月光の迷い人   作:ほのりん

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前書き~

前回のあらすじ。
クイズに答えたら本が読めるようになりました。
今回はゲイムキャラを修復するための材料を探しに行くそうです。
肴を片手にごゆるりとお楽しみください。


第三十話『物事は簡単にはいかない』

 ──結論から言えば、書いてあった。

 修復に必要な材料。道具。やり方。初心者でも頑張れば直せるほど簡単に書いてあった。

 残る問題はその材料がどこで入手できるものかだったが、それもアイエフさんやミナさんの知識で難なくクリア。月光剣も二人の知識は正しいと言っていたので間違ってない。

 この他にも本には月光剣に関することとか、物語に出ていた月の女神と星の女神について書かれた文章など、気になることがいくつも書かれていたが、残念ながら今はそれらを読んでる暇はない。

 ひとまず本は、内容が気になるから、という理由でミナさんが預かり、私達四人は材料を集めに向かうことにした。

 さあ早く集めてゲイムキャラを直すぞー! っと意気込みつつ玄関へ向かう私達。そこで二人の小さな影が私達を待っていた。

 

「よかった、まだいた(ほっ)」

「なによ、まだいたの? おっそいわねー」

「ロム、ラム…? 二人とも、どうしてここに……」

 

 さっきまでの部屋着と違い、それぞれ水色とピンクのコートに身を包んで、暖かそうな恰好をしているロムとラム。ポーチを肩から斜めに下げており、今すぐにでも出かけることが出来る様子で、もしかしてって期待してしまう。

 

「みんなのおてつだいをしようって、ラムちゃんと」

「ふ、ふん。ロムちゃんにいっぱい言われてしかたなくよ! まだそこの女神はしんよーできないけど、わたしたちの国のためにがんばってくれるんだし。そ、それに、ルナちゃんは…その…わたしたちの、お友だち、だから」

「~~~っ! うんっ、うんっ!」

 

 ラムのその言葉に私は心が舞い踊るほど、というか本当に踊ってしまいそうになるほど嬉しくなって、勢いよく首を縦に振る。

 自分のことながら、少し前のラムの言葉が思ったよりも深く心に刺さってたみたいだ。

 表情にも喜びの感情がありありと映っていたのだろう。コンパさんが笑顔で「よかったですね、ルナちゃん」と声をかけてきたので「はいっ!」と元気よく返事した。

 ネプギアもネプギアで「まだ信用できない」という言葉に苦笑いしつつも、とりあえず敵ではないと思われたことで安堵している様子だった。

 よし、これで仲間が二人も増えたぞ! しかも片手剣×2と短剣と注射器という近距離攻撃がほとんどだったパーティに魔法使いが二人も! 

 バランスのいいパーティになったね! 

 

「二人が手伝ってくれるなら…そうね。人数もそれなりにいる事だし、二手に分かれましょうか」

「二手、ですか?」

「ええ。三人ずつに分かれて素材を取りに行けば時間を短縮できるはずよ」

「そうですね、幸い必要な材料の入手方法は分かっていますから、二手に分かれましょう」

 

 アイエフさんの案にネプギアや私達も賛同し、早速話し合いによるチーム分けをした。

 その結果──―

 

 

 

「モンスターはあっちにいるのね! 行くわよ、ロムちゃん! ルナちゃん!」

「うん……!」

「ちょっ、そんな風に走ったら転んじゃうよ!」

「わたしがそんなドジするわけ…わわっ、へぶっ」

「ほら言ったのに……」

「ラムちゃん、だいじょうぶ……?」

「うぅ…へーきよこれくらい! それより早くアイテムを見つけて、ネプギアよりも早くミナちゃんのところまで持ってくんだから!」

「別にネプギア達と競ってるわけじゃないんだけど……」

「でも、急がないと」

「それもそうだね」

 

