月光の迷い人   作:ほのりん

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前書き~

前回のあらすじ。
教祖にアイテムを二つ渡してゲイムキャラの居場所を教えてもらいました。
ダンジョンへ行く道中、路地裏近くでネズミのモンスターを見つけて追いかけると転んだので、コンパが治療してあげました。そしたらネズミは逃げました。
その時ルナはネズミの落とし物と思われる珍しいメダルをゲット。後で交番に届けようとします。
今回はラステイションのゲイムキャラを探しにダンジョンへ。
それでは今回もごゆるりとお楽しみください。


第二十二話『黒のゲイムキャラと、灰色のネズミ』

 ラステイションの街を出て着いた先は、昨日と同じセプテントリゾート。

 そう、“昨日と同じ”である。

 まさか昨日血晶を取りに来た場所がゲイムキャラのいるダンジョンだなんて、誰が思っただろうか。

 まあ確かにこのダンジョンを全て見たわけじゃないし、もしかしたら何処かに隠し扉でもあったのかもしれないけど。

 しかしまさか二日連続で同じダンジョンに来ることになるとは思わなかった。エル君元気にしてるかな?

 

「ここにゲイムキャラさんがいるんですね」

「貰った地図によると…昨日行った場所とは正反対の方に進んだ奥にいるようですね」

「気を付けて進むわよ。昨日ある程度片付けたとはいえ、奥の方ならまだモンスターがいるでしょうし」

「あいあいさー!」

 

 私の変な返事の仕方に皆さん笑って、適当にモンスターを片付けながら奥へ進む。しかし進んだところで一面似たような光景しか広がっていないが、どこにいるのだろうか。

 先頭をアイエフさんとネプギア。その後ろにコンパさんが付いて行って、私は更にその後ろから付いて行っていた。

 よそ見をしながら進んでいると、前の方から変な感じがして思わず立ち止まって見ると、そこでは驚きの現象が起きていた。

 なんと目の前を進んでいたアイエフさんとネプギアが消えてしまっていたのだ。

 

「えっ?あいちゃん?ギアちゃん?どこですか?」

「こ、コンパさん。あの、お二人はどこへ……」

「わ、分かんないです。二人が歩いていたらまるで何か目に見えない何かに入っていくみたいに消えちゃったです」

「何かに入っていく……?」

 

 その例えは、正確かもしれない。

 この変な感じ。もしかして何らかの力がこの先で展開されているんだとしたら……

 

「コンパさん。お二人はこの先へ進んだんですよね?」

「はいです」

「なら……」

 

 私の考えが正しいなら、このまま進めば……

 何かが起きる、と身構えて歩いていると身体に透明な何かが当たり、そのまま潜り抜ける感覚がした。

 そして予想通り、潜り抜けた先にお二人はいて、こちらを見ていた。

 

「やっぱり。そこに何かあるのね」

「アイエフさんもそう思いますか」

「ええ。多分こっちのことは向こうには見えも聞こえもしない効果がある結界を張っているんでしょうね」

 

 やはりそうなんだろう。私もまた、アイエフさんと同じ考えに達していた。

 ただこちらからは向こうのことが見えも聞こえもするので、コンパさんが「る、ルナちゃんも消えちゃったです!?た、大変ですうぅ!」と慌てているコンパさんも丸見えである。

 このままじゃこちらに入って来そうになかったので、アイエフさんが一度向こうに出て説明し、コンパさんにも結界を潜り抜けてきてもらった。

 こんな仕掛けがあるということは、もうすぐだ。

 

 そして本当にすぐで、少し歩いた先に黒い光が浮いていた。プラネテューヌで見たゲイムキャラと色違いなだけで、形状は同じ。おそらく、あれがラステイションのゲイムキャラなのだろう。

 ネプギアはゲイムキャラに近づくと声をかけた。

 

「こんにちは。あなたがゲイムキャラですか?」

「ん…?お前はプラネテューヌの女神…いや、女神候補生か」

「今度のゲイムキャラは起きてるんですね」

「それだけラステイションの方が犯罪組織の被害を受けているってことかもね」

 

 そういえばプラネテューヌのゲイムキャラは最初眠っていたんだっけ。

 そういうのって国の色々で起きてる寝てるとかってあるんだな。

 

「あの、お願いします!私達と一緒に来てください!」

「唐突だな。訳も分からないまま同行できるはずもない」

「それには同意」

 

 ネプギアの強引さは昨日見たから驚きはしないけど、ゲイムキャラの言うことと同じことを思ったので思わず口に出してしまった。理由も言わず付いてこいなんて、初対面の相手は従うわけがない。

 するとゲイムキャラは何故か私をじっと見つめた。

 なんだろう。もしかしてさっきの答え、まずかったかな?

