明けましておめでとうございます。
今年もまた、ルナ達の物語を書いていきたいと思います。
ですので皆さま、今年もルナ共々よろしくお願い致します。
さてさて日付はそれほど空いてないので覚えてる方もそれなりにいると思いますが、前回のあらすじ。
ルナ、ロムとラムの二人と遊びました。それから偶然ネプギア達と合流できたのですが、何やら不穏な空気が出来てしまって。
とりあえずゲイムキャラの直し方を探しに図書館へ。
今回は
ミナさんに案内されて着いたのは、本の匂いが鼻腔をくすぐる大図書館。
何段もある大きな本棚にぎっしりと本が詰め込まれた様は、まるで壁か仕切りだ。
それがいくつもあり、背表紙のタイトルをざっと見ると整頓もきちんとされている。
人によっては眠くなりそうな場所だけど、私には心がワクワクしてくる場所だった。
「わあ…すごい量の本……」
「へぇ…ここが噂のルウィーの大図書館なのね」
「写真で見るよりも迫力があるですぅ」
ネプギア達はどちらかというと本の量に圧倒されてるように見えた。アイエフさんとコンパさんの言葉だと、どうやらパンフレットか何かに載っていたのだろう。そういえばこんな風景の写真があったような気がしなくもない。
「これだけ本があれば、どこかにゲイムキャラの直し方が書かれたものだってあるはず……!」
「いえ、恐らくですが、ここにある本には書かれていないかと」
ネプギアの言葉に、ミナさんは首を横に振った。
ミナさんの言葉に、私が首をかしげていると、アイエフさんが考えながら話した。
「…もしかして、ここにあるのとは別の、重要書物を保管する場所にあるかもってことかしら?」
「ええ。その通りです」
「えっと、どういうことなんでしょうか……?」
「この教会に保管されてる本が、ここにある本全部なわけないでしょ。こういった一般人も利用できる場所には保管できない、秘匿された本や重要書物とかはまた別の場所に保管されてるのが当たり前なの」
「なるほど、そういうのが気軽に閲覧出来てしまったら、誰かが悪用するかもしれませんもんね」
「そういうこと」
「特にここルウィーは他の三ヶ国に比べ魔法に関する技術が発達しているため、呪いや禁呪といった危険な魔法も存在します。そういった魔法を記した魔導書を保管するためにも、厳重なシステムによって保護された部屋が必要なのです」
アイエフさんとミナさんの丁寧な説明でようやく理解した私は、改めてミナさんの後をついていく。
でもただ付いて行くのではなく、好奇心でキョロキョロと本を見ていくと、様々なジャンルの本が沢山あるのが分かっていく。
数学、地学、科学、歴史、文学とかの学問系から、人体構造、医療、武術といった体に関することとかもあれば、童話や民謡、絵本、小説、果てはラノベや漫画まで。もっと見ていけば、他にもいっぱいありそうだ。
こういうのも読んで勉強すれば、もっと皆さんの役に立てるのかな……?
なんてよそ見をしながら歩いてたから、前がどうなってるか見てなかった。
「──あっ…と」
「ルナちゃん? どうしたです?」
「い、いえ。ちょっとよそ見をしてて……」
「そうですか? ちゃんと前を見て歩かないとダメですよ」
「ごめんなさい……」
気付いた時にはコンパさんにぶつかりそうになってて、ギリギリ体を後ろへ下げたのでぶつかりはしなかった。
でも、怒られてしまったので、ちゃんと前を見て歩こう、うん。
っと、どうやらコンパさんにぶつかりそうになってたのは、皆さんが止まったからだった。
皆さんの視線の先にあるのは、図書館の雰囲気に合った木製の扉と、それに似合わない科学技術による電子錠。見るからに大切な物を保管しています、といった感じだ。
「…で、ここがその、本が保管されている場所ですか?」
「はい。本来であれば女神様の許可を頂いてからでないと入れないのですが、今はこんな状況ですから。代理として私が許可を出しましょう」
そうだよね。やっぱりこういう場所のって女神様から許可が必要なんだよね。でも今、女神様は皆ギョウカイ墓場で捕まってるから……
そう考えたら、この国の女神様は、当然だけどロムとラムのお姉さんなわけで、二人からしたら自分達のお姉さんが捕まっちゃってる状況なんだよね。
二人は寂しくないのかな……
そう考えた所で、何かするでもなかった。
だって、そんな答えの分かることをわざわざ訊いて、私は何をするんだろう。
結局私は、ネプギア達に付いて行って、少しでも役に立てれば御の字。それ未満は、役立たず。それだけの存在なのに。
