月光の迷い人   作:ほのりん

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第二十五話『彼女の勘違い』

 ユニと月光剣から二人が結託して私を助けようと行動してくれたことを聞いて思ったことは『ユニはまだ会って日の浅い私を、そこまでして助けようとしてくれるぐらい良い人で、私を信じてくれていた』ってことだった。

 月光剣は剣の中のプログラムか何かの『マスターが信頼している人リスト』にユニを登録したらしい。そんなものがあったのかと驚く手前、確かに私はユニを信頼していたが、それはあの場の中で一番月光剣を託しても大丈夫そうな人という意味で捉えていた。

 それが実は意識してないところで本当にユニを信頼していたんだと知って、自分でも気付いていなかったことに気付いた月光剣がとんでもないな、とか思ってた。

 でもそういうところで出てくるのは私の悪いところ。自分はユニを信頼していたけど、ユニが私を信じてくれているとは考えなかったとか、それは信じてなかったとか。そんな思いが出てくる。

 でも、それは過去のことで、今は互いに互いを信じていたって分かった。それがまた嬉しくて、幸せな気持ちがいっぱいになって、私の目には一度は引っ込んだはずの涙が、また溢れそうになっていた。

 

「ってどうしてまた泣きそうになるのよ!?」

「だ、だってぇ……!」

『大丈夫です、ユニ様。今のマスターの涙は『嬉し泣き』と呼ばれるものです』

「それならいいのかしら…って、また袖で拭おうとしない」

「うん…ありがと。ユニ」

「ど、どういたしまして」

 

 そっぽ向きながら言うユニに、やはり彼女は優しいなと思いながらユニの手にあるハンカチを見る。

 ユニっぽい白いレースの付いた黒のハンカチ。それは先ほどから私の涙を吸収していて……

 

「あ…ごめん…ハンカチ汚しちゃった……」

「いいわよ、これくらい」

「…洗って返すよ。ここから出たらクリーニング屋さんに行って……」

「だからアンタ、ネプギア達を追いかけないといけないんでしょうが。別にいいのよ、ハンカチの一つや二つ。アンタの目を赤くしないためならどうだっていいの」

「……ユニ、それは私を落とそうとしてるのかな?」

「はい?」

「あっ、天然ですかそうですか」

『マスター、その程度の言葉で同性に落とされそうになってどうするんですか……』

「君っ、余計なことは言わないの!」

『はい、マスター』

 

 私と月光剣の会話は聞こえてるはずなのに、私の言葉にピンとこない様子のユニ。本当に自然に出たんだね。

 首をかしげながらも、ユニは話を変える。

 

「……? よく分からないけれど、長く話しちゃったわね。で、ケイはどこ?」

「教祖なら知らないよ。この部屋に私を入れた後、何処かに行っちゃったから」

「…ケイが取り調べしたんじゃないの?」

「ううん。女性職員が私に色々質問してきて、それに答えるって感じだったよ。その会話は職員の持っていた端末に録音されてて」

「直接調べなかったのね。てっきりここでケイがアンタに色々と言葉巧みに話を聞き出そうとかするのかと思ったのだけど」

「まあ例えそんなことになっても、あの人が思ってるようなことを私は全くしてないんだけどね。怪しまれるような行動をしてしまったっていう自覚はあったけど」

「…そもそも何を怪しまれてたのよ?」

「…まあ向こうに話しちゃったし、ユニならいっか。実はね」

 

 私はユニに敵情視察のつもりで犯罪組織の見学をしたこと。それを教祖は恐らく『犯罪組織と一緒にいた』とだけ知っていること。それで私が犯罪組織の人間じゃないのかって疑われていることを話した。

 

「アンタそれ、マジェコンヌにバレたら殺されてたかもしれないじゃない……」

「…あっ、そっか。バレた時のことは考えてなかった。でもまさか教会がこんな手段を使うなんて思いもしなかったけどね。証拠もないのに捕まえるとか、この国はそんな横暴なこと平気でするんだ……」

「そんなことないわよ!! ただ…ごめんなさい。ケイのやったことで罪のないアンタを苦しませるようなことになってしまって。アイツに代わってアタシが謝るわ」

「そ、そんなっ。別にユニに謝ってほしいわけじゃないから!」

「でもアタシはこの国の女神候補生なの。お姉ちゃんがいない今、アタシが代わりにこの国を守っていかなきゃならなくて、この国での不祥事はアタシが対応しないといけなくて……」

