月光の迷い人   作:ほのりん

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前書き〜

前回、目を覚ました少女『ルナ』。今回彼女は生活必需品を揃えに行くようです。そこには一人ついてきてくれる人もいるようで……
今回もどうぞ、ごゆるりとお楽しみください。


第三話『明日から始まる新生活の前置き』

 私が目覚めた次の日。私は教会の一室を貸してもらっていた。

しかしその部屋は少しの家具しかない。ベッドと小さな机だけ。イストワールさん達的には最低限以下の設備しか直ぐに用意出来なかったということで謝られたけど、私としては家具よりも部屋を用意してくれた時点で感謝感激なので、私的には特に問題はなかった。むしろ外にテントを張って、そこに押し込められても私としてはテントを張ってくれただけで~ってくらいなのだ。

 しかしそれでは申し訳ないとのことで、今日は私とアイエフさんの二人で近くにあるショッピングモールに出かけることとなった。本当ならコンパさんも一緒のはずだったんだけど、急に仕事が入ったってことで行ってしまった。看護師って忙しい時は忙しい仕事ですもんね。私はそう認識してます。

 というわけで私は今アイエフさんとショッピングモールに向かっていた。

 

「すみませんアイエフさん。私なんかのために付き合ってもらっちゃって……」

「こら、そんな事言わないの」

「でも…その、私手持ちがなかったからその辺もイストワールさん達に迷惑をかけてしまって……」

 

 そう、私が空から落ちてきた時。私は身につけていたものしか持っていなかったのだ。しかも衣類は破けて着れない状態。ポケットなどを物色してみたけど、あったのは小さな青い月の飾りが付いた紐のネックレス。白銀の懐中時計。頭のサイドテールに付けてた黒いリボン。空から私と同じように落ちてきたとかいう箒。それくらいしかなかったのだ。正直箒は私のかどうかも分からないけど。

 ちなみにリボンは今身に付けてて、それ以外は部屋に置いてある。だからというかまあ今の私は一文無しなわけだ。

 それじゃ生活必需品が買えないということで、今回は教会からお金を借りることとなった。記憶を失って早々借金してしまったけど、利子は少ししか付かないし返済期限は長期。しかも家賃も食事代も仕事を手伝えばチャラ。いや働かざる者食うべからずと言うし、文句もあるわけないが、こんなに優遇されてていいのかって思う。もう少し利子は付いていいんだよ? って思うけど、それはそれで後々怖くなりそう。

 ともかくその借りたお金で家電とか生活用品とかを買いに行くわけだ。申し訳なく思うのも無理はないでしょ? 

 

「後でちゃんと働いて返してくれれば大丈夫よ。それに教会側としてもあなたを保護すると決めた以上、生活する環境も整えないといけないもの」

「ホントにありがたいです。こんなに親切にしてもらって……」

「これも仕事なの。あんまり気にしないで」

「はい。ありがとうございます」

 

 本当に優しい人たちだ。だから思うの。もうね、ほんと、彼女達が信仰する女神様って絶対いい人だよね。よく神様の中にも悪い神っているけど、絶対良い女神様なんだと思う。というか確実。じゃなきゃこんなにいい人たちが信仰するわけないよ。私もその女神様、二人いるみたいだけどパープルハート様とパープルシスター様を信仰しちゃうよ。信仰ってどうやるのかわからないけど、とりあえずありがたや~……

 

「そういえばルナ、あの後名前の他に何か思い出したことってある?」

「いえ、それが何も。名前だけでも思い出せたのは不幸中の幸いでしょうか」

「そうね。それだけでもあなたの記憶を取り戻せる可能性が出てきたんだもの」

「ええ……」

「記憶、取り戻せるといいわね」

「取り戻せたらとか取り戻したいとかじゃなくて取り戻すんです。願うばかりじゃ叶えられないですから」

「へえ、なかなか良いこと言うじゃない。その意気よ」

「はい!」

 

 

 

