それはともかく前回のあらすじ。
ルナ、
では今回もごゆるりとお楽しみください。
前を教祖が、後ろと左右は鍛えてそうな男の職員に囲まれながら廊下を進むこと数分。
私は案内された部屋に入れられていた。
部屋には小さい机が二つ、部屋の中央と隅に置かれていて、椅子は三つ。なんとなく警察署の取調室に似ていた。
というか取調室なんだろう。今から私の取り調べが行われるんだから。
今、この部屋にいるのは私の他には職員が一人だけ。教祖は私をこの部屋に入れた後どこかへ行ってしまった。多分準備とかがあるんだろう。
部屋にいる職員は職員で隅の机と椅子のとこで座ってる。但し無言で。こちらを見ているような、見ていないような目で。
これ、逃げようと思えば逃げれるんじゃないかって思ったけど、部屋のあちこちを見るうちに監視カメラを見つけたので諦めた。というかこういう部屋って確か壁のどこかがマジックミラーになってて、隣の部屋でこっちの様子を観察してたりするもんだよね。前にホテルの部屋に備え付けられてたテレビでネプギアが見てた刑事もののドラマにそう出てた。
まさか教祖もそっちにいるのか?
ってことは取り調べは別の人が担当したりして……
むむむ…こういう事態初めてだからよく分かんない……もっとネプギアと一緒にそのドラマを見ておけばよかったかな……
しかしさっきから一歩一歩歩くごとに腰に違和感がする。ある物がない感覚。
そういや月光剣と出会ってからは、外に出る時は必ずと言っていいほど身に着けてたからな……なんだろう、腰が軽くて……違和感が……
コンコン
「は、はい」
「失礼します」
ノックの音に返事をすれば、扉を開けて入ってきたのは女性職員。何やら手に一枚の板…もとい電子端末を持っている。そこに情報でも入ってるのかね。
女性は中央の二つある椅子の一つに座ると、私にも座るよう手で促す。
私はそれに素直に従い、空いた椅子に座ると、女性は何やら端末を操作してから私の方を向いた。
「私は今回、あなたの取り調べを担当させていただく者です。これから行う質疑応答は全てこの端末に録音されますので、ご了承ください」
「はい、分かりました」
「それでは始めさせていただきます。まずあなたのお名前と出身をお聞かせ願えますか?」
「名前はルナ。出身は分かりません」
「分からない、と言いますと?」
「記憶がないんです。辛うじて思い出せたのは名前だけです」
「記憶喪失、ということですか?」
「はい」
「それは一体いつからのことですか?」
「最近です。一か月もしない前に、プラネテューヌの教会に落ちてきたらしく、目覚めた時には失くしてました」
はっきりそう告げると、女性職員は少し戸惑いを見せる。
しかしすぐに真面目な顔に戻った。
「では次の質問です。あなたは何故ネプギア様方に同行しているのですか?」
「ネプギア達の力になりたいからです」
「と言いますと?」
「そのまんまです。記憶のない私を助け、優しくしてくださった皆さんからの恩に報いたい。それだけです」
「ではあなたは女神様の味方、というわけですね?」
「それは……」
そう言われると、違う気もする。
いや、ネプギア達の味方をするってことは、結果的にそういうことだけど、私の気持ち的にはそんな感じはしないと言うか……
「“それは”?」
「女神様の、という感じは私にはしません。ただ、ネプギア達の味方をしていたら、結果的に女神様陣営の味方になっていたというかなんというか……」
「では自分は女神様の敵であると?」
「そんなこと一言も言ってないですよね。敵か味方かであれば味方。これで十分ですか?」
極端すぎる話に思わず苛立ち、言葉に力が入る。女性職員も私の気持ちに気付いたのか次に進んだ。