 

 つい出てしまった本音がユニのことを怒らせてしまった。かと思えばユニは全く悪くないのに、代わりに謝るなんてことをしてくる。しかも自分の立場を考えて、自分の責任をきちんと果たそうと思ってる。

 でもその言葉が意味することをそのまま肯定することは私には耐え難かった。

 

「…まさか全部のことを一人でやる気?」

「…そうよ。一人でやらなきゃお姉ちゃんを超えることも…ネプギアに勝つこともできないわ!」

「でも本当に一人でやれるの?」

「や、やれるわよ! 今は出来なくても、いつか……」

「それって無理じゃない?」

「…アンタ、アタシの想いを否定する気なの?」

「別にユニが立派な女神になりたいとか、国を平和で豊かにしていきたいとか思ってたり、発展させていきたいとか思ってるんだったらそれを応援するけどさ。一人でやるってのはどうかと思う」

「一人でやんなきゃ立派な女神になんて……!」

「ならユニのお姉さんは一人でやってたの?」

「ええ。やってたわ」

「本当に? じゃあなんで教祖がいるの? 教会職員って職業があって、たくさんの職員がいるの?」

「……あっ」

「ユニのお姉さんは一人で全部こなしてるわけじゃないよね。周りに頼ってる。ユニのお姉さんを馬鹿にしてるわけじゃないよ? ただユニのお姉さんは周りと一緒にこの国を守って来たし、発展させてきた。もし一人で、なんて言ってたら決して国を発展させることも、守ることも出来なかったと思う」

「周りと、一緒に……」

「だからユニも一人で、なんて考えずに信頼できる仲間と一緒に頑張ればいいと思うんだ」

 

 私がそう言い終わる頃には、ユニは考えるように黙ってしまった。

 …しまった。偉そうに言ってしまった。女神になるってことは、国を導くってことは少しの失敗が国の崩壊に繋がるってぐらい責任重大で、国民全員からの期待を背負う役目なのに、それを知らない、誰かを導いたこともない私が言える台詞じゃなかった。

 

「ご、ごめん。女神になることがどれだけ大変かなんて分からない私が偉そうなこと言って……」

「…そんなことないわ。アンタの考えは、アタシが一番気付かないといけないことだった。それを教えてくれたアンタには感謝しないといけないわね」

「そ、そんなに? さっきの考えは私が思ったことを言っただけだし、気に障るようなことだと思ったんだけど……」

「そうね。まさか自分でそのことに気付く前にアンタから教えられるなんて、少しムカつくわ」

「ご、ごめん! ほんと、偉そうに言っちゃって、ごめんなさい!」

「怒ってないんだから謝らないでよ。アンタの考えは正しかったんだから、胸を張ってなさい」

「…うん……っ」

 

 ──その時、閉めていた扉の向こう。廊下の方から複数の足音が聞こえた。

 薄く魔力を広げて足音の正体を見る。一人、二人……五人。小柄なのが一人、大柄が三人、平均一人。

 小柄なのは教祖だろう。他の大柄の三人と、平均的な体格は誰だ? 

 ユニも足音が聞こえるみたいだ。

 

「まずいわね。長く話し過ぎたわ」

「ユニ、人の数は五人。うち教祖と思われる小柄なのがいるよ」

「ルナ、アンタ分かるの?」

「人数と体格ぐらいなら。強さとかはさすがに分からないけどね」

「そう。ケイだったらこの部屋に入ってくるわよね。本当ならアンタを誰にも見つからずに外へ連れ出そうと思ったんだけど」

「…強行突破する?」

 

 今の私の手には月光剣がいる。一人だったらともかく、相棒が一緒にいるなら何とか突破できそうだけど……

 

「それしかないわよね……」

「ならユニは倒れたふりでもしてて」

「なんでそうなるのよ!?」

「だってユニも私と一緒に行動したら、ユニも私を庇ったってことで罪…には問われなくても、教会からの信頼を失うよ。それだったら、ユニは私を友達として助けようとしたけど、私がユニに不意打ちして月光剣を奪ったってシチュエーションにしたほうがユニの株は落ちなくて済むと思うんだ」

「アンタそれ、自分から悪役になるって言ってるのと同じよ」

「そう言ってるんだよ。時間が無い。さっさとふりをして」

 