 話しながら街を歩いて、着いたのはこれまた街の雰囲気と同じ近未来的なショッピングモール。電光掲示板があちこちにあったり、妙に電気で明るかったり、でも嫌な明るさとかではなかったりと、見てるだけでも新鮮な場所だった。

 

「ほおぉ……すごい、おおきい、でかい……」

「同じ意味の言葉が二つあるわよ。ほら、気持ちは分からなくもないけど、ボケっとしてないでさっさと買い物を済ませちゃいましょ。あなたの服も買わないといけないんだから」

「あっ、そうでしたね。すみません」

 

 そう言いながらアイエフさんの後をついていく。ちなみに今私が着ているのは昨日と同じ借りた服。聞けばパーカーはワンピースなんだけど、丈が足りなかったからズボンで補ったんだって。寝間着はその友人の妹さんのを借りてたみたい。そこまで聞いてえ? ってなったよ。だってパーカーはともかく、寝間着は私の体に結構合ってたから、そうなると妹さんの方が背丈とか高いってことになるんだからね。それ姉と妹反対じゃね? って。

 まあそれは置いといて、さすがに服を借りっぱなしは良くないから、調達するためにまず最初は服屋に行くことになったんだよ。それで今は服屋に向かっているところ。建物の中は人はそこまで多くはないけど、目に映る色んなものに惑わされる。油断してると迷子になりそうだ。やだよこの歳で迷子とか。下手したら迷子センターで同じ迷子の子供に「おねーさんもまいごなの? 大人なのにばかなのー?」とか言われかねないよ! 

 とか思いつつ、ついていった先はモノクロに落ち着いた洋服店だった。

 

「とりあえず有名なチェーン店に来てみたけど、ちょっと見ていく?」

「そうですね。自分の好みとか覚えてないですけど、とりあえず一通り見ておきたいです」

 

 ということで服選び開始。といっても私にファッションセンスがあるかは不明。というより覚えてない。でも私の勘は言っている……私にファッションセンスはない、と……

 悲しいなぁ……

 

 

 

 

 

 とりあえず気に入ったのを上下揃え、試着室で着替えてみることになった。

 揃える時に気のいい店員さんに手伝ってもらったので、服の組み合わせは大丈夫なんだろうけど、はたしてそれが私に合うかは分からない。自分でいいと思っても他の人的にはダメダメな場合もあるからね。

 どういう評価を貰うのかドキドキと、でもちょっぴり怖がりながらカーテンを開ける。

 

 シャラララッ

「アイエフさん、着替え終わりましたよ」

「…あら、いいじゃない。うん、似合ってるわよ」

 

 アイエフさんは携帯をいじるのをやめて、こちらを向いてそう言った。お世辞を言ってるようには見えないので本当に大丈夫なのだろう。良かった、少し不安だったから安心したよ。着替えてる最中も鏡で確認したけど、やっぱり自分で見るより誰かにそう言ってもらった方が安心できるからね。

 ちなみに私が選んだのは、上は半袖の黄色いパーカー、その上に黒いコート。そして下は紺のジーンズ。店員さんには女の子だからってスカートを勧められたけど、スカートだと動きにくいと思うの。ほら、激しく動きすぎて下着がチラッとか見てる分にはいいけど、自分でなるのは嫌だから。

 だから少し男の人みたいな感じになってしまったけど、似合ってたのならよかった。

 

「にしても男っぽいのを選んだわね。もう少し可愛いのでも似合ってたんじゃない?」

「いえ、私に似合うか分かりませんでしたので。それに動きやすい服装が良かったので、そう思ったらこれにたどり着きまして……」

「ああそういうことね。まあ別にいいんじゃない? 似合ってるんだし」

「ありがとうございます」

 

 ということでこのセットと他の服を何着か。あとはパジャマ代わりにTシャツと緩いズボンを数着。靴下とかもカゴに入れて、会計は選ぶのを手伝ってくれた店員さんのところで、袋に丁寧に入れてくれた。

