「おぉっ! 海だ! 空だ! 青い!」
「そりゃここは海に面したダンジョンだし、海は見えるし青いわよ」
「そういえばルナちゃんは記憶を失ってから初めて海を見るんですね」
「綺麗だなぁ、飛び込みたいなぁ、泳ぎたいなぁ、何か獲ってみたいなぁ」
「だ、ダメだよルナちゃん! まだ海に入るには季節が早いから!」
「いやネプギア。ツッコむところそこ?」
記憶を失ってからは初めて見る広大な海に心奪われた私は、まるで取りつかれたように体がそちらへ引き寄せられそうになるけど、それをネプギアが止めてくれたおかげでしばらくした後に正気に戻って無事冷たい思いをせずにすみました。
「うーん。何故私はあそこまで海に魅力を感じたのか……?」
「自然に限って言えば森とか草原とか行ってもそこまで反応してなかったわよね。ならそれも記憶に関するんじゃないかしら?」
「そうなんですかね。なら以前の私はもしかして年中海で泳ぎまくる海女さんだったんでしょうか」
「さすがにそれはないと思うですぅ」
「海女さんの恰好をしたルナちゃん…ふふっ」
「あー、ネプギア笑ったー!」
「ご、ごめんね。つい想像しちゃって」
「許さんぞ、覚悟せーい!」
「わー!」
まあ私も自分が海女さんの恰好で笑顔でサザエを掲げている姿を想像して可笑しく思ったけど、それで簡単に許すほど私は甘くないのだ~
と、きゃっきゃっと私とネプギアがおふざけをして、それを微笑ましく見守るアイエフさんとコンパさん。
前から思ってたけど、二人ってどこか夫婦っぽいね。
そうやって楽しく会話しながらもきちんとモンスターを倒しながらテコンキャットを探す私達。
テコン“キャット”と着くぐらいだから、きっとネコのような姿をしたモンスターなんだろうけど……
「あ、あれ。あれが多分ルナの剣が言ってたモンスターじゃない?」
「“あれ”?」
アイエフさんが指差した方を見ると、そこには二本足で立つネコらしきモンスターがいた。
バーチャフォレストでのモンスター集団との戦闘。そのモンスターの中にも確かいた気がする、兜を被って、簡単な鎧を身にまとったモンスター。あの時は無我夢中で戦ってたから気にする余裕もなかったけど、こうして見ると防御力が高そう、なんて感想が出てくるな。
どう? あれで合ってる?
『はい。あのモンスターで間違いありません』
「あれで合っているようです」
「よーし、なら早く倒して血晶を届けましょう!」
「だね。ちゃっちゃと片付けよう!」
と、私達が手にそれぞれの武器を構えてると、モンスターは私達に気付き、攻撃姿勢を取る。よく見れば、目の前の敵以外にも周りには同じテコンキャットが数匹いた。
これだけいれば、一匹ぐらいは血晶を落とすだろう。
よし、張り切って倒すぞー!
「あっ、ありました! 見てください!」
この付近のテコンキャット含めたモンスター達を四人がかりでそれぞれ倒していき、ネプギアが相手している最後のテコンキャットが倒れた時、ネプギアが声をあげた。
見れば、ネプギアが手にしているのは、血のように赤い結晶。
あれが血晶か……
「月光剣、あれが血晶?」
『はい。記録しているものと相違ありません』
「それが血晶で間違いないって」
「やった!」
「これで教祖さんから言われたものが揃ったです」
「今揃えれるものは、ね。後の一つはゲイムキャラの居場所が分からないと手に入れれないものだし」
「すぐに終わってよかったですね」
「ええ。アンタの剣がなかったらもっと時間かかってただろうし、助かったわ」
「こんなに早く終わって、きっとラステイションの教祖さん驚くです!」
「はい! 早速教会に行きましょう!」
とネプギアが高テンションで走り出そうとしたところで、足音が聞こえた。
この足音はモンスターのものとは違う。人の足音のようだ。
「ネプギア、待って。誰かがこっちに来る」
「へ? 誰って誰?」
「いやそんなの分からないよ」
「…足音がするわね」
「ダンジョンですから、冒険者さんです?」
「普通はそうでしょうね。今回もそうでしょうけど……」
そう話していると、すぐに足音の主が誰なのか分かった。
「あら…? どうしてモンスターが見当たらないのよ……」
「えっ?」
「ん? わああ!? ねねね、ネプギア!?」
「ユニちゃん!!」
足音の主は女の子だった。
黒髪にツーサイドテール。黒い服に黒のスカートと黒ずくしの恰好をした女の子。
私はその姿を見たことがあった。
「ユニちゃんも血晶を探しに来たの?」
「そ、そうだけど、まさかアンタも…? あ、えと。そうじゃなくて、この間は…いやいや、急に謝るのも…大体アンタが急に出てくるから心の準備が……」
「よかった、ずっと気になってたの。あんな別れ方しちゃったから……ユニちゃんもケイさんに頼まれたんだよね?」
