月光の迷い人   作:ほのりん

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第三十六話『次の目的地は』

 怖かった。

 皆の大切な物、大切な場所のため。

 その気持ちで動いていても、結局は友達の気持ちを踏みにじってる行為だって、分かってたから。

 もしそれがバレて、次に会ったら。

 友達は私に愛想を尽かして、拒絶するんじゃないかって。

 そう思ったら会うのが怖くて、話すのが怖くて。

 嫌われる。そう思うだけでも怖いから。

 

 だから私は逃げ出した。

 

 

 

 

 


 目が覚めたら知らない天井で、知らないベッドの上。

 そんなありそうでなさそう…いやもしかしたら人生一回くらいは経験するかもしれないことを、私は結構経験してる。多分四回くらい。二回くらいは病院のベッドだったけど。

 そして今私は、五回目の経験をしている。

 

「いや、ほんとここ…どこ?」

 

 頭に痛みを感じながら、ベッドから降りて立ち上がり、周囲を見渡す。

 部屋の中はブラウンを基調にシックな感じに整えられた家具や調度品が置かれていて、結構広い。

 ただ人の部屋かと言われれば、違うと思う。物が少なくて、なんというか、ホテルみたい。それもちょっとお高めの。

 ベッドはふかふかだし、布団はよく眠れそうなほどふわふわで、少し重い。他にもあちこちにちょっとだけ高級感が漂ってる。

 ネプギア達と泊まったホテルも高そうだけど、ここはそれ以上って感じがする。

 人生で一回くらいはちょっと贅沢してこんなホテル泊まってみたいよね、って人が泊まりたがりそうな部屋だよね。

 

 でも私、こんな部屋で寝た覚えがないんだけど。

 …いや、それどころか私、寝る前の記憶さえ曖昧なんだけど。

 確か…そう、ラーメン屋に行って、女の子に会って、ジュース飲んで…それから? 

 ジュース飲んだ後は……だめ、思い出せない。何か話してた記憶はあるんだけど、なに話したかとか、全然思い出せない。

 なんなんだろう、この感じ。さっきから頭がズキズキと痛むし、妙な怠さがあるし…風邪? 

 

『マスター、おはようございます。…どうやら体調が優れないご様子で』

「おはよう、月光剣。うん…なんか身体が変で…風邪かな」

『いえ、おそらく夜通し飲んでいたせいかと』

「夜通し飲む? 何を?」

『覚えていないのですか? マスターがとても美味しいと飲んでいた物のことです』

「あの果実のジュースのこと? でもジュースを一晩中飲んでたからってこんな体調には…そもそも私、なんでこんなところにいるのかさえ分からないんだけど」

『はい。あの方が眠ってしまったマスターを運んで下さったのですよ』

「あの方って、レナ?」

『はい』

 

 そっか。寝ちゃった私をレナが運んでくれたから、寝た時の記憶が無いんだ。なんで途中で寝ちゃったのか分からないけど…疲れてたからかな。いつもより頑張ったもんね、昨日。途中から記憶が無いのも、眠くなりながら話してたからかな。うん、きっとそうだよね。

 うんうん、と首を縦に振って自己完結して、そこでようやく気付いた。身体のあちこちに、傷の手当てがされているのに。

 それと服も、和服の寝間着になっていて、服の中もちゃんと手当されていた。

 ってことは、まあ、一度裸を見られたってことだけど…うん。なんでかレナにだったら別にいっかって思ってるね、私。特に恥ずかしいとは思わないや。

 

『マスター。机にあの方からの置き手紙が残されていますよ』

「あ、ほんとだ。で、これは…え? なんで洗剤?」

 

 月光剣の言った通り、机の上にはメモ用紙をちぎって使ったような置き手紙と、コンビニの袋に入った洗剤(開封済み)。

 ひとまず手紙を読んでみれば分かるだろう、と読んでみる。

 

