第三十七話『二度目の別次元』
澄み渡るような水色、とてもきれいだ。
まるで水の中だと認識してしまいそうな状況だ。
空気が美味しい。まるで大自然にでもいるような……
でも、少しだけ不満点がある…それは風が少し痛いことと。
落下しているということだ。
「うーん、こんな状況、なんとなく初めてじゃないような……」
こう、頭では覚えてないけど、身体は覚えてるとか。そんな感覚が……
あ、でもあの時は真っ暗だったか。って、何で覚えてるんだろ。
うん。しかしどこまで落ちてくんだろ……
もうそろそろ危機感が迫ってきたんだけど……
「はは、ははは……」
「ダレカタスケテエエエ!!」
ふわっ……。
次の瞬間、突然落ちている体が静止する。
「だいじょーぶ?」
声が聞こえた方を見ると、黄色い髪の女性が助けてくれたみたいだ。
「意識ある? 脈はある?」
「え…う、うん。どうにか意識は保って…って、脈なかったら死んでるよね!? やだよ私、空中落下でショック死とか!」
「ははっ! ナイスツッコミ!」
そう言ってその女性は地上へと降り立つ。私もまた、草の地面を踏んだ。
「ここは…どこ?」
降りたったそこは、どこかで見たことあるような、でも微妙に違うような場所。
「さってと!」
助けてくれた女性が、突然光だし、先ほどとは全然違う、大人っぽい雰囲気になった。
「君、自分が何処の次元の出身かわかりますか?」
「どこの出身って…ここはゲイムギョウ界じゃ……?」
言葉の意味が分からず、周りを見渡す。けれど広がるのは、やはりどこか違和感を感じる。
「ゲイムギョウ界…ではあるんですね、了解しました」
そう言って、その女性は頭をかいた。
「なんと言えばいいのか…パラレルワールド?」
「パラレル…IFとかの?」
「ええと…、ここはゲイムギョウ界だけど別のゲイムギョウ界というか……」
そう言いながら、その女性は苦笑いした。
別の…そういえば前にどこかに飛ばされた時も別次元で、それぞれ別のゲイムギョウ界から飛ばされた方々と会ったけど……
「…もしかしてここ、空次元ゲイムギョウ界じゃない?」
「察しが良くて助かるよ。簡単に言うとそういう事です」
そう言いながら、その女性は髪をいじった。
「…まぁ、任せてください。こういう人の対応はなれてますから」
「任せて」という彼女をどのくらい信じられるか。
初対面で、すぐに信じられるほど、私は無知じゃなくなった。
けどここが私の知らない次元なら、他に知ってる人もいない。頼れる人なんてもっといない。
なら信じてみよう。彼女は私を助けてくれた。ここが別次元だと教えてくれた。
その優しさは本物だろうから。
「…うん。任せます!」
「………」
「…? えっと…どうしました?」
「い、いやいや! もうちょい疑おうよ?! 知らない人は信じちゃ駄目って教わらなかった?!」
そういって、少し女性の口調が乱れた。
「うーん、残念ながらそう教わった記憶はないですねぇ…私、ここ数か月の記憶しかないので!」
「最近生まれたの君?! それともココハドコ? アタシハダアレ? 的な何──」
そこでハッと正気に戻った女性が、咳払いをした。
「し、失礼。取り乱しました」
「い、いえいえ…えっと、どちらかというと後者ですね。目が覚めたら全く知らない場所ってやつです。名前も忘れてましたけど、すぐに思い出しました」
「そうですか…、そういえば名前を聞いていませんでしたね。私はピーシェ、臨時的にこの世界で女神をしている者です」