そう考えたら、彼女達に「寂しい?」なんて訊けるわけがなかった。
もしかしたら、この旅が終わった後はただの他人になるかもしれないのに。
って、そういうことは今は考えても仕方ないか。
気持ちを切り替えようとミナさんを見ると、彼女は既に電子錠のパネルに右手を添えていて、ピピッという電子音の後に、カチャッと鍵が開いた音がした。
なるほど、指紋認証なのか。しかも手のひら全体とな。
これはあの名探偵な漫画に出てくる怪盗さんレベルの人じゃないと真似できないから、安全かもね。無理矢理壊して突破、なんてのは無理だろう。こういうのは見た目と違って頑丈に作られてるだろうから。
ミナさんは扉の取っ手を捻って開けると「付いて来てください」と言って、中へ進む。
私達はそれに従って、一人ずつ順番に入る。これで一度閉まっちゃったら、内側から開けてもらうか、指紋登録している人を連れてこないと開けられないだろうから、扉が閉まらないように気を付けながら、最後に私が入り、扉を閉める。するとカチャッて音がしたから。また鍵がかけられたんだろう。流石に内側から開ける術はあるから、閉じ込められたわけではない。
扉の先は、外の見た目と違って灰色のコンクリートの通路で、天井には均等に電球が設置してあったので薄暗いイメージはなかった。けれど先ほどまでの木製の部屋と比べると何だか冷たい印象を受けてしまう。
きっと木よりもセキュリティ的には岩や鉄の方がいいから、こういう材質で作ってるんだろうけど、やはりそういう印象は拭えないものだ。
そんな通路を進んでいくと、すぐに私達は一つの部屋へとたどり着いた。
一面コンクリートで造られていて、床が白で壁や天井は濃い灰色。本棚は鉄製の頑丈なもの。外の茶色とは打って変わって灰色と白と黒の世界。他の色は、本の色だけ。そんな単調な色合いの部屋。
それだけのはずなのに、何だかこの部屋の一部分だけ…正確には、ある本棚に仕舞われている本達から嫌な気配がする。これだけは絶対に開いちゃダメだって。本能が伝えてくるっていう感覚は、こういう感覚なのかな。
そんな本があるせいか、私は少しでも早くこの部屋から出たいって気持ちが湧いてくる。恐いんだ。あれらが。
でも同時に、部屋の何処かから何だか懐かしい感じる気配もして、それを感じていたいと思うのは、なんなんだろうか。
早く出たいって気持ちと、懐かしいと思う気配を感じていたいって気持ちが私の心の中でせめぎ合って、なんだか訳が分からなくなっていく。
どうして私はアレが恐いんだ……? どうして私は懐かしいと感じるんだ……?
どうして…どうして──
「──ん! ルナちゃん!」
「──っ!? あ…れ……え……?」
「ルナちゃん、大丈夫!?」
「ネプギア…どうし…いつっ……え……?」
声をかけられてたって気付いた時には、私の目の前にネプギアがいた。心の底から心配そうな顔で。
何でそんな顔をしているのか分からなくて、それで身動きしたらチクッとした痛みが走って、両手の平を見たら、赤を通り越して白くなった皮膚に、赤い爪痕が残されてた。
それは私がそうなるほどぎゅっと手を握ってたってことで、どうしてそうなってるのかも分からない。そんなに手に力が入るようなことがあっただろうか……?
また訳が分からなくて、答えを求めてアイエフさん達の方を見れば、ネプギアと同じく心配そうな顔をしている。何故?
「大丈夫です? ちょっと失礼するです……熱はないみたいですけど……」
「申し訳ありません。まさか、具合が悪かったとは気づかず、無理をさせてしまい……」
「とりあえずいったん外へ行きましょう。外の空気を吸えば、少しは気が楽になるはずよ」
「肩を貸すよ、ルナちゃん」
「え、あの…皆さん、急にどうしたんですか……?」
状況が分からず、あれやこれやとコンパさんに手の甲で熱を測られ、ミナさんに謝られ、アイエフさんの提案でネプギアが肩を差し出してきて……
え…? 何…? これどういう状況? 教えてイストワールさん……
「アンタ…もしかして自分の体調に気付いてないの?」
「体調って…私は至って健康で……」
「どこの世界に息を荒げて過呼吸気味になり、体を震わせて立ってるのも辛そうで私達の呼びかけにも気づかない、顔を真っ青にした健康体がいるのよ」
「息…? 顔……?」
そう言われてから、心臓がバクバク鼓動してることに気付いた。そのせいで、息が荒くなってたんだ。けどそれに気づかなかったから過呼吸気味に……?
