月光の迷い人   作:ほのりん

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前書き~

前回のあらすじ。
謎の女性がルナの怪我を癒し、彼女達を助けてくれました。
ついでにアイテムもくれるその人は、どうやら月光剣と知り合いのようで。
今回はネプギア視点から入ります。それと、何回かネプギアとルナの視点が入れ替わるので、分かりやすいようにsideを付けました。
それでは朝に飲み物を頼んだら付いてくるモーニングでも片手にごゆるりとお楽しみください。


第三十二話『強いか、弱いか』

《Side Nepgear》

 

 ──探すのに苦労はしたものの、次の日の夕方にはゲイムキャラを直すための材料を取って戻って来れた私達に待っていたのは、ルナちゃんが刺され、意識不明の重体になっていた事実だった。

 教祖のミナさんからその事実を聞いた時、まったく現実感がなかった。

 それでも理由が知りたくて、どうしてって聞こうとして、やめた。

 ミナさんがとても辛そうな顔をしていたから。

 それで私達は察した。ルナちゃんと行動していたロムちゃんとラムちゃんの身にも何かがあったんだって。

 私達は三人が運ばれた国立病院の病室に案内され、そこで何事もないように寝ているルナちゃんと、今にも泣きそうな顔でベッドにすがりつく包帯姿のロムちゃんとラムちゃんを目にした。

 看護師の方に何度も、ベッドで安静にしてください、と言われているのに、それをヤダと言ってルナちゃんから離れない。

 その光景を見て、ようやく私の頭が、これは現実なんだと理解し始めた。

 なりふり構っていられなくて、すぐにルナちゃんの横たわるベッドの傍に行って、ルナちゃんを揺り起こそうとした。

 何度も何度も名前を呼びかけて。

 すぐにコンパさんが私の身体を抑え「ギアちゃん、落ち着くです」と、私をルナちゃんから離した。

 ルナちゃんは私の呼びかけにも全く反応しなくて、私は悔しさと悲しみで泣き崩れてしまった。

 コンパさんはそんな私を優しく抱きしめてくれた。でもその腕は震えていて。黙っていたアイエフさんは目を伏せていて、目頭にしわを寄せ、唇を固く結んでいた。それで「あぁ、お二人も悔しいんだ」と思ったら、少しだけ早く落ち着くことができた。

 

 しばらくして、ようやく落ち着いた私は皆さんと一緒に隣の部屋の椅子に腰かけ、ミナさんと話をする姿勢になっていた。

 傍にはアイエフさん、コンパさんの他にロムちゃんとラムちゃんの二人もいる。ルナちゃんが倒れた時のことを知っているのは、この場ではロムちゃんラムちゃんだけだそう。だから二人には酷かもしれないけれど、ルナちゃんが刺された当時、何が起きたか話してもらうために一緒にいる。

 ベッドの上のルナちゃんは医療器具が付けられてはいたものの、本当に何もなかったかのように寝ていた。でももしかしたら、布団で隠されていた部分に治療された痕があったのかもしれない。何事もないように見えて、今この瞬間にもルナちゃんは目覚めなくなってしまうのかもしれない。

 そう思うと不安で、その不安を察したかのようにミナさんはルナちゃんの容態から話し始めた。

 命に別状はなく、傷は既に治療済み。今は出血による血液不足で目を覚まさないだけだと。お医者さんの話によれば、()()()()()素早く血液が生成されているから、すぐに目を覚ますだろう、と。

 それを聞いて安心したと同時に、ルナちゃんを傷つけた犯人は誰なのかと疑問に思い、質問した。

 それはミナさんもまだ聞いていなかったそうで、その場で起きた出来事を知っているロムちゃんとラムちゃんが話してくれた。

 話すとき二人は震えていた。それがそのとき、それほどまでに怖い思いをしたんだって分かって、悔しくなった。どうして私はその場にいられなかったのか。私も一緒にいれば、皆を守れたかもしれないのに。