「えっ…め、女神様!? どうりで変身したり性格変わったり…じゃなくて! こ、これは失礼しました! わわ、私は向こうで旅をしているルナです! この度は女神様に助けていただき感謝の極みと言いますか……!」
女神様が相手なら、ちゃんと畏まらないといけない。ネプギア達相手でその感覚が薄れたかと思ってたけど、いざ目の前に女神様が現れれば、反射的にひれ伏し、態度を改めることができた。…と思う。
「ちょっ! 頭を上げてくださいっ! 女神様でも臨時ですからっ」
私の態度に、あたふたと、女神様は焦り始めた。
「か、畏まりました。女神様がそう仰るなら……」
目の前の女性の言う通り、立ち上がり、服の土汚れを払う。
これはあれかな。ネプギアのときもそうだったけど、女神様って実は畏まられるの嫌なのかな。
「は、ははっ…突然『煮るなり焼くなり好きにしてください』とか言わないでくださいね……」
そう言いながら、女神様は苦笑いをする。
「一度、助けた少女にそう言われたことがあって……」
「そんなことあったんですか!? さ、さすがに私は嫌ですよ! まだ記憶も取り戻してない、約束も果たしてない。なのに死ぬなんて!」
「そ、それが普通の反応ですよね…。では、そろそろ協会に案内します、ついてきてください」
「畏まりました。案内、よろしくお願いします」
「あ、あの~、私も人の事言えないんですけど…出来れば…敬語も尊敬語もなしで……」
そう、女神様はそっぽを向きながら言った。
そんな、女神様に恐れ多い…とか言おうとしたけど、さっきは女神様の言う通り~って顔を上げたんだから、そこは貫かなきゃね。
「はい…じゃなくてうん。分かったよ。じゃあ改めて、よろしく、ピーシェ」
「よ、よろしくね」
少し顔を赤くしているピーシェが笑顔でそう言った。
女神扱いされるのにとことん慣れていないのだろう。
やっぱりさっき思ったこと、外れてないかも。
そう思いながら私はピーシェの後をついていった。
少し歩いた先で、水色のモンスターに遭遇した。
「ヌラァ……」
「ヌラァ……」
「スライヌか…、ルナさん。戦えますか?」
目の前にいるのは、向こうの次元でもおなじみ、スライヌだ。
ざっと見た感じ、およそ10体はいるであろう。
私はピーシェの問いかけに、自信満々に。けど最後の方はぼそっと呟く。
「もちろん。これでも向こうではすごく強い敵と何回か戦ったんだから! …その度に死にかけたんだけど」
「わかりました。五体ほどお任せします」
そう言ってピーシェは胸ポケットからコンバットナイフを取り出し、逆手で持ってファイティングポーズをとった。
「了解! スライヌなんて今更手間取る私じゃない!」
腰に付いた剣を鞘から取り出し、両手で握り正面に構える。
相手は五体。けど所詮雑魚なモンスター。今まで相手してきた敵と比べたら、怪我もしないはず。
「……?」
剣を構えると、何故かピーシェから月光剣に不思議な視線を感じたけど…すぐになくなった。なんだろう、月光剣に何か変なとこあったかな?
そんな私の疑問をよそに、ピーシェは目の前の敵に集中する。
「…行きます」
刹那──
ピーシェはまるで空気のように軽いフットワークで、にも関わらず素早くスライヌに接近し、戦闘を開始した。
「すばやっ…て、感心してる場合じゃないよね。いくよ、相棒!」
『Yes,Master.』
私の言葉に、いつも通り返す月光剣。
うん、今回は最初から相棒がいるんだから、余裕だね!