 対抗心を燃やしながら元気に走り出して、ちょっとした段差で転ぶラム。

 そんなラムに駆け寄り、心配するロム。

 見た目が幼い二人の傍にいるからか、いつもより年上として頑張ろうって思ってしまう私ことルナ。

 そんな三人チームが出来上がった。

 勿論こっちがこのメンバーなら、ネプギアの方はアイエフさんとコンパさんがいる。

 本当ならネプギアを私の代わりにこっちのチームに入れて、三人一緒にいることで仲良くなるかなって密かに考えてたんだけど、残念ながらラムが拒否。ネプギアとラムが仲良くなる時はまだ先だったようだ。

 ただまあロムのネプギアに対しての警戒心が無くなったから、ロムを通じて二人が仲良くなってくれることを祈るかな。

 

 そんなやり取りをしながら私達が目指すのは、ルウィーの街から少し歩いた先にある森林。その森の中にある古い廃墟。

 なんでも昔はそれなりに栄えた展示場だったみたいだけど、もっと大きくて立派な展示場が出来たから、という理由で廃棄されたそう。で、世知辛いことにお金が無くて壊すこともできない~ってやってたらモンスターが住みついちゃって、今じゃダンジョンになってるとのこと。(ネプペディア調べ)

 そんな場所へ、私達は材料の一つ『レアメタル』と呼ばれる金属質のアイテムを取りに行くところである。『メタルシェル』っていう殻に包まれたモンスターが落とすらしいんだけど……

 

「あっ! あっちに何か見えたわ!」

「あっち……? (きょろきょろ)」

「行ってみましょ!」

「うんっ……!」

「あっちょ、待ってよー!」

 

 何かが見えたらしいラムが雪道の中を軽々と進んでいく。それに続いてロムも同じように雪を上手に踏みながら進む。そんな慣れた様子で走ったりする二人を追うのは一苦労だ。

 

「うぅ…転ばないように、転ばないように……」

「もーっ! ルナちゃんってばおっそい! そんな道ちょちょいと歩けるわよ!」

「そ、そんなこと言ったって、君は雪道を走るのに慣れてるんだろうけど、こっちは初なの! むしろ今まで転んでないことを褒めて欲しいな!」

「ルナちゃん、がんばってっ」

「はぅ…ロムの応援が身に染みる~」

「むー……」

 

 ロムの可愛らしい応援に励まされていると、ラムはラムで少しだけ不機嫌になっていた。

 え? もしかしてさっきの言葉、ラムの気に障っちゃったのかな……

 

「もうロムちゃん! ルナちゃんなんておいて、さっさと行こっ!」

「わわっ、ラムちゃんまって……!」

「あぁ、二人とも~……」

 

 更にずんずんと進むラムに、追いかけるロム。

 そして私は更に二人との距離が離れていく……

 

「ふえぇ…二人とも待ってよ~…置いてかないで~……!」

「おいて行かれたくなかったら早くー!」

「がんばって、ルナちゃん……!」

「うぅ…ふたりともハイペースだよぉ……」

『マスター、頑張ってください。目的地はもうすぐですよ』

 

 これがルウィー(雪国)の女神候補生…恐るべし……

 なんて嘆きつつ、途中月光剣にも励まされつつ、何とか二人の元へと雪を踏みしめる。

 街に入る前までの道のりでも道なき道を歩いて行ったけど、あの場所はまだ雪が薄い方だったんだなぁ、と体感しながら進む。

 少しして、空気の変化に気付いた。目に見える変化ではないけど、何だかこう、肌に触れるものに空気以外の何かが含まれているような、そんな感覚。

 前にもこの感覚を感じたことがある。そう気づいたけど、いつ、どんな状況でだったかはすぐには思い出せない。

 でも確かにこの感覚は感じたことがあるはずだから……

 そういえば二人はこの変化に気付いているのだろうか、と先にいる二人を見るが、二人が何かに気付いた様子はない。

 何か悪いものが、という感覚ではないからそこまで気にしなくてもいいのかな……

 そう考えていると、月光剣がふと思い出したように私の疑問に答えた。

 

『そういえばマスター。この先にあるダンジョンですが、かつてマスターが四つに分けた力の一つを置いた場所となります』

 

 あぁ、それだったか! 