 二人は震え、泣きそうになりながらも少しずつ話してくれた。下っ端に会ったこと。捕まえたこと。その直後、突然ルナちゃんの背後から敵が現れ、その手に持った鎌で刺されたこと。二人は女神化もして敵に立ち向かったけど、成すすべなく倒されたこと。

 話終わる頃には二人の目から雫が流れていて、ミナさんが二人を抱きしめ、その頑張りを褒めていた。

 その後の、二人が倒れてからの事は不明だった。ただ、ミナさんの通信機に着信が入り、それに出たところルナちゃんやロムちゃんラムちゃんのこと、それから三人のいる場所だけを伝え、相手は通話を切ってしまったのだと。

 すぐさまミナさんと警備隊、救護隊がその場所へ向かうと、三人は寝かされていたそうだ。

 それだけならまだ『色々疑問は残るけど、良い人が助けてくれた』とだけで終わっていた。

 しかし次にミナさんの一言で、アイエフさんとコンパさんは驚愕していた。

 『見つけた時には既にルナちゃんの傷は痕も残らず癒されていた』。

 私はただ「すごい人だなぁ」と思っただけだったけど、色んな情報を持っているアイエフさんや、治療に関してはこの場にいるお医者さん以外の誰よりも知っているコンパさんが言うには、それは普通の人間ならば無理なこと。治療魔法で傷は治せるが、刺し傷…それもかなり深い傷を魔法で治すには、高度な魔法技術と知識、大量の魔力、そして時間が求められる。

 今のゲイムギョウ界でそんな魔法が使えるのは、魔法使いの中でも上位に君臨するミナさんやこの国の女神ブランさんぐらい。しかしお二人ほどの力を持っていたとしても、僅か数時間で準備も無しに治すことなど不可能。しかも今のルナちゃんの状態からは、もしかしたら数時間と言わず数十分で治した可能性も見えてくる。ミナさんはそう、お医者さんの言葉を代弁していた。

 魔法をあまり使わない私にはピンとこない話だけれど、ただその治療がなかったらルナちゃんは今頃、もう目を覚ましてはくれなかったかもしれない。そう聞かされて、私はルナちゃんを治療してくれた人物に深く感謝した。

 もし出会うことが出来たなら、私の出来る範囲でお礼がしたい。

 大切な仲間を、友達の命を救ってくれた恩人に。

 

 

 

 

 

 ルナちゃんやロムちゃんラムちゃんの話が終わった私達は、次の話に移っていた。

 それはすなわち、ゲイムキャラを直すアイテムのこと。

 ロムちゃんラムちゃんの話によれば、自分達はアイテムの回収をする前に倒れてしまった、と悔しがっていた。

 私達が持ってきた一つだけでは足りない。複数あったとしても一種類だけでは直すことは出来ない。あの本にはそう書かれていて、だから今度は全員で取りに行こう。そうアイエフさん達と話していたら、ミナさんは更なる驚きの事実を口にした。

 なんと、ルナちゃん達が寝かされていた場所にアイテムが落ちていたと。しかもそれはゲイムキャラを直せるアイテムの一つで、入手難易度が高い物だった。

 それもまた、ルナちゃん達を助けてくれた恩人がくれたものかもしれない。そうじゃなかったら、国内の公園の奥にそう都合よく落ちているはずがなかった。

 けれど仮にその恩人さんがくれたものだったら、その人は私達がゲイムキャラを直そうとしているのを知っていて、更にゲイムキャラを修復するのに必要なアイテムを把握していたことになる。それは私にも明らかに変だと分かる。

 だって私達がゲイムキャラを直そうとしていることも、そのアイテムを探していることも、私達以外知らないんだから。

 じゃあ何でそのアイテムが落ちていたのか。私やアイエフさん達はその答えが全然分からなかったけど、ミナさんは自分の中の心当たりを教えてくれた。

 まず私達がアイテムを探すきっかけとなった、ゲイムキャラの修復方法が書かれた本。これに書かれていた絵や文字は、以前ルウィーに居候として暮らしていた旅人がロムちゃんラムちゃんに送った絵本とほぼ同じ特徴を持っていたこと。これはルナちゃんも同じことを言っていた。