 そのまま更衣室でさっきの服に着替えて、それからその店員さんに靴はどこで買うのがオススメか聞いてみて、同じくショッピングモールにあったその店で服に合う靴を購入。

 それもそのまま履いて、借りていた服とかは空いた袋に入れた。これらは後で洗って返さないとって思ったけど、私はこれから教会に住むんだからどこに何があるかとか教えてもらわないと、最悪どれが洗濯機かさえも分からないなって思った。

 それから雑貨屋で箸とかお皿とかコップとか。ハンカチとかタオルとか歯磨きセットとか色々。借りた部屋は浴室もあったのでお風呂用具とか色々。家具屋でもいろいろ買って、さすがに持っては行けないので今まで買った分全部まとめて教会に送ってもらうように手配してもらった。

 ちなみにそれら全て請求は教会宛にしてもらって、後で借金として私が働いて返すわけだ。あとでこの世界の仕事はどういうのがあるのか聞いておかなくちゃ。

 ともかく必要なものは一通り揃え終えて、時間を確認してみると近くの時計で昼過ぎを指していた。

 

「もうこんな時間ですか。朝から来たことを考えると結構な時間かかってしまいましたね」

「そう? 私としてはそこまでかかってないと思うわよ。あなた何を選ぶにしても結構パパッと決めてたから予想してた時間より早めに終わったし」

「そうですか? 私としては服以外は直感で選んでただけなんですけどね」

「へえ。ところでお昼は過ぎちゃったけどお腹が空いたし、どこかで食べてく?」

「そうですね。私もお腹が空いちゃいました」

「ちょうどそこにファミレスがあるからそこでいいかしら?」

「はい、大丈夫ですよ」

「じゃあ行きましょうか」

 

 そう言って入ったのは赤い丸の中に店の名前が書かれた看板のお店。なんだか別の次元に行けば会えそうな人と同じ名前をしてるなぁって不思議と思った。いや自分の名前以外覚えてないはずなんだけどな。

 で、選んだ料理はアイエフさんはハンバーグ、私はトマトスープパスタ。何故だかすごく美味しいと思ったので、多分私はパスタかトマトが好きなんだなってわかったのはちょっとした収穫かな。

 それからゆっくりして、他にもいろんな場所に行ってみた。驚いたのが建物の一角にあったゲームセンターが大きかったことかな。世界の名前が“ゲイム”ギョウ界なんていうくらい…というか国がハード開発をしてるくらいゲームは大衆的な娯楽なんだって。ゲームをしたことない人なんてそれこそいないくらい。楽しそうな世界みたいだ。

 それから武器や防具を売ってるお店なんてのも見つけてしまった。剣とか銃とか盾とかでかい注射とかとか…注射? なんでこんなところに…… まあ置いとこう。ともかくこんなものが売ってていいのか聞いたら、街の外にはモンスターっていう人間を襲う恐ろしい生物がいるから、自己防衛のために売ってるんだって。もちろん人を傷つけたりしたら警備兵に捕まって牢屋送りなんだけど、あんまりそういう目的で使う人はいないみたい。平和で何より。

 で、自分を守る他にもクエストっていう仕事をするのにも使うんだって。『クエスト』っていうのはモンスターについて困った人が『ギルド』っていう仲介所に持ってきた依頼のことで、仕事は主にモンスター退治やモンスターから得られる素材が欲しいっていうクエストを達成すること。そして達成するにはモンスターの相手をする必要がある。そのための武器が必要。

 というわけで武器や防具がこんな表で売ってるなんて普通のことなんだって。ちなみにアイエフさんは諜報部のほかに仕事や暇つぶし、小遣い稼ぎとかでクエストを受けてるんだって。武器は今はカタールっていう短剣を使っていて、他にはクローっていう鋭い爪みたいな武器も扱えるそうだ。どれくらい強いのか興味あったけど、それはまた今度訊いてみよう。

 ともかくあちこち見て回っていたらいつの間にか空は水色からオレンジに変わっていた。そろそろ帰らないといけないかな。

 