 そう思ったけど、次にゲイムキャラが言った言葉は、私にとっては予想外だった。

 

「…お前は…もしや古の女神か?」

「…はい?」

 

 いにしえのめがみ?何それ。

 この人は私がその古の女神って言ってるのかな?

 んー、いくら記憶を失ってる私と言えど、それはないんじゃないかな。

 古ってことは、ずっと昔の女神ってことだから、まず生きてるのかな。

 

『違いますよ。この方はあなたの言う古の女神ではありません』

「…そうか。すまない、人違いであった」

「あっ、いえいえ。誰だって間違いぐらいありますから」

 

 私が返答しようとすると、代わりに剣が答えてくれた。

 剣の言うことだ。よく分からないけど、私は古の女神ではないんだろう。

 …少し違和感がするけど、なんだろ。

 

「えっと、ゲイムキャラさんは誰とお話したです?」

「ルナと…じゃないわよね?」

「違うと思いますが……」

「…?皆さんどうかしましたか?」

 

 何故か皆さんは戸惑っている。何かおかしなことが……あっ。

 今の、剣の言葉が直接ゲイムキャラに伝わってたような……

 

『はい。マスターを介さず直接この地のゲイムキャラとお話させていただきました』

 

 へっ?そんなことできるの?

 それじゃあネプギア達とも会話出来る?

 

『いえ。まだ人と話せるほどではありません。しかし先日プラネテューヌでゲイムキャラの力を手に入れたことにより、他のゲイムキャラとの会話が可能となりました』

 

 あぁそういうこと。

 そういえばプラネテューヌじゃゲイムキャラから力を貰ったっけ。

 そういうことなら納得。

 納得したところで、私はネプギア達にも剣が言ったことを伝えると、ネプギア達も納得したようだった。

 でも何でゲイムキャラは私を古の女神と間違えたんだろう。

 疑問に思った私はそれをゲイムキャラへ言おうとする前に、ゲイムキャラは話を戻した。

 

「それで何故お前達は此処へ来た?」

「女神達が捕まってるんです。助けるために力を貸してください。お願いします!」

 

 ネプギアはそう言って頭を下げる。

 自分の姉のこととなると必死になる辺り、本当にネプギアはお姉さんのことが好きだということが伝わってくる。

 しかしそんなネプギアに対して、ゲイムキャラは良い返事をしなかった。

 

「…そうか。薄々と気付いていたが、やはり女神は余所の地に捕まっているのか。…ならば尚のこと、お前達と一緒には行けない」

「どうしてですか?」

「私の使命は、女神の身に何らかの事態が起きた時、代わりにこの地を守護すること。私が一時でもこの地を離れるということは、その間この地を守護する者が完全にいなくなるのと同義。それはできない……古の女神と交わした約束だからな」

「古の女神……」

 

 その部分だけ、言葉に懐かしむ感じがした。

 このゲイムキャラにとって、その古の女神とやらはそれだけ大きな存在なのだろうか。

 それはともかく、一緒に行けないと言われてしまった。

 でも、ゲイムキャラに力を貸してもらわないと女神様達は助けられないし……

 

「女神が捕まったままでいいって言うの?」

「…私の使命は、女神の代理。女神を助けることではない」

「そんな……」

 

 アイエフさんの言葉にも、ゲイムキャラの意思は揺るがない。

 ネプギアはそんなゲイムキャラの言葉に落胆していた。

 そんなときだった。

 

「むぅ、メダルは失くすし下っ端にはこき使われるしゲイムキャラは見つからないし…最悪っちゅ……こんなとき愛しの天使に会えればテンションマックスリラックス……ちゅ?今度はコンパちゃんの幻覚が見えてきたっちゅ……ちゅ?幻覚じゃないっちゅ!愛しの天使、コンパちゃーん!」