 そして三人が倒れたことを知らせてくれた通信。非通知設定で番号は残念ながら出なかったけれど、その声は、旅人と同じ声だと感じたこと。

 つまりミナさんはその本を書いた人物と、絵本を送った旅人、三人を助けてくれた恩人が全て同一人物じゃないかって思ったんだって。

 もし本当に同一人物なら、私達はその人にたくさんの恩が出来てしまっている。ゲイムキャラを直せるのは、その人のおかげだから。

 いつか絶対にお礼をしなくちゃ。

 でも、どうしてその人はそんなにも色んなところにヒントや答えを置き、そして手を貸してくれるんだろう。

 今はどうしてか分からない。けど、その人がくれたチャンスを逃しちゃいけない。

 窓から差し込むオレンジの光に照らされた部屋でそう意思を強めていると、一人が私が思いもつかなかった提案をした。

 そして、ルナちゃんが目覚めたと看護師さんが報せに来たのは、私達の意思が決まった時だった。

 

 

 

 

 


《Side Luna》

 

 ──目が覚めた時に感じたのは違和感。

 少しぼやける視界に映る、オレンジの天井。…違う。オレンジ色の光を受けた、真っ白な天井だ。

 『真っ白な天井』はここ何日か目が覚めたら見ていた。というより、どこもかしこも真っ白な空間だから、天井も白かった。

 けどここは? なんで色がついてるの? ここはどこ? 

 疑問が絶えない。身体を動かそうとして、腕に何かが刺さっているに気付いた。

 半透明な管に流れている液体は赤色で、視線で追っていけばそこにあるのは袋に入った赤い何か。多分、血。

 その赤が、私の中でフラッシュバックを起こした。

 身体から流れる赤い血。怯える二人の姿。血に濡れた刃物。

 

「っ…ぃた、い……?」

 

 思い出した途端痛みが走り、思わず何もない片手を刺されたであろうその場所に当て、いつも通りの柔らかな皮膚の感触しかしないことに気付く。

 どれだけその場所に触れても、撫でても、何もない。傷口どころか、傷跡になったときにある僅かな違和感さえなかった。一瞬身体に走った痛みは、脳が勘違いして起こした刺激だった。

 じゃあ、あれはただの夢? 

 …違う。あれは確かに起こったこと。あの時私は死にかけた。そして今、生きている。

 だんだんと思い出せてきた。死にかけたこと。気づいたら真っ白な空間で、初対面の人達と一緒にいくつかの試練とやらに挑んで、達成していって、友達になれたこと。そして最後の試練を終えて、それぞれの場所へ帰ったこと。

 

「…帰ってこれたんだ。私の在るべき場所に」

 

 その言葉は不思議と心を落ち着かせてくれて、ようやく私は自分がどうなっているか考える余裕ができた。

 オレンジ色の光は窓から差し込む夕日で、照らされたこの部屋にはいつか見た器具と似たものが多い。

 身に着けている服も、いつものと違うけど、これまたいつか着ていた服のデザインに似ている。

 うん。これは間違いなく、

 

「病室だよ、これ……」

 

 ははっ、と乾いた笑いが誰にも届かず消える。

 僅か一か月足らずで二度も病室で目覚めることになるなんて、誰も思ってないよ……

 

 

 

 思考が現実逃避しかけていると、病室のドアが開いて全く知らない女の人が入ってきて、私が目覚めてるのに気付くとすごく驚いた様子で傍に来た。

 服装から察するに看護師と思われるその人は、持っていたものを机へ置くと、私に色々と確認してきた。体調がどうとか、何か異常はないかとか、自分がどうしてここにいるか分かるか、とか。そういう基本的なこと。これは前回のときも体験済みなので、全く異常なし、と答えておいた。そしたら看護師さんが「運がよかったですね」と微笑んでいた。

 まあそれもそうか。倒れてすぐに意識を手放していたけど、結構な失血があったはず。なのにこうして後遺症も何もないのは、運がよかったんだろう。

 