呼びかけに気付かなかったのは、単に考え事に囚われてたからだと思う。それ以外は分からない。
とりあえず私は決して体調が悪いわけではないことを伝えなければ、と思ったところで気付いた。
「……デジャヴだ」
「え?」
「ううん、何でもない」
これ、私が記憶を失って初めて目が覚めた日に起きたことと似てる。今の方が軽いけど、あの時も思考が変になった。
でもどうしてそうなったのか未だに分かってない。知ろうともしてないけど。
「とりあえず、大丈夫です。ちょっとどうして自分でもそうなったのか分からないですけど、大丈夫なので、はい」
「そういうのが一番大丈夫じゃないです! いいですか? 自分で原因も分かってないのに大丈夫大丈夫と思ってて、気付いたら手遅れに…なんてことはよくあることなんです! ラステイションにいた時に寝たっきりになったことだってあるんですし、ルナちゃんは少し自分の体調を心配してですね──」
「はいはい、コンパ。説教はその辺にして、一旦外に出ましょう」
「いや、あの、本当に大丈夫なんです! なので私のことは気にせずに。それに早くゲイムキャラを直す方法を探さないと……」
「…本当に大丈夫です? 本当にです?」
「はい。それはもう、この通り。さっきまではちょっと、考え事をし過ぎただけだと思います。知恵熱ってやつですね」
「いや熱は出してないでしょ。…まあルナ自身が大丈夫だって言うなら信じるわ」
「…ありがとうございます」
「でも、もし本当に体調や気分が悪くなったら遠慮なく言っていいからね。無理しちゃダメだよ」
「うん、分かった」
そう返事すれば、皆さんはまだ心配そうな、不安そうな顔だけど渋々下がってくれた。
…うん。大丈夫。呼吸も安定してきた。身体は震えてない。手のひらも元の色に戻ってる。顔は流石に自分じゃわからないけど、そのうち元の顔色に戻るはずだ。
だから、大丈夫、大丈夫。
アレは恐い。けど、関わらなければいい。
恐いけど、見て見ぬふりをすれば……
『マスター、本当に大丈夫ですか?』
大丈夫だよ、相棒。それにほら、病は気からって言うから。大丈夫だって思っていれば、本当に大丈夫になるんだよ。
だから、大丈夫なんだよ。
『…マスター。ご友人方の言う通り、無理をなさらぬように』
分かった。
さっ、早くこの中からゲイムキャラを直す方法を探そう!
で、部屋の本をひっくり返すように探すこと早二時間。その部屋にある本全て、とは言わないが全く関係のないと思われる本以外は探しつくしたはずだ。
…アレの本棚には全く手を出していないし、そもそもミナさんがアレの本棚には開くだけでも危険な魔導書ばかりだから近づくのもダメ、と言われているので近づいてすらいない。言われなくても近づきたくない。だってアレは恐い。アレには触れたくない。だから近づかない。
アレがどれかも、懐かしいと感じた何かがどれなのかも分からないけど、嫌だった。
でも、そうもいっていられないかもしれない。
もう探していないのは、ルウィーという国に関わるゲイムキャラとは無関係の重要機密資料を集めた本棚か、鍵のかかったアレの本棚だけだから。
「これだけ探してもゲイムキャラの直し方が書かれている書物がないとは…やはりゲイムキャラを直すことは出来ないのでしょうか……」
「だ、大丈夫ですよ! それにまだあの本棚は調べていませんし……」
「…そうですね。あの本棚だけは手を出さないように、と思っていたのですが、残っているのはあの本棚だけ。仕方ありませんね……」
「あ、あの、本当に探すんですか? その本達から……」
「少しでも望みがあるのなら、探した方が良いでしょ。せっかくここまで探したんだし」
「ですが……」
恐い。アレには触れない方がいい。絶対に開いてもいけない。
そういう本が沢山詰め込まれてるあの本棚は、まるでパンドラの箱だ。災いと悪を詰め込んだ、最悪なもの。
それに触れたら最後、この世界が崩壊してしまうような、そんな錯覚さえしてくる。
だから、開いちゃ駄目。触れても駄目。触らぬ神に祟りなし。文字通りなら、触れば祟りが襲い掛かる。
勘がアレだけは駄目だと騒いでる。本能が関わるなと叫んでる。
それでもこの場に留まるのは、皆さんがいるから。
だから、恐がってても逃げない。逃げたら駄目だと思うから。
「…大丈夫です? また震えてるです」
「だい、じょうぶ、です。体調が悪いとか、そういうのじゃないので……」
身体が震えているなら、それはおそらく恐いから。
けど、それを素直に言ったところで意味が分からないと一蹴りされるのがオチ。なら言わない方がいい。
けど、やっぱりアレは駄目だ。アレを見ては、絶対に……!