駆け出す私を敵だと認識したスライヌは体当たりをかまそうとしてくる。
けれど剣を上から下へ振り下ろすことで一撃で倒す。
「………」
お互いに特に声を出すこともなく、息も乱すことなく、次々とスライヌをすべて倒しきる。
そしてお互いに武器をしまうと、ピーシェは口を開いた、
「いいね、いい動きです。ルナさん」
「お褒めにあずかり光栄ですっ、なんて。ピーシェの方がすごかったよ! さすが女神様だね!」
「う、うん…どうも」
そう言いながら、恥ずかしさからなのか、ピーシェは頭をかいた。
「さて、先を急ぎましょう」
「うん!」
《プラネテューヌ》
「あ、おかえりなさいピーシェさん…おや? そちらの方は?」
目の前にいるのは、間違いなくイストワールだ。
ただ私の知ってるイストワールさんなら、私を知ってる。教会に落ちた私を保護したのは間違いなく彼女達だから。
さっきまで頭では理解したようにしてても、心ではまだ実感できてなかったのが、これで実感してしまった。
途端に寂しく感じるけど、元の次元に戻ったら逢えるんだから。今は我慢我慢……
「こちら、ルナさん。この次元に迷い込んだみたいで」
「…普通は滅多に起こることでは無いはずなんですよね」
「全くです」
「す、すみません。迷い込んでしまい……」
「そうですか、大変でしたね」
そういって、イストワールさんは優しく微笑む。
「いえ…ピーシェが助けてくれなかったら今頃ぺしゃんこでしたから…あっ、そういえばお礼がまだだった。ピーシェ、助けてくれてありがとう」
「うん、どういたしまして」
そういってピーシェは軽く微笑んで……
「でも、知らない人について行っちゃだめだよ?」
私に近づいた。それから、頭を撫でられる感触がする。
「誘拐されて、女神になっても知らないよ?」
「う、うん……」
優しく頭を撫でられる心地良さに、うっとり目を細めながら堪能しつつ、ピーシェの言葉が思考を占める。
女神になってしまうって、女神はそもそも生まれたときにはなっているものじゃ……?
それに今の言葉、まるで彼女が実際に体験してきたみたいに聞こえたけど……
「…ふふっ…猫みたいな反応…かわいい」
そういいながらピーシェは優しく頭を撫でる。まるで猫を撫でているかのように、丁寧に優しく。
「よしよし……」
「ふ、ふにゃ……」
思考が徐々にほぐされて、意識が全部頭の感触へと集中する。
あ、これ、やばい…気持ちいい……
「おおー! なんか気が付いたらピィちゃんが百合っている!?」
「っていつからいたのネプテューヌさん! っていうか百合ってないよ!」
「ナイスツッコミ! と言いたいが今回は否定できないはず!」
突如大きな声を上げたのは、どこかネプギアに似ている小柄な少女。
その少女の言葉でハッと正気に戻り、さっきまでの自分を思い返す。
な、なんかすごくだらしない顔を見せてたような…変な声も漏らしたような……
「~~っ! ///」
声にならない悲鳴を上げながらその場でうずくまってしまう。
うぅ…別次元初っ端の方でこうなるなんて……
「あの…この子は?」
そういって隣にいた少女…ネプギアが話しかけてきた。
「この子はルナさん。迷い込んじゃったみたいで」
「お友達になってくれる?!」
「それは違うルナ!」
「あ、じゃあトリガーさんもいらっしゃるんですか?」
「変身もしないっ!!」
そうツッコミを入れて、一度ピーシェはため息をついた。
「とりあえず、この協会で保護…、という形になりますかね」
「すみません…よろしくお願いします……」
まだ恥ずかしくて顔を上げたくなかったけど、どうにかその言葉を絞り出す。
まさかまたプラネテューヌ教会に保護されることになるとは…あ、ここは“協会”なのかな。似たようなものだよね。
「うむっ! 任された!」
そういってぺかっとネプテューヌは満面の笑みを浮かべた。
「…いや、提案したのピーシェさんだよ? お姉ちゃん」
そういいながら、ネプギアは苦笑いした。
…うん。やっぱりネプギアだ。一緒に旅をしてたんだから、間違えるはずがない。