 看護師さんは基本的なことを聞き終わると、医者と教祖様達を連れて来ると言って部屋を出ていってすぐ、本当にすぐにネプギア達が部屋へ入ってきた。

 ロムとラムはベッドで上半身を起こした状態でいた私の傍に駆け寄り、泣きそうな顔で「大丈夫?」と訊いてくる。それに心配かけまいと笑顔と出来るだけ優しい声で「大丈夫だよ」と返せば、二人の表情は和らいで「よかった」と安心してくれる。その目は赤くなっていて、私のことで赤くなってしまったなら、申し訳ないと思う。けど同時に、心配してくれたんだって思ったら、嬉しいという感情が溢れる。

 ダメかな? ううん。きっとこんな時にそんな感情を抱いたって、許されるよね。

 ネプギアも傍に来てくれて、心配そうなネプギアに「心配かけたみたいでごめん。でも、もう大丈夫だよ」と伝えた。それにネプギアも少しは安心してくれたみたい。

 けれど、すぐにその表情は曇る。見ればコンパさんも同じような表情をしていた。アイエフさんにいたっては無表情で、何の感情も映していなかった。

 否、映さないようにしている、というべきか。

 まさか、と最悪な展開が頭をよぎる。けど、女神候補生がここにいるってことは、まだ大丈夫か、どうなのか。

 もしかしたら、と思うと聞きたくない。三人がどうしてそんな表情をするのかなんて。

 けど聞かなきゃならない。逃げてばかりじゃ、何も進まないどころか何も出来ずに終わってしまうから。

 不安で、怖くて、けどそんな意志が私の口を開かせる。

 

「…どう、したの……?」

「…あのね、ルナちゃん」

 

 気付いたらロムとラムはミナさんに連れられて病室を出ていて、部屋には私達四人だけで。それを確認してからネプギアは口を開き、私が想像してしまっていたこととは違う、けれど決して聞きたくはなかった言葉を放った。

 

「プラネテューヌに戻ってほしいの」

「………え?」

 

 言い渡されたその言葉は、現実から遠ざけるのに十分な威力を持って、私に届いた。

 

 

 

 

 


《Side Nepgear》

 

「…どう、したの……?」

 

 私の感情が表情に出ていたんだと思う。後ろのアイエフさんやコンパさんはどうかは分からない。

 けれど、確かに私達の中にある感情が決して明るい物ではないことを、ルナちゃんは察した。察して、何があったのか訊いてきた。その時のルナちゃんの顔は、まるで怖いことから逃げたいけど必死に踏みとどまっているような表情をしていて、きっと悪い方向に考えてしまったんだと思う。

 それはきっと、間違いじゃない。

 ただ、今から告げるのはルナちゃんが想像してるのとは違うことだと思う。だってこれは、私達の我儘に振り回されてしまったルナちゃんを、更に振り回す言葉だから。

 そしてルナちゃんを一番振り回したのは、私の身勝手な思い。

 だから、この言葉を告げるのは私が一番適任だから。「…あのね」と前置きして、私は告げる。

 

「プラネテューヌに戻ってほしいの」

「………え?」

 

 その時のルナちゃんの表情は悲しそうでも、嬉しそうでもない。ただ、私が何を言ったのか理解できていない、そんな表情をしていた。

 それでもルナちゃんは、必死に私の言葉を噛み砕いて、訊いてきた。「どうして」って。

 だから私は、ルナちゃんを悲しませないように言葉を選んだ。結局悲しませることだとしても、その悲しみは決して軽くはならないことだとしても。少しでも重くならないようにって。

 

「この旅の中で、ルナちゃんはいっぱい怪我をしたり、体調が悪くなったりしたよね」

「う、うん…で、でも、大丈夫だよっ。ほら、今だってこうして──」

「大丈夫じゃないよ! ルナちゃんは死にかけたんだよ!?」

「っ……」

 