「えっ?きゃあっ。今朝のネズミさん?」

「覚えててくれたっちゅ?感激っちゅ!」

 

 今朝街で追いかけたネズミがとぼとぼと歩いてきた。

 しかしコンパさんの姿を見るとそれ以外のことは眼中にないと言わんばかりにコンパさんに近づいた。

 うん、抱き着こうとしなかった辺りは褒めよう。だがそんな発情した動物のようにコンパさんに近づくのはいただけないな。

 まあコンパさんは困ってなさそうだからいいけど。というかこのネズミが何でこんなにコンパさんに会えて嬉しそうにしてるのか分かってなさそう。

 あっ、アイエフさんは何だかご機嫌斜め。

 そうだよね、大事な友達に変な虫…ではなくネズミがくっつこうとしてたら、不機嫌にもなるよね。

 

「ちょっと、今大事な話をしてんのよ。ジャマしないでくれる?」

「何言ってるっちゅ!この世にコンパちゃんより大事なことなんて…ぢゅ!?そこにいるのはもしかしてゲイムキャラ!?」

「ネズミさん、ゲイムキャラさんのこと知ってるですか?」

「もちろんっちゅ!あぁコンパちゃんとゲイムキャラが同時に見つかるなんて、今日はなんて幸運な日っちゅ!そうだ、コンパちゃん!一緒にゲイムキャラをやっつけるっちゅ!」

「え…?やっつけるって……何を言ってるです?」

「ネズミ…アンタまさか……!」

 

 ネズミの誘いにコンパさんは驚き戸惑い、アイエフさんや私は警戒する。

 この発言、アイエフさんの思う通りなら……

 ネズミはそんな私達の様子に気付かずに話を続ける。コンパさんが戸惑っていることには気付いてるっぽいけど、どうして戸惑っているのか分かってなさそうだ。

 

「ゲイムキャラを倒せば褒美がもらえるっちゅ!コンパちゃんも特別待遇でマジェコンヌに入れるっちゅよ!」

「やはりこのネズミ……」

「ダメです!ゲイムキャラさんを倒したりしたら、この世界は……」

「そうっちゅ!また一歩マジェコンヌの物へと近づくっちゅ!女神もいない、女神を信じる者もいないゲイムギョウ界なんて、あっという間に我々のものだっちゅ!だからコンパちゃんも今のうちに……」

「やめてください!」

「…コンパちゃん?」

 

 コンパさんの叫びにようやくネズミはコンパさんの戸惑いが自分が思っているのと違うと分かり始めたようだ。

 しかしあれだけの発言をして、今更気付いたって遅い。

 

「わたしは女神様を助けるための旅をしてるです……ネズミさん。あなたはわたしの敵です!!」

「ガーン!て、敵!?敵ってことは…き、嫌いってことっちゅか!?」

「大っ嫌いです!世界をこんなにしたマジェコンヌなんて、大っ嫌いですっ!!」

「だだだ、大っ嫌い!?しかも二回言われた!?…う、うわああああん!!」

 

 コンパさんの強い言葉にネズミは強いショックを受けたようで、泣きながら暴れ出した。

 

「うわぁ、失恋して暴れてる……」

 

 まあ最初から結ばれることは絶対に無いやつだったのは分かってたけど、だからって暴れなくても……

 そして少し暴れた後、最初はぶつぶつと。途中から大きな声を出し始めた。

 

「もうダメっちゅ…恋に敗れた以上、仕事に専念するしかないっちゅ!皆まとめて死ねっちゅー!!」

「やっぱりこうなるのね」

「ネプギア、説得は後回しにして、先にこいつを叩くよ」

「えっ?わああ!?いつの間に敵がいたんですか!?」

「アンタ、集中すると本当周りが見えなくなるわね……ほら、来るわよ!」

「ちゅ────!」

 

 アイエフさんの言葉を合図に鞘から月光剣を取り出す。

 さて、犯罪組織の知性を持つモンスターがどれほどできるか、お手並み拝見だ。

 素手で襲い掛かってくるネズミの動きに注意しながら、私は剣を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラステイションのゲイムキャラに会って、それから街で会ったネズミ…実は犯罪組織の構成員だった敵と戦い始めて数十分。