「そういえばこの本棚にはどんな本が保管されているんですか?」
「ここには禁忌や禁呪と呼ばれる、専門知識がなければ扱うこと自体が危険な魔導書が保管されています。また、この部屋の入室許可を得た人でも閲覧できないような知識が詰め込まれてしまして……」
「あー、だからこれには手を出さないでってことだったのね」
「はい。しかし、だからこそゲイムキャラを直す方法が書かれた書物があるのもここが一番可能性が高いのです」
「でしたら早く見てみましょう! 結構時間を使ってしまいましたし」
「そうですね。では」
ネプギアの言葉に頷いて、ミナさんは銀色の鍵を取り出し、本棚の鍵穴に差し込む。
駄目、このままじゃ、見てしまう。開いてしまう。パンドラの箱が、開かれてしまう。
そうなったら遅い。何もかも手遅れになる。全てが残酷に終わってしまう。
でも恐怖で震えて掠れた声はミナさんにも、ネプギア達にも届かなくて、手はほんの少し動くのに、足は全く動かなくて、震えるだけで……
心臓がドクドクなっているのが分かるぐらい鼓動してる。それは恐怖から? それとも焦り? …分からない。
けれど、そんなの関係ない。今はとにかく、皆と止めないと……!
動いて、動いてよっ……! 動いてってば──
『──マスター』
「えっ──」
それは一瞬で。
気付いたらお尻と床がくっついてて、痛かった。視線が低くなって、皆さんが私を驚いた様子で見ている。
これは、どういう……
「だ、大丈夫です!? やっぱり体調が悪かったですか!?」
「いくらアンタが無理しがちだからって、ふらつくほど体調が悪いなら先に言いなさい!」
「ご、ごめんねルナちゃん! そんなに体調が悪かったのに気付いてあげられなくて……」
「ひとまず外に出ましょう。ベッドを用意します」
「ちがっ…いまの、引っ張られて……」
引っ張られた? 誰に?
誰って、
…え?
「引っ張られたって、誰に?」
「誰って、剣に……」
「剣って、いくらなんでも剣が勝手に動くわけないでしょ」
「ですが、ルナちゃんの剣はまだよく分からないところがありますし……」
「…あれ? あいちゃん、あれってなんです?」
私自身も驚き戸惑っていて返答に困っていると、傍にいたコンパさんが何かを指さした。
そこはその本棚の下の微妙な隙間。しかし上から見たら分からないが、しゃがんで見たら分かる程度の場所に、薄くて白い角が見えていた。それより奥は本棚の影になっていて見えない。けど、何となく本に見えるような……
「これは……本?」
「紙を重ねて留めただけだけのようですが…一応本ですね。しかしどうしてこんなところに……」
「誰かの忘れ物でしょうか……」
アイエフさんが手に持ったそれは、ミナさんの言う通りのまるで子供が作ったかのような本のようなもの。真っ白な画用紙で作られた本の表紙には、クレヨンで書かれたと思われる文字で『おほしさまがしってるひみつ』とひらがなで書かれている。ただし達筆。ひらがなで、クレヨンで、なのに達筆。大人が子供の真似をして書いたかのような印象を覚える。
「忘れ物…にしては変ですね」
「何がですか?」
「ここ数年、この部屋に入室したのは私とブラン様だけのはず。私にはその本に見覚えがありませんので、消去法でブラン様が持っていて忘れて行ってしまった、と思えば一応納得は出来るのですが……」
「とりあえず開いてみましょう。誰のか分かることが書かれているかもしれません」
「そうね」
アイエフさんはネプギアの言葉に頷くと、表紙を一枚めくる。
開かれたページには明らかに子供の落書きだと思われる絵がいっぱい書かれていた。お花や
…これがブラン様……女神様のもの?
まだロムとラムの物だって言われた方が納得いくんだけど……
「これは…もしかしてあの子達の絵でしょうか……?」
「ミナさんはこの絵に見覚えがあるんですか?」
「いえ…ただ絵の特徴がロムとラムが描く絵と同じだったので…多分なのですが、この人らしき絵も水色がロム、ピンクがラムではないでしょうか」
「あっ…確かに! そう言われて見ればロムちゃんとラムちゃんだ!」
「ええと。じゃあその二人の間にいるのは……?」
「ブラン様だと思います」
「なるほど。これがルウィーの女神様……」
「そういえばルナはブラン様の姿も知らないんだっけ?」
「はい。写真とかも見てないですからね」
調べれば色々出てくるんだろうけど、そこまで興味があるわけでもない。…ロムとラムと遊んでたら、何となく興味が湧いてきたけど。
「しかしこれ、ロムとラムの絵だとすれば、もしかして二人がブラン様にあげた本ってことかもしれませんね」
「そう、でしょうか…ブラン様があの子達がくれたものを、こんなところに忘れて行ってしまうとは思えないのですが……」
「じゃあブラン様のものでもないってこと? だとしたらこれって誰の本よ。まさか、ロム様とラム様のじゃないわよね?」
「あの子達はこの部屋の存在も知らないはずですから、それはありえません」
「と、ともかくもう一ページめくってみましょう!」
そう言ってネプギアは一ページめくる。
次のページにも絵は描かれているが、先ほどの絵と違い今度は絵が上手な人が描いたようなものだ。藍色を黒に近くした
しかしその絵は下の方に書かれていて、そのページのメインは文字で、達筆。もしかすると表紙と同じ人が書いた文字かもしれない。
ただしこちらはペンで書かれているので、私には比べられないが。
さて、その文字はというと……
《なぞなぞだよ。
これをとかないと、ひみつはみれないよ。
もんだいはぜんぶで7こ!