…けどやっぱり、彼女もまたこっちの次元のネプギアだから。私のことは知らない。
イストワールさんのときよりもちょっと、悲しみが強いかな……
「…ん? まって、“お姉ちゃん”?」
「え? どうしました?」
ふと、彼女の発言が引っかかって声をあげると、ネプギアは不思議そうに首を傾げた。
「えっと…私は女神候補生で、先に生まれたのはお姉ちゃんなので…変ですかね?」
「いや、変じゃない。うん、君にお姉さんがいることは知ってるし、私はそのお姉さんを助けるために一緒に旅してたんだけど……」
そう言いながら私はネプギアが姉と呼んだ少女を見る。
さっきピーシェに「ネプテューヌさん」と呼ばれていた少女。うん、確かに向こうのプラネテューヌの女神様…ネプギアのお姉さんもネプテューヌって名前だってことは聞いてる。聞いてるんだけど……
上から下まで見て、ネプギアと比べて。もはや比べるまでもない気がするけど……
「これは…ネプギアが姉と言った方がいいんじゃ……」
「…それは言わないであげてください」
そういいながら、ピーシェはため息をついた。
「ルナさんにもいろいろありそうですね」
「とりあえず、私はやりたいことがあるのでこれで失礼します。ルナさんゆっくりしてってくださいね」
そういってピーシェはドアのほうへと歩いていく。
「あっ、待って。よかったらお手伝いさせてくれないかな? 命を助けてもらったお礼が言葉だけじゃ足りないから」
「…別に助けてません」
そういいながら、少し沈黙した後。
「でも、いいですよ。ついて来てください」
「はい!」
私は元気よく返事して、ピーシェの後についていく。
なんだかこれ、前にやったお仕事体験みたいでワクワクしちゃうな。でも真面目にやらないとね!
と、思ってたんだけど……
「………」
カタカタカタカタ──。
「………」
カタカタカタカタ──。
真剣にPCと向き合うピーシェは……
「………」
カタカタカタカタ──。
特にやることを教えてくれる気配はない。
これはまさか、自分で仕事を探せとでもいうのか!?
で、でも私がやったことある仕事なんてPCを使った簡単な事務仕事とクエストぐらいしか……
どど、どーしよ月光剣!
『ここは素直に伺ってみたらいかがでしょう?』
君、真面目に働いてる人の邪魔なんて出来るの?!
私は無理だよ、度胸がないもん!
そう月光剣と話し合ってる間、実はピーシェの心の中では……
(どうしよう…、いいとは言ったものの、私誰かに指示したことないんだよね……
書類整理? いや、ダメ。初めての人に教えることじゃない。
整理整頓? いやダメ。バカにしてると思われる……)
って、なってたんだけど、そんなの私が察することなんてできないから。
『マスター、女は度胸です』
それ私が前に言ったことだー……
ぅえーい! そうだよ女は度胸だよ!
「あ、あのっ!」
(仕方ない……、どうにか話題はつなげよう。度胸を見せろピーシェ・イエローハート)
[…ねえ」
「「あ」」
被った声に、お互い口を閉じる。
その後、少しの沈黙が流れて、先に口を開いたのはピーシェからだった。
「すいません…そちらから」
「い、いえいえ! ピーシェからどうぞ!」
「い、いえ…こちらはどうでもいい話なので、そちらからどうぞ」
「こっちだって何をお手伝いしたらいいかって、自分で考えろって言われそうなことなので!」
「そ、そうなりますよね。すいません指示しなくて…はははっ……」
ピーシェは乾いた笑い声をあげた。
そんなピーシェに、つい口をすべらせたと気付いて、急いでフォローしようとする。
「いえそんなっ。こっちもごめん。せめて何ができるとか伝えておけば、指示も出しやすかったよね……」
「い、いえいえ…って、そうじゃなくて」
ピーシェは軽くため息をついた。
「私は助けたつもりはない、と申したではありませんか。お気になさらず」
さっき言ったことと同じ。その意見を変えるつもりがないピーシェは、どこか強情にも見える。
私も大怪我しても「大丈夫」って言って譲らないから、その気持ちは分かるけども……