 プラネテューヌで初めて下っ端と戦った時と違い、私達はピンチに陥ることなく戦うことが出来ていた。

 それもそのはず。だってこっちは前と違うところがいっぱい。

 私には月光剣という強力な武器がいるし、ネプギアは最初から女神化出来るんだ。

 アイエフさんやコンパさんも元からある程度強かったけど、今は前よりも強くなってる。

 それにこちらは多数であちらは一匹。これで勝てないわけがない。

 ということで少しだけ服が汚れてしまった私達の前には、打ちのめされたネズミが転がっていた。

 

「ちゅ…メダルを失くしたどころか恋に破れ仕事も失敗続きなんて、最悪の厄日っちゅ……」

「…メダル?それってこれのこと?」

 

 ネズミの言葉…といってもメダルを失くしたという部分に反応した私は、ズボンのポケットから路地裏で拾ったメダルを取り出して見せると、ネズミは目を輝かせた。

 

「そ、それっちゅ!どうしてお前が持ってるっちゅか!?」

「今朝の時に君がいなくなった後拾ったんだけど…やっぱりこれ君のなんだ。返した方がいいのかな……?」

「止めときなさい。相手は犯罪組織の構成員よ?もしかしたらそれを渡すことでこっちが不利になるかもしれないんだし」

「そ、そうですか……?コンパさんはどう思いますか?」

「あいちゃんの言うことも確かですが、もしかしたらそれとは関係なしにネズミさんにとって大切な物かもしれませんですし……」

「あの、これって何ですか?」

 

 アイエフさんに止められ、コンパさんに意見を聞いている間にネプギアはネズミに話を聞いていた。

 するとネズミは立ち上がって体についた汚れを払いつつ答える。

 

「…それはおいらにとって大切な形見なんだっちゅ。だから返して欲しいっちゅ」

「…そっか。そうだよね。犯罪組織の人にもそれぞれ事情があるんだし、ネズミでもそういうのってあるもんね。じゃあ返すよ」

「女神陣営にも良い奴はいるんだっちゅね。さんきゅーっちゅ」

 

 形見ってことはこのネズミにとって大切な誰かから受け取った物なんだろう。

 なら犯罪組織とか関係なしに返さないといけない。拾ったのは私だから私の物、なんて我儘を言う気はないからね。

 そう思いながらネズミが差し出した手のひらに私はメダルを渡そうとして──。

 

『駄目ですマスター!』

「それを渡してはならん!」

「えっ?きゃっ!」

 

 私は腰に付いた月光剣に()()()()()、尻餅をついてしまった。

 私の手から離れ宙に舞ったメダルは、ネズミがジャンプして取る前にゲイムキャラがキャッチして、ネプギア達の方へ戻っていく。

 え?え?何?何か悪いことしちゃった……?

 

「これがお前の物であるわけがなかろう!」

『マスター、敵の言ったことを真に受けないでください!』

「は、はい……」

 

 何やら怒っているようなゲイムキャラと月光剣に驚き反射的に返事してしまったけど、どういうことなのか……

 

「…もしかしてアイツ、嘘を吐いたのね?」

「そ、そんな…本当ですかネズミさん!」

「コンパちゃん…ごめんなさいっちゅ。真っ赤な嘘っちゅ……」

「ネズミさん……」

 

 えぇっ!?嘘だったの!?

 じゃあネズミがあのメダルを欲してる本当の理由って……

 

『マスター、あのメダルは『マナメダル』。マスター達が探し求めていたものです』

「そして本来であればこやつではなく、私達ゲイムキャラのみが所有している物。こんなやつの物であるわけがない!」

「え、ええええ!?それがマナメダルなの!?」

「あれがマナメダルですか!?」

「まさかこんな形でマナメダルを手に入れるなんて。驚いたわね……」

「どうしてゲイムキャラが持っているはずの物を、あなたが持っているんですか!?」

「それを教えるつもりなんて毛頭ないっちゅ!いいからそれを返すっちゅー!」

「ほい」

「…ちゅ?ぢゅ────!?」

 

 今度はなりふり構わずゲイムキャラへ突進してくるネズミ。

 でもアイエフさんがちょっと足を出すとそれに躓きころころと転がって、段差に当たってようやく止まった。

 あはは…えげつない。

 ネズミは少しだけ目を回していたけど、ハッとして首をぶんぶん左右に回してから立ち上がり「覚えてろっちゅ―!!」と言い残し逃げ出した。

 驚くことに戦っている間はそこまで速くなかったのに、逃げる時だけは速い。

 やっぱりモンスターでもネズミなら逃げ足は速いんだね。

 それはともかく……

 