「…はい。わかりました。それでは次の質問です。この国に来てからの活動について教えてください」
「…この国に来た初日はネプギア達がギルドで情報集め、私は街で情報収集してました」
「それはおひとりで?」
「はい。ついでにネプギア達はギルドでクエストを受けるとのことでしたから、そちらに人数を割いた方がいいと考えたので」
「ではあなたもネプギア様方に同行すればよかったのでは……」
「どのみち結果は同じだったので、そこはもういいでしょう。で、次の日からはネプギア達と一緒にやりましたよ。…単独行動をしようとすると皆さんが心配するので」
「そうでしたか。すみませんが、初日の行動について、もう少し詳しくお願いできますか?」
「…ネプギア達と分かれた後、私は街で聞き込みを行いました。しかし情報は集まらず、土地勘もなかったため迷子になってしまいました。そこにとある男性が現れ、話の成り行きで彼の所属する組織の活動を見学することになりました」
「何故情報収集中にそのようなことを?」
「その見学で、何か情報を得られないかと思ったからです」
「それで情報は得られましたか?」
「私達にとって有益と言える情報は手に入れられませんでした」
「では失敗だったと?」
「…そうかもしれませんね」
確かにあれは失敗だったのかもしれない。犯罪組織の人達と会話したことで、私の中に迷いが生まれてしまったから。
でもその迷いと葛藤してる中で私はユニと出会えた。ユニからアドバイスを貰えたことで、私は迷いと向き合えた。
もし私があの時誘いを断っていたら。迷いが生まれなかったら。
私はきっと、今以上にユニと仲良くはなれなかっただろう。
そう考えたら仕事としては失敗でも、人生としては成功だったかもしれない。
だから一概には失敗とは言えない。そう思う。
「分かりました。ではその男性の所属する組織の名前を教えていただけますか?」
「…何故ですか?」
「あなたの答えがきちんと真実であるかどうか確かめる為です」
「…どうしてもですか?」
「どうしても、です」
と、言われても、答えたら答えたで更に疑われるような……
い、いや、さっきから私は正直に本当のことしか話してないんだし、逆に今ここで嘘を吐いた方が疑われるんじゃないか?
で、でも……
「どうかされましたか? もしや、答えられない理由でも?」
「そ、それは……」
そういやあの人達には「組織に入らないなら、今日の事は内緒にしてくれると嬉しいな」って言われてたっけ。
どうしよう…あの時は返事しなかったけど、でも約束したようなものだし……
かといってここで話さなかったら私にダメージが……
うわあああ……どうすればいいんだよー!
「ではなぜ答えられないのですか?」
「わ、忘れたから?」
「………」
はいごめんなさいとぼけてみただけです。だからそんなジト目で見ないでください心がズキズキ痛みます……
その目を見ることが耐えられなくて、つい私は目を逸らしつつ本当のことを話すことにした。
「…本当は言えない理由はあるんですよ……」
「…それは?」
「…組織見学をして、終わり際に言われたんです。『組織に入らないなら、今日の事は内緒に』って」
「何故?」
「さ、さあ? でも、約束してしまいましたから、言えません」
「しかしもう既に『何かしらの組織を見学した』ということは言ってますが……」
し、しまったー! そーだったー!
“今日の”ってことはそのことも含めてだったー!
私の阿保ー!!
「ではもう既に話してしまったということで、話してしまいましょう。組織名、聞いてないわけじゃありませんよね?」
…皆さんごめんなさい!