 私としてはここで捕まるぐらいなら、相棒が片手にある以上、脱出してやるって思うことができてたんだけど、私はともかくユニはこの国にいなきゃいけない存在で、一緒に逃げるとかはできない。それは私が脱出できてもユニは捕まるってことで、ユニが私のせいでそんなことになるのは自分で自分が許せなくなる。

 だからそう言ったんだけど……

 

「そんなことできるわけないじゃない! 自分でやった行動で、友人を悪役にするなんてまっぴらごめんよ!」

「じゃあどうするってのさ! このままじゃユニは容疑者を庇った悪い人ってなっちゃうんだよ!?」

「ケイが勝手に疑ってるだけでアンタはマジェコンヌじゃないんでしょ!? なら後でそれを証明すればいいだけじゃない! 今はそのためにもアンタは逃げなきゃダメなの!」

「友達を見捨てるぐらいなら冤罪被って牢屋ぶち込まれた方がマシだよ!」

「そんなのアタシが許さないわよ! それになんでアンタはそう自分を大切にしないのよ……!」

「…っ」

 

 考えてなかった。そう言ったらまた怒られるかな。

 ただ自覚がなかった。私が私を大切にしてなかったとは思ってない…ううん。表面上の心理はともかく、行動や考えが自分を大切にしないようなものを選択してた、心の奥底ではそう思ってたかもしれないなんて思ってなかった。

 ただ周りの為にとか、友人や恩人のために考えてたってだけで、実はそれはその後の自分を無視した考えだったのかもしれない。

 それをユニに気付かされる形でも今気付くことができたことは幸運かもしれない。

 ──でもやっぱり気付くのが遅かったのかもしれない。

 

 コンコン。

 

「っ……!」

「ケイっ……!」

「やあ、言い争いは終わったかな?」

 

 いつの間にか開けられていた扉の前に立つのはこんな状況になった原因である教祖の姿。その後ろには先ほどの女性職員の姿と、男性職員達がいる。

 五人。察知した通りだ。

 元凶である教祖には、私もユニも睨むような視線を送ってしまう。

 その視線を教祖は「やれやれ」と肩をすくめると、私の方を見た。

 

「ルナさん、確かめたいのだけど、先ほどの取り調べで言ったことは本当かな?」

「…どれを指してるのか分かりませんが、私は誤魔化しはしても、嘘は吐いていませんし、諦めた後からは聞かれたことは全て誤魔化しもせずに答えましたよ」

「記憶喪失のことも?」

「ええ。そうですよ」

「え…? ケイ、今なんて……?」

「おや? ユニは知らなかったのかい?」

「知らないわよそんなの!? 記憶喪失って……ルナ、アンタ記憶を失くしてたの!?」

「う、うん。一か月するかしないかぐらい前から失くしてるよ」

「どうしてそんな大事なこと早く言わないの!」

「だ、だって訊かれてないし、別に話すようなことでもないし……」

「それもそうだけど……!」

「ユニ、落ち着いて。今は僕の方を先に済ませてもいいかな?」

「…分かったわよ」

 

 不満気に引き下がるユニを見てから、教祖は更に質問してきた。

 

「ではあなたがこの国に来た初日の行動はあなたなりの敵情視察だったということも、あなたが犯罪組織の人間ではないということも本当だね?」

「はい。見学の方は失敗でしたけどね」

「で、ルナさんがその行動に出たきっかけは人気のない路地裏で犯罪組織の男性に声をかけられたというのも?」

「はいそうです…って、だから本当のことしか話してないですって。どうせならその端末に録音されてない、私が訊かれてないことでも訊いてください」

 

 私が女性の持っている板状の端末を視線で指しながら言う。

 すると教祖は少し考えてから口を開いた。

 

「なら男性は何と言って見学させようとしたんだい?」

「確か…最初は仲間を増やすという任務を自分は担ってて、それで声をかけたって言われました。それで私が勧誘ですかって訊いたらそれを認めて、私は犯罪組織は悪い奴らと聞かされてるから無理と断ると、『構成員の全員が全員悪い奴ではない』とか『人助けをしようと思ったことは無いか』とか言って『せっかくだから見学してよ』と誘われました」

「他に勧誘するような言葉をかけられなかったかい?」

「そうですね…見学も終わるぐらいの時にお茶をして、その時その男性と、他の構成員達の過去を教えてもらいました。男性の話だと『浮気したって冤罪で慰謝料とか取られて、仕事や家を失ってたところを四天王の一人に助けられた』って」

「やはりそうか」

「…“やはり”?」

 

 『やはり』ってことは私の回答を教祖は知っていた? 