「すみません皆さん。私、あんな嘘に簡単に騙されてしまって……」

「謝らなくてもいいよ、ルナちゃん」

「そうよ。悪いのは嘘を吐いて私達を騙そうとしたアイツが悪いの」

「わたしも騙されそうになっちゃいましたし、ルナちゃんが悪いわけじゃないですよ」

「皆さん……」

 

 もしこの場に月光剣とゲイムキャラがいなくて誰も止めてくれなかったらすっかり騙されたまま大事な物を渡してしまうところだった私に優しい言葉をかけて下さる皆さん。

 うぅ…皆さんの優しさが嬉しいけど、やっぱり騙された罪悪感があって、涙が……

 泣かない、泣かないよ?もう私そこまで弱くないもん……

 ただちょっと目が潤んだだけだからね……?

 

「それでそのマナメダルって一体どういう代物なのよ」

「あっ、それ私も気になってました」

「マナメダルとは、膨大な魔力を圧縮し固形化したものだ」

「魔力を圧縮?固形化?」

「多分シェアクリスタルの魔力版って思えばいいんじゃないかしら?」

「その通りだ」

 

 アイエフさんとネプギアの質問に答えるゲイムキャラ。その答えの中で私が疑問に思ったことは、アイエフさんが答えてくれた。

 なるほど、だから“マナ(魔力)”メダルなんだね。……安直だ。

 

「そしてこれは私達ゲイムキャラの中でも、特にその地の守護を古の女神より任された者のみが所有する、いわば証のようなもの。そして己が守護する土地で不測の事態が起こり、自らの手に負えなくなった場合にのみこの中の力を使うことを許可されている」

「つまりゲイムキャラにとっての切り札のようなもの…ってことですか?」

「ああ。故に中心に宝玉が組み込まれているだろう」

 

 ゲイムキャラがそう言うと、皆さんはゲイムキャラの持つメダルをじっと見る。

 私は拾った時に見ているので、紫色の宝玉が組み込まれているのは分かっている。

 

「綺麗な紫色ですぅ」

「そうね。それにこの模様は一体……?」

「模様は術式であり、この宝玉には、その地の守護女神の色を映している」

「紫…ってことは、もしかしてこれってお姉ちゃんの色?」

「そうだ。つまりこれは本来プラネテューヌのゲイムキャラが所有していた物なのだろう」

「でも、プラネテューヌはゲイムキャラは……」

 

 そうだ。あの時、私達の不意を突いた下っ端がゲイムキャラのディスクを破壊して……

 力はネプギアと月光剣に渡ったけど、ゲイムキャラ自身は消えてしまったんだった。

 ネプギアの発言に疑問を持ったゲイムキャラへは、ネプギアが簡単に説明した。

 

「そうか…これがこの場にあるということはそのゲイムキャラの物であり、恐らくは破壊されてしまった時にどこかで落としたのだろう。それが偶々…いやこれを探していた敵が見つけ、持ち去ったのだと思われる」

「じゃあ犯罪組織はゲイムキャラのことだけじゃなく、マナメダルのことも知ってるってことよね」

「今回は偶然でしたけど、敵の手に渡らなくてよかった……」

「うぐっ……」

「あっ。ご、ごめんね!別にルナちゃんのことを責めたわけじゃなくて!」

「だ、大丈夫だよネプギア。ちょっと、潮風が目に沁みただけだから……」

 

 ネプギアの安堵の声に、ちょっぴりさっきの申し訳ない気持ちが湧いてくる。

 それに気づいたネプギアがフォローをしてくれるけど、私の心はそれにも申し訳なさが湧いてくるので、誤魔化しておく。

 …まあ誤魔化せたとは思ってないけどさ……

 私達のやり取りをよそに、ゲイムキャラは話題を変える。

 まあマナメダルのこと、というところは変わってないけどね。

 

「して、お前達もこれを欲しがっていたが、何故(なにゆえ)欲しがる?これも女神を救出する時に必要なものか?」

「分かりません。私達はあなたの居場所を教えてもらう代わりにいくつかのアイテムを持ってきてほしいと言われて、その一つがマナメダルだったんです」

「ふむ、誰が欲しがっている?」

「ラステイションの教祖、ケイさんです」

「そうか、ラステイションの教祖が……」

 