『おはよう! よく眠れたかな? 昨日は疲れてたみたいだね。お店の中で寝ちゃったから驚いたよ。…なんて。実はあなたに飲ませたあのジュース、本当はお酒だったんだ。果実酒っていうの。だましてごめんね。ちょっと盛り上がればいいかなって思って渡したんだけど、予想よりいい反応もらっちゃったからいっぱい飲ませちゃった。てへっ。』

「いやてへって! そんなので誤魔化されないよ!? なに騙して飲ませてるのさ! 人生初の…初なのかな? まあそれは置いといて、ジュースって言って飲ませるなんて…もー!!」

 

 って、怒ってるように見えて、その実最後の言葉以外ただのツッコミで、そんなに怒りはない。多分正直にお酒だと言われて渡されても、まあいっかって飲んでた気がするから。

 あ、もちろん子どもは飲んじゃダメだよ? 私はほら、分かんないから。

 それになんとなくレナ相手だと怒りが湧かないんだよね。仕方ないなぁって。

 そんなこと思いながら、続きを読んでいく。

 

『だから寝ちゃったのは疲れもあるけど、お酒のせいでもあってね。もし体調がおかしかったりしたらそれは二日酔いなの。ごめんね。お詫びにコンビニでいろいろ買ってきたよ。冷蔵庫に入れておいたから、飲んだり食べたりしていいよ。

 それと洗剤も買って服とか靴とか剣とか洗っておいたから。ちゃんと汚れは落としたよ。余った洗剤、私はいらないからあげるね。

 そうそう、目が覚めて知らない部屋にいるって思っただろうけど、そこは私が元々泊まってたホテルでね。事前に宿泊代は払ってあるから気にしないでね。明日の分も払ってあるから、今日はゆっくりと部屋で休むといいよ。何事も、休息大事。頑張るのは、また明日からでいいんじゃないかな。

 それじゃ、私はちょっとリーンボックスに行かないといけないから。またどこかでね』

 

 手紙はそこで終わっていて、なんというか、至れり尽くせりだねっていうのが私の感想。

 冷蔵庫を確認してみると、そこには二日酔いに効く、と書いてある瓶入りの栄養ドリンクが一本と、ペットボトルの水とお茶が何本か。それにコンビニのうどんが入ってた。

 クローゼットを覗くとそこには私が昨日着ていた服とズボンがハンガーにかかってて、私の荷物もそこに。

 靴箱には確かに靴が入ってて、擦れとかそういう使ってたらできちゃう傷以外の汚れは全部落とされてた。…ってことは血まみれだったことも気付いてるはずなんだけど…何も書いてなかったのは、彼女なりの配慮なのかな。

 そこまで確認してから、冷蔵庫から栄養ドリンクとうどんを取り出して、うどんをレンジに入れて、待ってる間に瓶の中身を飲んだ。

 

「うげぇ…まずい……」

 

 栄養ドリンクなんてそんなもの、とは思うけどやっぱりまずいからお茶も取り出して、口の中に残るあの味を流す。

 しばらくしてうどんが温まって、「いただきます」と手を合わせてから啜る。その優しい味と麺の柔らかさは、二日酔いで具合の悪い身体には優しいな、と思って、そこまで気を使われてたのには驚いて、そして嬉しくなった。

 食べ終わって、ゴミを片付けてからベッドに寝っ転がって、一息ついて、「何をしよう」と考える。

 せっかくレナにこの部屋を用意してもらったのだから、今日一日はだらだらする日でもいいかもしれない。昨日はいっぱい頑張ったし、それまでもずっと頑張ってきたのだから、一休みくらいしたって誰にも文句言われないよね。

 …そもそも文句なんて誰が言うんだろ。ネプギア達はもう、私を置いて行ったのに。

 

「…だめだよ。今はそれも忘れなきゃ。じゃなきゃ、心が休まらない」

 