 道理で以前にも感じたことがある感覚だと思った。

 ならこの先のダンジョンではアイテムの回収をするのと同時に、その力の一つを回収することが、私の目的になるわけだね! 

 

『その通りです。やり方は覚えていますね?』

 

 えーっと、確かその空間で、剣で空気を切るように振ればいいんだっけ? 

 

『はい。よく覚えていましたね。偉いですよ、マスター』

 

 わーい! 月光剣に褒められたー! 

 …って、もしかして子ども扱いされてる? 

 

『いえいえ。私がマスターを子ども扱いなど、するわけありませんよ』

 

 ほんとかなー? 

 何となく疑わしいけど、月光剣のことだもん。一応信じてあげようではないか。

 それに、子どもと言えば子どもだからね。見た目なら。

 実際はどうなのかって訊かれたら、覚えてないから分からないけど。本当は見た目だけは若いけど、コンパさん達より年上かもしれないし、案外成長が早いだけで見た目より年下かもしれないし。

 精神的には子どもってほどではないはずだよ、うん。

 

 なんて月光剣と会話しながらも前を見ながら進んでいると、突然「あーっ!!」ってラムの大声がして、私はビクって驚いて、動きが止まった。

 何が起きたのか分からなくて、オロオロしていると先のほうにいたラムが走りだし、そのラムを追いかけるようにロムが走って、見えなくなった。

 そしてすぐに二人が誰かと会話しているのが聞こえてきた。

 遠くて何を話してるのかは分からないけど、声色をみるに知り合いに偶然会ったような、そんな良い雰囲気ではない。むしろ嫌いな相手とか、敵に会ったときのような声。

 その時点で私の中で「もしかして犯罪組織の誰かがいたのでは」と思い、走り出す。

 その予想は当たりで、二人が見えなくなった位置まで行くと斜面になっていて、その下では二人の他に人がいた。

 灰色のパーカーを着た緑髪の女。

 初めて会った時はいっぱいボコボコにされて、その後は本人と戦う前に逃げられた、あの人。

 今はキラーマシンを復活させにダンジョンに籠ってるって聞いてて、こんなところにいるなんて思ってなかったから、私はついつい大声で叫んでしまう。

 

「あーっ!! リンダ!!」

「だからアタイは下っ端じゃ……ん? おい待て、今お前アタイのことなんて呼んだ?」

「リンダって呼んだけど…名前間違ってた?」

「え? こいつの名前、したっぱじゃないの?」

「したっぱさん……」

「っだぁ! だから下っ端じゃネェ! くそっ、女神のやつ、揃いも揃ってアタイを下っ端呼ばわりしやがって! …まぁそこのオマケは女神ほど悪りぃやつじゃネェみてェだな」

「うん? なんか私、悪い人からの評価が上がった?」

 

 単に名前を呼んだだけでこれって…そんなに下っ端って呼ばれるのが嫌なのかな。それとも弄られ過ぎたのかな。

 弄られるってことは愛されてるって解釈もできるから、ちょっとだけ羨ましいけど……

 

「って、オマケ!? 私ネプギア達のオマケなの!?」

「オマケだろ?」

「オマケ…女神様のオマケ…うぅ…そんなに存在感薄い……?」

 

 た、確かに私ってネプギア達に付いて行ってるだけだし、何だかんだしててもいざってときはいないこともあるし、というか今回のゲイムキャラの件だって私がいない間に事が進んでたし、ロムが誘拐されたとき、私海の上だし……

 

「オマケ…女神様の……い、いや、むしろ女神様のオマケなんてそうそうなれないから、レア度は高いかも……!」

「ポジティブだな……」

 

 普通は女神様の従者とか、信者とか、そういうのにしかなれないもんね。お菓子のオマケって、嬉しい人には嬉しいし。逆にそっちがメインで買う人もいるわけだし。

 …すぐにゴミ箱に行くこともあるだろうけど……

 