 ゲイムキャラは悩むようにそう呟き、少しして私に近づき、メダルを渡して…って。

 

「なんで私に……?」

「これはお前が見つけたものだ。もしお前が拾わなければこれは敵のもとへ渡り、世界は更に悪しき者が望む未来へと進んでいただろう。よって、これはお前の物だ」

「で、でも私はさっき騙されて渡しそうになっちゃいましたし、ネプギアかアイエフさんが持っていた方がいいんじゃ……」

「私はルナちゃんが持ってる方が良いと思うな」

「そうね。それに後で教会に行って、ついでに渡すつもりなんだし。誰が持ってても同じよ」

「それにまた騙されそうになったら、わたし達が止めるです」

「え?え?」

 

 予想もしない展開に皆さんをそれぞれ見ても、誰もが私が持つべきだとか言う。

 正直、これはこれで責任重大で投げ出したいんだけど、皆さんの期待を裏切ることもしたくない、なんて私は我儘で……

 

「それにもう、これを持つ資格のあるものはプラネテューヌにおらぬからな」

「…わかりました。責任を持ってお預かりします」

 

 そんなことを言われてしまえば、受け取る以外の選択肢を選ぶことが出来なかった。

 くぅ…せめて拾ってすぐにネプギアかアイエフさんに渡しておけばよかった。

 などと後悔してるようなことを思いつつ、皆さんに期待されるほど信頼されているっていうのが嬉しいと感じるところもある。

 

『リラックスですよ、マスター』

「ああ。何もそこまで責任を感じる必要はない。それにそこまで心配ならばお前の剣に渡しておけばいい」

「…えっと、この()は別に収納機器(ストレージデバイス)ではないはずですが……」

「それは本人…いや本剣に訊けばいいだろう」

『訊かれる前に言いますが、マナメダルは収納可能アイテムですよ』

「それを先に言って!?」

 

 驚きの事実が発覚しました。まさかの月光剣の収納機能、鞘以外にもありました。

 忘れてる方に説明すると、この月光剣、Nギアみたいにアイテムを収納できる機能があるんだけど、鞘しか収納できないという有能なんだかポンコツなんだか分からない機能があるんだ!

 

『更に忘れてらっしゃるマスターにご説明しますと、私には鞘ともう一つ、ある物が収納出来る、と出会った頃に申し上げましたが?ポンコツで悪かったですね』

 

 それは忘れていた……

 てか褒めると謙虚になるのに、貶すと不機嫌になるんだね……

 

「えっと…じゃあこれをどうぞ……」

 

 メダルを剣の鍔のとこに埋め込まれた玉に近づけると、玉は仄かに紫の光を放ち、メダルが吸い込まれていった。

 本当に収納されちゃった……

 え?大丈夫?力を吸収したりしてない?

 

『問題ありません。きちんとそのままの状態で保管しております。ご安心を』

 

 それなら…まあいいか。

 

「所々話についていけない…というかルナ達の間でしか会話が通じてないんだけど、ともかく大丈夫ってことよね?」

「はい。問題ありません。ご安心を。…と剣が」

「…まあいいわ。で、話を元に戻すけれど、あなたは付いて来てくれないの?」

「…ああ。それに、あのような者に見つかった以上、また別の場所に身を隠さねばならぬ」

 

 話を戻し…ゲイムキャラの協力の件にアイエフさんは話を戻し、ゲイムキャラは依然変わらない意思。

 しかもまた隠れたら、今度もまた教会側が見つけれるかどうか……

 それだとネプギア達もまた苦労することになるだろうし……

 今回説得できないと、二度手間だ。

 

「だったら私達に付いてきてください。私がゲイムキャラさんのこと、守りますから!」

「それは出来ぬと何度言わせる気だ」

「…頭かったいなぁ……」

「…ルナちゃん?」

 

 固いも固い。コンクリート並か?

