月光の迷い人   作:ほのりん

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第二十七話『降り立つは真っ白な大地(ルウィー)

 昼食をとって少し経った頃、私はルウィーの街をぶらぶらと歩いていた。

 というのも、先ほどNギアでネプギアやアイエフさんに電話をかけたのだが、どちらも繋がらず、ひとまずメールは送って返事が来るのを待ってたのだった。

 真っ白な雪と可愛らしい街並みが合わさった風景はまさにファンタジーな感じがして良いんだけど、今の私は観光に来たんじゃなくて旅の途中。

 いっそこの国の教会に行こうか、って思ってもラステイションの件が頭をよぎる。あの出来事はしばらくの間、私にとってトラウマになりそうだ。向こうの勘違いとこちらの勘違いが重なった結果だけどさ。

 じゃあギルドか?って思っても、どこにギルドがあるのか。地図を見るか、人に訊けばすぐに分かるだろうな。

 ならば、と誰に声をかけようか迷っていると、小さな人影が目に入った。

 小さな少女…というより幼女。水色と白の帽子やコートを着て、肩まで伸びた栗色の髪をした女の子。不思議と彼女に目が留まっていた。

 可愛い子だな、って思うのは誰でも同じだと思う。でも私は彼女の変な行動に疑問を持った。

 女の子はずっと下を見ながら、時々草木を分けてあちこち見ていた。

 それは必死に何かを探しているような行動で。

 じっと見てると、一瞬見えた彼女の表情は今にも泣きそうだった。

 だからついつい私は声をかけていた。

 

「こんにちは」

「ふぇっ…こ、こんにちは……(ぺこり)」

「何か探してるの?」

「うん……(こくり)」

「私も探すの手伝うよ」

「ほ、ほんと……?」

「うん。自分の手が届く範囲で困っている人がいたら、手伝ってあげたいから」

「…ありがとう、ございます」

「お礼は探し物が見つかってからがいいな。それで、何を探してるの?」

「ペンを、さがしてるの……」

「ペン?どんな?」

「えっとね、こんなかんじの……」

 

 女の子は身振り手振りでペンの特徴を教えてくれる。その姿が可愛いなと思うけど、今は彼女の落とし物を探すのに集中しなきゃ。

 

「ふむふむ、なるほど……ちなみに落としたのはいつ?」

「昨日。わたし、悪い人につかまって…その時におとしたと思う……」

「……はい?」

 

 悪い人に捕まった?

 それって大丈夫なの?こんな小さな女の子が捕まるとかこの国の警備大丈夫?

 い、いや、こうして女の子が無事に街にいるんだから、解決はしたんだよね。なら私が気にすることでもないね。うん。

 

「ま、まあいいや。とりあえずその悪い人に捕まってから君が通ったルートを辿れば、何処かにはあるはずだよね。まずこの辺りを探せばいいのかな?」

「うん…あっちの公園でつかまっちゃったの……」

「そ、そう……」

 

 あっちの公園…小さい公園でも人気(ひとけ)が無いわけでもないのにそんなとこで犯行に及ぶって大胆だなその犯人……後警備の人達ィ……

 

「さて、ペンはどこかなー?」

「ペンさん…どこ……?」

 

 女の子と一緒に道に落ちてないか、垣根に落ちてないか、と隅々まで見るように探していく。

 しかし全く見つかる気配がない。もしかすると昨日のうちに誰かが見つけて交番に届けた可能性もある。

 私はキョロキョロと辺りを見渡すと、丁度近くに交番らしき建物を発見。女の子に一声かけてから交番に行き、ペンの落とし物が無いか訊いてみる。しかし昨日は何の落とし物も届かなかったと。念の為本部の方にペンの落とし物があったかどうか聞いてもらうと、ペンの落とし物自体はあったが、私が女の子から聞いた特徴のペンはなかった。

 がっくりと肩を落としながら女の子の元へ行くと、女の子の方も見つかってないようだ。

 こりゃ長期戦になりそうだな……

 

「ふぇ…ペンさん、見つからない…ぐすっ……」

「わっ、だ、大丈夫だから!絶対見つけるから!泣かなくていいから、ね?」

「…うん」

「じゃ、じゃあ次の場所を調べてみよっか」

「わかった(こくり)」

 