「…はい。私が見学したのは『犯罪組織マジェコンヌ』です……」
「…そうでしたか。あなたは男性に誘われたと聞きましたが、その男性は最初から犯罪組織の人間だと名乗ってましたか?」
「…はい。あと服装が以前プラネテューヌで戦った構成員の方と同じものだったので、すぐに分かりました」
「先ほど情報を得られるかもしれないから男性の誘いを受けたと言いましたが、それは犯罪組織関連の情報が、と言う意味でしょうか?」
「半分くらいは。残りはゲイムキャラの居場所の情報が、です。構成員から何かしら情報が得られるかもしれないと考えたので」
「しかしあなたの欲しい情報は得られず、失敗に終わったと」
「…まあ細かい訂正は置いといて、そういうことですね」
“あなたの”じゃなくて“ネプギア達の”欲しい情報だけどね。
「…分かりました。それでその男性の名前と特徴は言えますか?」
「男性の名前と特徴……? 名前は聞いてないので分かりませんが……特徴は確か…年齢は分からないですけど見た目は若くて、小柄でした」
「それは成人男性と比べてでしょうか?」
「小柄なのはそうです。私と同じぐらいで。見た目の若さは成人ぐらいで、黒髪だったと思います」
「曖昧ですね」
「灰色の…構成員達が着てるパーカーのフードを被ってましたから。だから長さとかもよく分かりませんよ?」
「他に特徴は?」
「え? んーっと……」
特徴…特徴……
そんなの気にせずに接してたからな……
「口調は荒っぽくなくて、一人称は僕って言うぐらいの人……?」
「なるほど。わかりました。以上で結構です」
「…これでいいんですか?」
「はい。十分です」
何故男性の特徴を訊くのか分からないけど、多分何かしらに必要だったのかな。
よく分からないけど、これで私の疑いは晴れたのかな……?
そう思ってたら女性は真面目顔で訊いてきた。さっきから真面目顔だけど、それ以上の、無表情に近い顔で。
「では今から単刀直入に訊きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「…まあ、何を訊かれるのか興味がありますし、いいですよ」
わざわざ断りを入れてくるなんて、どういうことを訊いてくるのか……
「あなたは犯罪組織の人間ですか?」
「………はい?」
思わず首が90度を通り越して180度傾きそうになりつつ、そんなフクロウみたいなポシェモンみたいに曲がらないから、曲げれるとこまで首を曲げる。
とにかくそれぐらい意味の分からない質問だった。
いや、意味は分かる。それにそういうことであちらは私を疑ってるんだろうとは予想はついていた。
でも今訊く意味が分からない。最終確認か何かか?
「聞こえませんでしたか? あなたは」
「いえ聞こえてますから答えると私はどこの組織にも所属してませんから強いて言うならプラネテューヌ教会ですからちょっと何でそんな質問するのか意味が分からなかっただけですから!」
再び私が驚きそうな発言をしそうになる前に矢継ぎ早に答える私。
すると女性は端末を操作し始め、少しするとその手を止め、こちらを見る。
「では以上で取り調べを終わります」
「…はい。これで私解放されるんですか?」
「分かりません。ただ今回の取り調べの結果は教祖様にご報告させていただきます。その後教祖様のご判断によってあなたの処遇は決まりますので」
「…つまり、あの教祖の判断によっては私はそのまま牢屋行きもありえる…と?」
「分かりません。ただ、そういうことも頭に入れておいた方が心構えができるかと」
「そ、そんな……」
何も悪いことしてないのに牢屋行きって、そんなのありえるか!?
それどころか世界を救うための良いことばかりしてるじゃないか!
あぁちくしょう…旅に出るんじゃなかったか……?
「それでは失礼します」
「…はい」
無表情にも近い真面目顔のままで出て行く女性職員と、何故か一緒に出て行く監視役だったのか空気となっていた男性職員がいなくなった部屋で、私はひとりがっくりと机に頭をぶつける。
「……いたい」
頭をぶつけたことじゃない。ぶつけたと言っても痛そうだったのでゆっくりやった。
何が痛いって、今後を考えたときの心が痛かった。
もしあの教祖が私を疑ったままか、冤罪か何かで牢屋とかそういったところに送られたら、私はどうなるんだろう。
何も悪いことしてないのに、周りからはずっと疑われて、苛まれて、拒絶されて。
ネプギア達も私を見捨てるのかな。それとも助けてくれる?