 ああ、そういえばゲイムキャラの本体ってディスクだった。

 それはともかく……

 

「少し面倒になってきたので、私の考えを言わせていただきますね。私としては、使命やら守護やら言ってますけど、だからって私達に力を貸さないのはどうかと思うんです。こっちはこの地を含めてゲイムギョウ界を平和にしたいと行動しています。そのための女神救出であり、そのために力を貸して欲しいんです。なのにそちらはこの国さえ守れれば満足なんですか?このままだとこの国どころか世界が崩壊するのに?そちらがちょっと力を貸してくれるだけでこの地も含めて全て平和にできるっていうのに、そんなちっぽけな使命とやらで力を貸したくないとおっしゃるんですか?」

「…なんだと?」

「聞こえませんでしたか?ちっぽけ、小さくてくだらないって言ったんですよ。見た目に合う大きさでよかったですね」

「お前、私を馬鹿にしているのか?」

「る、ルナちゃん!それ以上は……!」

「説得してるんで少し黙っててもらえますか?」

「でも!」

 

 普段は思考の中だけに止めているようなことだけど、このままじゃいつまで経ってもこの人は首を縦に振らない。

 そして私はさっさと頷けって思ってるから、ついつい口をはさんでしまったし、口が達者になってしまう。だからちょっとした私の中の違和感に気付けなかった。

 私の言葉を受けたゲイムキャラが不機嫌になり、ネプギアが私を止めようとしてくるけど断る。

 それでも私の腕を掴んでまで食い下がるネプギアを放って、私は言葉を続けた。

 

「あの子が何を思ってそんな使命を君に言ったのか私には分かりませんがこれだけは言えます。その使命って、世界の平和を対価にしても守らなければならないものですか?そんなわけないですよね?さっきのネズミの言葉を思い出してくださいよ。このままだと本当にゲイムギョウ界が崩壊するって言うのに、君はただそこで守護しようとするだけ。そんなんで本当にいいと思ってるんですか?本当にそれで守れてますか?守ってるつもりなだけじゃないんですか?」

「………」

「いい加減、守ってるだけじゃ守れないことに気付いてください。…言いたいことは以上です」

 

 言いたいことを言うだけ言うと、すっきりした。

 どうやら私はゲイムキャラの言葉に相当イライラしていたらしい。

 でもこれだけ言えばゲイムキャラも頷いてくれるはず…だよね?まさか私の言葉がムカついたからって理由で付いて来ないなんて言い出さないよね?

 ってあれ?何でお二人さん、そんなに驚いたような顔をしてるんです?

 

「…ルナがこんなに喋ったのって初めてじゃない……?」

「そうですね…普段は物静かな感じです……」

「…あー」

 

 言われてみれば、確かに私はあまり喋らずに成り行きを見ていることが多いかもしれない。

 だからって勘違いしてほしくないが、それは私が出なくても解決できるとか、周りが何か言うとか思ってる部分があるからだ。言葉が見つからないって部分もあるけど……

 そう思ってると、ネプギアは何やら慌てた様子。私とゲイムキャラを交互に見ながら、何やら言いたげな、申し訳なさそうな感じ。

 …もしかして私が色々言ったから、ゲイムキャラがそれで余計に力を貸してくれなくなると思って慌ててるのか?

 あんなんで怒って頷かないほど、ゲイムキャラは子供じゃないと思うんだけどなぁ

 …いやもし感情的に断られたら、どうしようもなくないか?

 ど、どうしよう。今更だけど心配になってきた。

 もしこれで断られたりしたら…色々あって私路頭に迷う羽目に……!?

 あー、私の馬鹿ー!いくらさっさと頷けとか苛立ってたからってそういう後のことを考えずに言っちゃ駄目だろー!

 

『安心してください、マスター。リラックスですよ』

 

 安心もリラックスも出来ねぇよ!!

 い、いかん。興奮のあまり心の口調が荒く…ん?今更か?

 

「…守るだけでは守れない、か。…まさか、お前のようなものに教わることになるとは思わなかった」

「…えっ?」

 

 あれ?意外と良い印象っぽい?

 あっあれだよね、一度上げといて一気に落とす作戦だよね?それで落ち込み度を一気に上げる作戦なのかなゲイムキャラ!?

 

『そんなことを国を守る存在がやると考えるマスターが驚きですよ……』

 

 こ、こら相棒!そういうのは心の中だけだからこそやれることであって、今の君の言葉はゲイムキャラにも伝わるんだから思っても口に出しちゃメッだよ!