こういうときは、相手の主張を通すのが良いって、どこかで学習した気がする。
「ならそれでいいよ。ただ私はピーシェのお手伝いがしたい。そう思って声をかけて、付いてきただけ」
あと追加で言うなら、あの場は少し、居づらかった。
私のことを知らないネプギアとイストワールさん。その二人と接しているとなんだか、もっと寂しくなるって思っちゃうから。
「…わかりました。では少しだけ話し相手になってくださいませんか?」
そういいながら、ピーシェは優しく微笑んだ。
「多少、ルナちゃんの事も知りたいですから」
「…はい! 私が覚えていることでよければよろこんで!」
ピーシェにつられるように笑顔で頷く私。
「ふふっ…すこし敬語になってますよ?」
そういって、ピーシェは微笑みを返すように、私をじっと見つめた。
「とりあえず…。この剣は何ですか? 霊剣か何かでしょうか?」
「それってこの子かな? この子は
『霊剣と呼ばれるものが何かは存じませんが、私はその分類には属しておりません』
「あっ、違うって。霊剣じゃないみたい」
「そうですか…」
ピーシェは少し考え事をした後、まぁ、いいか。とつぶやいた。
「あとは、そうですね…最近楽しいですか?」
楽しい、か……
私、楽しいのかな。ネプギア達とも別れて、一人で旅してて。
犯罪組織が、私の記憶がって、問題を解決するために駆け回って。
楽しいとは、最近は思ってないかもしれない。最後に思ったのは…ロムとラムの二人と遊んだときかも。
じゃあ楽しくないって、素直に言えるほど私はそのことを軽くは見てない。
「そう、だね…ちょっとよく分かんないかな」
「そうですか……」
そういって、ピーシェは頭をかいた。
「そりゃあそうですよね。楽しいの基準は人それぞれですし」
「あっ……」
もしかして雰囲気悪くしちゃった?
わわ、そんなつもりじゃなかったのに!
えぇと、こういうときは話題を変えればいいんだっけ……?
「そ、その! ピーシェの方はどう? 楽しい?」
ってそれ変えれてないよ! 私のバカー!
「ええ、楽しいですよ」
ピーシェはそう微笑みを浮かべた。
「でも、私にとって…。楽しいのは良いことじゃないんだ」
「そう、なんだね……」
さっきピーシェが言ったように、楽しいの基準は人それぞれ。それと同じように、楽しいが良いことかも、人それぞれ。
でもさっきのネプテューヌさんとネプギアのボケにツッコミを入れてたピーシェ、楽しそうだったな。
「…ねえ、楽しいってどういうことかわかりますか?」
優しい声で、でもどこか儚い声でピーシェは聞いてきた。
その問いを、私は深く考えて、出した答えを口にする。
「…私には少し、分からないかな。それが分かるほど私は人生経験をしてないし、してたとしても失くしちゃってるから。でも大切な人や好きな人と一緒にいて、ワクワクしたり、ドキドキしたり。次は何が起こるんだろうって期待しちゃう。そういうのを『楽しい』って言うんだと、私は思うな」
ネプギア達と旅をして、ユニとお泊りして、ロムとラムと遊んで。
楽しかった。今の私の楽しかった思い出って、それぐらいしかないから。
「……そっか」
ピーシェはそれを聞いて、俯きながら、どこか悲しそうに微笑んだ。
「そうだね……、その定義が『楽しい』のはずだよね」
きっと何かあった。超鈍感な人じゃないなら気付けること。
でもそれがどんなことなのか。そもそも私が踏み込んでいいものか分からない。
会ったばかりの女神様。けど仲良くしたいって思えるから、踏み込んで嫌われたくない。
だから、踏み込まない。
「そ、そうだ! そういえばピーシェって普段はどんなことをしてるの?」
「え? 普段ですか? えっと……」
ピーシェはその言葉を聞くと、そっぽを向いた。
「………おもり役?」
「子どもがいるのこの協会!?」
「はい、ネプギアさんとネプテューヌさん……」
「ネプテューヌさんはまだよく分からないから「へー、そうなんだー」って終わるけど、ネプギアまで……?」
た、確かにピーシェはなんというか、お姉さん! ってオーラはあるけど…あのネプギアが……?