 泣きそうになる女の子を宥めて、場所を移動しながらしらみつぶしに探す。

 しかし見つからない見つからない。全く見つからない。

 というか一体何処まで行ったのか。こうやって探してるのを見るに車で移動したわけじゃあるまい……

 女の子を無理矢理引っ張っていく犯人の様子…よく警備の人捕まえなかったな。或いは見つけなかったのか……

 って、そんなの考えるだけ無駄だった。とにもかくにも探そう。

 

 

 

「…で、ついには大きな建物の中かぁ……」

「ここにつれてこられたの……」

「まあ隠れるには丁度いいのかな?」

 

 そう言いながら私達はとんでもなく大きな建物の中に入っていく。これ某サイトや某メッセみたいな会場だな…というか外の看板に『ルウィー国際展示場』って書かれてたからそれなんだけど……

 

「ここまで大きいと何処を探せばいいのか……」

「えっとね、あっちに行ったの」

「あっち?ならその方向で探せばいっか」

 

 女の子が指でその方向を示してくれたので、私はその方向に向かって地面をくまなく探す。

 キョロキョロ、ガサガサっと……

 

「…おねえちゃん」

「……ん?私?」

「(こくり)」

「“おねえちゃん”か…それはそれで悪くない……っていやいやいや、何いたいけな女の子相手に姉って呼ばせようとしてるんだ私は」

「……?」

「あっ、こほん……。わ、私のことは名前で呼んでくれるといいかな。私の名前、ルナっていうの」

「ルナ、ちゃん……」

「そうそう」

「わたしはロム……」

「ロムか。それでロム、私に何か聞きたいことでも?」

「えっとね、ルナちゃんはどうして、てつだってくれるの?」

「どうしてって、声をかけたときも言ったけどさ。手の届く範囲で困ってる人がいたら助けるか、手伝ってあげたいからね」

「手のとどくはんい?」

「うん。私の手が届く範囲。横断歩道でおばあさんが重い荷物を背負ってたら手伝うし、道で迷子の子供がいれば、その場で探すか交番に届けて親が来るまで一緒に待つ。落とし物をしちゃった子がいたら一緒に探す。そういう自分で出来ることがあれば積極的にやっていきたいなって思ってるの」

「…すごい」

「え?」

「すごく、いいこと」

「そ、そっかな?」

「うん…(きらきら)」

 

 キラキラとした目を向けてくるロムに、思わず私は苦笑い。褒められて嬉しいと、素直に思うことは出来なかった。

 …だってそれって、自分の手が届かないことには見て見ぬふりをするってことだから。

 

「…かなしそう」

「…え?」

「もしかしてわたし、いやなこと言った……?」

「そ、そんなことないよ。君みたいな可愛くて素直な子に褒められて、私すっごく嬉しいよ」

 

 どうやら感情がまた表情に出てたみたいだ。ロムに心配をかけてしまった。

 慌てて顔を取り繕ってロムに笑った表情を見せる。

 ぎこちなかったかな。まだロムは心配そうにしてる。

 このままだと誤魔化せない。なら他のことに気を移せばいい。

 

「ほら、それよりペンを探さないと。暗くなったら探しにくいからね」

「……うん(こくり)」

 

 ロムは追求せずにペン探しへ戻る。

 私も黙ってペンを探す。せっかくいい雰囲気になりかけてたのに、私、馬鹿だ。

 あまり良い雰囲気とは言えない中探す事数分、ついには建物の奥まで来ていた。

 

「…ここに無かったら無いってことか、見落としがあったか……」

「ふぇ……」

「あ、だ、大丈夫だから!まだ見つからないと決まったわけじゃないから!」

 

 ああもうっ!私何回この子を泣かせる気だ!馬鹿馬鹿馬鹿!