…でも、ラステイションのとはいえ、教会が私を捕まえるんだから、ネプギア達、きっと私よりも教会を信じるよね。
…そしたらネプギア達も私のこと、疑ったり拒絶したり、或いはもっと酷いことをしてくるのかな……
もう考えるのもヤダな。いっそ自分の殻に閉じこもった方が……
──ター……ス………マ…タ……
…え? 誰?
──スター…マス……
微かに聞こえる声。遠くの声みたいに微かにしか聞こえないけど、私を呼んでるような気が……
『マスター!!』
「っ! 月光剣!?」
『マスター! ご無事ですか!?』
「う、うん! それより君はどこから……」
驚いた拍子に椅子を蹴り飛ばすように立ち上がった私は周りを見渡す。しかし部屋の中には私しかいない。だというのに何で声が……
まさか長距離からでも会話が出来るの!?
『それは出来ません。しかしマスターの近くであればマスターに触れていなくても会話は可能。つまり──』
「──こういうことよ!」
「あっ……!」
扉がバンッと開かれて、扉の向こうから現れたのは黒髪の少女。その手には月光剣が抱えられていた。
「ユ、ユニ……!」
「待たせたわね、ルナ!」
『お待たせしました、マスター!』
彼女達の登場はまるで暗い洞窟を歩いてたら、前から一筋の光が見えてきたみたいで……
「ユニ…ゆにぃ……!」
「ちょっ、な、泣かなくてもいいでしょ!? あぁほらこれで拭いて……」
『マスター。私がいることも忘れないでください』
「うん……うん……! 月光剣も来てくれたぁ……!」
さっきまでの暗い気持ちの反動で情けなくも溢れる涙。それを袖で拭おうとすればユニはその手を掴んで横に退け、ハンカチで涙を拭いてくれる。
月光剣もユニの手に握られながらも存在を主張するように輝いていた。
「うぅ……ぐすっ……」
「全く。二人して泣き虫なのね」
「そ、そんなことないもん……私はともかく……」
「自分のことは否定しないんかいっ」
「…えへへ……」
ユニのノリつっこみが面白くて、ユニと月光剣が助けに来てくれたことが嬉しくて、思わず笑みを浮かべる私。ユニはそんな私の表情を見たら、安堵したような表情になった。
「で、でもどうしてユニが……? しかもどうやって……」
この部屋まで来る間廊下を見てきたけど、この部屋と似たような扉、似たような作りっぽい部屋は沢山。それも左右両方にあったから、この部屋をピンポイントで当てるなんて何か方法がないと無理だと思うけど……
まさか全ての扉一個ずつ調べてったってわけじゃないだろうし……
「ここに来たのはアンタを助けてやって欲しいって、この剣が私に頼んできたからよ。この部屋にいるってことも、この剣が捜したの」
『マスターがユニ様に預けて下さったからです。そしてユニ様も、手助けしてくださりありがとうございます』
「アタシもルナを助けてあげたいと思ってたから、お礼なんていらないわよ」
「え? え? ちょ、ちょっとまって。何か今初めて明かされた事実が沢山ある気がするんだけど……」
月光剣がユニに頼んだ? どうやって? 捜したってのも、どうやって?
