ち物かもしれないので拾っておこうと箒を手に取ると不思議と暖かい、そんな感じがした。その感覚を不思議に思いながらもイストワールは二人の後を追って部屋の中へと戻っていった。
さてさて、ネプギアを助け出すことに成功したアイエフ、コンパ、イストワール。
そんな彼女たちのいる月と星々が照らすプラネテューヌの教会に突如降ってきた少女。一体誰なんでしょうか。
次回も、また会えることを期待して。
See you Next time.
22/5/18 一部描写を変更しました。