「え、いや、そうだけど……って勝手に話を進めないで! アタシ、アンタに言うことがあって…一度しか言わないからよく聞いて……」
「わあ! 本当!? あっ、でも血晶はさっき……」
「だから勝手に話を進めるな!」
「二人とも仲良さげですね。知り合いだったんですか?」
「ええ。ほら、アンタが一人で行動した日。あの時クエストを受けた時に一時的にパーティを組んだのよ」
「でもその時ちょっとすれ違いが起きちゃったです……」
「そうでしたか。へぇ……」
コンパさんはそう言うが、ネプギアと女の子のやり取りを見るにあまりそうは見えない……
いや、今現在進行形ですれ違ってるか。女の子の方は何か言いたげなのに、ネプギアがそれに気付かずに勝手に話を進めてるし。
意外に強引なんだなぁネプギアって。
「そういえばアンタもユニと知り合いだったわよね?」
「ユニ…あぁあの子の名前ですか?」
「知らなかったの?」
「まぁ…あの時はベンチに座ってた私に、向こうが声をかけてきてくれた感じですから。お互い名前を名乗っていませんので知りませんよ」
「そうなのね」
「ルナちゃんも知り合いだったです?」
「ええ、まあ」とコンパさんに返事をして、また二人の会話を聞いてみると、何やら雲行きが怪しくなってきていた。
「はあ!? もう血晶をゲットした!?」
「うん! ほら」
「なっ!? くっ、一歩遅かったわ……」
「あっ、でもこれは私達が欲しいんじゃなくて、ケイさんが欲しいみたいで」
「それは知ってるわよ! もういいわ! だったらネプギア、アタシと血晶を賭けて勝負しなさい!」
「えぇ!? な、なんでそんなこと言うの? もしかしてまだ私のこと怒ってるの?」
「うるさいうるさい! いいから勝負しなさい!」
「い、嫌だよ。私ユニちゃんと戦うなんて……でもユニちゃんがそんなに言うんだったら……」
ユニさんの勢いに押されているのか、ネプギアは消極的な言葉を口にしながらもユニさんの言う通り勝負しようとしていた。
しかし今ここで戦うのか。別に殺し合いをするわけでもないし、決闘すること自体は私としては構わないんだけど、今はそんなことをしている暇はあんまりないと思う。得るものはもう得たから、すぐにあの教祖のとこに行ってゲイムキャラの居場所を聞きたいっていうのに……
時間も惜しいし、止めるか。
「あーはいはい。ストップストップ。二人とも勝手に話を進めて勝手に決闘しようとしない」
「あ、ルナちゃん」
「ん? あ、アンタこの間の……」
「お久しぶりだね。この間はお世話になりました」
「い、いいわよ。別に話を聞いてただけなんだし。にしてもアンタはどうしてここにいるの?」
「ネプギア達に付いて行ってるからね」
「ふーん。もしかしてネプギア達があの時言ってた白のグループ?」
「うん。私を助けてくれた恩人だよ」
「そうだったのね」
「え? え? ユニちゃんとルナちゃんって知り合いだったの? 白のグループって一体?」
「この間ちょっとね。後者については内緒。それで、二人ともこんな時に決闘するつもりなのかな?」
「“こんな時”?」
「君のお姉さんを助けるための旅をしてるのに、それを放っておいていいのかなってこと。早くあの教祖に物渡してゲイムキャラの居場所を教えてもらわないと」
「そ、それは分かってるんだけど、でも……」
「…アンタの言うことは分かるわ。こんなときに女神候補生同士が戦っても、無駄に時間を消費させるだけだって。でもアタシは今、ネプギアと戦いたいの。お願い、止めないで」
「…ネプギアも?」
「…うん。ユニちゃんがこんなに頼んでるんだもん。応えてあげたいから、ルナちゃん、お願い」
「…はぁ。まあ君がこのパーティのリーダーだし、ユニさん…だっけ? にはお世話になったしね。戦うならさっさと決着つけて互いに満足してよ?」
「うん!」
「…ねえアンタ」
「ん? 何?」
「アンタの名前、聞いてなかったわね」
「そうだったね。私はルナ。好きに呼んでくれて構わないよ」
「ルナ、ね。アタシはユニ。さん付けはいらないわ」
「分かったよ、ユニ」
「…あと、ありがと」
ユニの照れながら言う素っ気ないお礼を受けながら私が数歩離れると、二人は距離を離してそれぞれの武器を構えた。
漂う雰囲気は真剣そのものだ。
これはもう私お邪魔だな。
そう思ってずっと外野に徹していたお二人ところへ行った。
「…お二人ともずっと外野で見てましたけど、いいんですか? ネプギア達を戦わせて」
「ええ。アンタの言う通り、女神救出が最優先ではあるけど、だからっていつまでも引っ張られても困るわ。だったらいいんじゃないかしら」
「これもまた友情を深め合うための決闘です!」
「そうですか」
半分諦めモードのアイエフさんとどこか熱いコンパさんから許可が下りたので、私はもう何も言うまい。
