月光の迷い人   作:ほのりん

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第三十一話『かげでみまもるもの』

 それは彼女達にとって突然の出来事だった。

 ロムとラムが気付いた時には彼女は既に刺され、傷口から血が流れ出ており、その体は地面へと倒れ伏すところであった。

 ラムは彼女の名を叫び、ロムは突如として現れた彼女を刺した敵に怯えている。

 そんな中リンダと呼ばれていた人間は、突如現れた人物を見て満面の笑みを浮かべ、その目を輝かせていた。

 自分を助けに来てくれた。あの人間にはそう見えたからだ。

 

「──っ、マジック・ザ・ハード様!!」

「………」

 

 マジックはリンダには見向きもせず、地面に横たわり血を流す彼女を睨むような目つきでじっと見ていた。

 一方でロムとラムはその場から動けずにいた。

 初めて見る大量の血。目の前の敵から感じる強大な力。

 まだ幼い彼女達に怯えるな、と言う方が無理だった。

 しかし友達を傷つけられた。その悲しみと怒りが二人の気持ちを奮い立たせ、二人は女神化し、杖を構え魔法陣を展開し、魔法を放とうとした。

 が、魔法が放たれるその前に、マジックの武器である鎌が二人を襲った。

 二人はその素早い攻撃にまともに防御も出来ず、突き飛ばされる。

 速いだけでなく威力も相当で、地面に転がった二人は呻き声を漏らし、苦痛ですぐには立ち上がることが出来なかった。

 その間にマジックはその鎌でリンダを縛る縄を切り、リンダを解放した。

 

「ありがとうございます、マジック様。すんません、油断しちまって」

「いや、いい」

 

 リンダの言葉にたったそれだけを返すと、マジックは再び血まみれの彼女を見る。

 噴水のように血を撒き散らしているわけではないが、傷口から溢れる血は静かに、止まることなく流れ続ける。温かい血は周りの雪を溶かしながら赤く染めていた。

 

「えぇーっと、マジック様? どうしたんすか? ……マジック様?」

 

 いつまでも動かないマジックに声をかけるリンダだったが、マジックはそれに答えず、ただただ彼女を見ていた。

 一分ほど彼女を見続けていたマジックは、やがて立ち上がる様子のない彼女に失望したかのように一人呟く。

 

「…ただの空似だったか」

「…? ソイツ、マジック様の知ってるヤツに似てたんすか? …マジック様?」

「黙れ」

「す、すんません……」

 

 マジックは縮こまったリンダに見向きもせず、その場を去ろうと宙に浮く。

 しかしそこに小さな氷の粒が飛んできた。

 飛んできた氷に脅威を感じなかったマジックは、振り払うことはせず攻撃を放った人物を見る。

 氷を放ったのは少しずつではあったが立ち上がろうとする二人の女神候補生の姿だった。

 女神化も解け、先程のダメージで身体が痛いだろうに、友人の仇を打つために立ち上がろうとする。その目はまだ諦めていなかった。

 この姿を彼女達の信者が見れば賞賛するだろうか。あるいは、彼女達が傷つく姿を見て悲しむか。

 敵からしてみれば、その姿は滑稽だ。格下が格上にまともにやりあえるわけがない。

 実際その通りで、マジックが再び鎌を振るえば二人は意識を失った。どさりと柔らかな白雪の上に二人の体は埋まる。

 その姿を一瞥し、何事も無かったかのようにマジックはその場を去ろうとして、今度はリンダに止められていた。

 

「え? マジック様、コイツらにトドメ刺さないんすか?」

「その必要はない。この程度の力では我らの足元にも及ばん」

「そ、そうっすね! さすがマジック様!」

「それで、メダルはどうした」

「あっ! す、すいやせん! まだです!」

「さっさとしろ」

 

 マジックに催促されたリンダは急いで目的であったメダルを探しに行き、マジックはそのまま飛び去って行った。

 

 

 

 

 

「──ようやく行ったか。ったく、ギリギリとかヒヤヒヤさせるなよ。心臓に悪いって」

 

 なんて軽口を叩きながら隠れていた場所から出た私は、あいつのそばに立って片膝を付いた。服に血がつくとか、そういうのは気にせず、背中の傷口に手を添え、事前に組んだ術式を発動させた。

 すると細胞が活性化し、失った細胞の分を取り戻そうと増殖し始める。5分後には傷痕すら見えなくなった。

 傷のあった場所を手で撫でる。本来ならスベスベ肌を堪能出来るのに、血のせいでベタつく。けれど傷痕がないのは視覚、触覚ともに確認出来た。

 改めて見た傷のないその綺麗な肌。それはとても愛おしく、血に塗れていたとしても、綺麗だという感想に揺らぎはなかった。

 実際、たった今作った細胞だしな。綺麗じゃない方がおかしい。

 ともかくこれならこいつが死ぬことはない。安静にしていれば血はすぐに作られるだろう。

 問題は、奴等が殺戮兵器(キラーマシン)を全て復活させてしまう前に目覚めてくれるかだが……

 

「…っと、思考に浸る前にやることやっとかなきゃな」

 

 そう独り言を呟きながら双子の候補生に近づき、二人の身体に重傷がないか魔法を使って調べる。

 軽い傷程度ならこちらは何もしない。今すぐ治療しなければ命に関わるような重い傷なら治す。そう区別する。

 調べ終わって、二人とも治療すべき傷はなかったのを確認してから、三人を一ヶ所に集め、魔法陣を展開する。先程とは違うもので、本当なら私一人が使う予定だったんだが…またあの人間が戻ってきて、こいつらが捕まるのは嫌だからな。