それに今…いや違和感はさっきからだけど、ユニと月光剣、会話成立してないか? というか言葉のキャッチボールというか、会話出来てるというか、月光剣の言葉がユニに伝わってるというか……
「じゃ、その辺りも含めて、説明してあげるわね」
「…よろしくお願いしますっ!」
それからユニの口…それと時々月光剣の思考から告げられたのは、私にとっては驚きと嬉しさを感じるものばかりだった。
「…ルナ、大丈夫かしら……」
そう独り言を呟くのは
彼女が今いるのは教会の彼女の自室。彼女の手には銀色の美しい剣が鞘に入れられた状態で抱えられていた。
ユニの頭に浮かぶのは、先ほどの出来事。彼女の友人となった一人の女の子、ルナが教祖であるケイに連れていかれたのだ。それも穏やかな雰囲気ではなく、険悪な雰囲気で。
ケイがルナを連れて行こうとしたときの会話には「暴れられる」や「疑われている」と言った言葉があった。そしてルナの発した「疑いを晴らす」という言葉から察するに、ケイはルナに対して何か、恐らく悪いことに関して疑っているのではないか。そうユニは考えていた。
しかしルナの態度や雰囲気、言葉から考えるにその疑惑は誤解なのではないかとも考える。もしかしたらそれは疑われないようにする演技だったのかもしれないが、ユニにはあの時のルナが偽りの言動をとっていたとは思えなかった。
そう考えるのは、彼女達が出会った時の出来事に関係している。
ユニがルナと初めて出会ったとき、ユニから見たルナの第一印象は『暗くて大人しそうな子』であった。しかし同時にベンチに座っていた彼女を見ていると『放っておけない』と感じて、声をかけたのだった。それから話を聞いてるうちに、ルナにとっては重要な、生き方も左右するような悩みがあると知り、ユニはユニなりに助言していた。
その時は互いに名乗らずその場だけの付き合いで、もしかしたら後日街で偶然出会うかもしれない程度の考えであった。
しかしまさかネプギアと共に行動しているとは、ユニは夢にも思わなかった。そして彼女の悩みはネプギア達と他の誰かのどちらが正しいかどうかということだった。
そういう事情が分かった今のユニなら、あの時のルナに対して「間違いなく正しいのはネプギア」と言っていただろう。そうじゃなくてもあの時のユニは「自分が正しいと思うことをすればいい」と言っている。その言葉が正しいとユニは自信を持っている。
そういうことがあったからこそ、ユニはルナが悪いことをしていると疑念を抱くことはなかった。
しかしそれとケイに連れていかれたことは別。もしユニがケイに「ルナの事は誤解だと思う。ルナを解放してあげて」と言ったところでケイはルナを解放しないだろう。それはただのユニの要望だからだ。
ではどうするのか。ただここでケイの誤解を解いたルナを待つしかないのか。それともルナのことを諦める?
それは絶対に嫌。そんなことするくらいなら、自分がルナの為に出来ることを探して、行動したい。そう考えるほどにはユニはルナのことを好いていた。
しかし今彼女に出来ることはない。少なくとも、彼女が自分から考えて、自分からやろうと思うようなことは。
『──もしもし、聞こえますか?』
「っ!? 誰!」
その時、ユニの耳に大人の女性の声が届いた。驚き咄嗟に周囲を見回すユニ。しかし彼女の自室にはユニしかいない。
ならば外から聞こえたのかとも思ったユニだが、扉の外を確認したり、窓の外を確認しても人はいない。というよりも彼女の部屋は一階にあるわけではないので、窓の外に人がいたらいたで驚き恐怖するだろう。
では声はどこから聞こえたのか。まさかこの部屋のどこかにその手の機械が隠されてるのではないか。
しかし次に声が聞こえた時、ユニはそうじゃないと分かった。
『聞こえてますか? 黒の女神候補生』
「これ、頭に直接……?」
『私は今、貴女の脳に直接話しかけています。よく聞きなさい、女神候補生。今すぐ私を我がマスターの元へ届けなさい。貴女になら出来るはずです』
「はぁ? アンタのマスターって誰…というかアンタ誰よ! アンタ何処から話しかけてるの!?」