 

「ぐす…うん……」

「ほっ……」

 

 よ、よかった。泣かせずに済んだ……

 …うん。女の子が泣くのってこうも保護欲?母性本能?が刺激されるとは……

 一昨日のユニもそんな感じだったりしないかな?…しないか。

 

「ほら、探そうよ」

「うん……」

 

 涙を引っ込めて頷いてくれたロムに安心しつつ、私達は再び探し回る。

 と言ってもこれだけ広いとペン一つ見つけるのに一苦労しそうだな……

 

「……ん?」

「どうしたの?」

「これ、戦闘の痕かな?」

 

 そこに残されたのは斜めに食い込む溝が三本。多分この感じは爪か何かで引っ掻いたものだ。でも人の爪とかじゃなくて、モンスターの持つ鋭い爪や、アイエフさんの使うクローのような感じ。

 周りもよく見れば、この辺りには他にも戦闘の痕が残されてる。真っ直ぐな横線の傷は剣か何か。窪みは何かが当たった衝撃。不自然にある氷は…なんだろう?魔法かな?

 

「あ…えっとね。昨日のたたかいのだと思う……」

「じゃあロムはここで助けられたの?」

「うん。ラムちゃんにたすけてもらったの」

「へぇ、そうなんだ」

 

 そのラムちゃん?が誰かは分からないけど、彼女の名前を出したロムの顔が明るくなったから、ロムにとってそのラムちゃんは好きな人なんだろうね。

 

「あ、でもね……」

「でも?」

「えっとね、ほかにもたすけてくれようとした人がいたんだけど……」

「…その人達はロムを攫った犯人に勝てなかったんだね」

「ち、ちがうの。たすけてくれようとしたんだけど、その人がわたしをひとじちにしたから……」

「あー、攻撃出来なかったのか。で、君の言うラムちゃんはそんな状況の中君を助けてくれたと。なるほど」

「うん…それでね、このきずはたぶんその時のだと思う」

「そういうことか。…もしかしてモンスターとも戦ったの?」

「うん。その人がモンスターをよんで、そのモンスターと助けてくれようとした人たちがたたかったの」

「そっか」

 

 ということはこの傷はそのモンスターの爪の痕ってところなのかな。他のは剣を使ったものか、ぶつかった衝撃によるもの。氷は魔法だね。

 なかなか激しい戦いだったみたいだ。でも今ロムがこうしているってことは、大丈夫だったってことで気にしなくてもいいことだよね。

 

「ロムはその時動いたの?」

「うん。ラムちゃんといっしょに、犯人をたおしたよ(ぐっ)」

 

 うん。そんな拳を握ってポーズと付けても反応に困るな。というか“一緒”ですか“倒した”んですか倒せたんですか。

 …え?まさかロムは戦えるタイプの幼女……?

 

「つ、強いんだね……」

「ラムちゃんとなら、さいきょーだよ(にこにこ)」

「そ、そっかー……」

 

 自分より小さい子供が実は自分より強かった、なんてよくあることなのだろうか。

 …あぁいや、私やロムはそれぞれ別の意味で特例なのだろう。そう思っておこう。じゃないと心が持たない……

 

「ロムがここで戦闘したってことは、ペンがここに落ちてる可能性が大になったね」

「ほんと……?」

「うん。激しく動いたから落としたんだと思うよ。そうと分かったら、徹底的に探すぞー!」

「おー!」

 

 二人して右手を握って天高く勢い良く伸ばす。さっきまでちょっとだけ減少しかけてたモチベーションが上がったように感じた。

 それからさっきまでと同じようにあちこちを掻きわけるように、大豆の中から小豆を探すように…ってこれは探しやすかった。

 ともかく探してみると、これが案外簡単に見つかった。ペンは物陰に隠れていたわけでもなく、壁際の隅に落ちていたからだ。

 手に取って軽く見てみるが、特に壊れている様子もなく、汚れも拭けばすぐに取れる程度だった。

 私はハンカチでその汚れを拭き、ロムを呼ぶ。

 

「ロムー、見つかったよー!」

「ふぇ?あ、わたしのペンさん……!(ぱぁ)」

 

 どうやらこれで合っていたようだ。ロムは私の手にあるペンを見ると顔を明るくさせた。

 「はい、どうぞ」と渡せば「ありがとう!」と嬉しそうに受け取るロムを見て、私も釣られて笑顔になる。心の中もロムの嬉しそうな顔を見て穏やかで暖かい気持ちになってた。

 と、その時ふと今は何時なのかと気になり懐から白銀の懐中時計を取り出すと、時間を見た。二本の針はおやつの時間より少し前を指していた。お昼から探していたから、そこそこな時間をかけていたことになる。