「アイエフさん、今日はすみません。長い時間付き合ってもらっちゃって……」

「私も楽しかったから大丈夫よ。それにこれも仕事みたいなものって最初に言ったでしょ? だから気にしなくていいの」

「…はい、本当にありがとうございます」

「どういたしまして。それじゃ今日はもう帰りましょうか。そろそろ暗くなるし、コンパが夕飯を作ってくれてるでしょうから」

「そうですね。ちょっと名残惜しいですけど……」

「もう来れないわけじゃないんだから、また来たらいいわ」

「そう、ですね……」

 

 そうじゃない。確かにショッピングモールから出るのは名残惜しいけど、それよりもアイエフさんといる時間が終わるのが惜しいんだ。アイエフさんとはこの一日で結構仲良くなれたと思う。だからこそこの時間が終わるのが惜しい。アイエフさんには悪いかもだけど、もっと一緒にいたい、遊びたいって思う。

 でもアイエフさんの言う通りもう来れないわけじゃない。また来ればいいんだ。今度はアイエフさんとだけじゃなく、コンパさんやイストワールさんも一緒に。あるいはこれから出会い、友人となるかもしれない人たちと。どうせ記憶が戻るまでの間教会にいるんだからその機会はまた訪れる。訪れなくても作ってやる。私は皆さんと仲良くなりたいんだから。

 

 

 

 

 

 そのあとは特に何も無かったと思う。

 プラネタワーに戻ると仕事が終わったコンパさんやイストワールさんが夕飯を作ってるところだったので手伝わせてもらって、食事をして、終わったら片付けて。

 借りた服を洗うためにコンパさんに洗濯機の場所を訊いたら「私がまとめて洗うので大丈夫ですぅ」と言われ、お言葉に甘えて。

 今日買ってきて、手持ちに持ってたものを片付けるために部屋へ戻る時にイストワールさんから、明日は教会職員の皆に挨拶すること、仕事について簡単に説明、実行してもらうということ、家具などの大きな荷物が既に届いてて部屋に置いてあることを伝えられた。こんなにも早く届いたことに驚いてたらイストワールさんが「教会宛の荷物は優先的に送ってもらえるんですよ」って教えてくれた。でも荷物の中身は私のだったからそこまで早くなくても大丈夫だったんだけどな。忙しかっただろうに、さらに忙してしまってすみません。

 なんて頭の中で思いつつダンボールが積んである部屋に戻り、中身を出して家具を設置していった。最後には最初は何も無いに近かった部屋に生活していくには十分な家具が揃えられた。全体的に水色っぽいのはまあ私の好きな色なのだろうか。

 ともかく明日からは記憶を失ってから初めての仕事が始まる。今日買った仕事用具…と言っても筆記用具だけど、それらを小さなショルダーバッグに入れ、寝る準備をして、目覚まし時計をセット。明日の挨拶でなんて自己紹介しようか悩んだけど、自分自身が自分のことを知らないから、簡単なのしか出来ないなって考えることを放棄した。それから時間的にはまだ寝るには早い時間だけど、布団に入って目を閉じた。遅刻はしたくないから早めに寝てもいいだろう。明日からは一応新生活。楽しみだな……

 なんて思いながらこの日はすぐに寝れた。寝つきがよかったのは疲れてたのか、あるいは元々寝つきがよかったのか。ともかく早めに寝たのは多分いい判断だったと思う。なんせその次の日から私の思い描いてた新生活が全く別のものに変わっていくんだから……

 

 

 

 

 

「…ここは…私の部屋? 私、どうしてここに……」




後書き〜

アイエフとの買い物。ルナにとってはとても楽しいひとときでした。また、誰かと出かける日が来るといいですね。
さて、最後。声の主は誰なのでしょうか。
次回、また会えることを期待して。
See you Next time.

今回のネタ?らしきもの。
・モノクロの洋服店
 赤いロゴのユ○クロさんです。ファッションセンスがない私は、あそこでよく安いTシャツとか買ってます。
・赤い丸の中に名前がある看板のお店
 某有名ファミレス『ガ〇ト』です。名前だけ見るなら『〇すと』ちゃんと同じですね。会社もやってることも違いますけど。私はちょくちょくここでドリンクバー片手に執筆活動やってますが、最近はデニーズに浮気気味です。

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