『手元を見なさい』
「手元って、ルナから預かった剣しか……」
『ええ。私は
「…え? はぁ? ちょっとまって。これ幻聴?」
『幻聴ではありません。きちんと貴女の頭に話しかけています』
「ど、どういうことよ!? どうして剣が私に話しかけれるの!?」
『今は私のことを詳しく説明する時間は惜しいのです。私のことは簡単に、意志ある特殊な剣だとでも考えておいてください』
「…わ、わかったわ」
どうして剣に意思があるのか。それは人工知能ということか。人工知能を搭載した兵器は今の時代この世界にはそれなりにあるが、ここまで機械的ではない、まさに意思と言える知能を持つ物が存在したのか。それも人工知能を搭載するには小型すぎる剣があったのかとか。他にも訊きたいことがユニの中にはあったが、剣自身が教えてくれないようなので、それは置いておくことにした。
そして何より先ほど剣が発した言葉が、彼女の耳に残っていたからだった。
「それで、さっきアンタをアンタのマスター…ルナのことよね? あの子に届けろって言うけど、どうしてよ? それにアタシにできるって、どうやれって……」
『現在マスターの精神状態は徐々にではありますが悪化しています。私の使命はマスターの剣となり盾となり、時に心の支えとなること。今のマスターの精神状態の安定もまた、私の役目となっております。しかし私の身は剣。マスターのお傍にいなければ自ら動くことも、念を飛ばすこともできません』
「う、うん。なんかアンタの口から色々突っ込みたい言葉がどんどん出てきてるけど、とにかくルナが不安がってたりするから、安心させてあげたいけど、自分では動けないってことよね?」
『はい。そこで黒の女神候補生、マスターに信頼された存在である貴女に、私をマスターの元まで届けてくれるよう頼みたいのです』
「…ルナに、信頼された?」
『はい。マスターが私を貴女へ預けたのがその証。そしてこの教会で祀られている貴女であれば、捕らわれの身となったマスターを助け出すことが可能だと導き出しました。どうか私をマスターの元へ届けて……いいえ。マスターを助けてもらえませんか?』
「でも今のアタシが助けるなんて…ネプギア達に頼んだ方が良いと思うわよ」
ユニの返答は、彼女にしてはあまりにも消極的で、弱気であった。
それにはネプギアと言葉を交わし、剣と銃を交わしたことで決着はつかなかったとはいえ、自分の弱さを見せられたことにあった。そしてそれらの中には、ルナが暴れるモンスターを宥め海へ返すという、今までモンスターを『倒すべき存在』としてでしか認識していなかったユニの視野を広げるとともに、ルナの心の寛大さを見させられたことも入っていた。
しかしそんなユニの返答を聞いて素直に引き下がる月光剣ではなかった。
『今この場にいるのは貴女だけであり、あらゆる可能性を考えても貴女が一番マスターを助け出せる可能性が高いのです。何より私の声を聞くことができるのは、今の時点ではマスターに信頼された女神や女神に似た存在のみ。そしてここは貴女のホーム。地形や部屋の配置などを把握していてこの場での地位がある貴女と、マスターの気配を辿ることができる私が組めば必ずマスターの元へたどり着き、マスターをここから解放することが可能なのです。お願いします』
『ルナに信頼されている』『自分ならルナを助け出せる』
それらの言葉はユニの意思を高めるものであった。
そしてユニ自身もルナを助けたい、このまま待つだけは嫌、自分の手で助けたいと考えていたため、よりユニはルナを自分で助けたいと思うようになっていた。
月光剣はルナの心のみを感じ取ることは出来ても、他の者の心を感じ取ることは出来ない。しかし剣の経験と知識が、まるで相手の心を読むように相手の強い思いであれば感じ取ることができていた。
ユニが『ルナを助けたい』と思っているはずだと考え、その上で実はユニの気持ちを高めるような言葉を選択していた月光剣は、策士であった。