「うぅ…私、いらないオマケじゃないよね……少しは役に立つよね……」

「ちょっとルナちゃん! そんなことでおちこんでないで、わたしたちといっしょにしたっぱをつかまえるわよ!」

「このまえの、おかえし……(ぎゅっ)」

「へっ、女神なんかに捕まってたまるかよ!」

「オマケ…オマケ…オマケって何だっけ……?」

「ルナちゃん!」

「はわっ! ご、ごめんすぐ行く!」

 

 ラムの呼びかけでゲシュタルト崩壊しかけていた意識を自分の中から目の前で起こる戦闘に向け、行動に移る。

 斜面を滑るように駆け下りながら、月光剣を構える。

 リンダは私より近くにいた二人に殴り掛かりに行っていたから、駆け下りた勢いのまま突進する。

 直線的なその行動は当然のように躱されて、リンダは標的を私に変え、パイプで殴り掛かる。

 私はそれを剣ではじいたり、斬りに行けばはじかれたり、受け止められたり。

 何度か金属同士がぶつかる音がして、一度距離を置き、リンダを見る。

 ──余裕そうな目。私に勝てるって、思ってる。

 それもそうか。前回リンダと直接戦った時、ボコボコにされてるんだった。

 たった一発で倒れて、しがみついても結局最後はネプギアが何とかしてた。

 …今回も、そうなのかな……

 無意識に構えていた剣が下がる。

 でもすぐに私はその気持ちが間違っているって気づく。

 だって──

 

『せーのっ、アイスコフィン!』

「なっ、ぐあっ!」

 

 私を相手に油断していたリンダは、あっさりと氷の塊に当たって姿勢を崩す。

 考え事をしていたって、その隙を逃す私じゃない。すぐさま接近して、剣を下から上へと振るう。リンダは避けることも防御することもできずにモロにダメージを食らい、地面を転がった。

 

「ふっふーん! どんなもんよ、わたしたちの魔法!」

「ルナちゃん、いっしょにがんばろっ……!」

「…うん。二人とも、ありがとう」

 

 二人のその様子に、私は心から二人が頼もしいと感じた。

 自信満々なラム。一緒に頑張ろうと励ますロム。

 …うん。私ってホントに馬鹿だよねって思う。

 こんな素敵な、可愛らしい小さな女神候補生が二人も付いているのに自信を無くしかけるなんて。

 心配するどころか、私が心配されたり励まされるなんて。

 でも、もう大丈夫。

 だってちゃんと思い出したから。今も、今までも、仲間が一緒だってこと。

 そして、あの時の私と、今の私は全然違う。いっぱい努力して、あの時の何倍も強くなった。

 元の私と比べれば、そりゃ弱いままだけど、それでも日々近づいている。

 だから、大丈夫。あの時は負けたけど、今回は負けない。負けたくない。

 だから勝つんだ。勝って、その余裕だと思ってるリンダを見返してやる!! 

 

「前の私と同じだと思わないことだよ!!」

「アンタなんて、ぎったんぎったんのぼっこぼこにしてやるんだから!」

「…負けない」

「ガキどもが…チョーシに乗ってんじゃネェぞ!!」

 

 鉄パイプを振り回しながら殴りかかってくるリンダ。それを受け止めたり、躱したりしながら防戦一方で応じる。

 ただ私ばかりに構っていると、やっぱり……

 

「えぇい!!」

「やぁっ…!」

「ちっ……」

 

 横から飛んでくる二つの氷の塊。よく見たら形があって、ハート型や星型などがある。攻撃魔法にこんなおちゃめを加えるなんて、二人らしいといえばらしいなって思って、笑みがこぼれる。

 

「くそぉ…笑いやがって……!」

「えっ……わわっ、違う違う! 君を笑ったわけじゃなくて……!」

「言い訳なんざいらネェ! いいぜ、テメェを先に片付けてやる!!」

「えぇぇっ!?」

 

 激怒して更に攻撃が激しくなる。けど、それはそれで好都合。

 だってこれならロムとラムへの意識が逸れるから。

 だからといって、いつまでも防戦一方でいる私じゃないよ! 