 でも私、これを誰かに話したのって今日が初めてのはずだけど……

 

「実は今回ルナさんだけ残って貰ったのはその男性について知りたかったからなんだ」

「………はい!?」

 

 ど、どゆことどゆこと!? 

 え? ちょ、ちょっとまって想定してないことばっかりで頭が追いついてない気がするんだけど!? 

 

「ちょっとケイ! ルナだけ残したのってルナがマジェコンヌじゃないかって疑ってたからじゃないの!?」

「ああ、疑ってはいたよ。だが今日、ゲイムキャラからネプギアさんが力を受け取った後、ゲイムキャラはルナさんにも力を分けていた。それは彼女がゲイムキャラにも認められたってことだろう?」

「『だろう?』と訊かれても、私にはさっぱりなので……」

「あの場所でこの国を守っているゲイムキャラは長いこと存在している。だから相手の本質を見抜くことが出来るようでね。もしルナさんが犯罪組織の人間なら、ゲイムキャラは彼女に力を渡すことは無い。そのことを報告で受け取ってからは彼女のことは勘違いだったとこちらでは処理しているよ」

「で、でもそっちの職員さんが『牢屋に入れられることも覚悟しとけ』って!」

 

 私が思わず指で指してそう言えば女性職員は、

 

「私はそういう考えも頭に入れておけば、どんな結果になっても心構え出来るとしか言ってませんし、そうなるとは言ってませんよ」

 

 と、すまし顔で淡々と答える。

 そ、そりゃあの時私の言葉を肯定する言葉は一切彼女の口からは出てなかった気がするけど、だからって勘違いするような言い方しないでよ! 

 

「く、くぅ……」

「二人が何を勘違いしていたのか分からないけど、今回ルナさんに色々と訊いたのは、その報告が間違いではなかったかという事実の裏付けと、その男性…この国で指名手配している犯罪者と思われる人物についての情報を少しでも得ようと思ったからなんだ。勘違いさせてしまって申し訳ない」

「…はい? 犯罪者? あの人が?」

「ああ。その犯人は浮気案件で罪に問われたことは無いが、そうやって嘘の話をでっちあげ、相手の良心を弄ぶ人間でね。彼のことを可哀想だと同情した人間からお金や財産などを奪っていく手口をよく使っている。恐らくその手口でルナさんを犯罪組織に加入させようとしたんじゃないかな」

 

 よーしなんだか色々と私にとっての新情報が一気に沢山頭に入ってきて処理しきれないんだけどー? 

 

「ちょ、ちょっと頭の中混乱してきたので、一度整理させてくれませんか?」

「いいよ」

「えっと…まず私への勘違いは既に解けてて、今回のことは私を逮捕とかするためのものじゃない…んですか?」

「ああ」

「で、私だけ止めたのは、その勘違いさせてしまった原因である組織見学を誘ったその指名手配犯と思われる男性についてそちらが知りたかったから……」

「そういうこと」

「…じゃあ何で私から月光剣を取り上げようとしたんですか?」

「ルナさんはきっとまだ僕達が勘違いしてると思ってると思ったからね。それでもし逃げ出そうとして暴れられたら困ると思って」

「疑われてることに気付いてるって……」

「もう疑われてないってことには気付いてないかも、という確認だね」

「な、な……」

「“な”?」

「なんでそれを早く言わないんだよ!!」

 

 そう言ってから驚いたのは自分の声の大きさ。

 ずっと気掛かりだったことが、いつの間にか知らないとこで解決してたどころか今回の件にほぼ関係無いと知った時の感情と、そもそも勘違いするなという怒りと、無意味だった「牢獄入れられるかも」という思考が全く無駄だったと分かった感情とか諸々。全部の感情をいっぺんに込めた言葉が思ったよりも大きい声を出したことに驚いた。

 私、こんな大きい声出したの初めてかもしれない。

 

「…その、本当、申し訳なかった」

 

 私の大声に圧倒されてなのか言葉が途切れながらも頭を下げて謝ってくる教祖。後ろの職員達も教祖と同じように頭を下げる。

 普段全く声を荒げるようなことをしてない私だからこそ、そうやって感情をいっぱい込めた怒声は効果覿面だった。

 でも私の怒りはそれで終わらなくて、むしろ色々な感情が全て怒りに変換された今、その言葉もまた火に炭を入れるようなもので、

 