せいげんじかんはないからね。
じゅんびはいい?》
「“なぞなぞ”って、急に?」
「しかもこの文字…表紙と同じ筆跡ですね」
「問題を解かないと“ひみつ”が見れない……もしかしてページが開かないんでしょうか?」
「ちょっとまって」
アイエフさんが一枚一枚ページをめくっていく。どうやらページが開かないわけではないようだ。
ただし、どのページも真っ白だったが。
「開かないんじゃなくて、多分、文字が浮かばないのね。そういう魔法って、確かあったはずよ」
「はい。暗号を解くと文字が浮かび上がるという魔法はいくつかあります。この本もその魔法がかけられているのでしょう」
「じゃあ、問題を全て解けばその“ひみつ”が見れるんですね。ならやってみましょう!」
とりあえず何故この本がここにあったのかとか、誰のだとかは置いて、なぞなぞに挑もう。
そのぐらいの時間はあるはずだ。
皆さんも、私の言葉にそれぞれの返事をくれる。「はい」とか「うん」とかの肯定で。
すると本の文字が燃えてなくなるように、消えていった。
そして浮かんできたのは、また達筆な文字。ただしひらがな。
《じゅんびはいいみたいだね!
じゃあさいしょのもんだいだよ!
わたしたちがいるのって、なにじげん?》
「いやこれ問題じゃなくて質問よね!?」
「い、いえ。なぞなぞですから、ここは素直に受け取らずに考えて……」
「え? 答えって『空次元』じゃないの?」
「いやそんなわけ……」
ピンポーン♪
アイエフさんが私の答えを否定しようとした時、本から音が聞こえた。テレビとかである正解した時の音が。
いやこれ音も出るとか、何気にハイテクだね……
そして、音と共に文字が焼き消え、別の文字が浮かんだ。
《せいかーい!
そうだね! わたしたちはすんでるのはそらじげん!
どうしてそうよばれてるのかはりゆうがあるんだけど、
それはまたこんど!
さあさあ、つぎのもんだいだよ!
いまのそらじげんには4つのくにがあるけど、
いちばんふるいのはどこかな?》
「さっきのと考えて、これは素直に答えるべきでしょうか」
「でしょうね。4つの国…プラネテューヌ、ラステイション、ルウィー、リーンボックスの中で、ってことよね?」
「でしたら答えは『ルウィー』ですね。この国は四か国の中で一番古く、歴史がありますから」
ミナさんがそう答えれば、再び正解の音と、燃えて消える文字。そして浮かぶ文字。
《せいかい!
いまあるくにでいちばんふるいのはるうぃー。
でもそのまえにもいっぱいくにはあったんだよ!
そらじげんさいしょのくにはるうぃーじゃないからね!
るうぃーはゆきぐにだけど、くにのなかはそこまでさむくないね!
それはめがみのかごがきいてるからだよ!》
「へぇ…だから街の外と比べて過ごしやすいんだ……」
「私達にとっては当たり前な知識をどうも。で、次の問題は?」
《むー。はんのうがつめたーい! まるでこおりだよ!
でもいいよ、わたしのほのおはそのていどでしずまらないもん!
さあさあ、おつぎはどうこたえるのかな?
えーっと、だいさんもん!
るうぃーのめがみにはふたごのいもうとがいるんだけど、
ききてがそれぞれちがうんだよ!
ふたごのいもうとのいもうとはなにききかな?》
「…あの、これ今のアイエフさんの反応に答えてませんか?」
「あらかじめこの問題を答えた人にはその言葉が出るように設定していたのかしら。でもルナみたいな反応もあったわけだし……」
「遠隔で文字を写している…そういう魔法もあるにはありますが、余程の魔力と知識、技能が無ければ発動できません。ですのであらかじめ設定していたとしか……」
「最後まで答えてみれば、分かるかもです」
「そうですね。次の問題は…ロムちゃんとラムちゃんのことですよね」
「双子の妹の妹って、どういう意味? ロム様かラム様のどっちかでいいのかしら?」
「一応聞くですけど、おふたりに更に妹さんがいたりするですか?」
「いいえ。ブラン様の妹はロムとラムの二人だけ。おそらくですが、これはラムのことを指しているのではないかと」
「ラムが末っ子ってことですか?」
「はい。そしてラムの利き手は左。なので答えは『左利き』です」
ピンポーン♪
《せいかいだよ!