 うん。今は昨日のことなんて全部忘れて、次何やるかとか、そういうのを考えよう。

 そうだな…まず何事も先立つものが必要だよね。クエスト受けて稼がなきゃ。

 それからルウィーに居たってやることないし…かといってプラネテューヌに戻るのは、まだ後でいいや。ラステイションも同じ。

 …うん。ならまだ行ったことないリーンボックスに行こう。どうやって行くのかは分からないけど、誰かに聞けば分かるよね。

 じゃあ明日は旅費と生活費を稼ぎに行って、十分貯まったらリーンボックスへ、だね。

 そういえばレナもリーンボックスに行くって書いてあったけど、もしかしたら会えるかも。…って、そんなにリーンボックスは狭くないよね。

 でも会えるといいな。レナの傍って、なんだか居心地がよかったから。

 

 とりあえず次やることは決めた。だから何も考えずゴロゴロしてたんだけど……

 

「…ひまっ!」

『何かの動物の鳴き声ですか?』

「違うよ! 暇なの! ひーまー!」

 

 まるで子どもが駄々をこねるようにベッドの上で手足をバタバタさせるけど、それで消費できるのは時間より体力。その結果何かが起こることもなく、動きを止めてしまえば部屋には外の僅かな音しかしない。

 何かやろうにも、暇つぶしができるものなんて全然持ってない。

 …Nギアのゲームって選択肢もあるけど、ちょっと今は通知を見るのが怖いのでパス。

 あと他に何かあったっけ……? 

 

『では昨日ルウィーの教祖より返された本を読んでみてはいかがでしょうか?』

「それだっ!」

 

 あれなら少しは時間をつぶせる。

 そう思って鞄から本を取り出して、またベッドの上に転がって本を開く。

 最初の絵を飛ばしていって、最初に書かれていた項目は『星の女神と月の女神』のこと。

 文章を読んでいくと、よく分からない単語や事柄がいくつも出てきて、これはそういう予備知識がないと理解できないんだな、と理解する。

 とりあえず分かった部分だけまとめると、この次元には守護女神様の他に二柱、女神様がいて、それぞれ星と月の力を司ってるんだって。主な仕事は世界の守護。守護女神様が国を守るなら、この女神様達は世界全体のバランスを調整したり、空次元の外からの敵と戦ったりするのが仕事内容。あと次元が崩壊するかもしれない危機的状況下で、守護女神様の手に負えないと判断した時も、その要因のために戦ったり守護女神様に力を貸したりするんだって。陰ながら皆を守ったり支えたりする人達なんだね。

 今は月の女神様は特定の場所にとどまらず、あちこちを旅してて、星の女神様はそもそも空次元にいるどうかも分からない状況みたい。本が書かれた日付は分からないけど、それでも数十年間はそんな感じだから、今も変わらず同じかもねって。

 でも犯罪神が復活しかけてるんだし、何かしら行動はしてるかも。旅の途中で会えたら、何か聞いてみようかな。…そもそもお二方の容姿、何一つ分からないけど、なんとなくオーラで分かるよね、きっと。

 

 次の項目は『月光剣』について。…って、

 

「おおっ! 本当に書いてあったよ、君のこと!」

『そうですか。それで、その本で私はどう書かれていますか?』

「えっとね……」

 

 これも読んでみると、やっぱり理解できない文章が多い。

 けどさっきよりは分かる気がする。だからその内容を私なりにまとめると、

 月光剣とは月の加護を受けた剣。月の光を受け、まるでその光を反射するかのように輝くことから、月光剣と名付けられた。

 ゲイムキャラと同じ、女神様によって造られた剣で、自我を持つ。そのため剣に認められた者にしか扱うことができない。認められる条件は不明。おそらく相性だと考えられている。

 剣に備わっているのは自我だけでなく、収納機能も搭載されている。しかし剣と同じ、女神様に造られた物しか収納できない、という欠点を持っているため、実用的ではない。今のところ世界にある女神様の造った物はこの剣とゲイムキャラ、マナメダルのみである。

 この剣は今、ある少女が持っているらしい。

 まあその少女って、多分記憶を失う前の私だろうね。

 

『なるほど。私のことはそのように書かれているのですね』

「うん。…ねえ、もしかして君を造った女神様って、月の女神様だったりするの?」

『いいえ。違いますよ』

「そうなんだ。月光剣って名前なんだし、月の女神様が造ったのかと思ったのに。的外れかぁ」

 