 

「少し時間がかかっちゃったね」

「うん……」

「探し物も見つかったし、帰る?家まで送っていくよ」

「わたし、ひとりでかえれるよ?」

「そうかもだけど、心配だから、ね?」

「…わかった。わたしのお家、あっち」

「あっちだね。じゃ、一緒に行こうか」

「あっ…うん!」

 

 何故だかつい差し出した左手を、ロムは頷いて右手で握り、手を繋ぐ。

 寒いルウィーの、暖房のかかってない寒いホールの中で繋いだその手は、子供特有のとても温かい手だ。

 条件反射みたいに出した手だったけど、ロムが繋いでくれて嬉しくて、ロムの『家』に近づくまでは心の中がポカポカと暖かく、足取りも軽かった。

 …“近づくまでは”、だ。

 ロムに連れられて十数分。ロムと会った公園からすぐ近くに聳え立つお城のような建物。それはファンタジーな雰囲気のルウィーの国風とあっていて…というかもはやこの建物がファンタジー感を醸し出してて、他の建物が影響された、といっても過言ではないかもしれないような建物に、私達は確実に近づいていた。

 国民は言う。あれは、白き大地ルウィーの教会である、と。…前にアイエフさんから見せられた各国のパンフレットにそれぞれの教会の写真が載ってたから知ってるだけなんだけどね。

 で、冒頭でも言ったが、今の私はちょっとした教会恐怖症だ。…教会恐怖症ってなんだ?

 って自分で自分に疑問を持ちながらも、私は何とか足を動かしてロムに付いて行ってた。

 い、いや。大丈夫だよね?ラステイションの時はちょっと全部を知らない人から見たら勘違いされそうなことで勘違いされて、知らない間に誤解が解けてたってだけで、今回は私、まだ何もしてないよ?空腹に耐えかねてラーメン食べて困ってたロムに声をかけて一緒に落とし物を探しただけなんだし、いきなり捕らわれるようなことは絶対ないはず……

 そう頭では思ってても、感情の方は不安でいっぱい。でもロムを家まで送っていくって言った手前、ここで引き返すなんて出来るわけないし、そもそも教会に近づいてるってだけでロムの家が教会だなんてロムが女神候補生だったりしない限り大丈夫だって──

 

「ついた。ここだよ」

「……ははは」

 

 ロムが足を止めた先は、やはりというかなんというか……

 自分の考えが当たってないことを祈っていたはずだったのにね……

 

「どうしたの……?」

「えっと、ロムは教会に住んでるの?」

「うん」

「そっか…はは……」

 

 頷くロムに、私はまた乾いた笑いをこぼす。

 現実とは、非情である。

 

「い、いや。あんなことがここでもあるわけなんてないんだし、大丈夫大丈夫……」

「あんなこと?」

「あっ、な、何でもないよ。こっちの話」

 

 あの時のことをそう簡単に誰かに話せるわけないし、話すにも長くなりそうだったから誤魔化す私。ロムは好奇心で訊いてくるのかなって思ったけれど、そうでもなかった。

 とにもかくにもこれでロムは教会関係者ってことが分かった。そう、女神候補生だったりするはずはない。だってこれでロムが女神候補生だったとしたら、私はどんな確率で女神候補生と出会ってるんだよ。ユニとも互いに素性の知らないときに会って、再会した時に初めて分かったんだから。

 まあそういう考えがあるから、ちょっと気になるわけで。

 

「ロムはどうして教会に住んでるの?」

「どうしてって……?」

「い、いや。ほら、教会って女神様の住居なわけだし、そこに住むってことは結構良い立場なのかなって、ちょっとした興味なんだけど…あっ、勿論話したくなかったら言わなくてもいいからね」

「話せるよ。わたしね、ルウィーの女神候補生なの」

「…そっかぁ」

 

 …私、女神候補生に縁でもあるのか?