「申し訳ないとかじゃないよ! 私、すっごく不安だったんだよ!? このままじゃ牢屋行きだとか友達と会えなくなるとか裏切られたと思われるとか皆から酷いことされる思われるとか色々嫌な想像しちゃったんだよ!? それら全部こっちの考えすぎだけどさ! それでも最初からそう言われればそんな考えもせずにいられたんだよ!? 全く不安になる必要もなかったんだよ!? 不要な考えもせずに済んだんだよ!? そっちが面倒な手間をせずに君が最初っから私の相手でもしてその場でこっちの勘違い解いてくれればよかったんだよ!? というかさっき「何を勘違いしてるのか分からないけど」って言ってたけど実は最初っから知ってたよね!? どうしてさっさと解いてくれなかったのさ!!」

「…こちらにもこちらの考えがあってだね……」

「んなもん知らないよ!」

「ま、まあまあルナ。落ち着きなさい、ね?」

「……ふんっ」

 

 感情のままに思ったこと言うと、教祖はこちらの顔色を見ながら言う。

 でもその言葉はやっぱり燃料にしかならなくて……

 ユニが私を落ち着かせようとして、ようやく私の怒りは少し落ち着いた。怒ってるのは変わらないけど。

 

「ケイもケイよ。ルナの言う通り、アンタがきちんと誤解を解いていればよかったのに」

「すまない。もし彼女が本当は黒だったらと考えると、何も言わず解かずでこちらの質問に答えさせた方がいいと思ったんだ。それで本人の口からはっきりと聞くことができれば、誤解を解こうと考えてね。ルナさんも、本当に申し訳なかった」

「………」

「ルナ……」

 

 何度謝られても許そうとは思えない。それは感情を優先させてしまっているから。

 そんなの子供みたいだ、なんて自覚はするけど、それでもしばらくは無理だろう。

 

『ユニ様、申し訳ないのですがしばらくの間マスターはそちらの教祖を許すおつもりはないようです。ですので、この件に関しましては時間を置いてからまた……』

「…そうみたいね。ほんと、子供みたい」

「子供でも餓鬼でもなんでもいいよ」

「…はぁ。とりあえずケイ、ルナはもうここから出ていいのよね?」

「ああ。こちらの用は終わったからね」

「なら後のことはアタシに任せなさい。ルナをルウィーへ送ればいいんでしょ」

「だが──」

「この件はまた後でってのかこの子の剣の判断なのよ。だからケイは下がって」

「剣の判断? どういうことだい?」

「その辺りは後で教えるから、ケイ」

「…分かったよ。後のことはユニに任せて、僕は引き下がらせてもらうよ」

 

 そう言えばそのまま何処かへ行く教祖。職員達も解散って感じでバラバラに何処かへ。

 その場に残ったのは未だに怒ってる私。そんな私を宥めることも煽ることもなく静かに状況を把握し判断する相棒。それから怒り続ける私に戸惑うユニの二人と一体だけ。

 それだけになると、私の怒りも冷えてきて、代わりに思うのはユニのこと。

 ユニに迷惑をかけてしまった。私のせいで勘違いをさせてしまった。不要な心配をさせてしまった。いらぬ気遣いをさせてしまった。

 ユニ、怒ってるかな……? 

 

「……はぁ」

「っ……」

 

 溜息が聞こえて、思わず体をビクってさせてしまう。

 この部屋にいるのは私達だけで、月光剣は溜息なんて吐けないから、当然溜息を吐いた人物はもう一人なわけで。

 恐る恐るユニの顔を見れば、こちらを睨むユニの視線に体を震わせる。

 これ絶対怒ってる! 

 

「ユ、ユニ…ごめん、迷惑かけて…勘違いさせて…要らない心配かけて…要らない気遣いさせて…ごめんなさい……」

「……はぁ」

「っ……ごめん、なさい……」

 

 再び聞こえた溜息に今度は大きくビクってなって、もう言葉を出すことも怖かったけどなんとか一言だけ絞り出した。

 その後は少しの間だけ互いに無言で、その時間も空間も私には居心地の悪いものだった。

 でもこんな状況で勝手に外に出るなんて私には出来なくて、ユニの言葉を待つしかなかった。

 