 まあ今までの空次元にいた女神様っていったら、結構いるだろうしね。その中の誰かだろうな。

 

 それで次は…ゲイムキャラは今はいいから、その次の『マナメダル』をついて、読んでみよう。

 えっと……ねえ、これ、全部理解できる文章ってないのかな……

 

『専門書とはそういうものです』

「いやこれ、専門書じゃないと思う……」

 

 これまたやっぱり分からないだらけの文章をまとめると、

 マナメダルは各国のゲイムキャラ、その中でも特に力が強いものに一つずつ渡されていて、中には膨大な量の魔力が蓄えられている。その量は国ひとつを滅ぼすのに十分な量である。

 基本的にゲイムキャラが保管しているが、もし有事の際に自身が壊される危険性がある場合、信頼における人物に託す場合がある。優先度は女神様だが、その場に人間しかいない場合、人間に託すことがある。

 使うには特殊な知識と技量が必要で、素人には扱うことができないようになっている。

 球体の方が魔力を蓄えている魔道具で、円盤の方が封じるための魔法陣であり、この二つが合わさって初めてマナメダルとなる。

 そのため円盤の方を壊すと、球体に保管されている魔力が使えるようになってしまう、という欠点がある。

 

「ほうほう…つまり、結局悪い人の手に渡ったらヤバいよね、って話?」

『そういうことです。故意でも事故でも、壊されてしまえば誰でも使えるようになってしまう。そうならないよう、私に収納するか、ゲイムキャラに警告していかないといけませんね』

「そうだね。…って、待って。私、昨日ミナさんに渡しちゃったよ!?」

『はい。あの教祖でしたら悪用しないでしょうし、敵も今この国のマナメダルがどこにあるか把握できていないでしょうから、大丈夫ですよ。あの人間も、マスターが持ってる、というところまでしか分かりませんから』

「それもそっか。私が持ってると思わせておいて、いざ私が倒れても無い物は無いってやったほうがいいよね」

 

 なら特に何の問題もない、ということで、次の項目は……『ゲハバーン』? 聞いたことない物だけど、どういう代物かな。えっと……──

 

 

 

 

 


 次の日、私は荷物を持ってホテルを出た。

 昨日考えた通り、リーンボックスへ向かうために。

 結局あのあと本を読んで、中に書かれていたことについて考えて、一日を終えた。

 レナの残した手紙はゴミ箱に入れて、他に使ったものもまとめて置いて、ホテルを出た。

 

 だから気づかなかった。手紙は表だけでなく裏にも書かれていて、その内容が今日何かが起きることを告げていたのに。

 

『P.S.あんまり無茶とか無理とかしないようにね。死んだら元も子もないんだから。

 それから明日は足元に注意してね! 落とし穴とか特にだよ! 落とし穴の先がどこにつながってるか、無事帰れるか分からないからね!』

 

 

 

「え、なんで私、宙に浮い…てない! 落ちてる! 落ちてるから! ちょっ……! 

 

 ダレカダスケテー!!」




後書き~

これにて第三章、ルウィー編終了です!お疲れさまでした!ほのりん先生の次回作にこうご期待…って、本作が終了したわけじゃないです。次第四章ですね。
ですがその前に、『大人ピーシェが頑張る話。』×『空次元ゲイムネプテューヌ~月光の迷い人~』コラボストーリーを挟みます。今回はこちらでもルナちゃんの視点で投稿させていただきました。本編にも時折その話が出る予定なので、是非お読みください。
それでは次回もまたお会いするのを楽しみに。
See you Next time.

今回のネタ?らしきもの。
・ダレカタスケテー
 何回か出てきてますね。何気に初めて説明するかもです。
 ラブライブ!から小泉花陽の持ちネタです。いいですか?皆さん。ダレカタスケテーと言われたら汚い声でチョットマッテテー!と言うのですよ。いいですね?ではせーのっ、「チョットマッテテー!」
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