 つい感情的になって、叫ぶようにルナちゃんの言葉に被せる。

 ルナちゃんの言うことは分かる。私もルナちゃんと同じ状況になっても「大丈夫」って言うと思う。

 でも私達女神と違って、ルナちゃんは普通の人間。少し力があって、少し不思議なところがあっても、普通の人間だから。私達よりも怪我をしやすくて、それが重傷化しやすい。

 アイエフさんとコンパさんは、それを覚悟で私と一緒に旅をしてくれている。お姉ちゃん達を助けたいって行動してくれている。

 けどルナちゃんは違う。本当ならルナちゃんはプラネテューヌにいるはずだった。そこを私が頼み込んで、付いて来てもらった。最初にお願いしたのがイストワールさんやアイエフさんでも、ルナちゃんが決断したのは、私の「お姉ちゃん達を助けたい」って思いに応えようとしてくれたから。私の言葉が、ルナちゃんをここまで引っ張ることになってしまった。ルナちゃんにたくさん、怪我を負わせてしまった。

 私は全然大怪我を負うようなことがなくて、ルナちゃんは毎回のように怪我を負う。

 それは運が悪かったとか、間が悪いとか、そういう言葉で片付けることも出来るんだと思う。

 けど私の気持ちはそれでは片付けられない。またルナちゃんが死にかけたら。ううん、もし本当に目を覚まさなくなってしまったら。

 そう考えるだけで心の中が凍えて、辛くて、泣きそうになる。

 だから今ここでルナちゃんを旅のメンバーから外さなきゃならない。プラネテューヌに戻ってもらわなきゃならない。

 友達がいなくなるのは想像するだけでも辛く悲しいことだから。

 

「これ以上、ルナちゃんが怪我をしたり死にかけたりするのは嫌なの。だからお願い、分かって」

「で、でも……」

 

 捨てられそうな子犬のように悲しそうな顔をするルナちゃん。

 いくらルナちゃんとずっと会えなくなってしまうことの方が辛いからって、こんな表情をするルナちゃんを見るのも、そうさせてしまうのもすごく辛い。ルナちゃんのためだとしても、すごく。

 私の気持ちに気付いたんだと思う。アイエフさんはわざとらしく大きなため息を吐いて、ルナちゃんを睨みながら告げる。

 

「正直言って、足手まといなのよ。そう毎回怪我されて、周りを巻き込んで。そんなのが続いたんじゃ、面倒見切れないわ」

 

 わざとルナちゃんを傷つけるような言葉は、アイエフさんなりのフォロー。アイエフさんは自分から悪役を受けてくれた。それは今回の件にすごく責任を感じているからだと言っていた。多分、ダンジョン探索を二手に分けようと言い出したのを後悔しているんだと思う。怪我を回避することは不可能でも、一緒にいれば少しは守ってあげることが出来た。ルナちゃんが死にかけるなんてことにならなかったと思ってるんだと思う。

 私だって同じ。もしその場にいたら、なんて『たられば』を考えてしまう。後悔したって遅いのに。

 

「ごめんなさいです、ルナちゃん。でもこれ以上一緒にいたら、今度こそルナちゃんは……」

 

 コンパさんも辛い。ルナちゃんを案じていても、どれだけ優しい言葉遣いで言っても、突き放す言葉になってしまうから。

 アイエフさんの言葉を聞いてから俯いてしまったルナちゃんはコンパさんの言葉を聞き終えると、乾いた笑いを漏らした。

 

「は、はは、は……そ、そーですよね。こんな弱いの、居たって邪魔ですよね…はは……」

 

 震える声でそう言うルナちゃんはとっても悲しそうで辛そうで、今にも泣きそうで。

 今すぐにでもその発言を否定したい。邪魔なんかじゃない。むしろルナちゃんのおかげで助かったことだっていっぱいあるんだって。

 それでも、これ以上ルナちゃんを傷つけたくないから。

 だから私は何も出来ない。何もしてあげられない。その身体を抱きしめてあげることも、傍にいることも。

 ルナちゃんのため、だから。

 

「…わかり、ました。私はここでリタイアしますね。皆さんは頑張ってください。応援してます」

 