「…ねえアンタ」

「は、はい……」

「いやなんで敬語……」

「ご、ごめん……」

「…よし。ルナ、今から謝ったら一回に付き一回ペナルティね」

「え…? ペナルティ……?」

「そうよ。で、ひとまず言いたいことがあるんだけど」

「う、うん……」

 

 どんなことを言われるのか。もしかしたら嫌いになってしまったとかそういうことを言われるんじゃないかって怖がりながら言葉の続きを待つ私。

 やっぱり、ユニは睨むような視線を送ってた。

 

「アンタはまず、自分に自信を持ちなさい」

「…自信を……?」

「そう。見てるこっちが分かるほどアンタは常に消極的というか弱気に見えるの。違う?」

「ちがわ…ないけど……」

「アンタは別に悪いことをしているわけでもないし、間違ったことをしているわけでもないのに自分の意思が弱い。なのに時々アタシが驚くようなことをすれば、アタシに気付かせてくれることもある。さっきのだって怒って当然で、ケイのことを怒鳴っても別に怒られることじゃないわ。なのになんでその後そんなすぐ謝るくらい弱気になるのよ」

「だ、だって…ユニ、怒ってないの……?」

「どうしてアタシが怒るのよ」

「…私、教祖に怒鳴っちゃったから……」

「だから怒って怒鳴られるのは当然のことを、アイツはしたのよ」

「…私、ユニに色々と迷惑かけた……」

「むしろ迷惑かけたのはこっちで、こっちが謝ることよ。勘違いなんてアンタがさせられてたんだし、気遣いもケイが悪い」

「…心配とかさせた……」

「し、心配するのは同然よ! だってアタシ達、と、とと、友達っ…でしょ?」

「…ユニ……」

 

 ユニの言葉は私の心を照らしてくれるみたいで、私って単純だなって思う。

 でも、ユニが本当に私のことを大切に思ってくれてるって。友達だって思ってくれてるってことに私の心は赤から青、そこから黄色になったみたい。心がポカポカした。

 

「ち、違うの……?」

「…ううん、違わない。ユニは友達だよ」

「そ、そうよね! …って、そういうことを言いたいんじゃなくて……」

「?」

「と、ともかく、アンタはあんまり弱気になるんじゃないの! 常に強気でいてなんて言わないし、間違ったことを自信満々にやられても困るんだけど。でも弱気になり過ぎるのはダメ。分かった?」

「う、うん。分かった。努力してみる」

「うん。いい返事よ」

 

 笑顔でそう答えるユニに、私の中の雲は完全になくなってお日様さんさん。…なんてね。

 私のことを心配してくれたのも、友達と言ってくれたことも、私のためにアドバイスをくれたのも、こんな気持ちにさせてくれたのも、全部込めて私はこの言葉をユニに送る。

 

「…ありがとうっ」

「…どういたしまして」

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ行きましょう。駅まで送るわ」

「あっ、そうだ。ネプギア達を追いかけなきゃ。……って、あ」

「…? どうしたのよ?」

「さ、財布…お金…ない……」

「は? もしかして失くした?」

「ううん。持ってるんだけど、財布の中身でルウィーまで行けるか不安……」

 

 現在の所持金、ざっと見2000クレジット。

 これはラステイションにいる間にネプギア達と行ったクエストで山分けしたお金が貯まったもの。

 実はもう一つ財布があって、その中にはいっぱいお金が入ってるけど、それはイストワールさんが『もしもの時に』って用意してくれたもの。そう簡単に使うことは出来ない。

 でも今がその『もしもの時』だったら……

 

「…こうなったら山とか谷とか越えていくしか……」

「ルウィーって雪国って言われるぐらい年中雪が降ってて、加護の効かない街の外だとすごく寒いわよ。雪も積もってるから、足元も悪いわね。ラステイションからルウィーに行くにはとっても高い雪山を越えなきゃならないんだけど…それでも越えてく?」

「こ、根性で……」

「遭難するか体力が尽きるのがオチだからやめなさい。そうじゃなくても今回アンタがネプギア達と別行動を取る羽目になったのはアタシ達のせいなんだから、こっちでルウィーまでのお金ぐらい用意するわよ」

「…分かった。利子とかはどんな感じになる?」

「だから用意! あげるってこと! 貸すわけじゃないんだから安心しなさい…というかどうしてそういう発想になってすぐそういうこと考えるのよ?!」

「あ、私借金あって……」

「記憶喪失なのにあるの!?」

「プラネテューヌの教会に私の部屋を一つ設けさせてもらって、そこに置くために買った家具とか衣類や日用品の代金を教会が肩代わりしたから。利子はほぼつかないなんて好条件だよ」

「…もうアンタらにツッコむのも疲れたわ……」

 

 ユニは呆れたようにそう言う。

 でもアンタ“ら”って私以外もだよね。誰だろ。ネプギアかな? 