ただまあ、ユニとの会話で聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど……
「ところで大方予想は付くんですけど、ユニの“女神候補生同士で”って発言。どう意味ですか?」
「そういえばルナはあの子のこと全く知らないんだったわね」
「ユニちゃんは…あっ、ちょうど始まるです」
「え?」
そう言われてお二人の視線を追うようにネプギアとユニに視線を向けると、それぞれの体が光に包まれた。
あの光の柱…眩しくて力強いのに、優しい光。心当たりがある。
あの時は私は倒れてたから実際に目にはしてないんだけど、もしかしてこれって……
そう思っている間に光は止み、二人の姿の変化に気付いた。
「えっ、あれ…ユニなの……?」
「はい。ユニちゃんですよ」
ネプギアの方は見たことあったから分かる。紫と白の衣に蝶を模したような淡い紫の羽が光っている。何より変身前より少しだけ明るい色になった髪に少しだけ成長したような身体。瞳には電子機器にある所謂電源マークが浮かび上がっていた。
あの時は視界にちらっとしか見れなかったけど、まともに見ると分かる。その美しさと神々しさが。
対するユニは、黒い髪が白くなり、ドリルみたいな形をしたツインテールになっている。纏っている衣は黒で、変身前の服と似たデザインだ。彼女もまた少し身体が成長したように見え…るような…?
…あれ?
「…ユニ、縮んでません?」
「え? 何が?」
「えっと、その…む──」
「“む”?」
私は言葉を言いかけて寸前で止める。
さすがに女の子に対してこんなこと言えるわけがない。私はそこまで空気の読めない人ではないんだよ。
「い、いえ。何でもありませんでした」
「そう?」
それ以上はアイエフさんは何も聞いてこなかった。
しかしこれで私の予想が当たっていることが分かった。
「…ユニも、女神候補生だったんですね」
「…あまり驚いてないわね」
「そうですね。自分で自分に驚きです」
まさか偶然出会って愚痴を溢した相手が女神候補生だったなんて、一般人なら驚いて当たり前だろうけど、不思議と驚きの感情が湧くことは無かった。
しかしこれから目の前で始まるのか。女神候補生同士の本気の戦い。
候補生とはいえ、二人とも女神。
「…今まで見てきた戦いよりすごいのが見れたりするのかな♪」
『いえ、それはないかと』
「え?」
私の小さな呟きに月光剣が返す。その言葉に思わず聞き返そうとするが、そこにコンパさんが「はい、どうぞです」とコップを差し出してきた。中に入っているのはお茶だが、温かいものだ。一体いつの間に用意したんだろうか。というかこんなところでどうやって用意できたんだろう。Nギアに保温機能でもあるのか? とか思いながらお礼を言いつつ受け取った。
月光剣の言葉は気になるが、それは戦闘が始まればすぐに分かるだろう、と二人の戦闘を目に焼き付けようと二人の行動をじっと見つめる。
二人は見つめ合い、数拍後、ユニから動き出した。コンマ数秒の差でネプギアも動き出す。
銃と剣。どちらが先に相手に近づけるかなんて分かりきっていること。でもユニの放った銃弾はネプギアに当たらず、ネプギアは剣を振る。ユニはネプギアの攻撃を躱して、すぐに射撃攻撃をするが、ネプギアが動いて照準がなかなか定められなさそうだった。
しばらくの間、ネプギアは剣を振り、ユニが躱したり防御したり当たっちゃったりして。ユニは銃を撃つけど、ネプギアに当たらなかったり剣で防御されてしまったりと互いに攻防戦が続いていた。
でも……
…攻撃、避けきれてない。
『そうですね』
当てることも出来てない。
『ですね』
防御しきれてない。
『はい』
二人とも真剣にやってるんだけど、凄い戦いかと言われればあんまり言えない。
攻撃防御回避。どれをとっても曖昧だ。私もまだあの程度しかないかもしれないから、二人のこと言えないけど……
『仕方ありません。彼女達は女神“候補生”。まだ成長途中です。これから強くなっていくでしょう。ですので今の段階では……』
「…それもそうだよね」
ゲイムキャラを探し始めてまだ一か月足らず。元がどれぐらいなのか分からないけど、ネプギアはまだ強くないんだ。私も同じ。これからが成長の見せ所なのだから、今弱くても仕方ないんだよね。
『しかし弱いままですと、犯罪神どころか四天王でさえ倒せないでしょう』
「…強くならなきゃね」
『そういうことです。しかし女神だけでなく、マスターもまた強くならなければなりません』
「そうだね。そのために毎日頑張ってるんだもんね」
『はい。それではさっそくレクチャーです。気配を察知してください』
「…は?」
気配を察知って…いきなり? しかも何の気配を察知しろと?