そう、らむのききてはひだり。ろむはみぎ。
これならてをつなぎながらつえをもてるね!
なかよしなのはいいことだね!
ちなみにろむのきらいなたべものはしいたけだってしってた?》
「いるのかいらないのか分からない情報……」
「というかやけに詳しいですね、この本を書いた人。まさか本当にブランさんが書いたんでしょうか……」
「ブラン様がこのような趣旨の本を書く様子が頭に浮かびませんが、一応可能性として考えましょうか」
《というかこのもんだいをとけたってことは、
だれかしろめがみさんしまいにくわしいひとがいたのかな?
まあいいや! いままでのはよきょう、れんしゅう、りはーさる。
つぎからはこのほんにかかれていることにかんするもんだいだよ!
いろいろとへんかするけど、ぜんぶこたえられたらひみつがわかるよ!》
「と、いうことは難易度が上がるってこと?」
「あるいは問題の内容が劇的に変化するって事でしょうか」
アイエフさんとミナさんの疑問に、次の問題の文章は答えた。
《第四問。このゲイムギョウ界にはゲイムキャラという守護女神同様その土地を守る使命をもった存在がいるが、それぞれの土地のリーダー格はある証を所持している。それぞれに色があるのだが、ルウィーの物は何色の物だ?》
「…急に口調が変わったわね」
「相変わらずの達筆ですけどね」
ようやく本番、ということか。
なら最初からその問題を出して、さっきまでの三問を無くしてくれれば時間がかからなかったのに。
まあそこまでかかってないけど。
「ゲイムキャラが持つ証…本で読んだことがあります。確か……」
「マナメダルですか?」
「そう、それです! …あら? どうしてルナさんがご存知で?」
「実は前に偶然拾ったことがありまして…その時、ラステイションのゲイムキャラから少しだけ教えてもらったんです」
「なるほど。しかし、証を拾ったとは……」
「以前プラネテューヌのゲイムキャラが破壊されてしまった時に、犯罪組織が拾ったみたいで……」
「どっかのドジがコケて落として、それをルナが拾ったってわけ」
「そういう経緯でしたか。…あの、よければどのようなものだったか教えていただけますか? マナメダルに関する書物は一切失われていて、存在だけがあるかもしれない程度に残されているだけなので」
「はい、いいですよ」と返答し、私はマナメダルの特徴を教える。本当は実物を見せた方がいいんだろうけど、実物は残念ながらラステイションの教祖に渡してしまったので、今は手元にない。
だから覚えている範囲で教えるしかない。
私はとりあえず宝玉の事や蓄えてある魔力のことなどを話した。
ミナさんは私の話を聞いて、最後にいくつか質問をしてきたけど、どれも私達には分からないことで答えられなかった。
それでも本に載っていないようなことを聞けて満足できたようだ。
「さて、説明も終わったところで問題の答えだけど……」
「確かこの真ん中の宝玉は、その土地を守護する女神様の色によって違うってラステイションのゲイムキャラは言ってたから……」
「ブランさんは“ホワイトハート”だから、答えは『白』!」
ピンポーン♪
《正解。
これを答えられるという事は、マナメダルについて知っている者だけ。
マナメダルを持ち、その知識を少しでも知っているのは、それ相応の資格者のみ。
お前達にはその資格があるみたいだな。
だが、次は答えられるか?
第五問。この世界にはある物語が存在する。
かつて人々が争ったとき、ふたりの女神がそれを止めた。
ひとりは人を信じ、話し合いによる説得で。
ひとりは人を信じず、実力行使で。
その結果、ひとりの女神が眠りについたが、
さて、そのふたりの女神とは、それぞれなんという名だ?》
ネプギアが出した答えで次に進んだ問題。
しかし、第五問として出された問題の内容は、何となく分かるような、分からないような……
いや、多分答えを知ってるんだけど、しかも最近聞いたはずなんだけど、どこで聞いたんだっけ……?