 

『………』

「ともかく行きましょ。まだルウィー行の交通は残ってるはずだから」

「はーい」

『はーい』

「…アンタら似てるわねぇ……」

「そう?」

『マスターと似てると言われて嬉しいですユニ様』

「そこで喜ぶのね……」

 

 呆れ顔が続いたまま、私達は部屋を出て、教会も後にした。

 時刻はもう夜。ダンジョンからラステイションに戻って来たのが夕方になる前ぐらいだから、ネプギア達と分かれてから結構時間が経ってた。

 それでも夕食時だからお腹は減っても電車はまだ動いてる。それが無くともタクシーって手段があるから、今日ルウィーに行くことは可能だろう。

 夕食は電車の中で駅弁を食べるってことにして、ユニや月光剣と会話しながら駅へ向かう。

 その中で私が質問したのは、どうして剣がユニと会話できるのかってこと。

 ユニや剣の話を聞くに、どうやら私が信頼する女神、もしくはそれに近い存在であれば剣の念…つまり声を聞くことができるんだって。それでも剣の意思で私だけが聞こえる声。信頼する女神も聞こえる声とかって範囲を選択できるみたいだけど。

 で、いつからかって訊いたらまさかの今日。この国のゲイムキャラから力を貰った時からなんだって。

 剣もパワーアップした…というところで思い出したのは、四つに分けて各国のダンジョンに撒いたっていう力の回収。忘れかけてたけど思い出した。ラステイション分はまだだった。

 それも訊いたら、まさかのゲイムキャラのいたダンジョンが、その力を撒いたダンジョンで、しかもモンスターを倒しているうちに回収していたって。自動回収でした。

 うん…月光剣の隠された機能がとんでもないです……言ってないだけみたいだけど。

 で、忘れてたで更に思い出したのはゲイムキャラから『持ってろ』と言われて剣に保存してたマナメダルのこと。こっちは色々ありすぎて今日のことだったのに忘れてた。教祖に会った時点で渡しておくべきだった。

 なので代わりにユニに渡しておく。駅で電車に乗れば、しばらくはラステイションへ訪れないから、今のうちに渡しておかないと、次いつ渡せるか分からないから。

 

 そんな感じで話しながら駅に着いて、駅員さんにルウィーに行くにはどれに乗ればいいのか訊いてみた。

 その結果……

 

『申し訳ありません。只今大雪による影響でルウィー行きが運休してまして、今のところ回復の見通しは立っておらず……』

『じゃあ明日も無理そうですか……?』

『自分からは何とも……。運行可能な天気になるまでは休止させていただいております。誠に申し訳ございませんが、何卒ご理解ご協力のほど、よろしくお願いいたします』

 

 なんて頭を下げられてしまったし、ここでどうこう言っても天気なんてどうしようもないので引き下がりました。

 で、電車が無理なら車はってなったんだけど……

 

『あールウィーですか。すみません、今ルウィーの国境付近で大雪が吹き荒れてまして、道路が走行できない状態なんですよ。さすがに自分だけならともかく、お客さんを乗せて走行なんてしたら会社に怒られますし、問題が起きた時の責任も取れませんからね。申し訳ないですが他を当たってください』

 

 と言葉だけ見ると気持ちが伝わりにくいけど、本当に申し訳なさそうにタクシードライバーさんに断られてしまった。

 つまり今、ルウィーは他から隔離された状態みたい。天気のせいで、一時的にだけど。

 で、大雪がいつ止むかもわからず、とりあえず今日は無理ってことが分かった。ネプギア達から連絡が無いってことは、ネプギア達はどうやら大雪になる前に電車に乗れたみたい。今頃到着してるのかな……? 