 この魔法は『入口』を開き、一瞬で『出口』まで転送させる…所謂転移魔法だ。残念ながらそう事前準備もなしにやれる魔法ではないが…ま、今は関係ない。

 入口になる魔法陣は私達の足元に展開した。出口は事前に街の中に描いている。後はその二つを繋ぐだけ……

 ──いざ、

 

「『テレポーテーション』」

 

 言葉に反応し、魔法が作動する。魔法陣は光り輝き、光は私達を包み込んだ。

 そして、光が止む頃には私達は出口である魔法陣の上…つまり街の中の公園。その林の中へと転移できていた。

 此処なら犯罪組織もそう簡単に手出し出来ない。

 あとは連絡するだけ。

 相手はもちろん、この場において適任だろう人間。

 通話ボタンを押し、数回コールがなって、繋がる。

 

「はい。西沢です」

 

 ルウィーの教祖。西沢ミナ。

 ロムとラムが関わってるからには、彼女に電話をかけなくてはな。

 私はあいつが刺されたこと。二人が怪我をして意識がないこと。今いる場所の地名。

 その三つだけを伝え、返事も聞かずに通信を切った。

 返事なんて聞かずともミナが行動を起こすのは分かってる。場所だって伝えたんだ。直に警備隊だってくる。

 名前すら名乗らなかったが、きっと向こうは気付いただろう。気づかなくたっていい。

 少し前までたくさん関わってきたが、それだってこいつが少しでも力を取り戻せるようにヒントを仕込むための手段に過ぎなかったのだから。

 さて、それじゃ私は警備隊が来る前にここから立ち去るかね。

 

『お待ちください。グランドマスター』

 

 倒れている彼女達の方からする女性の声。

 ただそれは、“声”というよりは“意思”のようなものを相手に伝えているのだと知っている。

 そして、その声の主が生き物でさえないことも。

 

「なんだ? そいつの記憶が戻るまで、私が接触してきても話しかけるなと指示したはずだが」

『このままではマスター達はミッションをクリアできません』

「そりゃそうだろうよ。探し物をする前に倒れたんだからな」

『レアメタルを手に入れなければ、ゲイムキャラを修復することは不可能です』

「そうだな。もう片方が手に入れたアイテムだけじゃ、無理だろう」

『何より、あの地にあるマスターのシェアエネルギーを回収できていません』

「そうだな。ま、あの力は犯罪神だろうと扱うことは出来ん。後で回収すればいいだろう」

『犯罪組織の発言から察するに、あのダンジョンにはかつて存命したゲイムキャラのマナメダルが落ちているようですが』

「マナメダルってのは扱いが難しいんだ。いくら犯罪組織が力を付けようとも、メダルの力を完全に引き出すことは不可能だ」

『だから安心だと? 私にはそうは思えませんが』

 

 その“意思”に少し怒りの感情が混じり始めたのを感じる。

 私も同じだが、こいつもホント、彼女のことが大好きのようだ。

 着ているパーカーのポケットに手を突っ込む。手が冷たい金属質の物体に触れた。

 レアメタルじゃない。だが、それに類する物。ゲイムキャラを直すには十分なものだが……

 

『このままでは殺戮兵器の軍団が、この国を襲います。そうなれば、マスターは命を投げ出してでも守るでしょう。だって──』

「あいつは守護女神を守るために生まれたから。守護女神の守りたいものは、自分が守りたいものだから、か?」

『………』

「分かってるんだよ。そんくらい。で、今のこいつが立ち向かっても命を捨てるだけだってことぐらい分かってる」

『分かってるなら何故手を貸さないのですか?』

「もう手は貸しただろう。こいつの怪我を治した。ヒントもばら撒いた。この前なんて怪我したこいつを拾って治療して、教会に落とした。それ以上に何をお望みだ? 月光剣(ムーンライトグラディウス)

『私が望むのは、マスターの幸せのみ。そのためなら、たとえこの身が折れても悔いなし』

「…それも知ってる。というかそう思うように設定したの、私だしな……」

『………』

「…はぁ。わかった。ならこれでも持っとけ。レアメタルの代わりだ。それとメダルは後で自分達で奪い取れ。シェアエネルギーはその後でもいいだろ」

『ありがとうございます』

「ふん。じゃ、次に会うときはしばらく先であることを願うぜ」

 

 中身の無くなったポケットに手を突っ込み、今度こそ彼女達の下を去る。

 これ以上こいつらの傍にいると、別れが惜しくなる。そうなる前に離れることが出来て、ほっとした。

 けどやっぱり、あいつの目が覚めてるときに会いたかった。

 たとえあいつが私を忘れていたとしても、私にとってあいつは大切な存在なんだから。

 

「…魔力使ったら腹減ったなぁ。また大将のラーメン食い行くか」

 

 そんな独り言に紛れた声は、まだ私に届くことは無い。

 

『マスターが本当に守りたいのは貴女なんですよ、製作者様(グランドマスター)




後書き~

多分そのうち彼女視点の犯罪組織編を書くんじゃないかなと思います。
それがエイプリルフールの嘘なのか、ただの願望なのか、実際やってしまうのかは分かりませんが、次回もお会い出来ることを楽しみにして。
See you Next time.
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