「二人の女神、ねぇ…コンパは知ってる?」
「知らないですぅ…ギアちゃんは……」
「ごめんなさい。私も分からなくて…ミナさんは分かりますか?」
「……申し訳ありません。そのような内容の本を読んだ記憶はあるのですが、内容が思い出せなくて……」
「私も何か似たような本を読んだ記憶はあるんだけど……」
そう、確か何かで読んで……
「ここまで順調にいってたけど、まさかここで詰まるとはね」
「ここは図書館ですし、その本を探してみるです?」
「物語なら、童話やおとぎ話を中心に探せばきっと見つかりますね」
「でも、そんなことしてる余裕はないわ。この本にゲイムキャラの直し方が書かれているとは思えないし……」
「本…ほん…そう、本。でもどこで読んで…ここ最近で読んだのってこの部屋の本とロムとラムに朗読したあれだけ……ん?」
そういえばあの手作りの絵本に書かれてたのも、問題と同じような内容の本だったような……
「…待てよ。そういえばあの字も絵も…アイエフさん、その本を貸していただけませんか?」
「ええ、別にいいけど……」
アイエフさんから本を受け取った私は、改めて表紙を見る。
『おほしさまがしってるひみつ』。その文字はさっきも思ったようにクレヨンで達筆。
だけど、やっぱりちょっとした人の癖っていうのはあって、その字を私は見たことがある。
それに問題のページに描かれている絵の特徴も、見たことがある。
それにこの手作り感が物凄いする感じも……
「やっぱり…あの本と同じ癖だ……」
「ルナちゃん、あの本って?」
私はこの本とロムとラムと読んだ本の、手書きだからこそ出る癖が同じだということを伝えた。
「ならその絵本の内容が答えになってるのかしら?」
「あの子達の持っている手作りの絵本…確かあの人が作ったと……」
「ミナさんは何かご存知で?」
「…ええまあ。少し前までこの教会にある人が居候していたのですが、多分その絵本はその人がロムとラムのために書いてあげたという絵本だったかと」
「ならその人がこの本の持ち主さんです?」
「さあ、そこまでは。ただ、もしそうだとするなら、尚更おかしなことになります。彼女はこの部屋に入ることも…ましてや存在すらも知りませんから」
「ふうん。ともかく答えに近づいたわね。ルナ、その絵本に二人の女神って出てきた?」
「はい。確か、人と話し合いをしようとしたのが、『星の女神』。人の行動に怒り、隕石を降らそうと…実力行使をしようとしたのが『月の女神』です」
ピンポーン♪
《ほう。これも分かるか。
ならば、この先の質問にも答えられそうだな。
第六問。この世界にはある剣が存在する。
月の加護を受けた剣。
その名を答えよ》
「この答えってルナちゃんの、かな?」
「でしょうね。加護を受けているのかは分からないけど、名前がそれだし」
「はい。多分。加護云々はわかりませんが……」
月の加護って受けてるの?
『はい。受けていますよ』
へえ。
あっ、だから私は新月の時にああなったり、満月の時に力いっぱいになるみたいなんだね。
『そうですね。そう思っていて構いません』
なるほどぉ……
…月の加護を受けてるとか、凄いな私。どこの勇者?
『マスターは勇者ではありませんよ』
それは分かってるよー。
「と、いうことは、答えは『
ピンポーン♪
《正解。もはやアイツが傍にいるんじゃないかと思えてくるな。
次が最後の問題だ。考えてみれば分かるんじゃないか?
第七問。女神にとって正にもなり、負にもなりうる存在は?》
この問題は、すぐには答えが出なかった。
私には全く分からない。だって私は記憶が無いから、その辺りの知識もないし。
だから周りを頼ろうと思ったけど、ネプギア達も悩んでる。
人間であるアイエフさん達はともかく、女神候補生であるネプギアや教祖のミナさんが分からないんじゃ、この問題って難しいのかな?
「女神様にとって正とも負となる存在…どちらにもなる存在となると、思いつきませんね……」
「負の存在だけ考えるなら、犯罪神という答えは出るですけど……」
「犯罪神は決して私達にとって良い存在にはなりませんから、それが答えではありませんね」
ネプギアの言う通り、女神様にとって犯罪神が良い存在だなんてことはありえない。それだったら今頃女神様は捕まってないはずだ。
ならば答えはもっと違うところから出てくるんだろうけど……
「モンスター…はさすがにないかしらね。ほとんどのモンスターが人を襲うわけだし」
「例え正の存在だとしても、それは女神様にとっての存在じゃなくて、人にとっ、て…の……」
アイエフさんの言葉に、例外としてエル君を頭に浮かべながら私は思ったことを話して、何か引っかかりを覚えた。
気のせいかと一瞬思ったが、多分こういう引っかかりは答えに近づくんじゃないか。そう考えたら私は自分の発言を頭の中で繰り返す。自分の思考も思い返して、考える。
考えて、考えて、考えて……
「ルナちゃん? 急に黙り込んでどうしたの?」
「…うん、ちょっとね」