その言葉を聞いて、ピーシェは苦笑いをした。
「確かに見た目はそうかもしれません。でもああいう人は、表面に出さないだけで撃たれ弱いんですよ」
「な、なるほど?」
そんな姿を見たことないだけに、いまいち想像できないけど…『ネプギア』がそうなのか、こっちの次元のネプギアがそうなのか……
あ、でもネプギアだって妹だもんね。今は強くあるだけで、実はそうなのかも。
「そうなんです」
そう言って、ピーシェはゆっくりと私に近付き、頭を撫でてくる。
「それは貴女も同じだと思うよ?」
「ふぇっ…! やっ、あの……!」
またこれ…! だ、だめ…またさっきと同じことが……
「ふにゃ、にゃぁぁ……」
なんかもう、別にいいかも……
「…やっぱり猫みたい」
そう言ったと思ったら、ピーシェは私の頭を撫でながら、片方の手でぐいっ! と抱き寄せた。
「ふぇ!?」
その勢いで私の顔はピーシェの大きな胸へ、ポスンと受け止められる。
突然のことに驚いて離れようとしても、後ろに手を回されて離れられないし、頭を撫でる手は止まらず、だんだん力が入らなくなってくる。
…ううん、違う。これ、離れたくないって思っちゃってるんだ。
初めて頭を撫でられて、久しぶりの人肌を感じて。心が抵抗したくないって思っちゃってる。
それに何より、ピーシェはお姉さんって感じがすごいして……
つい呟いた呼び方に、私は意識を向けることはない。
「…お姉ちゃん……」
「…『楽しい』っていうのはね? 誰かが頑張ってる証拠なんだ」
そういいながら、ピーシェは優しく抱きしめ、何度も頭を撫でる。
「ルナちゃんもそう…、私のことを気にして…色々気を使ってくれた……」
ピーシェは抱きしめる…まるで母親のように、まるで姉のように……
「だから私は、ルナちゃんと話しているのは楽しいと思えた…ありがとうね」
抱きしめる力が強くなる。
「…でも、ルナちゃんみたいな人ほど、本当に芯は弱いんだ」
優しく撫でる手を止めず、何度も何度も撫でながらピーシェは言葉をつづけた。
「だから…頑張りすぎないで…、少しくらい肩の力を抜いて…、ルナちゃんの事はまだよく分からないけど、優しい子だってことはわかる…。よく頑張ったね。偉いよ……」
「よしよし……」と、そう言いながら頭を撫で、抱きしめてくれるピーシェは、本当に姉かと勘違いしそうで、一人ぼっちだって冷えていた心を暖めてくれて……
「大丈夫…、別の世界にきて不安だよね…大丈夫だよ…。私がついてるから…ね?」
「おねえちゃん……」
何もかも包まれて、許してくれそうな抱擁と、優しい言葉。
その暖かさは私の心を完全にほぐしてしまって、気付いたら瞳から雫がこぼれ落ちた。
「大丈夫…泣くことは悪いことじゃないよ」
ピーシェは、一度私の顔を見て、雫の跡を手で摩る。
「むしろ泣いていいの…それはあなたの努力、血と汗、すべてを我慢した貴方が作り出した…『楽しい』の証だから……」
「ぅえっ、うえええん……!」
ダメだよ、ピーシェ。そんなこと言われたら、そんな優しくされたら、我慢なんてできないんだよ…?
でも、我慢しなくていいっていうなら、今だけは、このままで……
後書き~
ふええぇぇん……
…へっ?あ、べべべ、別に泣いてないですよぉ!?ちょっとルナに感情移入しただけで……
ごほん。と、ともかく、今回のはまだ前編。もちろん後編も投稿しますとも。
それではまた後編でお会いしましょう!
See you Next time.