 凄い遭遇率ではないですかねこれ。候補生って確か4人だから、あと一人会えばコンプリートだよ。

 あぁでも女神候補生であるネプギアと行動してたら、そりゃ他の女神候補生とも会うことになるのかなぁ……

 

「…そうだよね。女神候補生なら犯人倒せちゃうよね」

「ラムちゃんと、いっしょだったから」

「…ねえ、もしかしてその『ラムちゃん』も女神候補生?」

「うん。わたしとラムちゃんは、双子の女神候補生」

「双子か。ならロムちゃんと似てるのかな」

「似てるって、よく言われるよ」

「そうなんだね、っと。いつまでも家の前で立ち話してちゃダメか。身体も冷えちゃうしね」

「だいじょうぶ、さむくない(きりっ)」

「気づかないうちに身体が冷えてることもあるんだし、早く暖かいお家に入ろうね。…家というか教会だけど」

「…ルナちゃん、さむいの?」

「私?私は平気だよ。不思議と寒さを感じにくいからね」

「ルナちゃんも、気づかないうちにひえてるかも。ルナちゃん、ルウィーの人じゃないよね?」

「え?う、うん。ルウィー国民じゃないと思うけど……」

 

 その辺りも記憶にないから答えにくい。でも前にプラネテューヌのゲイムキャラから記憶喪失前の私は旅をしてたって聞いたから、何処の国民かも分からないし、もしかしたらどの国にも所属してないかもしれないこともある。

 だからそう答えるしかない。しかし何故ロムは私がルウィー国民じゃないって思ったんだろう……

 そう疑問に思ってるのが顔に出てたようで、ロムは理由を教えてくれた。

 

「えっとね、服がみんなよりうすいから……」

「あー、そういうことか」

 

 みんな、というのは街の人々のことだろう。確かに待ちゆく人は皆厚着をしていた。そう言っても年中冬みたいな恰好をしているってだけ。

 その服装と比べると、確かに私の服装は軽装かもしれない。パーカーに厚くもないコート。ジーンズのズボン。後は首に下げる小さな青い月のネックレスだけだ。

 季節が秋ならともかく、真冬並みの寒さの街の外と、少しは暖かいがそれでも寒い街の中を歩くには薄着だった。それでも私は何とも思わないから、大丈夫だと思う。

 

「なら、教会の中入ろ?あたたかいよ」

「い、いやいや。そんなさっき会ったばかりの怪しい人をそう簡単に教会に招いちゃダメだよ」

「ルナちゃんは、あやしくないよ?」

「い、いやそれはロムの視点からであって、もしかしたら私は何か悪いことを企んでるかもしれないんだから……」

「ルナちゃんは、悪いことしようと考えてるの?」

「そんなわけないよ。悪い事はダメだもん」

「ならだいじょうぶ」

「いやだから大丈夫なわけ……」

「いこっ」

「え?いやあのちょっとー?」

 

 私の手を引っ張って教会の中へ行こうとするロム。その力は別に強くもないので、本気で抵抗すれば簡単に解けるほどだったけど、そんなことをしてまで中に入るのを拒否することもないし、もしそんなことをすればロムが悲しい気持ちになるかもしれないとか考えたら「まあいっか」とあっさり抵抗するのをやめる。それに女神候補生本人が私を中へ招いたんだし、あの件みたいな、あるいは類似した出来事は起きないはずだ。

 それにもしこの国の教祖に会えたら、ネプギア達のことを聞いてみるのもいいかもしれない。多分ネプギア達は教会に立ち寄ってると思うから。…前の国みたいに教祖に問題があって、アイエフさんが行くのを躊躇ってなければ。

 そういうのを考えたら、行くのを躊躇ってた教会への足取りは重くも軽くもなく、普通に進んでいった。

 

 

 

「ミナちゃん、ただいま」

「あっ、おかえりなさい、ロム。…おや?そちらの方は……」

「えっと、ルナと言います。ロム…様に連れられてきました」

 

 さっきまでは相手が女神候補生だなんて知らなかったから呼び捨てでいけたけど、分かってしまった後だと流石にそれじゃマズイと思い様付けで呼ぶことにする。

 …が、ロムは不思議そうな顔をした。

 