 

「…まさか大雪でルウィーに行けないなんてね」

「…こうなったら歩いて……」

「大雪ならそれこそ遭難か行き倒れよ! …はぁ。仕方ないわ、今日は諦めてラステイションにいなさい。こっちで宿を手配するわ」

「…ホント、申し訳ないです」

「あら、謝ったからペナルティね。もう忘れた?」

「え、あれまだ続いてたの?」

「ええ。ってことで、アンタと約束したお茶するって話、あれアンタのおごりね」

「うん、それくらいならいいよ。…でもどうしよう。ネプギア達には連絡を入れるけど、あんまり長いこと離れてるのもあれだし……」

「まず宿を取ってから考えましょ。とりあえずケイに連絡して……」

 

 ってことで私はアイエフさんに、ユニは教祖に電話する。

 私の方は向こうにも大雪で電車が運休してるって話は知ってたみたいで、話はスムーズにいった。

 で、電話を終えてユニの方を見ればユニも同じくらいで電話を終えてた。ただまあユニの顔が言いづらそうなものになってるけど。

 まさか何か悪い報告が……? 

 

「…ケイがね、『一泊程度なら教会に泊まればいい。部屋? ユニの部屋に泊まればいいだろう?』って……」

「…つまりユニの部屋にお泊り?」

「…まあルナがいいならね」

「わぁっ!」

 

 それってお友達の家にお泊りってやつだよね! すっごく楽しみになってきた! 

 ルウィーに行けないって知った時はどうしたものかって思ったけど、こういう展開なら大歓迎だよ! 

 

「えっと…どうする?」

「行く! 泊まる! 必要なら教祖のことも許す!」

「そ、そんなに喜ぶこと?」

「だって楽しそうだから!」

「アタシの部屋に泊まるだけよ?」

「それがワクワクなんだよ! だってもっとユニと一緒に時間があるってことだもんね!」

「そっか、そういうことよね。なら来る?」

「行く!」

 

 きっと今の私は目をキラキラ輝かせてる。ユニもユニで迷惑そうじゃなくて、それどころか嬉しそうに見えるのは私の気のせいじゃないといいな。

 そんなわけで行きと同じ道を歩くんだけど、足取りはすっごく軽くて、軽過ぎてスキップしそうになってユニに「さすがにそれはやめて。恥ずかしい」と言われたので抑えた。

 それで帰りの途中でユニのオススメのお店で夕食を取る。何故かカレー屋だったんだけど、ユニの好きな食べ物かな? 中辛で食べました。

 

 夕食も取って、教会に着いて、再び会った教祖にはご機嫌な気分で会ったので「さっきのは許す! そして泊まる提案してくれてありがとう!」と元気に言ったら逆に引かれた。解せぬ……

 ともかく寝る準備とかもして…でも寝るまで時間があったからユニの部屋でゲームで対戦したり協力プレイしたりして、夜更かししないうちに寝ようとした。

 でも興奮してた私は布団を被ってしばらくしても寝れなくて、ユニもそうみたいだったから結局遅くまでお話ししながら夜更かししてしまった。

 次の日、いつも起きる時間に剣が起こしてくれなかったら寝過ごしてたかもしれないなって。寝不足気味だけど、全然辛くない目覚めでした。

 

 

 

 で、結局考えてなかったルウィーへ行く手段。今日も無理らしく、ネットのホームページには運休の文字。

 それを私より後に起きたユニに見せると、二人して悩むことになった。

 天気が悪いってことは、空の交通も難しい。こうなったら一旦プラネテューヌに戻ってからプラネテューヌ側の交通で行った方がいいんじゃないかって考え始めてた時、月光剣が提案を出した。

 

『海から行ってはどうでしょう?』

「ルウィー行の船ってあるのかしら……貨物船ならあるとは思うのだけど……」

『でしたら先日のホエールはいかがですか? あの者ならルウィーまで行けると思いますよ』

「おおっ! それだよ相棒! エル君って確か君が言うには海の中ならとっても強いんだよね? もし私のこと忘れてなければ頼めば連れてってくれるかも!」

「でもそのホエール、何処にいるか分かる? 海にってならもうどこにいるかも分からないわよ?」

『確かにユニ様の言う通りです。ですが、ここで諦めて何もせず天気が良くなるのを待つよりかはいいかと。ひとまず彼と別れた場所まで行ってみましょう』

「そうだね!」

 

 昨日のことが楽しかった私は朝からテンションが高くて、気分が良い。

 しかしまさかエル君を助けたことがこうやって役に立つとは思わなかった。エル君、私のこと覚えてるかな? 

 …ちなみに『エル君』っていうのはあのホエールに私が勝手に付けた名前ってことは、きちんとユニに説明しました。




後書き~

次回ラーメン食べて終わりです。
それでは次回もお会いできることを期待して。
See you Next time.
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