 というか「お前のような~」って明らかに私を上から目線で見てませんかゲイムキャラ!?

 そりゃ国を守る存在と、得体のしれない記憶喪失少女が同じ立場だとは思わないし、むしろ今の私は一般人だからゲイムキャラよりは下の立場だとは思うけど!

 でもさっきの私も結構上から目線だったような……

 …おあいこってことで……

 

「女神候補生」

「は、はい!」

「やはり私は、この土地を離れるわけにはいかぬ。古の女神との約束を破るわけにはいかぬのでな」

「そ、そうですか……」

 

 おのれラステイションのゲイムキャラ……!やはり上げて落とす作戦か……!

 うっ、そんな目でこっちを見ないでネプギア……私も一時の感情に任せたことは後悔もしてるし反省もしてるけど、実は自分の発言が間違ったことだったとは全く思ってないから……

 

「…だがこの地を離れずとも力を貸すことは出来る。私の力の一部を、そなた達に託そう……」

「え…わぁ……!」

「これが私に出来る、精一杯だ。女神を、ゲイムギョウ界を、よろしく頼む」

「ありがとうございます!絶対、両方とも助けてみせます!」

「…よかった……」

 

 ゲイムキャラは自分の光…力の一部をネプギアに渡す。

 それを見て、私はほっと一安心して思わず気持ちが口から零れた。

 まさか落としてから上げる方だったとは…ゲイムキャラ、恐るべし……!

 って、え?なんでゲイムキャラさんこちらを見てらしているので……?

 

「そなたにもな」

「…えっ!?わ、私にも!?なぜ!?どうして!?ホワイ!?」

「慌てすぎよルナ。…まぁ私もこの展開には驚きだけど」

「きっとルナちゃんのことが気に入ったんですよ」

「…それで渡すほど気楽なものだったかしら…ゲイムキャラの力って……」

「違うと思いますよ!?」

 

 頭の中をはてなでいっぱいにしながら思わずツッコむ私。

 それなのにゲイムキャラは力の一部を私に渡してくる。

 思わず両手で受け止めたその光は、温かくて優しいと感じた。

 

「言っただろう。そなた“達”とな」

「そ、そういえばそう言っていたような……」

 

 まさかそんな部分を気にするほど話を聞いてなかったので、曖昧だった。

 でも本当に何故……?私はネプギアと全然違うのに……

 

「…何故私にこの力を……?」

「そなたにはその資格がある。そう思ったからだ」

「資格…?一体なんの……?」

「今は分からなくてもよい。いずれ来る時に自ら気付くであろう」

「えぇ…?」

『マスター。その力を私へ……』

 

 ゲイムキャラの言葉は全く訳が分からないけど、とりあえず貰っておけばいいのかな。

 とか思いつつ剣に言われて、先ほどと同じように玉へ近付ける。

 すると光と玉がパァって共鳴するように光って、光は玉に吸い込まれていった。

 瞬間、身体に力が入ってくる感じがする。何だか一気に経験値が増えたような感じかな……?

 

「…よく分かりませんが、ありがとうございます。この力、今の私にはどう扱えば正しいのか分かりませんが、この世界に役立つように使っていきますね」

「それでいい」

 

 私の言葉に納得するように頷くゲイムキャラ。

 こう言ってしまった以上、その通りにしていかなきゃね。

 私は一つ、ゲイムキャラの期待を背負っていくことになった。




後書き~

一応書くと、結界には魔除けとかの効果は無く、ただ見えない聞こえないだけの効果しかありません。何故魔除けをつけなかった。
そして少しキレたルナちゃん。口数多くなっていきますね。
次回はいつもより短めでお送りします。
それでは次回もお会い出来ることを楽しみにして。
See you Next time.


今回のネタ?のようなもの
・「テンションマックスリラックス」
アニメ『プリパラ』に出てくる双子のアイドル、ドロシーとレオナのキャッチフレーズ。私はどちらかと言うとレオナが好きです。でも実はレオナは――(ネタバレにて隙間におくられました)
収納機器(ストレージデバイス)
元ネタって言うほどじゃないかもしれないですけど、リリなのの世界で使われている魔法の杖(デバイス)の一つです。なお、これはアイテムを収納するのではなく、魔法の術式を保存、瞬時に展開するためのものだったりします。

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