「……?ロムでいいよ?」

「いやいや、君が女神候補生だと分かった後だと流石に、ね?」

「ロムって、呼んでほしい……」

「えぇっと……」

 

 本人がこう言ってるならそう呼んでもいいかもしれないけど、相手の立場が立場だ。一般人である私がそう簡単に呼んでいいものか、と悩み、答えを求めるようにロムが『ミナちゃん』と呼んだ相手を見る。

 すると『ミナちゃん』はにこりと笑うと、無言で頷いた。

 それは何ですか。イエスですかノーですかいえ縦に首を振ったからそりゃ私の解釈違いでなければイエスなんだろうけどいいのそう呼んじゃって私いいよって言われたら呼ぶからね?

 

「その…ロム……?」

「うんっ(にっこり)」

 

 ああそんな名前呼んだだけで嬉しそうな顔をしないでくれ心がぴょんぴょんするんじゃ~……はっ!?ごほん。

 

「…はい。ロムに連れられてきた、ただの旅人ですはい」

「旅をされてる方でしたか。ようこそルウィーの教会へ。わたしはこの国の教祖で、西沢ミナと申します」

 

 そう言う女性は、水色の長い髪を下の方で二つ結びにしており、赤い眼鏡をかけ、赤いモルタルボードを被った若そうな人。私よりほんの少し高いかな、身長。

 ミナさんはそう名乗ると、疑問を口にした。

 

「それでルナさんはどうしてロムに……?」

「さがすの、てつだってくれたの」

「それは、えっと……?」

「代わりに説明するとですね──」

 

 ロムの簡単すぎる説明ではミナさんは理解できず、代わりに私が説明した。ロムがなくしたペンを探してて、そこに私が通りすがりに見て手伝ったことを。

 

「ロムのペンを…そうでしたか。ロムと一緒に探して下さり、ありがとうございます」

「いえ、見かけたから手伝っただけですから。お礼を言われるようなことは……」

「ルナちゃん(くいくい)」

「ん?」

「ありがとう、ございますっ……!」

「…まぁ、うん。どういたしまして」

 

 お礼を言われるようなことはしてない、と思うのは本心。お礼を言われるような存在じゃない、と思ったのは少し。

 けどロムが袖を引っ張り、頭を下げてお礼を言ってきたロムを見て、私はそれすらも拒否しようとしてユニの言葉を思い出した。

 だから私は彼女達のお礼を素直に受け止めることにした。

 

「ミナちゃん。ラムちゃんはどこ?」

「ラムでしたらお二人の部屋にいると思いますが……」

「ルナちゃんのこと、ラムちゃんにもおしえてあげたい。三人でいっしょにあそびたい」

「えっ」

 

 まさか会って一日も経たない女神候補生に『一緒に遊びたい』と言われる日が来るなんて思いもしなかった。なんだろう、彼女は私の涙腺に触れるのが得意なのかな?

 …って、そうじゃない。結構な時間をロムとのペン探しに費やしたが、私にはネプギア達と合流して、ゲイムキャラを探すという目的があるわけで……

 

『マスター。遊びたいなら遊べばいいと思いますよ』

 

 わ、私は別に遊びたいとは……

 

『こういったことの我慢は身体に毒です。それに今ここでこちらの女神候補生のマスターへの好感度を上げておけば、後々楽ですよ』

 

 …いや、そういう策略染みた考えで遊びたくもないんだけど……

 

『では素直に遊びたいから遊べばいいじゃないですか』

 

 いやだがしかしだな……

 

「こらロム。いきなりそのようなことを仰っては、ルナさんが困ってしまいますよ」

「あ…ごめんなさい(しゅん)」

「いやいや、謝らないで。今のは驚いただけで、困ってるわけじゃないから……」

「じゃあ、あそぼ?」

「う、うぅん……」

 

 頷きたい。遊びたい。

 けど私にはネプギア達と一緒にネプギアのお姉さん達を助けるという目的を持って旅に同行してる以上、勝手にそれはどうなのかと思う気持ちもあるからすぐに頷くことが出来なくて……