まだ答えかもしれない存在が分かってないし、余計な情報で混乱させたくない。そう思って誤魔化す。
…っと、そういえばネプギアは候補生とはいえ女神様本人なんだし、私より分かると思うんだけどな……
まあそれはさっきも思ったけど。
でも人間の私達よりも分かるんじゃ……
…うん? 今分かったような……
ちょっと整理してみよう。
問題文は「女神様にとって正にも負にもなる存在とは」。
つまり女神様にとって良い存在にも悪い存在にもなるもの。
それに当てはまる存在って、まさか……
「…答え、分かったかもしれない」
「ほんと!?」
「ふぇっ、ネ、ネプギアっ、近いよ……!」
「あっ、ご、ごめんねルナちゃん」
「う、ううん、落ち着いてくれればそれで……」
興奮したネプギアが身体ごと顔を近づけてきた。
それってつまり、可愛い子が迫ってきたってことで、私は驚いたのと同時に顔が赤くなるのを見られないようにと顔を背け、ネプギアに離れてもらう。
…うん、自分で言っておきながら離れられちゃうと寂しくなっちゃうね。
い、いや、そんなこと思ってないで、早く言わなきゃ。
「それで、答えは何だったです?」
「いえ、まだ合ってるかどうか分からないんですが……」
「大丈夫よ、回答の回数や時間制限なんて書いてないから無いでしょうし」
「では…問題文の『女神様にとって正とも負ともなりうる存在』。それはずばり、『人間』です」
ピンポーン♪
《…正解。よく数ある答えの中からその答えを導いたな。
そう、女神にとって正とも負ともなりうる存在。
それは人間。
何故かは…答えを導けたお前には分かるだろう?》
本の問いかけに、私は頷く。
一方で私が答え、合っていた解答にアイエフさん達の反応は大体二つだった。
コンパさんとネプギアはどうしてその解答で合ってるのか分からないといった具合に首をかしげていて、アイエフさんとミナさんは苦い顔をしながらもその解答に納得しているみたいだった。
その辺りは職業とか、環境とかの差かもしれない。後は知ってることの量の差とかか。
「どうして答えが人間になるです?」
「えっと…人ってそれぞれ思ってることが違って、だからこそ複数の女神様が生まれて、女神候補生が生まれる。そして犯罪神もまた人によって存在し続けるから…ですかね?」
「ちょっとよく分からないです」
「簡単に言えば、良い人間は女神の力になるけれど、悪い人間は犯罪神の力になる。もしくは自分達自身で女神にとって悪いことをしてしまう。だから人によって違うけれど、ひとくくりに『人間』って纏めてしまえば問題の『女神にとって正の存在にも負の存在にもなりうる存在』に当てはまる、ってことじゃない? 解釈ってこれであってたかしら?」
「は、はい。合ってます。簡単にしてくれてありがとうございます」
「いえいえ。しっかしどうしてこれを答えにしてるのかしらね」
「分かりませんが、これで七問全てを答えられましたし、この本に載っている秘密が読めるはずですが……」
「時間もだいぶ使っちゃったし、ゲイムキャラの直し方が書かれているといいけど」
「……あっ」
「…まさかルナ、アンタ目的を忘れてたわけじゃないでしょうね?」
「そそそ、ソンナワケナイジャナイデスカー。アハハー」
「棒読みよ。全く……」
「おや? どうやら文字が変わっているようです」
「え? あらホント」
ミナさんの指摘で再び本に目を移せば、そこに書かれていたのは元のひらがなだけの文字であった。
《ぜんもんせいかいおめでとー!
ねえねえ、むずかしかった? むずかしかった?
ひとによってはむずかしくなかったかもねー。
さーて、それじゃぜんもんせいかいしたあなたたちには、
このほんにかかれたわたしがしってるひみつがよめるよ!
なお、りかいできるとはかぎらない!
きっとあなたたちがほしいじょうほうも、あるんじゃないかな》
私達が知りたい情報……
それは勿論ゲイムキャラの直し方だ。
もし本当に書かれてるんだとしたら…それは偶然か、必然か。はたまた策略か。
まあ、そんなことを読んでもいないのに考えたって仕方ないんだけど……
「じゃ、読んでいくわよ──」
後書き~
ちなみに今年の抱負は、一年で12話以上更新することです。但し一つの作品に対して。
ですので実質24話ですね。毎週木曜日と日曜日に欠かさず更新してるあの人に到底及びません。誰かとは言いません。少し前までルナがお世話になってたイリなんとかさんとかオリジンなんとかの人です。
それと、毎回な気がしますがこれでストック切れたのでまた更新が遅れるかもしれませんが、気長に待っててください。私の人生が終わらない限りちゃんと完結まで書くつもりなので。
それでは皆さま、今年もよろしくお願いしますね!
Let's make this new year a great one!
(今年を、最高の一年にしましょう!)
今回のネタ?のようなもの。
・名探偵な漫画に出てくる怪盗さん
『名探偵コナン』に出てくる怪盗キッドのことですね。確かどこかの話で指紋を偽造する、なんて技をやってのけていたのを思い出しました。