 

「さて、今度はこっちのターンだよ!」

「へっ、さっきから防御してばっかだった奴が何を──」

「ふっ……!」

「──言って…ぇっ!? はやがっ!?」

「えいっ! ていっ!」

「ぐっ、あぎゃっ!」

「だぁ!」

「ぐぼぁっ……!!」

 

 三回斬りつけてからの突き上げで、リンダは弧を描くように飛ばされる。

 剣が刺さる、なんてことはない。そうならないように対人間戦では『非殺傷設定』になってるって前に月光剣が言っていた。

 だからこれで食らうのはダメージと少しの怪我。

 だからこそ、この程度で終わるとは思っていない。

 ドサッと雪の上に落ちたリンダの様子を、私は剣を構えながら見る。

 リンダはすぐに立ち上がるが、その姿にさっきまで見れた余裕はない。

 

「へ…へっ、少しはやるじゃネェか……」

「アレ? もうへばったの? まだ攻撃し始めたばかりだよ?」

「…ンだと? こんのガキんちょがああああ!!」

 

 言いながら自分でも分かりやす過ぎる挑発だって思ってたのに、案外簡単に釣れてしまった。

 まあ少し前までは自分より圧倒的に弱い相手だと思ってた人にこうもやられたりしてれば、そりゃ怒りの沸点が下がるか。

 でも、こうやって簡単に釣れると、こっちはこっちでありがたいんだけどね。

 

「食らいやがれェ!」

「いらないよ!」

「ぐっ、この──」

「えい…やぁ……!」

「てりゃあ!」

「ぐあっ! クッソォ、ウゼェ!」

「はいはい。二人を攻撃したいならまず私を倒してからにしてもらおうか!」

「チィッ!」

 

 私とリンダが離れた隙を狙って魔法をどんどん飛ばす二人。それで標的を二人に切り替えようとしてもすぐに私が出て、後衛の二人に攻撃をいかせないようにする。

 相手はリンダただ一人だからこそできることだけど、それにしては二人との連携がそれなりにとれてる気がする。

 今まで私は連携プレイというか、ただネプギアやアイエフさん、コンパさんの攻撃の隙間を埋めたりすることが多かったから、今みたいな私の攻撃の隙間を誰かが埋めるといった戦い方は初めてで、新鮮な気持ちだ。

 この調子でいっぱい攻めていけば……! 

 

「はああああ!!」

「おりゃああああ!!」

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

 戦闘から一時間かそれ以上か。

 結果は見れば明らかで、方や息を切らしながらも剣を構え、方や地面に倒れていた。

 もちろん、倒れているのがリンダで、立っているのは私。

 苦戦はしなかったけど、なかなかにしぶとかった。無傷での勝利、なんて出来なかったし。かといって大きな怪我をしたわけでもないけどね。

 ともかくリンダにはもう立ち上がる力も無いみたいだから、ひとまずは身体の力を抜き、剣を鞘に仕舞う。

 それが戦闘終了の合図のようなものになったようで、ロムとラムが駆け寄ってきた。

 

「ルナちゃんだいじょうぶ? 今なおしてあげるね……」

 

 ロムは私に近付くとそう言って私の身体に触れる。すると触れられたところから癒されるような魔力が私の身体に入ってきて、みるみるうちに擦り傷や打ち傷の痛みが消え、癒えていく。

 これがもしかして、噂に聞く治療魔法というやつで……! 

 

「ほぇ…凄い。ありがとう、ロム!」

「どういたしまして……」

「むぅ……」

 

 感動しながらロムにお礼を言っていると、ラムは何故か不機嫌になっていた。

 うん、なんで? 