 でも月光剣も言ったことも、その通りだと思う。我慢は身体に毒。遊びたいから遊べばいい。それもそうなのだ。

 まあ多少合流するのが遅れても、私の分の足りない戦力なんて、ネプギアが何とかしてくれるだろうし、まだゲイムキャラも見つかってないだろうから大丈夫だよね。

 

「…分かった。いいよ。何して遊ぶの?」

「お部屋であそぶ。いこっ」

「えっ、いや、いいの?」

「うん」

 

 ごめんロム、君の返答は予想してたから聞いてない。

 なんて思いながらミナさんの方を見れば、少し考えて、頷いた。

 

「…ロムがこんなに懐いてるということは、ルナさんは悪い人ではないようですし、わたし達は構いませんよ。もちろん、この後ルナさんにご予定が無ければ、の話ですが……」

「私のは…まあ私がいなくても大丈夫だと思いますから、ロムともう一人の相手ぐらい出来ますが…え?本当にいいんですか?私自称旅人の一般人ですよ?ロムと会ってまだ数時間ですよ?そんな怪しさ満点の人をそう簡単に女神候補生の部屋にあげていいんですか?」

「わたしやロムには、あなたが怪しい人間には思えませんので」

「そ、そんなんでいいのかこの国」

「…“そんなん”でいいのですよ」

 

 その時、ミナさんの顔にちょっとだけ変化があったことを見逃さなかった私だけど、理由は分からないので追及はしない。もしかしたら私の言葉に少しイラっと来てしまったのかも?とか考えたら、訊くに聞けないから。

 

「ロム、おやつの時間には一度食堂へ来てくださいね」

「ルナちゃんもいっしょ……だめ?」

「もちろんルナさんもご一緒にですよ」

「えっ!?い、いやそんな…私は別に……」

「ロムとラムと遊んでいただける、そのお礼ですよ。是非食べて行ってください」

「…ま、まぁ…そう、仰るのなら……」

「やった…みんなでいっしょにたべよ?」

「う、うん…いいよ」

「えへへ……(にこにこ)」

 

 な、なんだろう…割と私の方がメリットばっかり受けてるような……

 ま、まあいいのかなぁ……

 もう何も考えまい。

 

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」

「はい。では3時になりましたら、ロムとラムを食堂へお願いします」

「…はい。任せてください」

 

 ミナさんの言葉に返事をしてから、ロムにまたも引っ張られるようにロムともう一人の部屋に連れていかれる。

 ロムは『ラムちゃん』とは双子と言っていたけど、ロムと似てるのかな?容姿は似てても、性格が違ったりするのかな。仲良くなれるかな。

 私の心は現金というかなんというか、いざ「遊ぶぞっ!」ってなるとワクワクしてきた。

 ロムとは仲良くなれたけど、もしかしたらもう一人とは仲良くなれないかもしれない。そんな不安があるけど、けど大丈夫だと思う。だってロムの双子の姉妹だし。

 だからこうして連れていかれるのもまた、楽しいし嬉しいと思える私の心だった。

 

 

 

 

 

「…先ほどの発言といい、容姿といい。彼女はどこかあの人に似ていますね。もしや彼女があの人の…いえ、まさかそんな偶然があるはずないですよね」




後書き~

ロムちゃん…今まで書いたことないタイプだからちょっとキャラ崩壊気味かも……
い、いや。うちの次元のロムちゃんはこういう感じってことで!
ルナも少しずつ成長してるのかな。後ルナは幼い子の涙に弱いかも。…え?大体の人はそうだって?それもそうだ。
そして先日の経験で『教会』は怖いところ、みたいな感覚が彼女の中に出来てしまったようです。ルナにとって、あの出来事はトラウマ物だったようですね。
それでは次回予告。ルナ、もう一人の白の女神候補生と出会う。後多分ネプギア達と合流すると思います。
それでは次回もお会い出来ることを期待して。
See you Next time.

◎現在のルナの所持品
 第二話以降ずっと出てないものばかりで忘れられてると思ったので、一度まとめとして書きます。
月光剣(ムーンライトグラディウス)
・小さな青い月の飾りが付いた紐のネックレス
・白銀の懐中時計
・箒(現在Nギアの中に収納中)
・お金(お小遣い、緊急用の二種類)
 (忘れてない限り多分これだけ)
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