『魔法による気配察知は先日教えたはずです。ヒントは出しましたので、では』
「え、は? ちょっ……」
「ルナちゃん、どうしたです?」
「あっ、な、何でもないですよ。はい」
よく分からないけど、とりあえず月光剣の言う通りこの辺りの気配を感じてみるか。
ほんの数日前に教えてもらった通りに気を静めて、視界を閉じて周囲に魔力を薄く広げる。
記憶を失くす前の私なら魔力なんて使わなくても察知出来たみたいだけど、今の私は無理。だから魔力を薄く広げることで気配を察知する魔法を先日月光剣から教えられた。何故かこれだけは徹底して教えられたんだけど、どうしてなんだろうか?
ともかく集中集中。魔力に反応は……?
…私の近くに女性二人…これはアイエフさんとコンパさんだ。
少し離れて空中で激しく動いているのは戦闘中のネプギアとユニ。
付近のモンスターは片付けてあるからいなくて……
…あれ?
一つ、変な気配を感じる。
禍々しいというか、おどろおどろしいというか。何か暗いものを纏った誰か。
その誰か自体は怖く感じないのに、暗い何かは怖ろしく感じる。
当たり前だけどネプギア達じゃない。じゃあ誰……?
『気づきましたか?』
う、うん。これ…誰?
『分からないのであれば確認しましょう。そう、相手に私を振りかざしながら、ですよ』
いやそれ正体も分からないのに切りつけろって言ってるのと変わらないからね!?
ま、まあ前者には賛成だけど……
『出来る限り気配を殺しましょう。相手も殺しましょう』
だからね君ぃ!
月光剣の言うことはともかくとして、どうやらその誰かは隠れているみたいだった。私達に見つからないように、だ。
とっても怪しい人だ。確認する必要性は大だよな。
私はネプギア達の戦闘を見ているお二人に気付かれないようにそっと離れると、相手の気配は察知しつつ、自分の気配を殺して近づく。
やがて戦闘音に紛れて声が聞こえた。
「──今なら女神候補生をブッ潰せるじゃネェか。今回はどれで奴らを襲うかァ?」
「誰が誰を襲うって?」
「ンなもん決まってんだろ。このモンスターで奴らを…ってテメェ!?」
「やあ。こんにちは」
「なっ、テメェいつの間に近づきやがった!」
「ついさっきね。聞いたのも『今なら女神候補生を~』って辺りからだし」
「くそっ!」
「さて、どうする…って言っても私は君を捕まえないといけないよね。君は明らかに犯罪行為に手を染めているわけだし」
「へっ、捕まえれるモンなら捕まえてみやがれ!」
「なら捕まえてっ……!?」
言葉を遮るように下っ端はポケットから何かを取り出し私に投げつけてきた。
咄嗟に後ろへ下がる私だが、その何かはキラリと一瞬光ると眩い光を放った。
「くっ……! 閃光玉か!? あのやろ!」
『マスター落ち着いてください。彼女は
「今指摘するとこそこ!?」
まさかの月光剣からのツッコミに驚きながらも、そこまで強い光ではなかったのかすぐに視界が元通りになった。
すぐに下っ端を追いかけようと逃げていった方向を見ればすでに下っ端の姿はなかった。
…と、いうか見えなかった。
「なっ…ななな……」
「ルナちゃん、どうしたの…ってええ!?」
「こ、これって一体……」
「こんなの見たことないですぅ……」
「な、何よこれ……!」
話声と光で何かあったと分かった皆さん。戦闘中だったネプギアとユニは戦いを止め、観戦していたアイエフさんコンパさんの四人がこちらを向いて、驚いていた。
それもそのはず。だって私の目の前には──―
「フォオオオオオオオオン!!」
「なんじゃこりゃ──!!」
デカい。とんでもなくデカいクジラのようなものが、私の視界を埋めていたから。
次回予告。クジラを何とかします。
それでは次回もまたお会いできることを楽しみにして。
See you Next time.
支配エンドルートが読みたいかどうか。
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読みたい
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読みたくない
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支配エンドとは、
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ゲハバーンを手に取ったネプギアが、
-
次々と女神を殺すエンドである。