「…分かったわ。アタシにルナを助けられるのなら、アタシはアンタの期待にも、ルナの信頼にも応えたい。だからアンタの頼み、引き受けたわ」
『ありがとうございます。黒の女神候補生』
「アタシのことはユニでいいわよ。いちいちそうやって呼ぶの長いでしょ」
『御意。個体名登録、現ラステイション女神候補生『ユニ』を登録。同時にマスターが信頼する者として登録いたしました。続いてユニ様を『
「…やっぱりアンタって人工知能とか、その辺りなの?」
『私は意志ある剣。それ以上の詳細は製作者様と同じ権限レベルでなければ開示することは不可と設定されております』
時々機械的な言葉を出す月光剣に、ユニは思わず訊きたいことを呟いたが、月光剣は答えることを拒否した。
この様子だと今この剣について聞くのは無理そうだった。
「…はぁ。まあいいわ。で、すぐにでもルナを助けに行きたいけれど、ケイのやつがルナをどこに連れて行ったのかが分からないのよね。ケイがルナの取り調べを行うとしたらどこかしら……」
『でしたらご安心を。私はマスターの居場所を察知することが可能です。今はマスターの居場所から離れているためどの方向か程度でしかありませんが、近づけば近づくだけ方角、高さ、距離を詳細に把握することが可能です』
「まるでGPSね……」
『似た機能だと、製作者様は仰いました』
「そ、そう……」
製作者は一体この剣に何を求めていたのか。色々と疑問が増えていった結果、纏めてその疑問に行きついたユニであったが、それもまたこの剣は話すことを拒否するだろう。
そう予想したユニはそれらの疑問に対する答えを諦めて、月光剣を抱えたまま行動を開始した。
自分の部屋の扉を小さく開け、周囲の様子を確かめつつ誰にも見つからないように部屋を出るユニ。そんなことをしなくても、そもそも女神や候補生の部屋の前をそう易々と通る職員は教祖であるケイぐらいしかいないため、そんな警戒は必要なかったのだが。
人通りの少ない廊下を確認して、隠れて、確認して、隠れての繰り返しで進むユニ。時折月光剣がどの方向か、何階か、距離がどのくらいかを伝えられるのを頼りに進むユニ。
彼女であればそんなこそこそ隠れるように進まなくとも怪しまれることなどなく、むしろ今の彼女の行動の方が怪しまれるということは、言わない約束だ。
彼女を見かけた職員も、彼女の威厳の為に何も言わず心の内に秘めておくことにした。
月光剣からの情報を頼りに進むと、そこは教会のエントランスから繋がる廊下であり、左右に均等に間を開けて扉が設置されていた。恐らく小さい部屋が何個もあるフロアなのだろう。
そのどれかの扉が、ルナのいる部屋へ繋がっているはず。しかしどの部屋なのかが分からなかった。
一々全ての扉を開けるのは時間のかかることで、気の遠くなりそうな話ではあったが、その辺りは彼女の持つ剣に訊けばいいのである。
『ユニ様。11時の方向。前方およそ○m先の部屋からマスターの気配がします』
「11時で○m…あの扉かしら?」
『私はマスターへ呼びかけてみます。念話圏内へ入ることができれば、マスターと会話することが可能です』
「ええ。アンタはルナに呼びかけて」
『はい』
ユニの声に答えると月光剣はルナへ念を飛ばし始める。ユニは月光剣に言われた距離、方向を感覚に頼りながら進む。
やがて月光剣はルナとの念話が送受信可能圏内へと入ったことで月光剣は正確に位置を掴め、ユニがカギの
後書き~
ともかく次回予告。
ユニと月光剣が助けに来たことで安心するルナ。しかし彼女に迫る人影が。そしてルナは真相を知ることとなる。
それでは次回もお会いできることを楽しみにして。
See you Next time.
今回のネタ?のようなもの
・フクロウみたいなポシェモン
ポケモンSMより登場する御三家の一匹『モクロー』のことです。私がSMを始めて選んだポケモンでもありました。しかし個体値は低かったです...それでもLv.100まで育てました。
・『私は今、貴女の脳に直接〜〜』
よくSNSで見かける脳に直接話しかけるやつです。少し意識して描きました。