 誰が見ても明らかに無理をしてると分かる笑顔で、震える声でルナちゃんはそう言った。

 正直、もっといろいろ言われるかと思ってた。嫌われる、罵倒される。それも覚悟の上だった。

 けどルナちゃんはそんなこと一切言わなかった。私達の言葉を聞いて、あっさり身を引いた。

 やっぱりさっきのルナちゃんの言葉は間違ってる。ルナちゃんは邪魔なんかじゃなくて、私から見たらとっても、強いよ。

 

 

 

 

 


《Side Luna》

 ネプギア達が出て行って、ミナさんが気を利かせたのかロムとラムが戻って来ない、私だけが取り残された病室。

 さっきからピッ…ピッ…と心拍数を示すモニターの音だけが部屋の静寂を破っている。

 …なんだか無性にムカついてきた。

 無意識に振り上げた手をそのうるさい機械に構えて、──やめた。

 機械に当たったってどうしようもない。それどころか壊れたら病院の方にご迷惑をおかけしてしまう。

 じゃあこの気持ちをどう発散したらいいんだろう。記憶もなくて、知識も最近得たものしかなくて、方法が分からない。どうせならそういう知識も得ていればよかった。

 …そもそも私、今どんな感情なんだろう。

 

 辛かったから、悲しい? ──うん。悲しい。

 ムカついたから、怒ってる? ──うん。すごく怒ってる。

 

 それ以外にもある。これは…悔しい? 

 どうして悔しいんだろう。悲しいんだろう。怒ってるんだろう。

 ネプギアやアイエフさん、コンパさんに対してそれらの感情があるのかな? 

 …違う。三人に対してじゃない。じゃあ誰に対して? 

 一緒にいたロムとラム? 違う。じゃあミナさん? それこそない。

 じゃあ私? ──うん。私だ。

 私は、私自身に色んな感情を持ったんだ。

 悔しいよ。悲しいよ。怒ってるよ。

 それらは全部、力のない私に対して。

 中途半端に力があって、それ以上成長なんて出来なくて、中途半端に皆さんに期待させて、心配かけて、迷惑かけて。

 少しは成長してるって思ってた。期待に応えられなくても、少しは役に立ててるって。

 役に立つどころか、足を引っ張ってたんじゃ意味ないどころかマイナスじゃん。

 今回の件でそう、強く自覚出来た。

 うん。今回死にかけたのは良い機会だと思う。このまま付いて行ったって、余計ネプギア達に迷惑をかけてたんだ。もしかしたらネプギア達は前から邪魔だと思ってて、言い出せなかったのかもしれない。思ったより役に立たない存在だけど、自分達から誘った手前何もなくパーティから追い出すのもって。

 そういう意味じゃ、良い機会だよ。本当に、うん。

 

 不意に手の甲に何かが落ちて、見た。キラリと光る、僅かに温かかった透明な雫。それは一つだけじゃなくて、二つ、三つとポタポタ落ちる。乾いた手と真っ白な布団を濡らして止まらない。

 それだけじゃなくて喉から勝手に声が出て、両手を使って嗚咽を堪える。

 

 今更、なんだよ。今までだって自虐してきただろ。自分に自信なんて持てなくて、何でも悪い方に考えてきただろ。なのにどうして開き直ろうとしたらこれなんだよ。

 ──友達(ネプギア)に捨てられたって、そう思っただけだろっ……

 

「ぅ…ぅぇ…ぅぅ……っ……」

 

 ──やっぱり私は弱いよ。




後書き~

ルナちゃんパーティ脱落!
いえ、喜ばしいことではないんですけどね。
とはいえ、これ以上力を付けないまま付いて行ってもルナの死亡率は上がるだけ。最初に彼女自身が危険視してたとおりです。
ネプギア達も辛い。ルナも辛い。けど、やがてお互いのためになると信じて。

大変な世の中ですけど、病気になっても怪我をしても、治して笑顔で「大丈夫だよ」と言えるように。
また次回もお会いできるように。
Goodbye,let's meet again!!

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