 頭の中で考えて、そういえばラムにもお礼を言わなきゃな、と思い至った。

 

「ラムもありがとう。ラムの氷魔法もすごかったよ!」

「へ、へっへーん! そりゃそうよ! わたしとロムちゃんの魔法に敵う相手なんていないんだから!」

 

 おぉ、一気に機嫌が良くなった。

 なるほど、ロムだけ褒められてたのが嫌だったのか。そうかそうか。

 う~ん、ラムの可愛いところ見つけちゃったな~

 

「って、和んでる場合じゃなかった。リンダは…っと」

 

 チラリとリンダが倒れていた場所を見ると、リンダは倒れたままだった。

 いつも逃げ足が早いから心配したんだけど、今回はそうでもないみたいだね。

 意識もあるみたいだし、これなら色々聞けそう。

 私がリンダに近付くと、二人もまた付いて来て、三人でリンダを囲った。

 一応私はいつでも抜けるようにと柄に手をかける。二人も杖を抱えたままだ。

 リンダは倒れたまま私達を見上げ、睨みつける。まだ反抗する気はあるみたいだ。

 でも身体はついていけないんだよね。私もあったな、似たようなこと。

 しみじみと思い出しつつも、私はリンダに質問を投げる。

 

「で、なんで犯罪組織の構成員さんがこんな森の中にいるの?」

「へっ、そんなの言うわけネェだろ」

「うん、まぁそういうよね」

 

 そう簡単に吐くほど簡単な相手なんて思ってないから、予想通りの答えではある。

 こういう時ってどうしたら吐いてくれるんだっけ? 脅す? 

 

「誰がメダル探しに来たなんて言うもんかよ!」

「…さいですか」

 

 いや言っちゃってるよね? なんてツッコミはしないよ。したら負けな気がする。

 しかもあるのか。メダル。多分マナメダルのことだよね。こんなとこに探しにくるとしたらそれぐらいだろうし。

 なんて私が呆れていると、二人には何のことか分からないようで首をかしげていた。

 

「メダルって、ゲームセンターの100クレジットで10枚もらえるあれ?」

「いっぱいがんばってゆうしょうするともらえるあれかも……」

 

 そういえば二人はマナメダルのこと知らないもんね。かといって説明するような状況でもないし、後回し。

 

「で、そのメダルはどこにあるって?」

「はぁ? なんでテメェ、アタイがメダル探しに来たなんて知って……あっ」

 

 そこまで言ってようやく自分が思いっきり口を滑らせたことに気付いたようだ。

 

「くそ…まさかアタイが誘導尋問なんかに引っかかるとは……」

 

 うん、そんなの全くやってないよ? 思いっきり君が自爆しただけだよ? 

 これは簡単に吐いてくれるかも……

 

「で、どこだって?」

「………」

 

 あ、今度は黙っちゃった。

 そうだよね、口を開けば余計なこと言うかもしれないもんね。

 でもこっちとしては話してもらいたいんだけど……

 あっ、そういえばこれも訊きたかったんだった。

 

「じゃあ別の質問。君は確かゲイムキャラを破壊した後、そのままダンジョンにいるって聞いてたけど、どうしてここにいるの? キラーマシンはどうなったの?」

「………」

 

 何も言わない、か。

 仕方ない。素人が何言っても口を割ってくれないだろうし、ここは捕まえて教会の専門の人に任せた方が良いよね。

 そうなると一度街へ引き返さなきゃ。

 その考えを二人に言うと、案の定ラムは「え~……」と不満な声を出し、「ほーちでいいでしょ」と言う。けど放置なんてすれば逃げちゃう。ロープも持っているけど、それだって頑張ればちぎれてしまう程度のものだし、そうじゃなくても寒い雪の中で、モンスターが出てくる環境で放置はまずい。で、引き返さないとしたらダンジョンの中にまで引っ張っていかないといけない。でもそれだといつ逃げ出すか、気を張ってなきゃいけないし、リンダに気を取られてモンスターに先手を取られてしまう場合もある。

 それならさっさと街に行って警備隊の人に渡して、荷物が無い状態で探索した方がいい、と私はラムに説明した。

 その話を聞いてラムは面倒臭そうにはしているが、納得してくれた。ロムはラムが納得してくれたので、賛成してくれた。

 

 早速ロープを取り出すと、二人に協力してもらってリンダの手を背中で重ねて縛る。解けないようぎゅっと締めると「イッテェ! オイ、もっと優しくしやがれ!」と怒鳴られる。

 けど、それで逃げられたら嫌だから、もちろんその意見は不採用だよ。

 それからロープがまだ余ってたから、腕も動かせないよう胴体ごとぐるぐると縛る。その間にもいろいろ喚いていたけど、無視してきつく縛り上げる。

 足も縛ろうか、と思ったけど、それだと歩けなくなるからダメだし……

 あっ、ならロムとラムに人が乗れるくらいの大きさの氷の塊を出してもらって、それを月光剣で箱の形にしてリンダを乗せて押していけばいいんじゃ、って考えたけど、いくら雪の上を氷で、っていっても重いかな。と思いつつ、ひとまず二人に相談すると、二人とも乗り気で氷の塊を出そうとする。

 まあ何事もやってみれば分かるよね、と私は楽観的に見ていた。

 

 

 

 

 

 ──油断が命取りだと、私は実感した。

 敵が目の前にいるのだから、警戒を解くなんて自殺行為だとこの時知った。

 でもやっぱり、これは誰も想像できないんじゃないかな、と諦めた。

 

 月光剣が気付いた時にはすでに敵の射程圏内で、私が月光剣の言葉を理解する前に敵の武器は私を貫いていて、一瞬何が何だか分からなかったけど、怪我をした、ということだけは分かって、あぁせっかくロムに治してもらったばっかりなのにな、とどこか他人事のように考えていた。

 そこまで考えてようやく麻痺した脳が動き始めたようで、刺さった箇所から一気に広がるように痛覚が身体全体を支配した。

 

 痛い痛いいたいイタイッ……! 

 

 倒れる体に合わせて動く視界の中で、ラムが驚いて私の名前を叫び、ロムは急に現れた敵に怯えているのが見えた。

 

 駄目だ。立たなきゃ。二人を守らなきゃ。

 

 どれだけそう思っていても、私の身体は不自然なほどに動かない。まるで新月の日のようだと思った。

 傷口からドバドバと温かい液体が流れているのを感じて、相当深い傷を負ったんだなと理解した。

 

 これ、死んじゃうんじゃ……

 

 まだ冒険は中盤ぐらいだっていうのに、こんなとこで死ぬなんて嫌だなぁ、なんて思いつつ、その他に分かったことは、薄れゆく視界の中でロムとラムが女神化したことと、棒から先にかけて徐々に鋭く、曲がった刃物が赤い何かにまみれていたことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ──●●●は、独りだった。

 自分を慕う存在(人々)はいても、誰もが彼女を遠目に崇めるだけだった。

 ●●●は思った。独りは寂しいと。

 やがて●●●は自分とは違う、人々の想いから生まれ、人々の想いを力にする存在を生み出した。

 やがて人々は●●●よりも『想いに応える者』を慕い始め、彼女は再び孤独となった。

 だから●●●は自らの魂を裂き、もう一人の存在を生み出した。

 ●●●は彼女を、(●●)と名付けた。

 ●●●は多くの力を失い、●の女神となった。

 やがて(●●)は●の女神とは違う存在となり、彼女達は互いに互いを慕い合う、一柱と一柱となった。

 彼女の存在は、●の女神にとって心の支えとなったのだ。

 

【第●章】第●節[●の女神の誕生]

 




後書き~

次回、誰がルナを刺したのか……
ではまた次回もお会い出来ることを楽しみにして。
See you Next time.

【余談】
この話は同じハーメルン様で投稿されているシモツキ様の作品『超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay』のコラボエピソードに繋がっています。今後の話ではその時の話を少しばかり組む予定ですので、読まれていない方はそちらを読まれるとより本作を楽しめるかと思います。
勿論読まれていない方にも分かるよう書くつもりですので、今後とも空次元とルナをよろしくお願いします。
下記のリンクより飛ぶことが出来ます。
https://syosetu.org/novel/194904/

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